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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第二部
86/163

再戦は伝説の中で

「カンシチくんが生きている……冗談じゃないよね……?」

 沈黙を打ち破り、ラクが妖精の言葉に間違いないかと問いかけると、キトロンは小さく頷いた。

「他の奴ならともかく付き合いの長いあいつの気配をおれっちが間違うはずがない……!」

「それなら……とても嬉しいけど……もう一つの気配っていうのは……?」

「それは……わからない。でも、どこかで会ったことのあるよう……ラク!クアフゾンが起き上がってる!!」

「――ッ!?」

「グガアァァァァァァァァァッ!!」

 ラクとキトロンが友人の安否に気を取られている隙に紅蓮の巨獣は態勢を立て直すことができた!

 立ち上がると同時にクアフゾンは反転!今までのお返しにと、長く太い尻尾を盤古に叩きつける!


ゴスウゥゥゥゥゥン!!


「ウオオォォォォォォ!?」

「ぐうぅ!?」

「うあぁぁぁぁぁっ!?」

 もろに尻尾の打撃を喰らい、倒れてしまう盤古!

 クアフゾンはそれに満足することなく、さらに追撃をかけるために口を開く!

「ラク!野郎、炎で盤古を焼くつもりだぞ!」

「そうは……させるか!!」

 ラクは頭の中に反撃するイメージを浮かべる!

「ウオオォォォォォォォォォォッ!!」

 そして、盤古は彼のイメージをそのまま現実に再現する!直ぐ様立ち上がり、紅蓮の巨獣の顎を……。

「ウオオォォッ!!」

「グガアァァッ!!?」

 顎を掴むと、上を向くように押し上げた!


ボオォォォォォォォォォォッ!!


 深紅の炎は上空に発射され、灰色の雲を蒸発させる!呂九平原の中で巨神と巨獣だけが太陽の光に包まれた。

「なんとか丸焦げになることは防いだけど……」

「巨獣の中にカンシチがいるんじゃ迂闊に攻撃できない……!」

「歯痒いけど、このまま倒すことなく、抑え込むしかないか……」

「でも、それって……」

「殺すよりも大変だろうね……多分、長くはもたない……!」

「盤古が限界を迎えるまでに、カンシチの野郎がどうにか脱出できるかどうか……ってことだな」

「あぁ……申し訳ないけど、猛華の民のためにいざとなったら、カンシチくんごと……そんなことさせないでおくれよ……!!」



「……んんッ!?」

 外では仲間が伝説の巨神に選ばれ、場合によっては自分を殺す覚悟を決めているなど露知らず、カンシチは紅蓮の巨獣の身体の中でようやく目を覚ました。

「ここは天国……?……にしては、ずいぶんグロテスクだな……」

 四方八方、脈動する気色の悪いピンクの肉壁に囲まれ、目覚めは最悪だった。

「天国じゃないなら、地獄の可能性もあるが……まぁ、紅蓮の巨獣の腹の中は地獄みたいなものか……うへぇ」

 カンシチ孔雀は立ち上がると、青色の装甲とピンクの床の間にネチョリと透明な粘液が糸を引いた。テンションはさらにダダ下がりだ。

「くそぉ……何でおれがこんな目に……いや、今は生きていることと、無影覇光弓から手を離さなかったことを褒めてあげよう!勘七くん!偉い!」

 自分で自分を鼓舞しながら、無影覇光弓にまとわりついていた粘液を払い、歩き出す。

「さてと……ここから脱出するにはどうしたもんか。覇光弓や水晶孔雀じゃ、こいつの肉を突き破る火力は出ないし。逆に肉や骨を通り抜ける不可触の矢を放って、助けを……って、うまくイメージできねぇから無理か。そもそもそれができたら、骨や肉を無視して内臓攻撃できたはずだもんな」

 愚痴と分析を繰り返しながら、生暖かく柔らかい不愉快な感触の肉の上を宛もなく進む。しかし現実でも、思考内でも一向にゴールが見えない。

「マジでどうしようかな……今は何故か大丈夫だけど、きっとこのままいたら消化されちまうよな……人間だったら、下に行けば出口があるはずだけど、こいつは色々と規格外だし、逆におれが入って来た上を目指すべきなの――」


ドクン!!


「――!?」

 怖さを紛らわすために独り言をぶつぶつと呟き、それが反響する音しか聞こえなかったのだが、突然、一際大きな脈動がカンシチの耳に届いた。

「今のデカい音……鼓動か?だとしたら!!」

 カンシチ孔雀は音のした方に走り出した!彼の推測が正しいのなら、今の音の発生源は……。

「……あった……心臓だ……!!」

 カンシチがたどり着いたのは、今までよりも開けた空間で、その真ん中で彼の二、三倍はある心臓が大きく脈打っていた。

「さすがに心臓を潰したら、伝説の紅蓮の巨獣もひとたまりもないだろう……!!」

 弓を心臓に向けて構えると、光の弦が発生し、それを引っ張ると光の矢が生まれる。

「潰すことはできなくても、衝撃を与えれば、また気を失わせることができるかも……そうなったら、旱魃砲を撃つ隙ができる……!!おれの脱出にも希望が出てくる……!!」

 ゆっくり落ち着いて照準を合わせる。このサイズのもの、しかも固定されているならば、蒼天の射手の異名を持つカンシチにとっては目を瞑っていても命中させられる……が、相手は伝説の魔獣の心臓、全身に緊張が走った。

「頼むぜ、無影覇光弓……!お前もこいつと同じく伝説の存在だっていうなら……その力!証明して見せろ!!」


バシュン!!


