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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第二部
57/163

新型

 カンシチとセイは先ほど自分たちがこの砦に入る時にされたみたいに、下から上へ舐めるように新型を観察した。

 そして、見れば見るほど彼らの中にあった予感が確信へと変わっていく。

「セイ……」

「あぁ、オレは骸装機にそこまで詳しくないが、どこか雰囲気が似ている……」

「蛇炎砲や蛇連破……蚩尤の発明したマシンに……っていうか、蚩尤自身にも通じるものがある……」

 新型はカンシチ達を今まで苦しめたマシンと同質の威圧感を放っていた。その身体中についた青みがかった水晶の奥に二人は蚩尤の姿を見たのだ。

「おいおい?おしゃべりしてていいのかよ?侵入者は即刻排除しないと」

 新型は大袈裟なジェスチャーを交えながら、軽薄な口調で挑発してきた。

「ふん!確かにその通りだな……磨烈!」

「は、はい!」

 セイは新型を睨み付けたまま、今現在この砦の最高責任者に不躾に呼びかけた。磨烈は茫然自失状態だったが、その声で我に返り、背筋を伸ばした。

「磨烈、悪いがお茶を淹れ直してくれ」

「……はい?」

 予想だにしない言葉に磨烈は眉を八の字にし、頭を傾け、間抜けな声で聞き返す。

「だからお茶をまた淹れてくれ」

「今はそんなことを言っている場合では……」

「言ってる場合だよ。オレにとっての懸念は戦闘を終えて、さらに渇いた喉をどう潤すかだ」

「セイ君……」

「へえ……」

 実質的なセイの勝利宣言に磨烈の心は熱くなり、新型の装着者の心は逆に冷たく、暗く沈んで行った。

「もう勝った気でいるのか、この『水晶孔雀』に……?」

「それがその悪趣味なマシンの名前か」

「てめえをあの世に送るマシンの名さ」

「残念だが……それはない!」

 セイは言葉を言い終えると同時に飛びかかる!

「やるぞ!撃猫!!」

 そして空中でオレンジ色の装甲を纏うと……。

「はあぁぁッ!!」

 そのまま拳を振り下ろした!今まで幾人もの敵を一発KOし、いくつもの骸装機をスクラップしてきた必殺の一撃だ!なのに……。


ガギィン!!


「――ぐっ!?」

「ん?何かしたか、オレンジ?」

 水晶孔雀には一切効かなかった。顔面に見事にヒットしたというのに、聞こえて来たのは痛みで悶え苦しむ声ではなく、涼しい挑発の言葉だったのである。

「ちっ!ならば!!」

 撃猫はぴょんと軽く後ろに跳躍した。

「おっ?もしかして逃げるのか?諦めが早いな」

「誰が!」

 オレンジの獣は着地と同時に逆の方向に、つまりまた水晶孔雀の方に、身を低くして突っ込んだ!

「でやぁ!!」

「うおっ」

 タックル成功!撃猫は水晶孔雀の足を取ると、持ち上げ、彼の開けた穴へと走り出した!

「ここはドンパチやるところじゃねぇんだよ!!」

「確かにな」

「いつまでも余裕ぶって……!わかっているのか!?これからダイビング!地面と激突するんだよ!お前は!!」

 撃猫は穴の外、つまり砦の外に、水晶孔雀を下にして、地面へと飛び込んだ!


ドゴオォォォン!!


 宣言通り、つい先ほどまで歩いていた砦の内部の地面に水晶孔雀をおもいっきり叩きつける。そのまま馬乗りになると撃猫は周りを見渡した。

(兵達は……ちっ!やはりやられているか……!!)

 元々の闇夜に加え、今の衝撃で舞った土煙のせいで把握し辛いが、兵士達が倒れ、小さく「うぅっ……」と痛みに魘されているのが確認できた。その中には自分達を仲間だと証明し、砦を案内してくれた髭の小隊長の姿もある。

「貴様……!!」

 オレンジのマスクの下、血走った目で自分の下敷きになっている新型を再び睨み付ける。篝火の光を水晶がゆらゆらと反射し、それがまるで自分達を嘲笑っているように思えて、セイはさらに怒りを滾らせた。

「ずいぶんと怒っているな」

「そりゃあな……!」

「だが、安心して欲しい。誰一人として命は奪っていない」

「……何のために?」

 セイの質問にマスクの下で水晶孔雀の装着者はニィッ……と醜悪な笑みを浮かべた。

「それはもちろん……後から来る増援の前で処刑するためさ!!」

「悪趣味だな」

「だから最高なんだろ!戦争ってのは!最上の快楽はモラルの外にあるんだよ!!」

「そうか……お前とは気が合わないな!!」


ガァン!!


