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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第二部
79/163

王子と魔人

「ウオラアァァァァァッ!!」


ダンッ!ダンッ!ダンッ!!


 咆哮と共に繰り出される鉞の斬撃が武雷魚を縦に、横に、斜めに切り裂いていく!

 開幕一番で必殺技を破られた蒲牢は鬱憤を晴らすかのように慇軍相手に大立ち回りを披露していた。

「調子に乗るな!孔雀戦光!!」


 ビビビビビビビビビビビビビビッ!!


 仲間の危機に駆けつけた水晶孔雀が、最早毎度お馴染みになった緑色追尾レーザーを放つ!しかし……。

「邪魔くさい!!」


バシュッ!バシュッ!!


「何!?」

 レーザーを二本の鉞で次々と切り払う。斧の迎撃をくぐり抜けたレーザーもあるにはあったが、数本程度ではタフな蒲牢を機能停止に追い込むことはできなかった。

「こちとらあの岳布さんを見て育ち、シュガさんや玄羽様に稽古つけてもらったんだ!そんな小細工では止められん!!」

「ちっ!?ならば……水晶戦斧!!」

 撃ち合いでは勝利を得られないと悟った水晶孔雀はその名にふさわしい半透明の美しい刃を持った斧を召喚し、蒲牢に切りかかった!

「その首おいてけ!皇太子!!」

「断る!!!」


バリィイイン!!


「――なっ!?」

 撃ち下ろされた斧を蒲牢の鉞が軽く受け止めると、水晶の刃はいとも簡単に、そしてド派手に砕け散った。両者の間をキラキラとクリスタルの破片が舞い、勝者と敗者の顔を映し出す。

「この破壊力は……ただの鉞じゃない……!?」

「気付くのが遅かったな。お察しの通り、この鉞は普通とはちょっと違う」

「何が違うんだ……!?」

「それは……自分で考えな、あの世でよ」


ダンッ!!


「――ッ!?」

 斧に続き、その主である水晶孔雀を蒲牢の鉞は破壊した!黒い装甲も美しい装甲も、その中身の骨と内臓もまとめて砕き、両断したのだ。

「さてと……お前さんは来ないのか?」

「ひいっ!?」

 蒲牢はこちらに槍を向けながら、ガタガタと震えている武雷魚に視線を移す。今しがた仲間を何人も殺害したその怪物に睨まれると、緑色の魚はさらに震動を大きくした。

「情けねぇ……仲間の仇を討とうという気概はないのか!?あぁん!!」

「――ッ!?オ、オレだって、お前を殺して仇を、手柄を上げたいさ!!」

「ならば!!」

「でも、そうなる未来が見えないんだよ!!」

 蒲牢に凄まれ、武雷魚は完全に戦意を喪失した。最後の意地の象徴である槍を投げ捨て、踵を返し、走り出す。

「本当に情けない……けれども、賢明だ。逃げることも、時として人生には必要さ。見逃してやるから、もう二度と戦場なんかに出てくるんじゃねぇぞ」

 蒲牢は追撃することはしなかった。怯える無抵抗な人間をいたぶる趣味は、根っこは高潔で育ちのいい皇太子らしい姫風にはなかった。

 一方、慇の皇太子はというと……。

「敵前逃亡は死刑だ」


ビシュウ!!


「――がっ!!?」

「何!?」

 逃げる武雷魚の心臓をピンポイントで何かが貫いた!そして、その何かはそのまま蒲牢に向かって行く!

「この!!」


バシャッ!!


