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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第二部
64/163

最強最高の味方

「ラク!?何で!?つーか、あれが諸葛楽の本来のマシン……?」

「そう言われれば、どことなく応龍と似ているな……」

 カンシチやセイが指摘した通り、麒麟のデザインラインは応龍のものを踏襲していた。これは同門だからというわけではない。ラク自身が意図的に似せたのだ。

「よくぞ、気づいてくれました!この麒麟は尊敬する兄さんに少しでも近づこうと思い開発したものです!本当は色も同じ金にしたかったのですが、それは思い上がりが過ぎるので、こうして黄色で妥協しました!」

 麒麟は何故か嬉しそうに親指を立てた。

「なんかあいつ、蚩尤に操られてた頃は嫌味でムカつく野郎だと思ったが……」

「今は、素直でいい奴だが気持ち悪いな」

 この意見には遠くで聞き耳立てているシュガと玄羽も心の中で相槌を打った。

「それでこのボク、尊敬する兄さんの前に何で急に現れたんだ?今まで姿を隠していたのに。灑の国に慇が攻め込んでいると聞いたからか?」

「その通りです!さすが兄さん、話が早い!……ぼくは灑の国に借りがある。灑を歪めてしまったぼくは今度は灑を守るために戦う!それがぼくの贖罪です!!」

 その言葉を聞いた者全てが、「お前が責任感じるのは違うだろ!」と思った。しかし、誰もそれを口にはしなかった。聡明な諸葛楽ならそんなことはきっと理解している……理解した上で戦うことを決意したのだ。それに口を出すのは、野暮なことだと考えたのである。だから、代わりに……。

「ラク……お前が来てくれて、本当に嬉しいよ」

 だから、代わりに一緒に戦える喜びを兄弟子は伝えた。ラクもその言葉でジョーダンだけじゃなく、みんなが自分のことを思っていることを察し、温かい気持ちに包まれた。

「兄さん……そう言ってもらえて、ぼくも嬉しいです。あなたともっと色んな話をしたい……だけど、そのためには!」

「ガルウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

「まず、こいつをどうにかしなくては!!」

 麒麟の不意打ちによるダメージから回復した窮奇は再び空に飛び上がり……。

「ガルウゥゥゥゥゥッ!!」


ババババババババババババババッ!!


 鋼鉄の羽を先ほどのお返しとばかりに麒麟に向かって飛ばした!

「っていうか!こいつ一体、何なんですか!!」

 文句を言いながら、麒麟は勢いよく矛を地面に潜り込ませたかと思うと、そのまま掬い上げた!

「もう一度!金剛獣槍!!」

 石礫ではなく、その名の通りの金剛の槍が地面から発射される!そして……。


ババババババババババババババッ!!


 窮奇の羽とぶつかり合う!

「ガルウゥゥゥゥッ!?」

 貫通力は麒麟の方が上だったようで、槍は再び窮奇を貫いた!一方で……。

「ちっ!?なんて数だ!!」

 数は窮奇の方が多かったので、迎撃しきれなかった羽が麒麟を襲った。黄色の獣はぴょんぴょんと軽快なステップであっさり回避したが。

「兄さん!本当にこいつ何なんですか!?」

「黄括だ」

「そうか、これ黄括だったのか……って、ええっ!!?」

 衝撃の事実を聞いた麒麟は激しく頭を上下させ、窮奇の全身を改めて観察し、明晰な頭脳で事態を把握する。

「……つまり、黄括が特級骸装機に取り込まれ、暴走しているってことですか……」

「さすがボクの弟弟子!その通りだよ!」

「ぼく達に勝ち目は?」

「ある!!」

 ジョーダンの力強い言葉に皆の視線が彼に集中する。

「おい!ジョーダン!まだ何か策があるってのかよ!?」

「あぁ、あいつを倒すためには二手足りなかった……けれど、麒麟が来てくれたおかげであと一手だ」

 応龍はそう言いながら青い眼をオレンジ色の獣に、撃猫に、セイに向けた。そして……。

「ラク!!カンシチとシュガ、玄羽さんと一緒に窮奇を少し相手してやってくれ!」

「「「えっ!?」」」

「………えっ?」

 いきなり名指しされたカンシチ達は驚いた。しかし、それ以上に驚いたのは名前を呼ばれなかったセイである。不安げな眼差しが龍の視線と交差する。

「なんだかよくわかりませんが、兄さんがそう言うなら!!」

 セイの動揺をよそに、麒麟は矛を地面に深々と突き立てた!

「金剛墓標!!」


ズゴオォォォォン!!


 すると、地面から無数の巨大な岩がせり出て、柱のようにそびえ立った。

「うおっ!?」

「マジか……」

「こりゃたまげたな……」

 カンシチ達はその圧倒的な光景に気圧され、ただぼけーっとそれを見上げた。

「皆さん!ぼくは見せびらかすために金剛墓標を使ったわけじゃないですよ!これは皆さんの“ジャンプ台”です!!」

「「「………あっ」」」

 その一言でラクの意図を全て察した。彼が何をしようとしているのか、自分達が何をすればいいのかを!