 真下にいる水晶孔雀の顔面に、撃猫は拳を垂直に撃ち下ろす!パンチによる前方からの衝撃と、地面に叩きつけられた後頭部の衝撃……二重の衝撃が悪辣な侵入者を襲う!しかも……。

「オレにはお前のような趣味はない!ここで一思いに撲殺してやろう!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 一発だけではなく、それが続く!前からは拳が雨霰のように振り注ぎ、後ろからはその衝撃を地面が倍化する。大抵の骸装機ならばあっという間に見るも無惨なスクラップへと姿を変えてしまうはずだ。

 しかし、水晶孔雀はその範疇に収まるマシンではない……。

「くっ!!こいつ……!?」

 いくら殴っても手応えがない水晶孔雀の頑強さに、ついに撃猫は手を止めた。けれど、決してセイは諦めたわけではない。

「あれ?撲殺するんじゃなかったのか?」

「あぁ、それはやめだ。絞殺することにした!」

 撃猫は拳を開き、水晶孔雀の首を両手で力いっぱい掴んだ。馬乗りになって首を締めるその姿は、端から見たら撃猫の方が悪役に思えるだろう。

「確かに首は可動のために装甲が薄いからな……狙いは悪くない」

「この期に及んで口が減らないか……やはりその不愉快な声を聞かないためには、殺すしかないな……!」

「それは無理な話だぜ、オレンジ」

「何?」

 突如、青みがかった水晶の色がエメラルドのような緑色へと変化する。そして……。

「バン」


ビビビビビビビビビビビビッ!!


 そこから放たれる同じく緑色の光線!無数の極細の光が漆黒の夜空に撃ち上げられ、砦を緑に染める。

「ちいっ!?あの水晶、射撃武器だったのか……!!」

 戦士としての経験か、生物としての本能か、撃猫は危険を察知し、水晶孔雀から離れており、難を逃れた……いや!


クンッ!!


「なっ!?」

 夜空に飛んでいく大量の緑の線を見上げていたが、それらが一斉に曲がり、自分に向かって降って来る。

 セイはその光景に既視感があった。

「これは……まさか!?」

 そのまさかである。撃猫は降り注ぐ緑の光線を避けたが、案の定、光は地面すれすれで急上昇し、オレンジの獣を追い続けた。

「間違いない……蛇炎砲と同じく、この緑のレーザー、オレを追尾してやがる……!!」

 セイの推察通り、その光線にはかつて灑の国の反乱軍を敗走に追い込んだ超兵器、蛇炎砲と同じ技術が使われていた。

 撃猫はあの時と同じくジグザグと蛇行しながら逃げるが、光は彼の後ろをぴったりと付いて離れない。

「くっ!?あの時と同じか……!!あの時はシュガとジジイに助けられたが……今回は……!!」

 撃猫は肩越しに自分を追って来る極細の光を見た。あの一の門での激闘を思い出しながら……。

「いや……これは……前回とは違う……!!」

 何かを確信した撃猫は蛇行を止め、真っ直ぐ全速力で走り始めた……砦の壁に向かって。

「特性は同じでも、あれだけでかくて、撃つのにも準備がいる蛇炎砲と……骸装機一体が放つ攻撃の威力が同等なはずない!!」

 撃猫はフルスピードで壁に激突!……などせず、そのまま駆け上がった。すると……。


ババババババババッ!!


 大半のレーザーは軌道修正が間に合わず、壁に吸い込まれていった。何本か、そうはならずに撃猫に追いすがるが……。

「この程度の数なら、オレの拳で十分対処可能!!」


ババババババババッ!!


 振り返った撃猫は今の言葉が正しいことを証明するかのように、追い縋る光を拳で撃ち払った。

「厄介は厄介だが、これなら……」

「たかが武器の一つの攻略が済んだだけで、安心し過ぎじゃねぇの?」

「!!?」

 撃猫は再び反転する。

 そこには月をバックに、これまた水晶のように半透明な刃を持った斧を振り上げている敵の姿があった。

「水晶戦斧!!」


チッ……


「くっ!?」

「……なんだと……!?」

 振り下ろされた水晶の刃はオレンジ色の装甲を切り裂く……ことはできずに、その表面を火花を散らして滑り抜けた。

 拳聖玄羽さえ手放しで絶賛する星譚のディフェンス技術が炸裂したのである!