 蒲牢は何かを鉞で切り払う。すると、目の前に無数の水滴が飛び散った。

「これは……水か?」

「そうだ。空気中の水分を取り込み、レーザーのように撃ち出すことができるのが、この第三世代最上級骸装機、『野鯨羅 (のげいら)』の力だ」

 現れたのは蒲牢よりも一回り大きく、深い青色をした巨大な骸装機であった。それは今自分が刑罰を執行し、命を奪った武雷魚の骸を踏みつける。

「……おい、国のために戦い死んだ兵士を辱しめるのが、慇のスタイルなのか……?ましてやその第三世代骸装機……お前、王全だろ?皇太子が民を……!!」

 姫風は王全の態度に強い不快感を抱いた。できることならすぐにでもこの手に持った二本の鉞でズタズタに切り裂いてやりたいところだが、戦士としての彼が心の中で軽はずみな行動をするなと制止するので、こうして更なる情報を探るように話しかけている。

「ふん!慇は最後まで懸命に戦った者には敬意を示す……しかし、こいつは逃げようとした。戦場に出たからには与えられた任務を果たすため、最後までもがくのが慇のスタイル。それが出来ない奴はこうして殺され、死んだ後も貶され続ける……こんな風にな!」

 蒲牢の言葉に対して、悪びれることもなく、むしろ更に挑発するように野鯨羅は武雷魚を粗大ゴミのように蹴り飛ばした。

「灑のスタイルとは違うな……!」

「そうじゃないだろう?お前の、あまっちょろい皇太子殿下のスタイルに合わないんだろ?」

「てめえ……!!」

「いずれ国を背負う覚悟があるなら、時として民を切り捨てる覚悟も持たなければいけない。規律に乗っ取り、自らの手で罰を下す覚悟もな。それがないお前では、この私には決して勝てんよ、姫風……!」

「偉そうに……上から説教してんじゃねぇ!!」

 姫風は我慢の限界を迎え、感情の赴くまま突進した!しかし……。

「情に左右されるそういうところが駄目だと言っているのだ!!」


ビシュウ!ビシュウ!ビシュウ!!


「くっ!?」

 野鯨羅は両手の甲に付いている砲から大気中から集めた水分を凝縮し、凄まじいスピードで撃ち出した!

 たまらず蒲牢は足を止め、鉞で防御する!

「ちっ!!そんなに蒲牢と殴り合いするのが怖いのかよ!!」

「あぁ、怖いね!そんな目にも止まらぬスピードで振動し、触れた物を破砕する高周波アックスを持っているマシンなど怖くて仕方ない!!」

「てめえ……!!兵士達を蒲牢の力を測るために見捨てたのか!!」

 姫風は激昂した!戦友を捨て駒にするなど、彼にとっては最も許せないことの一つなのだ。

 けれども王全は意に介さない。眉一つ動かさず、淡々と国のために動くだけだ。

「おかげでこうして遠くから高圧水流でガンファイトをさせてもらうことができる!これが人の上に立つということだ!皇太子殿下!!」



「どうした?このシュガの首が欲しくないのか?」

 積み重なった武雷魚の山の前でシュガが問いかけたが、答える者はいなかった。仲間をやられたというのに、手柄が目の前にいるというのに緑色の魚の群れはみんな仲良く尻込みしてしまっている。

「……慇には兵士はいても、戦士はいないか……」

 残念そうにそう呟くと、シュガは幻妖覇天剣を天高く振り上げた。その時!

「戦士ならここにいるぞ!!」

「!?」


ガギィン!!


 突如として現れた翼を生やした全身灰色の骸装機の太刀を咄嗟に幻妖覇天剣で受け止める。つばぜり合いの状態になり、両者至近距離でにらみ合う。

「お前は……!」

「我は慇の四魔人が一人、雷鳴のスパーノ!!そして、これが……」


ガギィ!


「ちっ!?」

 灰色の骸装機は力任せに幻妖覇天剣を弾き……。

「これが我が愛機!『オーロ・ファルコーネ』だ!!」

 凄まじい斬撃のラッシュを繰り出す!


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 けれども、シュガはまたしても覇天剣で全て防いでいく。

「さすがだな、シュガ。灑の銀色の剣と言われるだけはある……!」

「お前こそな、雷鳴のスパーノ……だが、正直……少し期待外れだ!!」


ザンッ!!


