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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第二部
85/163

甦る希望

 大気を焦がしながら、光はクアフゾンへと接近!そして巨獣の頭蓋を……!

「グガッ!!」

「な!?」

「にいぃぃぃぃっ!!?」

 頭蓋骨を貫こうとした瞬間、紅蓮の巨獣が目を見開いた!

 ラクとキトロンが悲鳴にも似た声を上げる中、クアフゾンはその巨体に似合わぬ機敏な動きで……。

「グガアァァァァァァァァァッ!!」

 起き上がり、エネルギーの塊から逃げる!その結果……。


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 旱魃砲から発射された光の奔流は本来のターゲットである紅蓮の巨獣には掠りもせず、呂九平原に穴を開けた。

「な、何で……?」

 ラクは目の前で起こった光景が信じられなかった、信じたくなかった。

 現実を拒否するかのように呆然と立ち尽くし、目を覚ました巨獣を見上げる……。

「気配は……起きる気配なんか感じなかった!本当だ!あいつはさっきまでぐっすりだったんだ!なのに……!!」

 キトロンは叫んだ。

 言い訳ではない、ただ疑問を、自分の理解をクアフゾンが超えて来たことを叫び続けた……。

「確かにおかしかったな、あの動き。まるで誰かに叩き起こされたみたいに、おいらには見えた」

 ペペリだけはいつも通りだった。淡々と今見たことの感想を述べる。

「今の動きがあいつにとってもイレギュラーなことだったのかどうかは、どうでもいい……第二射は撃てるのか……?」

 虞籍は必死に動揺を抑え込もうとしながら、次の展望を恐る恐るラクとペペリに訊いた。

「撃てるは撃てるけど、エネルギーチャージは今と同じくらいかかるし、旱魃砲自体の冷却もあるから、さらに時間が必要だぞ」

「そ、そんな……」

「仮にその時間をクリアできたとしても、目覚めたクアフゾンに命中させることができるかどうか……」

「くっ!」

 言葉を失う灑の戦士たち……。今、希望は潰えたのだ……。



「外したか……」

 ジョーダンもまた絶望に打ちひしがられていた。自ら倒した武雷魚の骸の中心で黄金の龍もまた弟弟子と同じく立ち尽くす。

「残念だったな、ゴールドドラゴン」

「!!?」


バババババババババババババババッ!!


 そんな彼に追い討ちをかけるように光の弾丸が降り注ぐ。

 応龍は回避しながら、自分とは真逆の気分でいるであろう者たちの名を呼んだ。

「くっ!蚩尤!王瞑!!」

「やぁ、昨日ぶりだな」

「そして、今日で会うのは、最後じゃ……丞旦!!」

 六本の腕と二本の角を持つ青銅色の宿敵の登場に、ジョーダンの心はさらに深い絶望に叩き落とされた。

「この最悪のタイミングでご登場とは、皇帝陛下はわかってらっしゃるというか、わかってないというか……」

「最悪?最高の間違いだろ?この猛華の救世主、クアフゾンがまた目を覚ましたのだからな!」

「あれのどこが救世主か!!ただの破壊衝動の塊のような奴が!!」

「それがいいんじゃないか。権力だとか金だとか、余計なことは考えず、ただ本能のままに暴れ回る……下らない争いを続けてきた猛華の民どもに鉄槌を下すには、これ以上の存在はいないよ」



「グガアァァァァァァァァァッ!!」

 王瞑の期待に応えるように紅蓮の巨獣が咆哮を上げながら、動き出した。最初の獲物は……先ほど自分を殺そうとした超兵器、旱魃砲だ!

