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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第二部
75/163

白澤全開

 名乗りを終えると義命はすぐさま数珠を着けた右手を掲げた。

「問答無用というわけか。かつて起源獣の研究に勤しんでいた者としては、獣然宗の人間とは一度ゆっくりと話をしてみたいと思っていたんだが……」

 挑発ではなく、本音だった。王瞑は心の底から残念そうに青銅のマスクの下でため息をこぼす。

「私と話をしたいなら兵を退け、慇皇帝よ。そして蚩尤は私に引き渡せ」

 義命は感情を押し殺したように淡々と自分の要求を伝える。もちろんいつでも戦闘に移行できるように臨戦態勢のままで。

「何じゃと?さっきの言葉といい、お前の望みはワシなのか?」

 青銅の獣から先ほどとは違うしゃがれた声が発せられると義命の顔があからさまに不快感で歪んだ。

「ある筋からお前の話は聞いている、骸装機に宿った亡霊よ……!」

「ほう、ワシの正体を……一体どこで?」

「そんなことはどうでもいい。世界というのは今、生きている者達が動かすのが道理……もうすでに死んでいる者が干渉するんじゃない!」

「勘違いするな、坊主。ワシは死んだのではなく、生きている。生まれ変わったのだ、人間を超えた上位存在に!!」

「なんと傲慢な……!!」

 蚩尤の驕り高ぶった演説を聞いて、義命はさらに決意を強くする……この男をこの世から消す決意を。

「慇皇帝よ、もう一度だけ言う……その邪悪なる亡霊を私に引き渡せ!」

 一瞬の溜めも迷いもなく、蚩尤は、正確にはその中にいる王瞑は首を横に振った。

「残念ながらそれはできない。これはワタシの目的のために必要なのだ」

「あなたは騙されている!唆されているだけだ!!」

 義命は必死に呼びかけた!王瞑に宿る善意に!しかし……。

「……キミは何か勘違いしていないか?ワタシはワタシの意志で動いている。ワタシ自身が考える使命を果たすために……!」

 王瞑は揺るがなかった。飄々としているように見える彼の中に確かな熱意を感じた義命は舌戦で決着をつけることを諦める。

「……そうか……あなたがそこまで言うなら、もう何も言うまい……」

「もう終わりか?キミと話すのは思った通り楽しかったのに」

「あぁ、終わりだ……私には!私達にも!譲れない使命がある!そうだろ、白澤!!」

 数珠から光が発せられ、純白の美しい骸装機が義命を包む。

 白澤、猛華の平和のため出陣!蚩尤から一定の間合いを取り、跳び回り始める!

「その骸装機……そうかキミが獣然宗の白き守護者か」

「知っておるのか?」

「噂を少し。油断できない相手だ、気を引き締めて行くぞ」

「ふん!蚩尤フルアームは絶対無敵だ!」

「では、それを証明してもらおうか……アローツー!」

 蚩尤は六本の腕の内、上二本を大砲に変えた。まるでキャノンを肩に掲げているような形になった青銅の獣は白澤に大まかに狙いを定めて、光の弾丸をばら蒔く!


バババババババババババババッ!!


「その攻撃は何度も見て、飽き飽きしているんだよ!!」

 白き神獣は弾丸を回避、または召喚した錫杖で切り払った。

「軍神の矢は見切られているな」

「単純に撃った時の話じゃろ。変化をつけるぞ」

「あぁ」


バババババババババババババッ!!


 言葉とは裏腹に特に変化を感じられない攻撃を続ける蚩尤。当然白澤は全く通じない。

「何か企んでいるな……しかし、私と白澤には……」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!