「――ッ!?」

 一瞬の隙を突いて、シュガは幻妖覇天剣を伸ばし、ファルコーネの首を切り落とそうとした。

 しかし、すんでのところで隼は回避、うっすらとマスクを掠めたが、すぐに射程の外に退避した。

「訂正する。今の攻撃を切り抜けるとは、やはりお前は敬意に値する戦士だ、スパーノ」

「自分としてはあまり褒められる出来ではなかったのだがな。我が剣の連続攻撃をああも簡単に捌かれるとは」

「お前と同じ……いや、お前以上のスピードを持った者を知っているからな」

 シュガの脳裏に今は鳴き盟友、岳布との思い出が過る。目の前にいるスパーノは戦い方も、使っているマシンも、纏う雰囲気もどこか彼と似ていて、嫌いになれなかった。

 それはスパーノも同じで、彼は彼でシュガにシンパシーを感じ、敵意とは違う感情を抱いていた。

「そうか……ならば、出し惜しみをしている場合じゃないな。おい!」

「はっ!!」

 スパーノが声を上げるとどこからともなく布にくるまった大きな棒状のものを一人の兵士が持って来た。

 それをファルコーネが受け取ると、布を一気に剥ぎ取る。

 姿を現したのは巨大な矛であった。神々しい装飾が施され、見る者全てを畏怖させる矛がそこにはあった。

「そいつは……」

「やはり知っているか。だが、知識だけでは理解したことにはならん……だから、その身でしっかりと実感するといいさ!!」


バリバリバリバリバリバリィッ!!


 ファルコーネが矛を勢いよく横に薙ぎ払うと、無数の雷が発生し、それがけたたましい音と共にシュガに襲いかかった。

「ちっ!!」

 シュガは仙獣人の最大の武器である驚異的な反射神経でその全てを躱して……いや!


バリバリッ!


「くそ!?」

 雷は僅かに銀色の毛を掠め、毛先を黒く焦がした。

「どうやらご自慢の反射神経でも、雷には対応し切れないみたいだ……な!!」


ガギィン!!


「ぐっ!?」

 再びのつばぜり合い!しかし、今回はファルコーネの得物が大きく重い矛になっているので、先ほどよりもシュガが押されていた。

「その矛……『轟雷覇海刀 (ごうらいはかいとう)』だな……!慇の国に代々伝わる!!」

「そうだ!国宝とされるこの覇海刀を王瞑皇帝陛下は異国から来た自分に託してくれた!グノス帝国の十二骸将に名を連ねながら!黄金の翼という二つ名を与えられながら!主君の横暴に耐えられず、祖国を見捨てた自分にだ!!」

「スパーノ、お前……」

「シュガ!自分とお前はよく似ている!皇帝に拾われ、忠誠を誓い、こうして伝説の武器を振るう!ならば、自分の気持ちが手に取るようにわかるはずだ!!」

「あぁ……目の前の敵を討ち倒し!恩義に報いる!!」

「その通り!!」

 両者は眼前にいる者に自分の生きざまの全てをぶつける覚悟を決めた。



「はあっ!!」


ガン!ガン!ガァン!!


「ぐはっ!?」「がっ!?」「ぐっ!?」

 オレンジ色の撃猫は次々と緑色の魚を拳で蹴りで狩っていった。その姿はまさに拳聖の生き写しのようだ。

「くそ!?これが拳聖の愛弟子の力か!?」

「気をつけろ!こいつはまだ特級骸装機を隠し持っている!!本気を出していないぞ!!」

「安心しろ……お前達ごときに狴犴を使うつもりは……ない!!」


ガンガン!!


「「――ッ!?」」

 すれ違い様に拳を叩き込み、二体の武雷魚を同時に撃破!確かにこれなら狴犴を使う必要はないように思えるが、セイが使用を躊躇しているのは、別の理由があってのことだ。

(狴犴は短期決戦特化型……愛羅津さんはうまいこと使いこなしてペース配分していたが、こないだ装着したばっかりのオレでは残念ながら、そんな器用な真似はまだ出来ない。きっと朱操のように間抜けを晒すことになるだけだ。ならば割り切って、特級装甲のように、切り札として運用するのが、今の最善……!)