「あいつ……こっちに来るぞ!?」

「目敏いね……旱魃砲さえ潰せば、自分に敵はいないと理解しているのか?」

「言ってる場合か!迎撃するぞ!諸葛楽!!」

「そうですね……黙って死を待つほど、ぼくは聞き分けがよくない……!だから……導いてくれ、きり――」

「グガッ?」

「――ん?」

 ラクが愛機を呼び出し、無謀な防衛戦に身を投じようとした瞬間、紅蓮の巨獣が明後日の方向に顔を向けた。

「急にどうした?」

「さぁ……?旱魃砲よりも興味をそそられるものを見つけたと……か!!?」

 ラクはまた目を疑った。クアフゾンの視線をなぞっていくと、その先には信じられない光景が、信じられない行動をしている人物がいたのだ。


「こっちだ!こっち!おれに付いて来い!!」


「カンシチくん!?」

 カンシチ孔雀が何かをブンブンと振りながら、紅蓮の巨獣の注意を引きつけていたのだ。旱魃砲から少しでも引き離すために……。

「グガアァァァ……」

 それにまんまとクアフゾンは引っかかる。顔だけではなく、その巨大な身体もカンシチに向けて、呂九平原を揺らしながら、歩き出す。

「何でカンシチくんが……?いや、彼の行動の意図はわかる!旱魃砲を守るため、第二射の時間を稼ぐためだろうけど……何でクアフゾンは彼に興味を……」

 真の天才と謳われる諸葛楽でもカンシチの作戦がなぜ成功しているのかは理解できなかった。しかし、それは至極単純なこと、そのことを傍らにいる二人の起源獣に教えられる。

「カンハチが振り回してるのは、獣集花だな」

「獣集花……潰すと起源獣を集める匂いを出すあの……」

「そうだ、そいつだ。ここからでも匂いを感じるぜ、本能が求める甘い匂いが……」

「おいらたちのように人語を話せるような知的な奴ならともかく、紅蓮の巨獣のような頭空っぽの奴は抗えないだろうな」

「でも、そんなものが都合よく見つかったのか……?」

「いや、多分カンシチの奴、こうなる可能性も予想して、昨日のうちに探して、隠し持ってたんだ」

「自分を囮にして、おいらたちを救うためにな」

「――!?カンシチくん!!君って人は……」



「いいぞ、いいぞ!クアフゾンちゃん!こっちにおいで!」

 ラクに見直されていることなど、露知らずカンシチはぴょんぴょんと飛び跳ねながら、灑軍から離れて行った。

 それにクアフゾンはのそのそと付いて行く。

「このままみんなから離して、態勢を立て直す時間を……」

 順調にいっているとカンシチは思っていた。しかし、ちっぽけな人間の小細工など、この伝説の魔獣には通用しないことをすぐに知ることになる……。

「グガッ!!」

「えっ!?」

 クアフゾンがその場で急速反転!カンシチ孔雀に背を向けた!

「何……」


ドゴオォォォォォン!!


「――を!?」

 紅蓮の巨獣はその太く長い尻尾を地面の下に潜り込ませると、カンシチを土や岩と共にかち上げた!

「くっ!?」

 空中に放り出されたカンシチには世界が反転して見えた。このままだと、頭から地面に墜落することになるが、そうはならない。

「グガアァァァッ!!」

 カンシチの目の前に紅蓮の巨獣の顔が迫っていた……大きな口を開いたクアフゾンの顔が!

「マジかよ……!?」


ガブン!!


 カンシチ孔雀の姿は消えた……クアフゾンの口の中へ。蒼天の射手は紅蓮の巨獣に食べられてしまったのだ!



「カ、カンシチくん……」

 遂にラクはその場でへたり込んでしまう。紅蓮の巨獣が復活した時も、旱魃砲が外れた時もしっかりと大地を踏みしめていた足から力が抜けて、立てなくなってしまった。彼の心は完全に折れたのだ。

「ぼくが……ぼくが旱魃砲を外したから……いや、そもそもぼくが蚩尤に操られなんてしなければ……」

「ラク!そんなこと言ってる場合か!クアフゾンが来るぞ!!」

「ぼくが……」

 再びこちらに足を向けた紅蓮の巨獣にも、呼びかけるキトロンの声にも反応を示さず、虚空に後悔の言葉を呟き続ける諸葛楽。

 その姿を見て、灑軍の士気もどん底に……。皆が皆、人生の終わりを覚悟した……その時!


