軍神乱舞
「軍神の焔、四連」
ボボボボォン!!
蚩尤の変形した上下四つの腕から、大きな光の球が発射され、応龍を囲むように迫って来る。しかし……。
「そいつはもう見た!!小龍砲!!」
ブルオォォォォォォォン!!
黄金の龍は翼を展開、ファンを回転、竜巻を発射して、球の一つを撃ち抜く!
ボゴオォォォォン!!
爆発する軍神の焔!そして、それによって崩れた包囲から応龍は脱出する。
「ちっ!だが、軍神の矢!フルパワー!!」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
けれど、そうなることも蚩尤は読んでいて、チャージしていたエネルギーを即座に解放、光の奔流を天翔ける龍に撃ち出す!
「ゴルドオーラ!!」
しかししかし、それも応龍は応龍で予測済み!黄金の光の膜を纏い、蚩尤の攻撃を弾いた!
「今度はこっちの番だ!応龍バルカン!!」
バババババババババババババッ!!
「おっと……」
「ええい!鬱陶しい!!」
龍の腕から反撃の光の弾丸が無数に発射される!それを王瞑は面倒くさそうに、蚩尤は苛立ちながらも機敏な動きで回避し続けた。
「修羅場をいくつも乗り越えてきただけある。昨日の今日で完璧にワタシたちの攻撃に対応して来ているな」
「感心してる場合か!!昨日はタイミングよくクアフゾンが復活してくれたから、助かったもののあのまま嵐龍砲を撃たれていたら、負けていたのだぞ!?」
「お前こそ落ち着け、つまりそれはワタシたちに天が味方しているってことだ。ドンと構えろ」
「ワシは科学者じゃ!そんな不確定なことには頼らん!!」
「それは……そうか……」
「あんたの相手はボクだろ!」
「――!?」
「おしゃべりに夢中になってるんじゃない!!」
ブルオォォォォォォォン!!
光の弾丸で牽制している間に準備を整えた応龍は再び竜巻を発射した!
「小さい方なら!シールドツー!!」
「絶対防御光壁!三重!!」
蚩尤は本来の腕に盾を装備し、目の前には光の壁を三枚展開した。
バリバリバリィン!!
光の壁はあっさりと竜巻に砕かれるが、それこそが役目である。壁を壊した結果、勢いが弱まった竜巻を……。
「ふん!!」
二枚の盾で力任せにかき消した!
「ちいっ!!」
「こうなってはただのそよ風だな、ゴールドドラゴン」
「反撃じゃ、王瞑!!」
「あぁ、アローフォー!!」
バババババババババババババッ!!
大砲に変形している四つの腕から先ほどのお返しとだとばかりに光の弾丸をバラ撒く!しかし……。
「そんな適当な攻撃、当たるかよ!この野郎!!」
バババババババババババババッ!!
応龍はぴょんぴょんと軽快に蚩尤の攻撃を避けながら、逆に自身も光弾を繰り出す。
こうして両者、弾幕の張り合い、撃ち合いの状況ができ上がった。
「くっ!?まどろっこしい!!どうにかならんのか、王瞑!?」
「だから落ち着けよ。さっきお前自身が言っていただろ。先の戦いでは、ワタシたちは負けていた……あの黄金の接着剤によってな」
「ぐっ!?」
「あれで身体を固められてはおしまいだ。だから今日はあれの射程外からの攻撃、遠距離戦主体でいこうと説明したはずだ」
「わかっておる……わかっておるが……!!このままでは!!」
「それこそわかっているよ。時間が経てば経つほど、ワタシたちが不利になると言うんだろ?」
「あぁ……全ては盤古!諸葛楽のせいじゃ……!!」
蚩尤はちらりと一瞬黄金の龍から視線を外し、遠くで紅蓮の巨獣を羽交い締めにしている伝説の巨神を恨めしそうに睨み付けた。
「今回の戦いはクアフゾンが目覚め、好き勝手暴れることを前提としたもの……」
「混乱し、戦い自体に反対する兵士に薬物を投与し、無理矢理戦わせたのも、巨獣復活の間、灑の奴らを抑えられればいいと思ったからだ。しかし、戦いが長引けば、正気に戻る奴も出てくるし、ただの操られるだけの人形では、自分の意志で戦う者たちに勝てるはずもない」
「つまり、いずれワシらは灑の奴らに囲まれることになる!」
「逆にこちらはゼンの奴はともかく、スパーノは死にたがりだし、蓮震は自分と睚眥の力を過信し過ぎている。両者はすでにやられている可能性も十分あり得る……援軍はとてもじゃないが期待できない。つくづく花則をやられたのが、痛いな……」
あの軽薄で残忍で、けれど自分には絶対の忠誠を誓っていた今は亡きモジャモジャ頭を思い出し、王瞑はセンチメンタルになった。
「シュガと狴犴に合流されたら、万に一つも勝機はないぞ!!」
「耳元で怒鳴るな。そんなことは百も承知だ。だから……“あれ”を使うぞ!!」
「お前は!あれは白澤の戦闘後に突貫工事で取り付けたもの!お前自身もまともに修練できていないだろ!!」
「そろそろ付き合いも長くなってきたし、わかれよ……この王瞑はノリと勢いだけで生きている皇帝に一番相応しくない男!!なるようになる!やるだけやってみるだけだ!!」
「こやつ……!?」
蚩尤は激しい後悔に襲われた。王瞑を自身の装着者に選んだことが、そもそもの失敗ではないのかと。しかし、今からではどうすることもできないので、開き直るしかない!