 セイは彼なりに狴犴の特性と自分の力量を冷静に分析し、その結果として慣れ親しんだ撃猫と使い分けるという選択を下したのだ。

(このまま雑魚は撃猫で、四魔人とかいう奴らか、水晶孔雀の群れは狴犴で……それがオレのミッション……!)

 任務を遂行するため撃猫は新たな獲物に狙いをつけたが……。

「どけ……お前らじゃ束になっても敵わん」

 緑色の武雷魚の集団をかき分け、見たこともない骸装機が現れた……現れたが。

「また紫か……」

 セイは辟易した。それは血管のように赤が差し色として入っていたが、メインカラーはまた紫。彼が幸か不幸か何度も相対した紫色の骸装機であった。

「紫はお嫌いか?拳聖の愛弟子よ」

「別に。その異名よりかは好きだぜ」

「ふっ、口も達者だな。安心しろ、お前が紫を目にするのは今日が最後だ」

「大した自信だな。そこまで言うってことは……」

「あぁ、我こそは四魔人が一人血塗れの蓮震!そして我が愛機はお前の狴犴やあのやたら声のデカい皇太子の蒲牢と同じく懐麓道が造りし傑作が一つ、『睚眥 (がいし)』!闘争を求め、王瞑皇帝陛下に仕え――」


ガン!!


 話の途中で撃猫はパンチを放った!しかし、それはあっさりと毒々しい色をした睚眥の手のひらに受け止められてしまう。

「手癖が悪いな」

「闘争を求めてたんだろ?そんな奴が、この程度を無礼だなんだと断じるのか?」

「確かに……それでこそと言うべきか!!」

 睚眥は撃猫の拳から手を離すと、お返しとばかりに反撃のナックルを連続で繰り出した!けれど……。

「今まで相手した雑兵どもとは比べものにはならない鋭さ……だが!オレには通じない!!」

 撃猫は最小限の動きで、睚眥の拳をかわし、いなし、無効化した。セイの真骨頂であるディフェンス技術が存分に発揮されたのである。

「ここまでやるとは予想以上だな……!」

「オレは予想を下回ったぞ、四魔人」

「なんだと!?」

「この程度なら、大してエネルギーを使わなくて済む……狴犴で一瞬で終わらせることがな!!」

 オレンジの獣が光を放つと、一瞬で白い神獣へと姿を変えた。そしてその神獣は……。

「ハアアァァァァァッ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 音さえ置き去りにするスピードで拳を乱打した!睚眥の毒々しい装甲に亀裂が走り、派手に剥がれ落ちる!そして……。

「ハアァッ!!」


ガギィン!!


