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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第二部
80/163

天才と皇帝と復讐者

「……蚩尤、聴覚センサーと視覚センサーは?」

「バッチリ機能しておるわ!ちゃんと捉えておる!」

「そうか……では……」

「あぁ……漸くリベンジの時が来た……!!」

 パカラッ、パカラッと軽快な足音を鳴らす白い機械仕掛けのマウに跨がり、黄金の龍は慇の皇帝と宿敵である電子の亡霊の前に姿を現した。

「初めまして、王瞑皇帝。そして、お久しぶりだね、蚩尤」

「丞旦……!!」

「こちらこそ初めまして、丞旦。キミの話はよく聞いているよ。けど、聞いていたよりもずっと印象がいいね。その応龍も下品というより、艶やかで気品を感じる美しいマシンじゃないか」

「へぇ……あなたも噂とは違って、物分かりのいい名君に見えるね」

「噂とはとんでもない尾ひれが付くものさ」

「そういうものかもね。だからこそ、実際に自分の手で確かめるのが大事……っと」

 応龍がネニュファールから降りると、身軽になった相棒かつ傑作はそそくさと邪魔にならないようにその場から退避して行った。

「その白いマウ擬きは戦わないのか?」

「そうだよ」

「正々堂々、一対一で……とか、思ってるなら、気にすることないぞ。こちらはある意味二人だしな」

「別にそんな律儀なことを考えてのことじゃない。ただ……」

「ただ?」

「ただ……応龍弐式だけであんた達を倒すには十分だってことだよ!!」

 応龍は両手を突き出し……。

「応龍バルカン!!」

 数え切れないほどの光の弾丸を発射した!


バババババババババババババッ!!


「それが開幕の号砲か……屠れ、蚩尤」

 王瞑の着けていた青銅の仮面が一瞬で光の粒子に変わり、そしてさらに機械鎧に!二本の角を持つ青銅の装甲に包まれた王瞑もその手を前に突き出す。

「軍神の盾」

 出現した盾は光の弾丸から、蚩尤本体を守った……守ったが。

「……やはり単なる目眩ましか」

「正解!応龍槍!」

 盾によって姿が隠れた一瞬に応龍は蚩尤の横に回り込み、槍の突きを放つ……が。

「軍神の剣」


ガギィン!!


 蚩尤は盾から剣に武器を一瞬でチェンジして、突きを切り払った。

「その程度でワタシたちに勝つつもりか?」

「まだまだ……これからだよ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 一合、二合、三合と火花を散らし、槍と剣がぶつかり合う!



 その様子を遥か遠くから鉄烏と武雷魚の死骸の下から覗いている者が一人いた。

(始まったか……応龍対蚩尤。しかし、あの憎たらしいゴールドドラゴンを討ち取るのは、この朱操と水晶孔雀だ……!!)

 青いクリスタルがより映える真っ赤なボディーの特別製の水晶孔雀は息を殺し、ボーガンを構えた。

(是の国との戦いで残りの四魔人の一人ぐらい死んでくれれば良かったのだが……まぁ、いい。このナンバー42を受領できただけでよしとしよう。応龍を殺すにはこれで十分……!!)

 龍の一挙一動を見逃さないように目を凝らす。手も震えそうになるが必死に押さえ込む。全ては友の仇を討つために……。

(チャンスは一度……その一度を必ずものにしてやるからな、徐勇……!!)



 朱操が虎視眈々と自分を狙っていることなんて露知らず応龍は蚩尤と激しい攻撃の応酬を続けていた。

「やるね、王瞑。以前の蚩尤ならこのスピードに付いてこれなかったはずだよ」

「余裕なんてない、ギリギリさ。ワタシの予想を超える速さ……お前こそやるな」

「慇皇帝からお褒め頂けるとは……光栄至極!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 応龍はさらにスピードを上げる!蚩尤は見るからにいっぱいいっぱい、防戦一方だ。

「このままでは負けるな……」

「だから最初から出し惜しみするなと言ったじゃろうが!!」

「どうしても噂の彼の実力を味わいたくてね……ワタシが全力を出せばすぐに終わってしまうかもしれないだろ!!」


ガギィン!!