 小さな光の弾丸の奥から、巨大な光の奔流が放たれる!これこそが蚩尤の言っていた変化をつけた攻撃だ!けれど……。

「低出力版で牽制し、本命の高出力版で仕留める……セオリー通りだな」

 白澤のその美しい純白の装甲を掠めもしない。悠々と白き神獣は蚩尤の周りを跳びはね続ける。

「ちっ!猪口才な!!」

「所詮は門外漢の浅知恵、机上の空論、真の戦士には通用しないということだな」

「それを補うために戦闘に長けたお前がおるんじゃろうが!ワシに嫌味を言う暇があったら、なんとかせい!!」

「それでは……なんとかしましょうか、アックスシックス!」

 蚩尤は六本の腕全てに斧を装備、射撃を諦め、接近戦に持ち込もうとその巨体を一気に加速させる。だが……。

「悪いが、お前の有利な距離で戦うつもりはない……輝眼!輝角!!」

 白澤の近くに光輝く丸い球と、同じく輝く細長い菱形の光が出現した。

「何じゃ、あれは!?」

「すぐにわかるさ、嫌でもな……!」

「闇を振り払え!輝眼!!」

 創造主に命じられると、ふわふわと宙に浮かんでいた光の球は蚩尤に向かって加速!一直線に突撃していく!

「ふん!何かと思えば軍神の矢と変わらんではないか!!」

「ならば先ほどのお返しに……斧で切り払う!!」

 輝眼に斧を撃ち下ろす!角度、タイミングとも完璧!……に思われたが。


ヒュン……


「「なっ!?」」

 斧が光の球に両断しようとした瞬間、輝眼が突然動きを止め、横にずれた。そして、斧が自分の横を通過したことを確認すると、再び蚩尤に向かって動き出した!

「くっ!?」

「軍神の盾だ!!」

「お、おう!!」

 蚩尤は斧を振るった腕とは別の手に盾を召喚し、自分と輝眼の間に設置した。


ドゴオォォォォン!!


「――ッ!!?」

 盾に触れると輝眼は爆発した!盾越しに蚩尤の腕に熱と衝撃が伝わり、目の前を黒煙が覆う。

「これは……ミサイル、誘導兵器の類いか……?」

「威力はそれほどでもないが、ああも動き回られると厄介だ……」


ヒュン!


「――な!?」

 黒煙を突き破り、細長い光の菱形、輝角が蚩尤の眼前に出現する!

「ちいっ!?」


ガリッ!


 蚩尤は反射的に顔を逸らしたことで直撃は免れる。しかし、自慢の角は僅かに欠けてしまった。

「最初の丸は目眩ましか……!そしてあの菱形は貫通力特化……」

「分析している場合か!!丸と菱形、同じ特性を持っているとすると……!」

「再アタックが来るか!!」

 蚩尤が振り返ると、想像通り菱形はこちらにUターンして来ていた。

「蚩尤!ちまちまと対応していては埒が明かん!軍神の矢のフルチャージで吹き飛ばす!!」

「わかっておる!すでにチャージは完了している!!」

「気が利くじゃないか!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 右肩から発射された光の奔流が輝角を消し飛ばす!蚩尤は自身を付け狙う不快な飛翔物が消滅したのを確認すると、本体の白澤の方に視線を向ける。そこには!

「ッ!?」

「なん……じゃと……!?」

 白澤の周りには今しがたやっとこさの思いで、退けた丸と菱形が浮かんでいた……何個も何個も。

「輝眼と輝角の最大展開数はそれぞれ九つ」

「つまり……!」

「お前は十八の裁きの光を同時に相手にしないといけないということだ!!」

 白澤が蚩尤に向けて、手を翳すと丸も菱形も一斉に動き出す!左右に、上下に広がり、蚩尤の逃げ道を塞ぐように!

「くっ!シールドツー!アローフォーだ!!」

 本来の腕に盾を、それ以外の四本を大砲へと変形させる。そして……。

「目には目を、歯には歯を……物量には物量だ!!」


バババババババババババババッ!!


 四つの砲口から無数の光の弾丸が発射される!輝眼と輝角を撃ち落とすために!しかし……。


ヒュン!ヒュン!ヒュン!!