「玄羽様!!」

「おう!!行くぞ!!」

「はい!!」

 シュガと闘豹牙はそそり立つ岩に向かって全速力で走り出し、そのままそれを昇って行く!そして頂上まで行くと……。

「はあっ!!」

「でえぇい!!」

 跳んだ!銀の狼と紫の獣が空を飛んだのだ!そして彼らの軌道上には翼を広げた怪物が……。

「これで同じ土俵……というわけではないが!」

「目線は同じになったな!窮奇!!」


ザンッ!!ガァン!!


「ガルウゥッ!?」

 すれ違い様にシュガは斬撃を!闘豹牙は打撃を窮奇にぶち込む!

「よし!ダメージはすぐに回復されてしまうが……」

「これなら時間稼ぎはできそうだな!!」

 手応えを感じる二人。その姿に苛立ちを覚えたか定かではないが……。

「ガルウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 窮奇は唸り声を上げながら鋭い爪を振り上げた!空中ではさすが両雄も回避はままならない。

 そのためにカンシチ鉄烏と麒麟がいるのだ。

「そうは……」

「させない!!」


バシュ!バシュ!バババババババッ!!


「ガルウゥゥゥゥゥッ!?」

 光の矢と金剛の槍がカットイン!窮奇の攻撃を中断させる。その間に銀狼と紫の獣が地面に無事に舞い降りた。

「いいぞ!みんな!今の攻撃を繰り返すぞ!!」

「だが、中々疲れる……長くはもたんぞ……!」

「まぁ、そこは……我らが天才様を信じるしかないな……!」

「ええ!兄さんなら、きっとこの悲しき怪物を止められる!この不毛な戦いを終わらせてくれる!!」

 皆の期待を一身に受けるジョーダン、彼は動揺するセイの下に歩み寄っていた。

「ジョーダン……!」

「そう睨むなよ。気持ちはわからんでもないが……」

「わかった上でか……オレは戦力外か……!?」

 セイは声を震わせ、下を向いた。言語化すると余計に自分が情けなく思えて、友の顔を真っ直ぐ見られなくなったのだ。

 そんな大きな勘違いをしてる彼にジョーダンは呆れるしかなかった。

「はぁ……やっぱり何もわかってないじゃない」

「十分理解しているさ……実際に、オレはこの戦いでジジイを逃がす手伝いしかできていない……!」

「まぁ、キミの撃猫は遠距離攻撃手段を持ってないし、パワーもあの怪物をどうこうできるレベルじゃないね」

「だったら!!」

「だから!!」

「――ッ!?」

「だから……撃猫じゃなくて、使えよ、“狴犴”」

「お前……」

 応龍は人差し指で優しくオレンジ色の胸を小突いた。

 セイは友が何を思い、自分に何を求めているのか、漸く理解した……したが。

「……それこそわかっているんだろ?オレが狴犴を使えないことを……」

 セイは吐き捨てるように呟いた。半年前から自己嫌悪と劣等感に苛まれている原因を半ば強引に告白されたのだから、ぶっきらぼうな言い方にもなるだろう。

「あぁ、佐羽那砦での戦い、キミが狴犴を使っていれば、ボクの助けなんていらなかっただろうさ」

「やはりあの時か……半年前からずっと呼びかけているんだが、うんともすんとも言いやしないんだ、こいつは……」

 スッと撃猫は懐から札のような待機状態の狴犴を取り出した。

「愛羅津さんのマシンをそう簡単には扱えないことはわかっていた……わかっていたが!朱操の奴があっさり装着していたのが、悔しくて、悔しくて……!なぁ!オレはどうしたらいい!どうしたら狴犴はオレを認めてくれる!教えてくれよ!天才なら!!」

 今にも泣き出しそうな声で戦友に詰め寄るセイ。そしてその戦友はというと……。

「いや、知らんし。自分で考えなよ」

「……へっ?」

 あっさりと突き放した。一瞬時間が止まり、セイの脳ミソは機能を停止したが、すぐさま怒りの炎を滾らせ、再起動する。

「お前という奴は……!人がこんなに苦しんでいるというのに!その言い種はなんだ!!」

「なんだと言われても、そうとしか言いようがないからなぁ……」

「この……!」

「ただもう一度言うけど、キミの気持ちは理解しているつもりだよ」

 そう言うと応龍は青い眼を奮戦している黄色い神獣へと向けた。

「ボクもずっと他人にコンプレックスを感じていた人間だから。さっきの見ただろ?ボク達がどうにもできなかった窮奇を一時的とはいえ、一人で相手して……あいつは昔からあんな感じで飄々とボクの想像を超えていくんだ……」

