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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第二部
87/163

死に場所

「グガアァァァァァァァァァッ!!」

「動かないで……よ!!」

「そうだ!そうだ!おとなしくお縄につけ!!」

 伝説の巨獣の暴虐を、伝説の巨神が必死に羽交い締めにし、抑え込む!

 そしてそこから少し離れた場所では、灑と慇の戦士達が激闘を繰り広げていた。



「行くぞ!シュガ!!」

「スパーノ!!」


バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!


 轟雷覇海刀から雷鳴を響かせながら、オーロ・ファルコーネは翼を羽ばたかせ、銀狼の周りを高速で移動した!

 その姿、まさに雷鳴のスパーノの異名通りだ!

「ハアァァァッ!!」


バリバリバリバリッ!ザンッ!!


「――ッ!?」

 ファルコーネの強襲!覇海刀の雷がシュガの美しい銀色の毛を焦がし、刃がその下にある肌を切り裂いた!

「この一撃をかすり傷で済ますとは、さすがだな、灑の銀色の剣……だが!それがいつまで続くかな!!」

 ファルコーネは再びシュガに向かって、加速した!

「何度も同じ手を食らうか!!」


ガギィン!!


 シュガの類い稀なる反射神経によって、伝説の武器である轟雷覇海刀の斬撃を、同じく伝説の武器である幻妖覇天剣で防ぐことに成功した……が。


バリバリバリィン!!


「――ぐっ!?」

 代わりに雷がシュガを貫いた!

「無駄だ!この超スピードから同時に放たれる斬撃と雷撃を両方防ぐことなど、誰であろうと不可能だ!!」


ゴスッ!!


「――がっ!?」

 さらにファルコーネはシュガの腹に蹴りを入れ、その反動で離脱して行く。

「くそ……!?想定していたよりも……ずっと速い……!?」

 再攻撃の為に、また目の前を光とともに縦横無尽に飛び回る隼を銀狼は必死に目で追いかけようとするが、それすらも難しかった。

「当然だ!昨日と違って、トップスピードを出せているからな、今日のファルコーネは!!」

「昨日は手を抜いていたというのか!?」

「その言い方だと、自分が貴様を舐めているように聞こえるではないか!」

「実際にそうだろう!!」

「違う!昨日の戦いでは灑軍を打ち倒すという目的を達成するために、貴様を倒した後のことも考えておかなければならなかった!!王瞑皇帝陛下の為にも余力を残しておかなくてはいけなかったのだ!決して貴様を侮ったわけではない!!」

 スパーノは必死に弁明した……そんなことをする必要などないのに。それでも彼はシュガに一定の敬意を持っていると伝えたかったのだ。自分にはできないことをやっているシュガを心の底から尊敬していると……。

 シュガにもその想いはしっかりと伝わった……だからこそ許せなかった!

「つまり今日は……クアフゾンを起こすという目的を達成した今日は!俺さえ倒せればいいということか!!」

「そうだ!最早、余力など考える必要などない!!全力で貴様を倒す!シュガァ!!」

 再度の突撃!雷鳴を纏い隼が目にも止まらぬスピードでこちらにやって来る!

「お前にだけは!お前のような奴にだけは、俺は負けるわけにはいかないんだよ!」


ガギィン!!


 斬撃は再び覇天剣によって受け止められてしまった。しかし、スパーノにはまだ雷撃がある!

「灑の銀色の剣は斬り殺されるより、焼き殺される方がお好みか!!」

「どちらもノーサンキューだ!!」

 シュガはお断りの言葉とともに腰に差していたもう一本の剣を抜いた!そして……。


ザザザザザザンッ!!


「何!?」

 雷を全てその剣で打ち消した!

「くっ!?」

 態勢を立て直そうと、先ほどと同じようにシュガから離れようとするファルコーネ。

 けれど、そう簡単にはいかない……今回の銀狼はダメージを受けてないのだから。

「逃がすな!幻妖覇天剣!!」

 シュガは今日初めて伝家の宝刀である幻妖覇天剣のサイズ変更能力を使った!あっという間に刀身が三倍ほどに伸びる剣が……。


ガリッ!!


「ちっ!?」

 ファルコーネの翼を僅かに削った!

「調子に乗るなよ!手品紛いが!!」


ガァン!!