「――ッ!?」

 蚩尤が剣で槍を下から跳ね上げた。そしてさらに!

「蚩尤、完全適合」

「アンド、機能完全解放!」

 蚩尤の背中が隆起し、四本の腕が生える!青銅の獣の新たな、そして本来の姿だ。

「蚩尤フルアーム」

「これが……」

「そう!これがお前を葬るためにワシが出した答えじゃ!!」

「ソードシックス」

 六本の腕全てに剣が握られる。それが……。

「ハアアァァッ!!」

 一斉に応龍に襲いかかる!上下左右から撃ち下ろし!斬り上げ!横に薙ぎ払う!

「盾よ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 それでも黄金の龍は盾と槍で六つの剣をなんとか防ぐ!

「フルアームに即座に対応するとは……」

「いや!こやつ、こうなることを予想しておった!!」

「消し去りたい過去だけど……あんたの弟子だからね……やりそうなことはわかる!!ただボクが予想していたのは電子頭脳に操作を任せたサブアーム……」

「現実は装着者であるワタシのマニュアル操作……予想外だったか!!」

「予想外だったよ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「ぐうぅ……!?」

 六本の剣の動きはさらに苛烈さを増して行く!文字通り手数が違うので、応龍は反撃を繰り出す暇はない……このままでは。

(仕方ない……もう少し手札を引き出してから使いたかったけど、こちらも出し惜しみをしてる場合じゃないな……!)

「どうした悩みごとでもあるのか?この皇帝に相談してみろ」

「ご心配ありがとう。でも……もう解決したよ!!」


ガギィン!!


「お?」

 覚悟を決めた応龍は盾で二、三本の剣を半ば強引にかち上げた!その結果、蚩尤の懐が無防備に!

「もらった!応龍槍!!」

 ノーガードの蚩尤に躊躇なく突きを放つ!しかし……。

「その程度」

 蚩尤は軽く後ろに跳躍して、槍の射程外に。

「そうくるのはわかっていた!槍よ伸びろ!!」

 けれど、その行動を予測していた応龍は槍の柄を伸ばした!幻妖覇天剣を参考にし、かつて水晶孔雀の一体を撃破した弐式の新たな能力だ!しかし……。

「その武装は……」

「もう知っておるわ!!」

 蚩尤は着地と同時にサイドステップ!伸びた槍の横側に回った。

 敵の秘策を攻略してやったと、勝ち誇る蚩尤。

 対するジョーダンは……彼もまた勝ち誇り、黄金のマスクの下で口角を上げた。蚩尤が避けることも既に予測していたのだ!

「あんた達が知ってるのは、ここまでだろ?」

「何?」

「まさか、お前……!?」

「そのまさかだ!弾けろ!応龍槍!!」

 主人の呼びかけに応じ、槍は再び形を変える。刃から星の光のように四方八方に無数の針が伸びる!


ザクッ!ガギィ!ザクッ!!


「ぐっ!?」

 応龍槍から伸びた針は蚩尤の剣を弾き、そして本体に突き刺さった。

「驚いたな。こんな機能まであったとは……」

「だが、威力は大したことない!所詮は子供騙し、反撃じゃ……あっ!?」

 蚩尤が言葉通り反撃を試みようと、応龍の方に視線を移そうとしたが、先ほどまでいた場所に龍はいなかった。得物から手を離し、どこかに消えていた。

「あいつ!どこに!!」

「落ち着け!蚩尤!奴の狙いは我ら……すぐに……」


ブウゥゥゥゥゥゥン……


「――!!?」

 王瞑の耳は虫の羽音のようなものをキャッチした。それは……背後から聞こえてくる!

「まずい!!」


ザンッ!!バギイィン!!


「ちっ!?」

「くっ!?」

 蚩尤は咄嗟にしゃがみ込んだが、僅かに遅く、音を出している何かが自慢の角の先を切り落とし、左上部から生えている腕を破砕した!

「一体何……が!?」

 慌てて振り返った蚩尤の目に映ったのは、黄金の龍の背中であった。正確には空中をターンしている途中で、腰のあたりから今まではなかった尻尾のように何かが伸びていた。その一番先から音が発生している!

「もう一丁!龍尾刃!!」

 ターンの勢いで振られた尻尾は再び蚩尤に襲いかかる!