「ジョーダン……」

 セイはその寂しげな横顔を見ていると、胸が締め付けられるようだった。彼の気持ちが痛いほど理解できたのだ。

「それでもさ……それでも一歩一歩、自分のできることをするしかないんだよ。凡人が虚勢張って、足掻くのをやめたら、それこそ終わりだ。けど……」

 応龍は再び撃猫の方を向き直した。真っ直ぐ目を、その奥にある星譚の魂を見つめる。

「キミはボクとは違う。素晴らしい師匠が二人もいて、彼らから才能を認められた“本物”だ」

「本物……」

「キミなら、星譚ならできるさ。カンシチのように、ラクのように、必ず……!」


ドゴオォォォォォォォォォン!!


「「!!?」」

 何度目かとなる天地の鳴動!応龍と撃猫はその発信源に視線を移す。

「くっ!?ジャンプ台が破壊された!!諸葛楽!もう一度造れるか!?」

「できます!できますけど……!!」

「ガルウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


ババババババババババババババッ!!


「くっ!?こいつがそれをさせてくれない!!」

 窮奇が羽を飛ばし、麒麟の動きを邪魔をする。散々煮え湯を飲まされた結果、この場で最も優先的に排除するべき者は誰か、その足りない頭でも理解したのだ。

「どうやらボクも加わらないとまずいみたいだね……応龍槍!応龍翼!!」

 黄金の龍は翼を展開し、その手に槍を召喚した。

「ジョーダン……」

「時間はないよ、セイ。キミが狴犴を使えなければ、ボク達の、灑の国の負けだ」

「そんなこと言われても……」

「まっ、そうなったらそれがボク達とこの国の天命だったってだけさ。だから、気楽に、なるようになるって感じでやってみればいい!!」

「ジョーダン!!」

 そう言い残し、黄金の龍は最前線に飛んで行った。

 残ったのはセイ、ただ一人……いや、ここは狴犴と二人っきりと述べるべきか。

「勝手に大役を任せやがって……」

 セイはぶつくさと文句を呟きながら、手に持った狴犴を見つめた。

「なぁ、狴犴……オレの何が駄目なんだ?」

 狴犴は何も答えない。

「オレはお前を愛羅津さんから受け継ぐため、この半年、必死になって鍛え続けた」

 狴犴はやはり答えない。

「それでも足りないのか?愛羅津さんのようになるために頑張ってきたというのに!!」

 狴犴は微動だにしない。

「何故……なぜ、愛羅津さんや朱操はよくて、オレは駄目なんだ!!答えろ!狴犴!!」

 狴犴は答えない。

「……くそ!!オレはどうしたら……」

 自分への失望に打ちひしがれ目を瞑るセイ。そんな彼の脳裏に……。


「知らんし。自分で考えなよ」


 先ほどの友の言葉がリフレインした。

「――!!まさか……!」

 セイは目を見開き、再び真っ直ぐと手の内にある狴犴を見つめた。

「もしかしてオレが自分の頭で考えてなかったからなのか……?」

 狴犴は僅かに熱を帯びた。

「オレが愛羅津さんなら、朱操ならと自分の想いを蔑ろにしてきたからなのか……!?」

 狴犴はさらに熱量を上げていく。

「お前はオレにオレであれと求めているのか!?愛羅津さんでも、朱操でもなく、星譚を!!」

 狴犴は熱だけではなく、光も発し始める!それが彼の答えなのだ!

「そうか……!ならばオレはオレとしてお前に祈る!力を貸してくれ!友を助ける力を!つーか、ここでやらなきゃ、オレもお前も根性なしのチキン野郎って笑われちまうぞ!狴犴!!」



「ガルウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


ババババババババババババババッ!!


「ぐあっ!?」

 応龍達は僅かな時間で、ボロボロになっていた。装甲は砕け、刃は欠け、全身を泥と土埃で汚す。けれど、決して心は折れていない。

「もう少しだ!もう少しで最後のピースが揃う!それまで耐えるんだ!!」

 仲間を必死に鼓舞するジョーダン。しかし、返事はなかった。

(くそ!みんな声を出す体力さえない……!このままじゃ……ん?)

 応龍の視界の端にそれは突然、飛び込んできた。白い装甲に青い模様が刻まれた美しく上品な骸装機が窮奇に飛びかかろうとしている様子が……。

「ったく……やっぱりできるじゃないかよ……天才……!!」

「ハアァッ!!」


ガアァァァン!!


「ガルウゥゥゥゥゥッ!?」

 白い骸装機の拳が窮奇の頬に炸裂する!吹き飛んでいく怪物!それに向かって吹っ飛ばした張本人は高らかに名乗りを上げた!

「窮奇よ!ここからはトレジャーハンター、星譚と狴犴が相手になるぜ!!」


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