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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第二部
65/163

終局

 念願の狴犴を装着し、憎き黄括が変貌した窮奇に強烈な一撃を叩き込んで、セイはご満悦……となるはずだったのだが。

「ガルウゥゥゥゥゥッ!!」

「……え?」


ドゴオォォン!!!


 殴られ、吹き飛ばされ、遠ざかる窮奇が尻尾を伸ばし、それで狴犴をはたき落とした。

「……ぐっ……!あの野郎……!せっかく……」

「かっこよく決まったと思ったのに……かい?残念、台無しにされちゃったね」

 起き上がろうとする狴犴に応龍が駆け寄り、開口一番、嫌味を言う。

「いきなりそれかよ……こちとらお前の指示通り頑張って、狴犴を装着してきたっていうのに」

「いやいや、まだまだ。窮奇を倒さないと狴犴を装着できたって、意味ないだろ?」

「確かにな……」

 狴犴は土埃を払いながら、立ち上がった。

「……で、オレはどうすればいい?」

「玄羽さんと二人で時間稼ぎをして欲しい。その間に他のメンバーと窮奇撃破の準備を進める」

 狴犴は応龍の方を見ずに手首を振り、その場でジャンプした。より愛機と一体になるための、窮奇ともう一戦するための準備運動……つまり、彼の指示に従うという合図だ。

「長くはもたんぞ。こいつは短期決戦用、そもそもオレ自身も器用にペース配分できるタイプじゃないからな」

「わかってるさ。こちらも限界が近い。次が正真正銘のラストアタックだ」

「そうか……では気合入れて、時間を稼がないとな、狴犴!!」

 狴犴はそう言って、地面を蹴るとすぐに最高速まで到達、窮奇に凄まじいスピードで向かって行った!

「話は聞いていただろ、ジジイ!あんたも早く来い!!」

「どいつもこいつも年寄りをこき使いやがって!!」

 途中で文句を叫びながら闘豹牙も合流!狴犴の後ろに隠れるように付いていく!

「ガルウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 ターゲットである窮奇はここで漸くダメージから回復、空を飛び、翼を羽ばたかせ……。

「ガルウゥゥゥゥゥッ!!」


ババババババババババババババッ!!


 もうお馴染みとなった鋼鉄の羽を飛ばす!こちらに向かって来る師弟にそれは容赦なく、降り注ぐ!

「撃猫だったら、避けるしかなかったが……狴犴なら!!」


ガギィン!ガギィン!ガギィィィン!!


 しかし、狴犴は襲いかかる羽を拳や蹴りで粉砕しながら突撃を続ける!

「やるな、セイ。だが、わしも拳聖と呼ばれる男……嫌というほど見せられたその攻撃!さすがに見切ったわ!!」

 闘豹牙はさらに凄まじく、あろうことか襲いかかる羽にぴょんぴょんと飛び移りながら、窮奇に接近して行った!そして……。

「ジジイ!」

「セイ!」

「「ハアァァァァァッ!!」」


ガアァァァァァァン!!!


「ガルウゥゥゥゥゥッ!!?」

 狴犴と闘豹牙の師弟の拳が窮奇の顔面に炸裂!悲痛な叫び声が多久ヶ原にこだました。

「このまま一気に押しきる!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 狴犴はさらに追撃のラッシュをかける!目にも止まらぬ速さで拳を窮奇の全身に叩きつけた!

「ガルウゥゥゥゥゥゥッ!!」

 しかし、窮奇も黙ってサンドバッグでいるつもりはない!大きな口を開けると……。


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 エネルギーの奔流を吐き出す!だが……。

「当たらねぇよ。ディフェンスには定評があるんだよ、オレは」

 狴犴は窮奇の頭に片手を着き、逆立ちの状態になっていた。

「上から話しかけられるのは、ムカつくだろ?」

「ガルウゥゥゥゥゥッ……」

「そうだろう、そうだろう……その気持ちがオレ達がお前に抱いていた感情だよ!!」


ガァン!!