「ええい!もう好きにせい!!」
「では!アームパージだ!!」
ガゴン!!
「何!?」
バルカンで牽制していたジョーダンは目を疑った。今まで撃ち合いをしていた蚩尤の上下の腕がなんと分離したのだ!そして……。
「行け!軍神の飛腕よ!!」
バババババババババババババッ!!
四本のうち、二本を弾丸を発射しながら、龍に向かって、飛ばしてきた!
「くっ!?」
「逃がすか!クロスファイア!!」
バババババババババババババッ!!
二本の腕で十字砲火!逃げ場所は上しかない!
「この!応龍翼!!」
翼を広げ、空に逃走する応龍。しかし、そこには……。
ブウン……
「――ッ!?」
そこにも二本の腕が待ち構えていた……エネルギーを溜め込んで。
「クロスファイア・フルパワー」
「ゴルドオーラ!!」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
暗い曇天の空に、眩い光の十字架が描かれる!……はずだったが、応龍が防御膜を展開したために、球体を中心に光が四方八方に散る花火のような形になってしまう。
「くそ!?なんなん……だ!?」
なんとか敵の猛攻を耐え切り、黄金のカーテンを解除した応龍の青い眼に映ったのは、こちらに変形させた両腕の砲口を向けている蚩尤の姿だった。
「遠慮するな、もう一発もらっておけ」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
二本の光が天を昇り、無防備になった応龍の下へ!
「このぉ!!」
けれども、黄金の龍は身体が軋むほど、強引に身体を動かし、光の僅かな隙間を装甲の端を溶かしながら通過!再び地面に降り立った。
「アームパージの全方位攻撃を受けても、ほんの少し装甲を溶かすだけとは……参ったな」
そう言いながら、飛ばした四本の腕を再び蚩尤に接続し直す王瞑の顔は言葉とは裏腹に上機嫌そうだった。
「ぶっつけ本番にしては上々……末恐ろしい奴じゃな、王瞑……!」
「いや、まだまだぎこちない。義命なら今の攻撃で仕留めていたはずだ」
「長年、白澤と向き合い身につけたあの坊主の妙技が比較対象とは……傲慢じゃな」
だが、心強くもあった。考えを改め、やはり王瞑こそが蚩尤の装着者に相応しいと、電子頭脳の中で満足そうに頷いた。
一方、敵の新兵器を目の当たりにしたジョーダンは……。
(これは……かなりまずいね……!!)
黄金の仮面の下で顔を強張らせていた。
(何がまずいかって、実質ゴールデンジェルを封じられたことだ。あれが蚩尤を抑え込める硬化能力を発揮できるのは、ほんの十秒ほど、嵐龍砲のチャージが終わるまでのギリギリの時間だけだ!だが、今みたいに分離されては、まとめて固めるのは至難の技、けれど、やらなければ横から茶々いれられてしまう……!どうすればいい……!?)
自称天才はその頭脳をフル回転させ、打開策を探す……が、それを敵が悠長に待ってくれるはずもなく……。
「行くぞ!ゴールドドラゴン!!」
「!?」
「アームパージ!!」
青銅の獣は再度四本の腕を分離!そして……!
「軍神の飛腕!龍狩りの時間だ!!」
応龍に向かって、今度は三本の腕を飛ばして来た!
「くっ!?この動き……さっきとは別物!?」
しかも、今回は無軌道にジグザグと動き回りながら、龍に狙いをつけさせないようにしている!