「くっ!?シールドツーだ!!」

 蚩尤は反射的に目の前に盾を二枚召喚した……が。


バギイィィン!バギイィィン!!


「ワシの盾がこうも簡単に!?」

「言ってる場合か!射程外に退避だ!!」

 盾はあっさりと先ほどの腕のように破壊された!しかし、盾という障害がその身を挺して一瞬だけ刃の動きを遅らせてくれたおかげで龍尾刃の範囲の外に本体は逃げ切ることができた。

「蚩尤!あれは!?」

「高周波ブレードだ!小さいが威力は高い!」

「蚩尤の装甲でも……」

「耐えられんじゃろ!忌々しい!!」

 さすが師匠といったところか、蚩尤は龍尾刃の正体に一目で気づいた。そしてそれがわかれば、優秀な戦士である王瞑はすぐに対策を講じられる!

「アローフォー!!とりあえず距離を取って、隙を見て、アレを使う!!」

「おおう!!」

 本来の腕と下二本の腕を大砲へと変形させると……。


バババババババババババババッ!!


 光の弾丸をひたすらばらまいた!応龍の目の前をビームの雨が覆う。

「まぁ、そう来るよね」

 けれども応龍は至って冷静に光の暴風雨の間をすり抜けて行く。

「速い、聞いていた通り、いやそれ以上か」

「だからワシは“アレ”を造ったのじゃ!」

「では、本当に効果的か実証して見ようか!軍神の焔!!」


ボゥン!!


 右上部の大砲から二回りほど大きな、そしてのろまな光の球が発射された!

(なんだ、あれは?あの大きさから威力重視の攻撃か?だけど、あのスピードではボクの応龍に触れることなどできないよ)

 応龍は余裕綽々、悠々とその一際大きな球を回避……。


「ジョーダン、お前と蚩尤が師弟関係にあったことが事実だったと強く感じたよ」


「!?」

 突如として開戦当初のシュガの言葉が脳裏を通り過ぎた!

「応龍翼!全速前進だ!」

 黄金の龍は翼を展開し、空中で加速する!それとほぼ同時に……。


ドゴオォォォォォォォォォォォン!!


 光の球は大爆発を起こした!

「ぐっ!?」

 応龍はギリギリで加速したことが功を奏して、爆発の直撃を受けることはなかったが、その余波の爆風に煽られ墜落してしまう。

(近接信管!ボクだったら、機動力のある相手に近づいたら、すぐに爆発するように仕込んでおく!あれはやはり威力じゃなくて、命中率重視の武器!)

 分析しながら、ジョーダンは自分に嫌気が差した。どこまでいっても自分はあの狂人の弟子なのだと。だが、だからこそ次の一手もわかる。

(これで終わりじゃない!ボクだったら……)

「ちいっ!これも読んでおったか!!」

「軍神の焔……四連発射」


ボボボボボゥン!!


「やはりか!!」

 右腕の大砲以外から大きな光の球を応龍を囲い込むように発射する!逃げ道は後ろしかない!

(やはり退路の選択肢を絞ってきたか!ボクが後退したら、残った右腕のフルチャージショットで仕留めるつもりだろうが……そっちがその気なら!!)

 応龍は地面を強く蹴り押し、突進した!蚩尤に向かって!

「何!?」

「バカが!!そんなことをしたら軍神の焔の餌食になるだけよ!一つだけならともかく四つ同時に食らっては」

「わかってますとも!!」


ドゴオォォォォォォォォォォォン!!


 四つの球の中心に突っ込んだため、四つともほぼ同時に応龍を察知し、大爆発を起こした。蚩尤の前に黒煙のカーテンが展開される。

「あやつ……自棄を起こしたか……」

「いや……来る!!」

「ゴルドオーラ!!」

「何ぃ!?」

 黒煙の中から黄金の光の膜に包まれた応龍が飛び出して来た!その光の膜に蚩尤は見覚えがある……なんてったって、彼の発明品そのものだからだ。

「こいつ!絶対防御気光をパクりおったか!!」

「オマージュと言って欲しいな!それにあんたのとはちょっと――」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 師弟の会話を光の奔流が中断する!王瞑が右手にチャージしていたエネルギーを解き放ったのだ!しかし……。