「危ねぇ……な!!」


ガァン!!


「――ぐっ!?」

 空中で上手いこと身体を入れ替え、上を取った撃猫はそのまま蹴りを入れ、孔雀を地面にはたき落とした。

 再び土煙が舞い上がる中、オレンジの獣は着地すると、ぴょんぴょんと軽快に跳びはね、距離を取って構え直した。

 この程度でやられる相手でないことは、今までの攻防で嫌というほど理解させられたからだ。

「いやぁ~、参った、参った。そのオレンジ色の骸装機を見た時からもしやと思っていたが、拳聖の愛弟子っていうのは、伊達じゃないようだな」

 水晶孔雀は不愉快な軽口を呟きながら、煙のカーテンから出てきた。その漆黒のボディーにも、特徴的な水晶のパーツにも傷一つ付いていない。土埃で汚れはしていたが、それも今目の前でパンパンとはたき落とされてしまった。

「慇の国にもどうやらそのしょうもないフェイクニュースが届いているようだな」

「フェイク?お前、拳聖の弟子じゃないのか?」

「断じて違う!」

「へぇ~、じゃあ恐れる必要なんて何もないってことね。ただのチンピラ風情に水晶孔雀が負けるはずがないんだから」

「貴様……!!舐め腐りやがって……!!」

 セイは激昂した……振りをした。わざわざ拳聖について言及したのも、頭に血が昇った演技をするのも敵の注意を引き付け、狙撃を成功させるためだ。

 灑の国が誇る最高の射手の狙撃を。

(今のうちに……頼むぞ、カンシチ……!)



(おう!任せておけ!)

 カンシチは青と赤の装甲に身を包み、弓を引き、司令室の穴から水晶孔雀を狙っていた。

(遠目から観察して、あの新型、防御と攻撃はともかくスピードはそこまでじゃない。ましてやこうしてセイが注意を引き付けてくれるなら……!)

 カンシチ鉄烏は僅かに手元を微調整する。最後の調整だ……この戦いを終わらせるための!

(装甲の隙間を撃ち抜ける!!)


バシュン!!


 光の矢が放たれた!矢をぐんぐんと加速していき、狙い通り水晶孔雀の首筋に……。


ボゥン!!


「「!!?」」

 再び水晶の色が変化した!先ほどはエメラルドだったが、今回はトパーズ、黄色だ!

 その黄色の水晶から同じく黄色い光の膜が形成され、本体を覆った。


バシュン……


 光の矢はその黄色の膜に弾かれ、露へと消える。カンシチもセイもこの光景にも既視感があった。

「絶対防御気光……だと……!?」

 自然とセイの口からその単語が漏れ出ると、孔雀の装着者は再びマスクの下で彼らの浅知恵を嘲笑うかのように口角を上げた。

「楽しくおしゃべりしてくれていると思ったら、こんなセコいことを考えていたのかよ」

「ッ!?」

「だけど残念。生半可な攻撃は水晶孔雀には通じない。今のようにオートで攻撃を感知し、絶対無敵のバリアで防いじまうからな!」

 誇らしげに水晶孔雀は自らの胸をドンドンと叩いた。

「まぁ、効かなくても、うざいものはうざいんだけどな……!」

 自慢を終えると、視線を青赤の烏へと移す。それと同時に水晶がまた鮮やかな緑色に……。

「蒼天の射手、闇夜に死す……ってか!!」


ビビビビビビビビビビビビッ!!


 各部の水晶から再度放たれる無数の緑色の光線!それら全てがカンシチ鉄烏に襲いかかる!

「そいつの攻略法はわかっている!!」

 カンシチは足下にあった大きな瓦礫を手に取ると、そのまま緑の雨に向かって投げつけた。


ドゴオォォォォォォン!!


 瓦礫はレーザーを道連れに爆砕する!生き残った光線もあるにはあるが……。

「確実に一本ずつ……相殺する!!」

 カンシチは司令室から飛び降りながら、矢を放ち続けた。一つ二つと、宣言通り矢で撃ち消していく。そして、それを繰り返しながら、友の下へと向かった。

「ラスト!!」


バシュッ!!