「何じゃと!?」

「この動きは!?ちいっ!!」

 光の弾丸と弾丸の間、僅かな隙間を丸と菱形はするすると通り抜ける!まるで意志を持った生き物のように……。

 蚩尤は迎撃を諦め、その場から逃げ出す。もちろんその動きにも輝眼と輝角はぴったりと付いて来る!

「間違いない……この一つ一つをあの坊主がリアルタイムで操作している……!」

「バカな!?十八もの高速飛翔体をたった一人でか!?あり得ない!?」

 蚩尤は電子頭脳が焼き切れるほどヒートアップした。自分を人間を超えた存在だと称したが、むしろ目の前の坊主こそがそう名乗るに相応しい存在だと思えてしまった。

「まさに神の御業だ……どれだけの修練を積めば、こんなふざけた真似ができるのか想像もつかない……」

「それよりもこの状況を打破する方法を考えんか!!」

「とりあえず……防御を固めて、ひたすら耐えるか。シールドシックス!」

 六本の腕の装備を全て盾に変える。そして……。

「一本につき三つ……盾で叩き落とす!!」


ドゴオォォン!ガギン!ドゴオォォン!


「ぐうぅ!?」

 爆発音と衝突音が交互に響き渡る!ほとんどの丸と菱形は宣言通り、盾で防ぐことができたが、一部間に合わず本体に直撃し、青銅のボディーを先の角のように欠けさせる。それでも今回の攻撃で敗北することは避けることができた。

「やはり威力はそこまででもない。当たりどころさえ気を付ければ……」

 蚩尤の周りを覆っていた黒煙が風に流される。そして、再び視界に入って来た白澤の周辺には……。

「何ぃ!!?」

「数が……!!」

 白澤の周りには三度、丸と菱形が浮いていた。しかしそれは先ほどよりも、明らかに数が、十八個よりも多かった。

「貴様!坊主のくせに嘘をついたのか!!」

「失礼な奴め。私は嘘など言っていない。白澤の輝眼と輝角の最大展開数はそれぞれ九つの計十八個だ……通常時はな」

「通常時……!?じゃあ今は通常ではないというのか!?」

「蚩尤落ち着け……囚牛も撃猫もみんな通常よりも強くなっていただろうに……」

「あっ!!?」

 蚩尤は再び聴覚センサーの感度を上げた。いまだ戦場には場違いな美しい調べが響いていた。

「そうか……また千楽覇律笛か……!!」

「正解だ。私自身も驚いたが、この音色の下では展開数が倍になる。つまり計三十六だ」

「忌々しい笛め!あれこそ十の武器、最強の魔具よ……!!」

「初めてお前の意見に同意する。なんとも恐ろしき魔笛よ。しかし、味方だとこれだけ心強いものはない」

「……だろうな」

「だから諦めろ。この笛の音色に強化された白澤には……誰であろうと決して勝てない!!」

 白澤が命じると光る丸と菱形、合わせて三十六個が一斉に蚩尤に発射された!

「くそ!?」

「絶対防御光壁もフルで展開だ!やはりひたすら防御を固めるしか今はない!!」


ドゴオォォン!ガギン!ドゴオォォン!


 再びの爆発音と衝突音、前後左右、さらに上下、至るところから輝眼と輝角が蚩尤に襲いかかる!

 熱と爆音と煙に包まれる蚩尤。その中身である王瞑皇帝は……意外にも冷静だった。

(見誤ったな……完全に。三十六もの高速飛翔体は蚩尤の六本の腕でも防ぎきれない。勢いに任せて突っ込んで見たが、考えが甘かったな。つくづくワタシという男は皇帝には向いていない……)

 まず彼の脳裏を過ったのは、反省であった。明らかにこの窮地は国のトップらしからぬ決断をした自分の落ち度だと。

(しかし、本当によくこれだけの数を並列処理できるな)

 次に頭を支配したのは義命への称賛。王瞑は素直にこの坊主の超常的な技に感心していた。けれど、それと同時に……。

(こんな集中力のいることがそんなに長く続けられるのだろうか?だとしたら、実のところ決め手を欠いている今の状況はそこまで不利ではないのではないか?)