「ぐはっ!?」

「うおっ!?」「ひっ!?」「ぎゃ!?」

 吹っ飛ばした!睚眥はお仲間である武雷魚の群れへと、頭から突っ込んでいった。

「他愛ない。あいつが四魔人の中で特別弱いのか、それとも実はケチャだけがとびきり厄介で他の三人は大したことなかったのか……後者だったらオレと狴犴だけで十分だな」

 勝利を確信した狴犴は踵を返し、新たな四魔人の下へと歩みを進めようとした……が。

「おい……まだ終わってないぞ……!!」

「!!?」

 セイは一瞬聞こえて来た声が蓮震のものだと気づかなかった。だってそれは絶対にあり得ないことだから。狴犴を装着した自分の全力のラッシュを受けて、無事でいるなど……。

 しかし、振り返ると奴はいた。武雷魚の群れをかき分けて、傷口から煙を出しながら立っていた。

「お前……何で……!?」

「睚眥のコンセプトは継戦能力強化のための再生能力特化……短期決戦が信条のお前の狴犴とは相性最悪だと思うぜ……!!」



「でえぇい!!」

「はっ!!」

「ぐわあっ!?」「ぎゃっ!?」

 それぞれ槍と矛で武雷魚を倒しながら、応龍と麒麟の兄弟弟子コンビはネニュとマウを走らせていた。

 目的地はもちろん全ての元凶である彼らの先生の人格をインストールした蚩尤と、今の持ち主であり、この戦いの発端となった慇皇帝王瞑のいるところである。

「きっとこの先に王瞑がいる!そこに蚩尤も!」

「居場所を感知できたのですか、兄さん?」

 完全適合すると人はもちろん骸装機のレーダーでも捉えられないものを、察知できる応龍が王瞑の気配を感じ取ったのかと諸葛楽は考えた。けれど、答えは真逆だ。

「むしろこの先から何も感じられないんだよ」

「えっ?それってどういう……」

「そこら中から闘志や敵意、恐れや後悔、色んな感情を感じるのに、この先はぽっかりと何もない空間が広がっているようだ」

「実際に誰もいないってことは……」

「あるかもな。けど、ボクの天才的直感が言っている……この“熱”の無さは王瞑だと!!」

 応龍は空のような青い二つの眼で武雷魚の群れの奥で自分を待っているであろう王瞑と蚩尤を睨み付けた。今すぐ行ってやるから首を洗って待ってろ、と。

「行こう、ラク!ボク達でこの下らない因縁に終止符を打つんだ!」

「はい!最初からそのつもりで……」

 肯定の返事をしようとしたラクの視界の端に妙な動きをする灑軍の姿が見えた。

(なんだ?あの隊は何を追っかけている?戦いの恐怖で少しおかしくなっただけか?それともこのまま逃げるつもりか?若しくは……)

 人によっては迷わず見過ごすという選択肢を取る程度の引っ掛かり……けれど、諸葛楽はそれが出来ないタイプの人間だった。

「兄さん、申し訳ありませんが先に行って下さい」

「どうした?何かあったのか?」

「それを確かめに行きます。取り越し苦労の可能性もありますし、事態は刻一刻と進み続けています。ですから、兄さんの手を煩わせる訳には……」

「別にそんなこと気にしなくてもいいけど……お前がそう決断したなら、ボクは何も言うまい。ラクは賢いからな」

「兄さんほどでは」

 二人はマスクの下で微笑み合うと、乗っている相棒を別々の方向に向けた。

「それでは!」

「健闘を祈る!!」

 こうして蚩尤の下に歩みを進めていた黄金の龍と黄色の神獣は別れることになった。

「待て!待て!待て!四魔人!!」

「大人しく首を差し出せ!!」

「ひいっ!?」

 ラクが見つけた小隊はそう叫びながら、逃げるモジャモジャ頭を追い続けていた。

「くっ!?生身だと言うのになんと足の速い……!」

「隊長!私が弓で!」

「おおう!そうだ!蒼天の射手に負けずとも劣らないそなたの弓で四魔人撃破という大手柄を上げてみせろ!」

「はっ!!」

 鉄烏の一体がマウの上で弓を構えると間髪入れずに発射した!

 矢は真っ直ぐとモジャモジャ頭の脳天を貫い……。


ボワン……


「「「なっ!?」」」

 矢が触れた刹那、モジャモジャ頭は煙のように消えた!というより、煙になって消えた!

「どういうことだ……?」

「まんまと嵌められたってことだよ」

「「「!!?」」」


ボオォォォォッ!!!