「――ガ!?」

 狴犴はもう一方の腕で拳骨一発!窮奇の脳天をぶん殴る!怪物は急転直下、自分の身体のコントロールを失い、地面へと堕ちていく。そこに……。

「ハアァァァァァッ……!!」

 落下地点に拳聖玄羽が力を溜めて、待ち構えていた!

「わしも憂さ晴らしさせてもらうぞ!食らえ!双拳魔獣狩り!!」


ドゴオォォォォン!!


「――ガッ!?」

 無防備な窮奇の横っ腹にタイミングよく、最大のパワーを込めた両拳を叩き込む!怪物は身体に亀裂を刻みながら、地面すれすれを水平に飛んで行く!

「ガ、ガルウゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 どこまでも飛んで行くかに思われた窮奇だったが、鋭い爪の生えた腕を地面に突き刺し、豪快にブレーキをかけた。

「ガルウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 怒りを目に迸らせながら、師弟を睨み付ける窮奇!

「これだけやってもまだまだ元気か……!」

「まったく、可愛げのない!折檻してやる!!」

 狴犴と闘豹牙の闘志も衰えてはいない!もう一度、窮奇にアタックをかけるため、足に力を込め……。

「二人とももういい!準備はできた!!」

「カンシチ!!」

「あとは任せろ!!特級装甲!カンシチ鉄烏!!」

 声を上げたのはカンシチ鉄烏!青赤の上にさらに黄金の装甲を纏い、弓を構える!

「通常時はまったく通用しなかったが、特級装甲であそこを狙え……ば!!」


バシュン!!バシュン!!


「ガルウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?」

 放たれた光の矢は見事窮奇の怒りに満ちた二つの眼を貫いた!視界を奪われ、さすがの怪物も戸惑い、恐慌状態に陥る。

「よし!混乱してるぞ!ジョーダン!!」

「あぁ!!」

 悶え苦しんでいる怪物に黄金の龍は翼を広げ、再び高速回転するファンを向けていた。

「本日、二度目!そして最後の……嵐龍砲だぁ!!」


ブルオォォォォォォォォォォン!!!


「ガルウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!?」

 二本の竜巻が巨大な怪物を飲み込む!暴力的な風が窮奇の全身を切り刻み、抉り、砕いていく!

 竜巻が過ぎ去ったあとに残ったのは、爪は折れ、翼がもげた無惨な怪物の姿であった。逆に言えば、あれだけの攻撃を受けても窮奇は原型を留めている。

 だから、さらに追撃をしなくてはならない!

「ラク!!」

「はい!!」

 兄弟子からバトンを受け取った麒麟は矛を地面に突き立て、想いの力を注ぎ込む。

「磔になれ!害獣よ!金剛剣山!!」


ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュッ!!


「――ガッ!!?」

 窮奇の真下から文字通り剣山のように鋭い岩が隆起し、全身を串刺しにし、その巨体を宙に浮かした。

 身動きを封じられたその姿はギロチンで首を刎ねられるのを待つ罪人のよう……いや、それは紛うことなき断頭台だ!

「シュガさん!」

「おう!!」

 窮奇の頭上でキラキラと太陽を反射しながら銀狼が銀の剣を振り上げていた。長きに渡る因縁に決着をつけるために!

「黄括……お前は俺のことを嫌っていたが、俺はお前のことをそれなりに認めていたんだぞ。やり方は褒められたものじゃなかったが、お前は自分なりに必死に上を目指し、頑張っていた……なのに!!」

 シュガがギリッと奥歯を噛み締めると、彼の怒りや無念さが幻妖覇天剣に伝わり、刃を分厚く巨大に変化させていった。

「なのに!こんな終わりで良かったのかよ!!」

 増大した質量に重力とシュガが自身の膂力を加え、ひびの入った窮奇の首に撃ち下ろす!まるでギロチンのように!