 最後の光線を撃ち落とすと同時に合流が完了する。

 かつて盤古門、三の門での最終決戦で朱操が操る狴犴と相対した時以来のオレンジの獣と青赤の烏の揃い踏みである。

「おやおや……仲良く身体を寄せあっちやって。追い詰められた救国の英雄は力を合わせて二人がかりで一人をリンチするつもりかい?」

 水晶孔雀は上機嫌にそう言い放った。二人相手でも問題ないと踏んでいるのだ。しかし……。

「残念だが、お前の相手はオレ一人だ」

 彼の言葉を否定するように撃猫は前に出て、逆にカンシチ鉄烏は後退した。

「ふむ……そう言って、また注意を引き付けてる間に狙撃……って作戦かな?」

「オレは嘘は言わない。それにお前に同じ手が通用するとは思ってない」

「拳聖の愛弟子に実力を認めてもらえたってことかな?嬉しいね」

「だから……オレはあのジジイの弟子じゃねぇって言ってるだろうが!!」

 怒りの訴えと共に、撃猫はカードのようなものを取り出した。これを受け取るためにカンシチと合流したのだ!

「切るぜ!ジョーカー!撃猫、特級装甲!!」

 カードは粒子に変わり、さらにその粒子が黄金の装甲へと変化!オレンジの獣の各部に装着される!

 特級装甲撃猫、狴犴を破ったセイの切り札がここに降臨!

「行く……ぞ?」

 一気呵成に攻めようと足に力を入れたが、出鼻を挫かれることになる。水晶孔雀があろうことか無防備に背中を向けて、逃げ出していたのだ。

「散々大口叩いておいて、尻尾を巻いて逃げるのか!!」

「いやいや!これはあんたに勝つための立派な作戦だよ。お宅のジョーカー……三十秒程度しかもたないんでしょ?」

「――ッ!?」

 それは逃走ではなく、時間稼ぎのための疾走だった。彼は特級装甲の弱点を把握していたのだ。

「そうか……蚩尤がいるんだから、当然、あの時一緒に逃げた朱操もいるよな……奴から話を聞いているよな!」

「その通り!」

「だが!口で言うほど今の撃猫から逃げるのは容易くないぞ!!」

 特級撃猫は今度こそと、地面を蹴り出し、矢のように飛んで行った。

「さすがに鬼ごっこするだけでどうにかなるとは思っていないさ!」

 一心不乱に向かって来る獣の方を水晶孔雀は振り返る。その手には先ほどまで持っていた斧の姿はなく、代わりにボーガンが握られていた。

「水晶戦弩!孔雀戦光!一斉発射!!」


ビビビビビビビビビビッ!バシュン!!


 全身の水晶から緑のレーザーが、ボーガンからは光の矢が放たれた!

「ちいっ!!」

 特級撃猫は足を止め、レーザーを拳や蹴りで撃ち払い、矢は身体を反らして回避した。

(特級装甲なら緑のレーザーは全て叩き落とせるが、その分時間を浪費してしまう!多少のダメージは覚悟で突っ込もうにもボーガンが厄介だ。見た感じ、レーザーよりも威力、貫通力が上だろう。こちらも防御力が上がっているとは言え、まともに受けるのは怖い……!)

「ほれほれ!どうした!どうした!俺を倒す時間がなくなっちまう……ぜ!」


ビビビビビビビビビビッ!バシュン!!


「くっ!?」

 セイが頭の中で今の攻撃を分析、そして対抗策を考え出そうとしている間にも、水晶孔雀は距離を取り、再度今と同じ攻撃を放つ!そして特級撃猫も同じように対処する。

「悲しいかな……もう二十秒経っちまったぜ!!」

「この……!!」

「イラついてる暇があったら、足を動かせよ!近づいてこいよ!できるならな!!」


ビビビビビビビビビビッ!バシュン!!


「ぐおおぉぉぉっ!!」

 必殺の拳は本体にぶち込むためではなく、止めどなく繰り出されるレーザーを払い除けるために振るわれる。そして遂に……。

「5……4……3……2……1……0!!はい!残念!時間切れだ!!」

 水晶孔雀は歓喜の声を上げ、両腕を広げた。

 彼にとっては勝利をもぎ獲ったポーズなのだろうが、セイには殴ってくれと言わんばかりの間抜けな格好にしか見えなかった。

「残念なのはお前の方だ」

「……え?」


ガァン!ガァン!ガギィン!!