 現状に対する疑問を自ら提示し、分析、一つ一つ紐解いていく。

(今までの言動からして、考えられる答えは二つ……ワタシが思っている以上に千楽覇律笛の能力が絶大で、この攻撃をワタシの精神力と蚩尤の耐久力を削り取るまで、続けられると踏んでいるか。若しくは実はこの苛烈な攻撃全てが本命を隠すための目眩ましか……)

 王瞑の中で答えが導き出された!戦慄すべき答えが!

(前者だと詰み。後者だと、今こうしている間にもワタシの命を終わらせるカウントダウンが進んでいることになる……ならば!!)

 王瞑は覚悟を決めた!自らの命を懸ける覚悟を!

「蚩尤!あれを使う!!」

「あれじゃと!?しかしあれは……」

「わかっている!あれだけでどうにかできるとは思っていない!」

「それでもそれに賭けるしかないと……!?」

「あぁ!一か八かだ!失敗したらワタシ達の負け!成功したら奴に勝てる!」

「成功率は!?」

「体感で10%もない!!」

「そ、それだけなのか……!?」

「その10%に賭けるしかないんだよ!腹を括れ!なるようになるだ!!」

「く……くそおぉぉぉぉぉっ!!」

 蚩尤は右上方の腕を大砲に変え、エネルギーを集中させた。盾が一枚減った分、本体に輝眼と輝角が直撃しまくっているが、お構い無しだ!

「まだか!?これ以上は蚩尤の装甲でももたないぞ!!」

「待て!あと少し……!あと少しで……よし!チャージ完了じゃ!」

「軍神の焔!発射!!」


ボオンッ!!


 大砲からたった一つの光の球が発射される。今までのものよりも大きく、そして若干遅かった。

「まだ隠し玉があったのか。だが、そんなのろまな攻撃など……」

 白澤は動揺一つも見せずに、あっさりとその球を回避!……したはずだった。

「ん?」

 球が白澤の横を通過しようとする瞬間、光が強まった。そして……。


ドゴオォォォォォォォォン!!


 大爆発!直撃を免れたはずの白澤もその爆炎に飲み込まれる!

「ぐうぅ……!?」

 炎の中からなんとか脱出した白澤の装甲は煤で汚れていた。だが、見た目以上に……。

(時限式の爆弾か……?いや、今はそれよりも意識を……!衝撃で頭がくらくらする……!)

 視界が揺れていた。義命の頭にはモヤがかかり、心と身体が分裂したようだった。

 その隙を王瞑は待っていた!

「行くぞ!最初で最後のチャンスだ!!」

 蚩尤は再び六つの盾を構えて、白澤に突撃する!

「くっ!輝眼!輝角!!」

 白澤は迎撃しようと自身が操る光の従者を向かわせる。しかし……。


ドゴオォォン!ガギン!ドゴオォォン!


「ぐっ!?」

 蚩尤の歩みは止まらない!そんなの関係ねぇと言わんばかりに爆破され、抉られながらもさらに加速して行く!

「やはり繊細なコントロールが失われている!これなら致命傷を受ける心配はない!!」

「機動力も失われているぞ!今ならやれる!!」

「違う!今しかないんだ!!千喜覇音琴で回復されたら、もうチャンスは来ない!奴には同じ手は通用しない!!」

 蚩尤は必死に、それは必死に走った。

 そんな健気な姿を見て義命は……笑った。

(少し……本当にほんの少しだけ遅かったな。相手と一定距離で一定時間、一緒にいることで発動できる白澤の最強の必殺技の準備は今完了した……!)

 眼前に迫る蚩尤に白澤は目を向ける……額にある第三の目を!

「喰らえ!必殺の破邪白輝眼!!」


カッ!!


「――ッ!?」

 蚩尤が玖螺主平原が眩い光に包まれた……。


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