……………………………


「――えっ!?」

 突如としてラクが立ち上がり、周囲をキョロキョロと見回し始めた。

「ど、どうしたんだよ、急に!?」

「今、声が……名前を呼べって、誰かが!!」

「ラ、ラク……お前……」

 キトロンはショックでおかしくなってしまったのだと思い、憐れみの眼差しを向けた。

「ラク……声なんか聞こえない。ただの空耳だ」

「そんなこと……」


………………………


「――!?やっぱり聞こえるじゃないですか!?」

 目を見開き、さらに忙しなく声の主を探す。その様子に周りのみんなはドン引きだ。

「ラク……」

「まぁ、友人が目の前であんな死に方したら、こうなるのも仕方ねぇさ」

「……だな」

「違いますよ!皆さん!絶対に聞こえたんですよ!声が!」

「名前を呼べって?」

「はい!清らかな魂を持つ者よ、我が名を呼べって!!」

「じゃあ、呼んで見ればいいんじゃねぇの?」

 キトロンはもう色々と諦めたのか、そうぶっきらぼうに言い捨てた。

「いや、でも……」

 ラクは急に動きを止め、口ごもる。彼は声が聞こえたことには確信があった。けれど、その内容については懐疑的だった。

「なんだよ?その名前ってのが、わからねぇのか?」

「名前はわかるよ!声が教えてくれるから、わかるけど……」

「なんだよ!ウジウジと!男は度胸だ!呼んでくれって言ってんなら、思い切り呼んでやれよ……」

「キトロンくんがそう言うなら……」

 苛立つキトロンに急かされ、ラクは意を決して口を開いた。

「……盤古」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………


「「「!!?」」」

 呂九平原が再び震える……昨日のように!

「まさかもう一匹、クアフゾンが出てくるのか!?」

「いや、違う……これは!」

「ウオオォォォォォォォォォォッ!!!」


ドゴオォォォォォン!!


「グガアァァァァァァァァァッ!!?」

 紅蓮の巨獣の目の前に穴が空いたと思ったら、そこからこれまた巨大な人型の何かが飛び出し、勢いそのままにクアフゾンにアッパーカットを決めた!

 巨獣の身体は宙を舞い、為す術なく呂九平原に倒れ、再度地面を激しく揺らした。

「おいおい……あれって……」

「まぁ、伝説のクアフゾンが出て来たなら、伝説の盤古が出て来てもおかしくないわな」

「それはそうだが……」

 ペペリを除いて灑の戦士たちはまたパニックに陥っていた。

 昨日から信じられないことを幸か不幸か目撃し続けてきたわけだが……やはり伝説の巨神の降臨には目を疑う。

「ウオオォォ……」

 そんな揺れる彼らを尻目に盤古は静かに視線を向けた……自らの主に。

「ウオォッ!」


ビッ!!


「えっ!?」

「諸葛楽!?」

 盤古の額から光が伸び、ラクを包み込んだ。

「え、え、ええっ!!?」

 そして、ラクの身体は浮き上がり、その光を辿って、盤古の中へと消えて行った。

「ありゃま、ラクまで飲み込まれちまった」



「んんッ?」

 ラクが恐る恐る目を開けるとそこは何もない真っ白な空間だった。地に足が着いているような、浮いているような、不思議な感覚に包まれながら、また視線を右に左に動かし、辺りを観察する。

「ここは一体……?」

「まぁ、普通に考えれば、操縦席じゃねぇの?」

「操縦席か……って!キトロンくん!!」

「よっ!」

 驚くラクとは対照的にキトロンはのんきに敬礼などして見せた。

「どうして君までここに!?」

「なんかお前が光に覆われる瞬間、反射的におれっちもその中へ……つい」

「ついって……というか、何でそんなに冷静なの!?ここ盤古の中だよ!?」

「もう驚くことに麻痺してしまったというか、疲れちゃったというか……そんな感じ」

「君って起源獣は……」

「それよりもなんか出て来たぞ!ほれ!」

「えっ?」

 キトロンが指さす方向に視線を移すと、こちらに二つの球体が向かって来ていた。それらはラクの前でピタリと動きを止める。

「キトロンくんの推測が正しいのならば……」

「多分、盤古を操るためのものだろうな。手を置いてみろよ」

「気軽に言ってくれるね……こんな得体の知れないものに触れろだなんて……」

「そうは言っても、他にどうすることもできないだろ?ここに閉じ込められたようなもんだし……」

「そうなんだよね……」

「だから!ほれ!」

「ええい!ままよ!!」

 ラクは意を決して、両手を球体に置いてみた。すると……。


バチッ!!


「――ッ!?」

「ラク!?」

「大丈夫……なんかちょっと痺れただけ……なんて言うか……繋がった……!」

 ラクはさらに不思議な感覚に包まれることになった。自分の神経に何かが入り込むような違和感、しかしすぐにそれは無くなり、その代わり身体が拡張したような感覚を覚えた。

「よくわかんねぇけど、盤古と繋がったっていうなら、とりあえず外の様子を見せてくれよ」

「わかった、やってみる」

 ラクが外を見たいと念じると、その想いが球体を通じ、巨神へと伝わる。


ブゥン!