「――ッ!?」

 水晶孔雀の眼前に黄金の装甲を纏いしオレンジの獣が突如現れる。そして姿を見せたと同時に下段、中段、上段と立て続けに蹴りを繰り出した。

 それは全て虚を突かれた水晶孔雀に見事に炸裂し、あまりの速さに傍目には同時に太腿、腹部、頭部の水晶が砕け散ったように見えた。

「な……何で……!?」

 朦朧とする意識の中、孔雀の装着者は砕けた水晶でより豪華絢爛に彩られた特級撃猫に問いかけた。

「お前の敗因はひとえにあれから半年、特級装甲の持続時間が伸びている可能性を考慮しなかったことだ」

「な……る……ほど……」

「油断せずに三十秒以上攻撃を続けていれば、勝てたかもしれないのに……情報を持っていたことが、逆に仇になったな」

「そうか……俺が迂闊……だったのか……」

「そうだ……この結末はお前が迂闊だったからだよ!!」


ゴオォォォン!!


「………ぐはっ!!?」

 右の拳を下から、左の拳を上から、まるで獣の顎のように両拳を水晶孔雀に叩き込む。本人は嫌がるだろうが、その姿はまさに拳聖玄羽の生き写し。

 そんな攻撃をノーガードの状態で受けて耐えられる者などいるはずもなく、水晶孔雀はその場にへたり込むと、沈黙した。

「ふぅ……ギリギリだった。もしもっと臆病で慎重な奴だったら、ヤバかったかも……な」

「おっと」

 装着されていた黄金の装甲がカードに戻ると、撃猫はそれを手に取り、こちらに駆け寄るカンシチ鉄烏に投げ渡した。

「でも、これでみんなの仇を取ることができた」

「あぁ、紫電の三羽烏の仇を……」


「違う!!!」


「「!!?」」

 一息ついて、感傷に浸ろうとしていた二人の耳に、必死に絞り出したような声が届いた。

 声の方を向くと今、話していた三羽烏の一人、三人の中で一番横柄で馬鹿っぽい亜今が包帯だらけで、松葉杖を突きながら叫んでいた。

 二人は今言った自分達の言葉が気に障ったのかと思った。

「違うって……今のは言葉の綾で、お前達を死人扱いしたわけじゃな……」

「そんなことで俺様は声を荒げているんじゃないわ!!」

 暗がりで見え辛かったが、亜今の表情は真剣そのものだった。その強く訴えるような眼差しに二人も気を引き締め直す。

「……じゃあ、何が違うんだ?」

「俺様達を倒したのは、そいつじゃない!!」

「「――!?何だって!?」」

 二人は示し合わせたかのように同時に声を出し、同時にへたり込んでいる水晶孔雀を見下ろした。

「こいつじゃ……水晶孔雀じゃないのか……?」

「また別に新型がいるってわけか……」

「そうじゃない!俺様達を倒したのは、そいつだ!!」

「「…………はぁ?」」

 またまたセイとカンシチは二人仲良くハモり、首を傾げた。

「何を言っているんだ、お前は?」

「もしかして頭を強く打ったのか?」

「違う!俺様達を倒したのはそいつだけど、そいつじゃない!!」

「いや、マジで何を言ってんの?」

「だから!俺様達は連携でそいつをなんとか倒したんだ!!」

「あぁ?お前らが水晶孔雀を倒した?」

「そうだ!そいつを倒したのに……後から来たそいつ“ら”にやられたんだ!!」

「そいつ……」

「ら……?」

 二人は一瞬何を言っているか理解できなかった。もしかしたら理解することを無意識に拒んだのかもしれない。

 これだけ苦労して倒した骸装機が複数あるなんて信じたくなかったのである。


「彼の言う通りだよ」


「「「!!?」」」

 声が、今度は聞いた事もない声が門の方から聞こえた。そちらを振り向くと信じられない、信じたくない光景が目に入って来た。

 布にくるんだ“何か”を背負った男と、彼に付き従う四体の水晶孔雀の姿である。

「マジかよ……」

「今、オレはオレの目か、撃猫のカメラがイカれていて欲しいと心の底から願っている……!」

「可哀想だけど、これが現実さ……我が慇の最新鋭骸装機、水晶孔雀は量産されている……!!」


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