 今、持てる全ての力を込めた光の矢が放たれた!矢は巨獣体内の湿った空気を突き破り、心臓に……。

「ブラッディ・シールド」


バシュ……


「――な!?」

 突如として心臓の前に深紅の液体が飛び出して来たと思ったら、それが円形に広がり矢の軌道を塞いだ。当然、矢はその深紅の盾にぶつかることになるのだが、触れた瞬間貫くことは叶わず、あっさりとかき消されてしまう。

「何だ、あれは!?いや、それよりも今の声は……!!」

 カンシチの意識は自分の渾身の一射を防いだ謎の盾よりも、どこからか聞こえてきた声の方に向かった。彼はその声に聞き覚えがあったのだ。というより、その声の主との邂逅が、この長きに渡る戦いの始まりと言っても過言ではない。

 だから、次森勘七は呼んだ……彼の宿敵の名を!

「出て来い!朱操!!いるんだろ!?」

「なんと不躾な……だが、今の俺は機嫌がすこぶるいい。従ってやるよ」

「!?」

 カンシチの呼びかけに応じ、朱操が姿を現す。クアフゾンの心臓の影から出て来た彼は一糸纏わぬ……つまりは全裸だった。

「ここにきて、おれと裸の付き合いがしたいなんて、気色の悪いことは言わねぇよな……?」

「まさか!服はもちろんお前と同じ水晶孔雀も着ていたが、紅蓮の巨獣に消化されてしまったよ。今は外の奴らに夢中で消化液が収まっているが、俺が食われた時はひどい有り様だったぜ」

 朱操は昨日の修羅場を思い出し、苦笑いを浮かべた。

 それがカンシチには不気味に思えて仕方なかった。彼の話が本当ならこうして話をできるはずなどないのだから……。

「そんな……そんな水晶孔雀さえ溶かすような状況で、お前は何故生きている!?嘘言ってねぇなら、お前も溶けてこの世からおさらばしてるはずだろ!?」

「そうだな……普通はそうなる」

「なら!」

「だが、俺は普通ではない!この朱操は選ばれた存在なのだ!!」

「――ッ!?」

 朱操の全身から凄まじいプレッシャーが噴き出し、思わずカンシチはたじろいだ。何度か対峙したことはあったが、今までで一番……いや、今までとは質が違った!

「お前……!まさか……!!」

「あぁ!そうさ!俺は紅蓮の巨獣に殺されかけたことで、目覚めたのだ!覚醒者として!!」

 朱操の歓喜の声とともに、彼の身体が変貌を始める!

 体表がみるみるうちに彼のパーソナルカラー、そしてクアフゾンと同じ深紅に染まり、肩や背中、頭部から突起が出現する!

「その目に焼き付けろ!これが頂点に立つ者の姿!目覚めし者の姿!これこそがニュー朱操だ!!」

「これが覚醒者……!」

 言葉で言わなくても、一目でそれが今までの朱操とは違うということがわかった。見ているだけで生物の持っている根源的恐怖が呼び起こされ、身体が自然と震え始める。

「怖いか?」

「ぐっ!?」

 心の奥を見透かされ、自然と後退してしまった。できることなら、このまま背を向けて逃げ出してしまいたい。しかし……。

「こ、怖くなんかねぇよ……!ちょっと驚いただけだ……!」

 カンシチは必死に強がってみせた。恐怖を感じる心と同時に彼は理解していた……こいつをこのままにしてはいけないと!こいつをどうにかできるのは、今ここにいる自分しかいないと!

 その使命感が彼を踏みとどまらせたのだ!