「おっ!見えた!!」

 ラクとキトロンの前に四角い窓が広がり、そこから外の様子が見ることができるようになった。

「できたじゃないか、ラク!」

「うん……なんとかね」

「それにしても高いな……」

「いつも空飛んでるのに、怖いのかい?」

「ここまで高く飛ぶことはないからな。空にはおれっちよりも速くて凶暴な起源獣がうようよ……ラク!後ろだ!!」

「――ッ!?」

「グガアァァァァァァァァァッ!!」

 キトロンの鋭敏な感覚が、背後に忍び寄る紅蓮の巨獣を感じ取った!

 そのことをラクも把握すると、反射的にこの巨獣をどう迎撃するかを頭に思い浮かべる。それがまたまた盤古に伝わった!

「ウオオォォォォォォォォォォッ!!」


ドゴオォォォォォン!!


「――グガアァッ!!?」

 後ろ蹴り炸裂!盤古のおよそ50メートルにも及ぶ全長と、それに伴うヘビーな体重を支える強靭な足が紅蓮の巨獣にカウンター気味に叩き込まれた!

「グガアァァァァァァァァァッ!!?」

 クアフゾンの巨体は再び地面に倒れ、痛みに悶え苦しむ。

「今……ぼくの想像した通りに盤古が動いた……!」

「感動している場合か!追撃だ!追撃!!」

「追撃って……」

「とにかくまずは旱魃砲と灑軍からこいつを引き離そう!尻尾を掴んでさ!」

「――!なるほど!!」

 キトロンの意図を理解したラクは次の行動を思い浮かべる。すると、彼の想像通り盤古はクアフゾンの尻尾を掴み……。

「でえいやぁぁぁぁぁっ!!」

「ウオオォォォォォォォォォォッ!!」


ブゥン!ブゥン!ブウゥゥゥン!!


「グガアァァァァァァァァァッ!!?」

 力任せに振り回した!所謂ジャイアントスイングである!

「このまま遠くにぶん投げてやれ!ラク!盤古!」

「よいしょッ!!」

「ウオオォォォォォォォォォォッ!!」


ブウゥゥン!!


「グガアァァァァァァ……!!?」

 キトロンの指示通り、クアフゾンは呂九平原の彼方へと投げ飛ばされた。



「あり得ない……クアフゾンが……盤古に……!?」

 先ほどとは打って変わって、王瞑の顔色は愛機と同じく青ざめていた。

「残念だったのは、あんたの方だったようだね、皇帝陛下」

 対照的にジョーダンは生気を取り戻す。むしろ、先ほどよりもずっと元気だ!

「丞旦……!!」

「伝説のクアフゾンが甦ったんだから、その怪物を打ち倒した伝説の盤古が甦っても不思議じゃない……だろ?」

「ぐっ!?」

「ボルシュ様の言う通りだった。ラクは煌武帝と同じく盤古に選ばれし者……猛華の救世主は紅蓮の巨獣ではなく、ボクの弟弟子、諸葛楽だ!!」



「グガアァァァァァ……」

「ウオオォォォォォ……」

 悶え苦しみ立つことすらままならないクアフゾンに盤古がゆっくりと近づいて行った。

「まさに形勢逆転だね」

「あぁ……やっちまえ!ラク!!」

「はい!!」

 ラクは想像する……クアフゾンに鉄拳を撃ち下ろす盤古の姿を!

「ウオオォォォォォォォォォォッ!!」

 すると、咆哮を上げながら巨神はそのイメージをトレースする!拳は巨獣の頭蓋に炸れ……。


ゾクッ……


「――!!ストップだ、ラク!!!」

「――ッ!?」

 キトロンの鬼気迫る声を耳にし、ラクは盤古の拳を巨獣のぶつかる寸前で制止させた。

「どうしたんだ、キトロンくん!?こいつは、クアフゾンは一刻も早く仕留めないと!!」

 ラクが振り返ると、キトロンはどこか喜んでいるような、戸惑っているような、言葉では形容し難い複雑怪奇な表情をしていた。

「一体……何が……?」

「おれっちだって敵は倒せる時に容赦なく倒すべきだってのはわかってる……わかってるけど!!」

「だったら!」

「カンシチが生きている!クアフゾンの中からあいつの気配を感じたんだ!!それともう一つ!二つの生体反応を巨獣の中から感じる!!」

「なっ……!?」

 盤古の操縦空間が水を打ったように静まり返った……。


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