 しかし、動きを完全に止めるには至らず、幻妖覇天剣は轟雷覇海刀に弾かれ、射程の外へと逃げられてしまった。

「今のは決まったと思ったんだがな……」

 ここにきてまた自分の想定を上回ってきたスパーノに半分呆れ、半分感心しながら、シュガは幻妖覇天剣を通常の剣のサイズに戻し、もう一本の剣とともに構え直した。

「二刀流か……手数を増やして、我がスピードに対応するとは、なんと単純……」

「だが、効果はあっただろ?」

「まぁ、今の状態ならばな。そんな下らない策も通用するだろうさ」

「何……?」

 ファルコーネはおもむろに轟雷覇海刀を頭上に掲げた。そしてそれに強い感情を、覚悟を流し込む!

「雷翼天翔」


バリバリバリバリバリバリバリィン!!


「ぐうぅッ!!」

「なっ!?」

 頭上に発生した雷はそのままファルコーネに落ちる!隼の全身を激しい痛みと痺れ、そして光が襲う!

「血迷ったか!自らに雷を落とすなど!!」

「自分は正気だよ、シュガ……これが、これこそが雷翼天翔!我が最終奥義よ!!」

「消えた!?」

 バチバチと帯電していたファルコーネが、一瞬でシュガの視界から消えた!そして……。

「こっちだ!」

「――ッ!?」

 一瞬でシュガの側面に回り込む!

「ハアァァァッ!!」


バリィン!ザンッ!!


「………がはっ!!?」

 斬撃が肩口を抉り、雷撃が脇腹を焦がした!あまりのスピードにシュガは自分が攻撃をされたことに、しばらく気付かなかった。当然、そんな様じゃ二本の剣を振るうこともできない。

「くそ……くっ!?」

 反撃を試みようにも、剣を構え直した時には、隼は遥か遠くへ……。

「速い……ってレベルじゃないな……!」

「貴様のような強者にそう言わしめる技ではなければ、最終奥義などとは呼ばんさ……!」

「雷で身体を動かす指令を出す電気信号を増幅、さらに骸装機を無理矢理オーバードライブ状態にする……か」

「ほう……よく一回の攻防で仕組みに気付いたな。だがしかし……わかったところでどうにもできんぞ!!」


バリィン!ザンッ!!


「――ぐっ!?」

 またほんの刹那で銀狼に接近すると刃と雷でダメージを与え、すぐに射程外へ……お手本のようなヒット&アウェイであった。

「この俺が目ですら追えないだと……!?」

「だから、どうにもできんと言っているだろうが……我が異名は雷鳴を響かせ戦うからではなく、自分自身が雷となりて、戦うからだ!さすがの噂に名高い仙獣人も雷よりは速くは動けまい!!」

「いやはや素晴らしい技……とでも、言うと思ったか!その技はお前の命を!!」

「あぁ、これだけの強力な雷を受けては自分の身体も、ファルコーネももう戦えないだろうな……」

「だったら!」

「それこそが我が望み!祖国を捨てた自分を受け入れてくれた王瞑皇帝陛下の為にこの命を捨てることこそ、我が至上の喜びよ!!」


バリィン!ザンッ!!


「――ッ!?」

「さぁ!雷よ!我が神経を焼き切れ!ファルコーネの回路を焦がせ!!」


バリィン!ザンッ!!


「ぐうぅ!!?」

 そこからは一方的だった。一方的にシュガは雷となった隼に嬲られ続けた。

 みるみるうちに自慢の銀色の毛が血の赤と、雷で焦がされた黒に染まり、目を覆いたくなる無惨な姿になり果てた。しかし……。

(まだだ……まだ終わっていない!!)

 二つの眼はまだ光を失っていなかった!奥底に希望の炎を灯し、ひたすらチャンスを待っている者の目だ!

(こうなることは予見していた……スパーノの速さについていけない可能性を。だから準備してきた……たった一回のチャンスを生かす為に……!)


バリィン!ザンッ!!


「くっ!?」

「どうした!?さすがに諦めたのか、シュガ!!」

 痛みもスパーノの言葉も無視する。シュガの目はただ一点、前だけを、未来だけを向いていた。

(スパーノ……お前は強い……強いが、俺はお前を認めることはできない……!だから否定させてもらう……俺の、俺達の全力をもって!!)