「効かぁん!!」

「なん……」

「じゃと!?」

 金色の膜は光の奔流を弾き飛ばしながら、前進を続ける!全く動じないその姿に蚩尤は自分の認識が間違っていたことを理解した。

「展開時間を短くして、その分、防御力を上げたか!」

「正解!!このフルチャージを一発防げる時間があれば、それでいい!こうしてあんたの懐に入れればな!!」

「ぐっ!?王瞑!防御だ!!」

「わかっている!!」

 蚩尤は咄嗟に上の一本と下の二本の腕で前面を覆い尽くした。今の自分にできる最善の行動がそれだと信じて……。

(さっきの龍尾刃の威力が効いているな。ビビってガードを最優先にしやがった!これなら!!)

 応龍はターンして龍尾刃で!……という蚩尤の予想通りの行動は取らず、まったく予期していない行動、両手を目の前に突き出した!

「何!?」

「ここにきてバルカン!?」

「ノット!バルカン!!イエス!ゴールデンジェル!!」


バシャ!バシャ!バシャン!!


「――ッ!?」

 応龍の手の甲の砲口から発射されたのは光の弾丸ではなく、粘性を持った黄金の液体であった。それが蚩尤の腕に、脚に、青銅の装甲全体にかけられると、すぐにガチガチに固まっていく。

「これは……空気に触れると硬化するのか!?」

「イエス!黄金龍の髭は場所を選ぶし、設置に時間がかかる。けれど、このゴールデンジェルなら相手にぶちまけるだけで動きを止められる!!」

 自身の発明品の説明をしながら、応龍は後退。適度な間合いを取ると再び翼を広げ、ファンを回転させた!

「またそれか!バカの一つ覚えが!」

「なんとでも言え!この嵐龍砲が、今度こそお前をこの世から跡形もなく、消し飛ばす!!ボクはこの時をずっと……」



「待っていたぞ!!嵐龍砲!!」

 朱操が目を見開き、口が裂けるかと思うほど、口角を上げた!彼もまた待っていたのである……応龍の足が止まるこの時を!

(動きさえ止まってくれれば、くそ農民でなくとも、この距離、命中させられる!!)

 興奮で震える指にゆっくりと力を込め、引き金を押し込んでいく!そして!


「「これで終わりだ!!」」


 応龍の翼から竜巻が!朱操孔雀のボーガンから矢が発射されようとしたその時!


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!


「「!!?」」

 突如として、大地が大きく揺れた!思わずジョーダンも朱操も動きを止める。

「これは一体……!?」

 訳もわからず周囲を見渡すジョーダン。それに対して……。

「始まったんだよ」

「――!?王瞑!?」

 王瞑皇帝は青銅色のマスクの下で満面の笑みを浮かべた。

 彼だけはわかっていた、この振動の意味を!悲願が今、達成されたことを!

「王瞑、あんた……何を!?」

「来るぞ!!」

「えっ!?」


バギバギバギバギバギバギバギィン!!


「――ッ!?まずい!」

 大地に亀裂が走る!所謂地割れだ!その上に立っていた応龍は慌てて退避する。

 一方……。

「ぐっ!?まずい!!屍が邪魔で逃げられない!このままでは!このままでは!!」


バギャアァン!!


「うっ!?」

 朱操孔雀が横たわっていた場所がぱっくりと割れた!

「そんな!俺が!この朱操が!こんな終わり方なんて!嫌だ!!嫌だぁぁぁぁぁッ!!!」

 誰にも聞こえていない断末魔を叫びながら朱操は人知れず深淵の闇の中へと消えて行った。

 そして代わりに地割れの中から“それ”は姿を現した!猛華の民なら誰もが知っていて、誰もが恐れたことのある“それ”が!

「まさか……あれは煌武帝と戦ったという紅蓮の巨獣……!!」

「そうだ!あれこそが伝説の魔物!この腐った猛華を破壊する救世主!『クアフゾン』だぁッ!!」


「グガアァァァァァァァァァァッ!!」


 王瞑のはしゃぐ声と巨獣の咆哮が呂九平原に不気味にこだました……。


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