「「「ぐきやあぁぁぁぁっ!!?」」」

「「「ひひぃぃぃぃぃぃん!!?」」」

 瞬間、小隊全員とマウが鮮やかな緑色の炎に包まれ、あっさりと消し炭へと姿を変えた。

「燃えた!燃えた!綺麗に燃えた!」

 黄金の鬣を持ち、炎と同じ美しい緑色をした骸装機が満足そうに消し炭に向かって拍手を送る。

「いやぁ~、あんなに綺麗に燃えるとは……灑の国民ってのは食ってるものが違うのかね?お前はどう思う、黄色いの?」

「金剛獣槍!!」

 マウから飛び降りた麒麟は迷うことなく緑色の骸装機に攻撃を繰り出した。しかし……。


ボワン……


「何!?」

 またしても骸装機は煙になって消えた。そして……。

「こっちだよん」

「――ッ!?」

「緑炎爪弾」

 いつの間にか背後に回っていたそれは緑の炎の弾丸を手から放った!

「金剛墓標!!」

 麒麟はすかさず矛を地面に突き立て、自分の前に岩を隆起させる!炎を防ぐために!けれど……。

「その程度じゃ『狻猊 (さんげい)』の炎は止まらない」


ジュワッ!!


「なんだと!?」

 緑色の炎は金剛墓標さえも溶かしながら進み、麒麟に襲いかかった。

「ちいっ!?」

 黄色の神獣は紙一重で炎を回避……いや、僅かに躱し切れずに黄色の装甲を溶かしてしまった。

「スパーノと蓮震のバカが妙に張り切ってるから、あーしはのんびり雑魚でも燃やしてようと思ってたけど、デカい獲物がそっちからやってくるなら……仕方ない!!」

 狻猊は腕を広げるとモクモクと煙が立ち上ぼり、その煙が人の形に、狻猊瓜二つに変化した。

「我は慇の四魔人が一人、幻惑の花則!そして我が愛機は懐麓道が傑作が一つ、狻猊!コンセプトは……撹乱と、文字通り火力特化だ!!」

 十人ほどに増えた狻猊は両手に緑色の炎を宿し、一斉に飛びかかった!

「煙による分身……しかし、それぞれが攻撃できるなら今までもそうしていたであろう……つまり攻撃は本体でなければ駄目……だとしたら!」

 麒麟は矛を再び地面に突き刺し、さっきよりも強い感情と意志をそれに流し込んだ!

「先ほどよりも強く硬い岩でまとめて叩き潰せばいい!!金剛戦華!百花繚乱!!」


ドゴオォォォォォォォォォォォン!!


「――がはっ!!?」

 麒麟を中心に猛々しい岩の花が並の人間はもとより、一流の戦士でも対応できないほどの圧倒的な速度でこれまた圧倒的な広範囲に咲き、その鋭い花弁で煙の分身も狻猊本体も宣言通りまとめて貫いた。

「兄さんがいたらスマートじゃないって、嫌味の一つでも言われそうだけど、手段を選んでいる暇もないしね」

「お、お前のその言葉の方が嫌味に聞こえるが……」

「そんなつもりはなかったけど、気分を害したなら、謝るよ」

 そう言ってさらに嫌味で追撃しながら、身体中に穴を開け、そこから血を流し、倒れる狻猊を麒麟は見下ろした。

「ま、まさか四魔人最強のあーしがこんなにもあっさりと負けるとは……」

「最強?最弱の間違いじゃないの?灑の中でもへっぽこのぼくに負けるぐらいなんだから?」

「お前、本当に嫌味な奴だ……な」

 花則は最後の力を振り絞り、顔を上げると、黄色の仮面の下で真っ直ぐとこちらを見つめ、今の話も本気でそう信じ込んでいる諸葛楽のすっとぼけた顔が見えた。

「……マジでそう思い込んでいるのか……?」

「ん?ぼくはさっきから事実しか述べてないよ」

「はっ!よりによってこんな天然ちゃんに殺されるとは花則、一生の不覚……」

 花則は苦笑いを浮かべると、徐々に瞼が重くなり、視界が闇に包まれていく。

「王瞑皇帝陛下……あなたといつまでも猛華を……駆け抜けたかっ……」

 それが四魔人、花則最期の言葉であった。

「幻惑の花則……最期は夢幻に包まれながら、逝くか……」


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