「二本で駄目なら、三本……三方向からの攻撃だ!」
三本の腕は応龍の前と横、そして斜め上で急停止すると……。
バババババババババババババッ!!
光の弾丸を一斉にバラ撒いてきた!
「くっ!?」
再び空中に逃げる応龍。だが、やはりそこには……。
「軍神の槍」
残っていたもう一本の腕が待機していて、金龍が接近してきたら槍を召喚、そのまま突っ込んできた!
ガリッ!!
「ちっ!?」
黄金の装甲に鋭い刃の一閃によって、深い傷が刻まれる。さらに……。
クルリ
「なっ!?」
応龍に傷をつけた腕は槍を消しながら変形、反転!砲口を龍に合わせた!
「ゴルド……いや!盾よ!!」
応龍は光の膜を展開……はせずに、円形の盾を召喚、それで防御を固めるのかと思いきや……。
「ていっ!!」
腕に向かってぶん投げた!高速で回転し、大気を切り裂きながら進む盾は真っ直ぐと腕に……。
ガンッ!ババババババババババッ!!
腕に見事、命中!砲口は明後日の方向に向き、放たれた光弾は曇天に吸い込まれて行った。
「ちいっ!奴め、絶対防御気光もどきを温存しおったか!!」
「この距離では軍神の矢を時間差で撃っても、バリアで防がれ、その間に態勢を立て直されて、あっさりと回避されてしまうな」
「ぐっ!!」
「こちらも仕切り直しといくか。戻れ、飛腕!!」
王瞑は追撃は無意味だと判断し、飛ばした腕を戻す指示を出した。
その遥か前方で応龍はゆっくりと地面に降り立つ……と同時に!
「でやあっ!!」
「な!?」
「なんじゃと!?」
着地と同時に、全力で地面を蹴り上げ、急加速!脇目も振らずに蚩尤へと突進してきた!
(さっきの攻撃……一回目よりも、遥かに動きが良くなっていた!多分、今まさに戦闘の中で使い方を学んでいる最中……だが、その学習スピードが尋常じゃない!このままだと、すぐにボクと応龍が対応できるレベルを超えてしまう!!)
ジョーダンは今の攻防で長期戦は自分に不利に働くと考えを改めた。だから、彼は一気に決着をつけようと、決死の覚悟で仕掛けてきたのである。
(先の攻撃も、今も、一回攻撃したらすぐに腕を本体に戻した……きっと攻撃一回分しか、エネルギーをチャージできないんだ!そして、再チャージのために本体に腕を戻す僅かな時間が、唯一にして最大のチャンス!懐に潜り込んで、まとめてゴールデンジェルで固める!!)
応龍はさらにスピードを速め、どんどん蚩尤との距離を縮めていく。
もちろん蚩尤もそれを指を咥えて見ているだけではない。そもそも今の彼の両腕は指などない……大砲だ!
「寄ってくるんじゃない!!」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
青銅の獣は右腕に溜めていたエネルギーを解放する!しかし……。
「今度こそ!ゴルドオーラ!!」
バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
黄金の龍が展開した装甲と同じ色の金色のオーラによって弾かれてしまう!
「やはり無理か……だが!それは短時間しかもたないことはわかっておる!この二の矢は……防げまい!!」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
光の膜が消えた瞬間を見計らって、左腕で追撃!それに対し、応龍は……。
「ここが勝負どころ!ボクはボクの才能を信じる!お前なら避けられるはずだろ、応龍!!」
胸の奥から湧き上がる激情を脚に集中させ、エネルギーへと変換する!
「でやあぁぁぁぁッ!!」
「何いぃっ!!?」
応龍は強引に地面を蹴り、横っ飛び!自慢の角を光の奔流に溶かされながらも、蚩尤の二の矢を回避した!
「でかした、応龍!でかした、ボク!!」
歓喜の声を上げながら、再び前進!遂に蚩尤を射程内に捉えた!タイミングよく腕も本体に再接続される直前だ!
「みんなまとめて固まっちまいな!ゴールデン……」
「軍神の鉄拳」
ゴォン!!