 シュガの闘志が最高潮に達したその時、まるで呼応するかのようにスパーノも全てを終わらす決意を固めた。

「シュガよ!その銀色の姿と同じく、美しき心を持つ勇者よ!この一撃で天へと還れ!!」

「!!!」

 雷を纏ったファルコーネは轟雷覇海刀を振りかぶり、今までで一番のスピードでシュガに突進する!

 対するシュガは……この時を待っていた!と、目を見開いた!

「今だ!銀鷹!!」

「何!?」

 シュガの咆哮とともに、持っている剣が翼を持った美しい銀色の骸装機へと姿を変え、ファルコーネに立ち塞がった!


ガァン!


「――ッ!?」

 銀色の鷹と、かつて黄金の翼と呼ばれた灰色の隼が正面衝突!空中で体勢を崩すスパーノ……彼の視界、銀鷹の肩越しに幻妖覇天剣の切っ先をこちらに向けるシュガの姿が見えた。

「シュガ……貴様!!」

「許せ、岳布……お前の魂を二度も貫くことを!!」


ザシュッ!!バリバリバリバリバリッ!!


「………ぐはっ!!?」

 シュガの膂力と幻妖覇天剣の伸縮能力を合わせた必殺の突きは銀鷹ごとオーロ・ファルコーネを貫いた!

 貫かれると同時に身体から電気が放出され、全ての力を失った隼は通常サイズに戻る覇天剣の刃を滑り抜け、地面に落下した。

「が……がはっ!?」

 灰色のマスクの中で吐血するスパーノ。最早指一つ動かすことはできなかった。

 そんな敗者の下に、ある意味彼以上にボロボロの勝者が歩み寄り、見下ろした。

「俺の勝ちだ、スパーノ」

「シュガ……なぜ、自分の攻撃に対応できた……?」

「それは……」

 別にシュガにとっては答える義理などないのだが、自分をここまで追い込んだ強敵への最後の手向けとして、銀狼はその大きな口を開いた。

「……言いたくないが、対応なんてできてないんだよ」

「な……に……!?」

「ヤマを張っていたんだ。お前ならこうするだろうってな」

「自分の心を読んだと……?」

「あぁ、お前なら……誇り高き戦士、雷鳴のスパーノなら、とどめの一撃は正面からだろうと。決して背後から不意打ち食らわして終わらすような真似はしないだろうな……って」

「だから……くくくッ……何が誇り高きだ……ただの単純バカだってだけじゃないか……それを信じて、ボロボロになるまで耐えて……貴様も狂っているな……」

「かもな」

 思わずスパーノは笑ってしまった。自分のバカさ加減に、そんな自分に敬意を示して、読み勝ったシュガのこれまたバカさに。

「そうか……自分は……読み負けたのか……」

「違うぞ、スパーノ」

「えっ?」

 スパーノが力を振り絞り、シュガの目に視線を合わせると、銀狼もまた真っ直ぐと力強い眼差しでこちらを見返してきた。

「俺がお前に勝てたのは、策でもなければ力の差でもない。心の差だよ」

「心の……」

「死に場所を求めている者の刃など、未来に進もうとする者には届かない」

「――!!?」

 シュガの言葉が、幻妖覇天剣以上にスパーノの心に深く突き刺さり、抉った。

 彼は今、この瞬間、本当の意味で敗者になり下がったのである。

「……そうか……過去に囚われ、罰を受けたいと自分は思っていたのか……」

「あぁ、お前は忠義にかこつけて、自殺願望を満たそうとしていたに過ぎん。それではどんなに強い力を持っていようが、どんなに洗練された技を身に着けていようが、姫炎様や仲間とともに灑の未来を紡ぐ為に、生きて戦い続ける覚悟を決めた俺には絶対に勝てんよ」

「結局……グノスから逃げ出した時から、変わっていないってこと……だな……ずっと自分のことばかり……楽になることしか考えていない……今になって……そんな簡単なことに……ようやく気付くとは……本当に……バカだな……俺は……」

 その言葉を最後にスパーノはピクリとも動かなく、そして声を発することもなかった。

「雷のように気高く、強く、そして儚い男、スパーノよ……どうか安らかに……」

 灑と慇の忠臣対決はシュガに軍配が上がった。

 しかし、戦いの中でどこかシンパシーを感じていたスパーノの魂を救うことができなかった彼の心は今日の曇天の空のように、ちっとも晴れやかではなかった……。


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