「あの片田舎の村にいた頃ならともかく、今の蒼天の射手と呼ばれるお前なら、力の差を理解できように。これでは賢くなったのか、バカになったのかわからんな」

「タフになったんだよ、お前と初めて会ったあの時よりもな……!」

「ふん!口も達者になったようだな」

「おれも変わったが、お前もずいぶんと変わっちまって……もちろん悪い意味で」

「愚かな……この力の素晴らしさがわからないとは」

「わかりたくもないね……!」

「まぁ、俺もお前になんて理解してもらいたくなどない。それに他の奴らはすぐに知ることになる。そして畏怖する!伝説の紅蓮の巨獣を操る俺の姿に!!」

「何!?」

 朱操の言葉を聞いた瞬間、カンシチの頭を過ったのは、旱魃砲を避けたクアフゾンのあの不可解な動きであった。

「……予測ではクアフゾンが起きるのは、もっと先のことだった……なのに、突然目を覚まし、旱魃砲を回避した……あれもお前が……!?」

「イエス!外の異変を察知して、無理矢理起こしてやったのだ、この俺が!」

 朱操は自分の手柄を誇示するように胸をドンと叩いた。

「じゃあ、おれを食ったのも……」

「驕るな、くそ農民。お前のことなど眼中にないわ。あれは巨獣が勝手にやったこと。俺としては、お前のようなゴミを大切なクアフゾンに食わせたくない」

「てめえ……!!」

「今の俺では残念だが、まだ完全に巨獣を制御することはできん。しかし!いずれできるようになるという確信がこの身体の奥から溢れ出ている!きっと俺はこの力とクアフゾンを手に入れるために生まれてきたのだ!今までの屈辱もその為の糧に過ぎない!ジョーダンも蚩尤も王瞑も!全て俺の進化の為に存在したのだ!!」

「驕り高ぶっているのは、お前の方じゃないか!朱操!!」


バシュ!バシュン!!


 朱操の自己陶酔の激しい演説を聞いていられなくなったカンシチ孔雀が再び矢を放った!今度は巨獣の心臓ではなく、朱操の眉間に向かって!

「ふん!その弓では、ブラッディ・シールドを貫けないとわからないのか!!」


バシュバシュ……


 朱操がまた召喚した深紅の盾はまるで再放送のように光の矢をかき消した。けれど……。


ビビビビビビビビビビッ!バシュン!!


 盾の両脇から緑色のレーザーと別の矢がカーブを描いて、朱操に襲いかかる!カンシチの本命はこちらの攻撃だ!

「なるほど……俺自身が出現させたブラッディ・シールドを目眩ましに孔雀戦光と、曲射で仕留める……くそ農民にしては考えたな。だが、覚醒した俺の力はお前の浅知恵などではどうにもできん領域にあるんだよ!!」

 朱操の咆哮とともに、彼の両脇に新しい深紅の盾が出現する。つまり……。


バシュ……


 カンシチの攻撃は失敗したということだ!レーザーも矢もまたもや盾に防がれてしまった!

「くそ!だが、まだまだ!!」

 カンシチ孔雀は移動しながら再び弓を構え、狙いを定めた……が。

「おいおい……ずっとお前のターンなんて、不公平だろ!」

 深紅の盾が分裂、そして深紅の槍へと変形する!

「ブラッディ・ランス!!」


ババババババババババババババッ!!


 深紅の槍は一気に加速し、対照的な色をした青いカンシチ孔雀に襲いかかった!

「この!撃ち落とせ!無影覇光弓!孔雀戦光!!」

 カンシチは光の矢とレーザーで迎撃を試みる。しかし、悲しいかな、槍に触れた瞬間、逆に消し飛ばされ、まったく止めることができなかった。

「くっ!?絶対防御気光!!」

 カンシチは自らを守る最終防衛ラインである光の膜を展開し、回避運動を続ける……が。


ババババババババババババババッ!!


「――ぐっ!?」

 深紅の槍はいとも簡単に光の膜を突き破り、青い装甲に無数の傷を付けた。

「この……野郎!!」

 それでも回避運動が功を奏したのか、致命傷から逃れたカンシチ孔雀は反撃の弓を構える!

「今度こそ!!」


バシュン!!


 放たれた矢はカンシチの心根と同じく真っ直ぐと飛んで行き、宿敵朱操の下へと向かう。

「お前には学習能力というものがないのか」

 朱操の前にまたまた深紅の盾が形成される!けれど……。


スッ……


「!?」

 矢は盾に当たる直前にその姿を消す。そして……。


ザシュッ!!


「――がっ!?」

 朱操の胸の前で再び姿を現すと、そのまま彼を貫いた!無影覇光弓、必殺の不可触の矢が炸裂したのである!

「よし!ドンピシャ!!」

 カンシチは思わずガッツポーズをして、喜びを爆発させる。

 しかし、それはあまりに早計……。

「確かにドンピシャ……」

「なっ!?」

「だが、それがどうした……!」

 普通の人間だったら、即死の一撃を受けても、朱操は死ぬことはなかった。

 矢によって開けられた穴はみるみると塞がり、何もなかったように傷一つなく、きれいに治ってしまった。

「再生できるのか……!?」

「最初に言ったろ、俺は普通じゃないって。その程度の矢では俺は殺せんよ」

「くっ!?」

「だが、まぁ当てたことだけは褒めてやろう、今の攻撃でケチャの左目を潰したのだな。さすがだ、無影覇光弓」

「おれじゃねぇのかよ!」

「お前に褒める価値などないさ。俺を一歩も動かせないお前なんかに」

「なんだって!?」

 確認の為にカンシチは視線を下に向けた。すると、朱操の言葉通り、彼は変身してから一歩もその場を動いてはいなかった。

「これが俺とお前の差だ。このまま俺は一歩も動かず、お前を殺して見せよう……くそ農民……!!」

「朱操!!」

 輪牟の村から始まった二人の因縁がここに終わりを迎えようとしていた……。


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