「――ジェ!?」
本体に接続されるはずだった腕の一つが、突然拳を握り、そして加速、応龍に強烈なパンチを叩き込む!防御のことなど頭になかったジョーダンは為す術なく、せっかく接近したというのに、再び遠くに吹き飛ばされてしまう。
「ぐ……!ぐうぅ……!?」
もろにパンチをもらった応龍はすぐには起き上がれず、痛みと屈辱に耐える声を発しながら地面に這いつくばった。
「決断力はさすがだな。まさかこんなに早く仕掛けてくるとは」
「王瞑……あんた……!!」
「軍神の飛腕はお前の想像通り、長時間本体から離れていることはできない。しかし、それでもお前の想像よりかは長く動かせるんだよ」
そう言いながら、王瞑は四本の腕を再接続し、六本腕の異形の姿に戻った。
「そしてワタシはそれを誤認させるように布石を打っていた……が、思いのほか早く引っ掛かってくれて助かったよ」
「ぐっ!?」
悔しさで奥歯を噛み締めるジョーダンを尻目に、エネルギーチャージを終えた腕を再び切り離し、突っ伏す龍を囲むように配置した。
「お前とワタシの差はほとんどない。むしろ蚩尤に対する執念の分、僅かにお前の方が上回っていたようにも思える。然れど、結果はこの様……天はワタシを選んだのだ!」
王瞑がこの戦いの感想を述べている間に、大砲に変形した四本の腕はエネルギーのチャージを終えた……龍を狩る準備を。
「さらばだ、丞旦……強く賢き者よ……四天戦光波」
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
四方から発射されたエネルギーの奔流がいまだに倒れている応龍に襲いかかる!
(あっ、終わった……)
ジョーダンは死を覚悟した。すると、目に映るもの全てがゆっくりに見え、頭の中に過去の出来事が過った。
またあの時のことを……。
「いいか、よく聞け……目の前にいる奴とわかり合いたい、もしくはぶっ倒したいと思ったら、そいつが一番大切にしていることを理解しろ」
(またあの男のことか……だけど、前の蚩尤の時はこの言葉のおかげで完全適合の境地に至って、逆転できたんだよな。じゃあ、今回も王瞑の一番大切なものがわかれば………“自然”……かな?)
自然……その単語を思い浮かんだ瞬間、さらに記憶は過去へと巻き戻った。
「この地面の下には数え切れないほどの起源獣の死骸が眠っている。つまりそれは核石や特級のも埋まっているってことだ」
「だろうな。だが、それがどうしたと……」
「人の感情や意志を力に変えるそれらが長い年月をかけて、この地に住む人々の想いを取り込み、溜め込んでいるんだ。それを宝術師達は核石を使って引き出し、自分達の技に上乗せできるとされている」
「なるほど……だが、その理論だと別にここじゃなくても良くないか?というか、世界中に起源獣は埋まっているはずだし、どこでも同じような現象が起こるはずでは……?」
(これは杏湖でセイやカンシチと交わした龍穴についての会話……何でこんなものを今渡の際に……)
「龍穴の力はわかったけど、それが本当ならお前の応龍、特級骸装機でも似たようなことできるんじゃないか?」
(ん?)
「お前の応龍、特級骸装機でも似たようなことできるんじゃないか?」
(あっ)
ドゴオォォォォォォォォォォン!!
四つの光の奔流は応龍に直撃し、分厚い土煙を巻き上げた。
「はっはー!やった!遂にやったぞ!リベンジ達成じゃ!!」
年甲斐もなく……と言っていいのか、迷うところだが、蚩尤は大いにはしゃいだ。
「まったく……ずいぶんと感情豊かな電子頭脳だな」
王瞑はそんな彼に呆れ返……。
ブオォォォォォォン!!
「「なっ!?」」
突然、目の前から強風が巻き起こり、土煙を吹き飛ばした。
そして、代わりに金色の粒子が辺りに広がっていく。その発生源にいるのは、今しがたこの世を去ったはずの応龍だった!その身体には猛々しい風と優しい光を纏っている!
「バカな!?今の攻撃を受けて、無事でいられるわけがない!まさか外したのか!?」
「そんなはずはない!確実に……確実に当てたはず!!それになんだあの姿は!?」
一転して、取り乱す皇帝陛下と電子頭脳を尻目に、応龍はゆっくりと腕を上げ、彼らを指差した!
「天に選ばれたのは、このボク……いや!ボクたち!丞旦とカンシチだってことさ!!」
「これは……!?」
応龍が高らかにそう宣言したのと同じ頃、紅蓮の巨獣、クアフゾンの体内で、ボロボロのカンシチ孔雀の手に握られていた無影覇光弓も淡い光を放ち出した。
「なんだ……それは……?」
いまだに一歩も動いていない覚醒朱操は訝しみ、身構えた。本能が気をつけろと訴えているのだ。
「そんなこと……おれが知るかよ……ただ……」
「ただ?」
「ジョーダンとみんなが、猛華の全てが!お前を倒せって、言っている気がするぜ!!」