ザンッ……


「――ッ!?」

 灑の国一の勇士が振るう伝説の武器でも、窮奇の首を斬り落とすことはかなわなかった。半分ほど刃がめり込んだところでピタリとそれ以上進まなくなってしまったのだ。

「まさか……これほどとは……!」

 シュガの脳裏に“敗北”の二文字が浮かんだ。

「ここまでやって無理なのか……」

 この作戦を考案したジョーダンも絶望に飲まれそうになる。彼の策では今の一撃で終わっていたはずなのだ。窮奇を討伐するために、彼の想定よりもさらに一手必要だった。

 その一手を補うために、誇り高き魂を受け継いだ白い獣は地面を蹴り、そして跳んだ!!

「諦めるな!オレが!狴犴がいるぞ!!」

「セイ!!」

 狴犴は先ほどのシュガのように戦鎚を高々と掲げた。

「シュガ!」

「わかっている!おもいっきりやれ!!」

 シュガは彼のやろうとしていることを理解し、両腕に力を込め、幻妖覇天剣を固定する。来るべき衝撃をよりしっかりと伝えるために。

 銀狼と意識を共有した白い獣はさらに感情を、意志を燃え上がらせ、それを全て“力”に変える!

「お前とは色々あったな、黄括。ある意味じゃ蚩尤よりも朱操よりも、他の誰よりもお前はオレ達を苦しめた強敵だった。オレ達はお前を忘れない……お前こそ!オレ達の最大最強の敵だ!!」

 狴犴は全身の力を戦鎚に集中させ、振り下ろした!幻妖覇天剣に向かって!

「終局の断頭台!!!」


ガアァァァン!!


「――ッ!?」

 戦鎚に叩かれた幻妖覇天剣は刃をさらに深く進めていく!肉を断ち、骨を断ち、窮奇の首を縦断!そして、ついに窮奇の首を斬り落とした。

 頭部が地面に落ち、ゴロリと転がるとそれは光の粒子へと分解されていった。本体もそれに続き、まるで命の炎が空に帰るように、昇っていく。

 光が露へと消えると残ったのはネックレスだけ……。黄括の姿はどこにもなかった……。

「ふぅ……なんとかなったな……」

 胸を撫で下ろすジョーダン、彼の下に仲間達が集まってきた。

「まったく……最初は楽勝だと思ったのに、結果はギリギリもいいところだぜ……」

「本当にな!おれっちもずっとハラハラしっぱなしだったぞ」

「キトロン!?」

 龍の下に近づいてくるカンシチの肩に羽の生えた小人が飛んで来て、そのままちょこんと座った。

「お前、逃げてなかったのかよ!?」

「そりゃあ、お前達だけだと心配だし、もしもあの怪物にみんな殺されちゃったら、その結果を本国に報告する役が必要だろ?」

「いや、それはそうだけど……まぁ、いいや。こうしてみんな生き残れたことを今は喜ぼう……」

 カンシチは生意気な妖精に色々と言いたいことがあったが、心労がそれを許してくれなかった。許されるなら、この場で横になりたいぐらいなのだ。

「兄さん!」

「ラク!」

 応龍のそばによく似た黄色い骸装機が並ぶ。漸く兄弟弟子が落ち着いて再会を喜べる時が来たのだ……そう誰もが思っていた。

「兄さん、実はここにくる途中小耳に挟んだんですが……」

「どうした?今、話さなきゃいけないことか?正直、疲れて頭がいまいち回ってないんだが」

「できるだけ早く知っておいた方が……」

「……お前がそこまで……一体、何があっ……」


「おっと!楽しい談笑中に失礼するよ!」


「「「!!?」」」

 突然、多久ヶ原に場違いな子供のような声が響く。いや、実際に子供の声だ。左目に眼帯を着けた子供が青と白、二体の骸装機を引き連れて、堂々とした態度で立っていた。

 慇の国が誇る四魔人が一人、狂乱のケチャが降臨したのだ。


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