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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第二部
56/163

真夜中の砦

 佐羽那砦は王都春陽の王宮と並んで、灑の国最古の建築の一つである。まぁ、その用途から適宜改修は受けているのだが。しかし、だとしても国民がこの砦を誇りに思う気持ちは変わりない。

 建国以来、国境を侵害する慇の無礼者や、起源獣から民を守り続けて来たこの砦に再び脅威が迫り、国民の安寧を守るために月明かりの下、援軍として二人の勇士が参上した。

「なんとか今日中に着いたな」

「あぁ、よく頑張ったぞ、お前達」

「……ひひん」

 カンシチは汗だくで息も絶え絶えな相棒の首筋を撫で、献身を労った。

「入口は……あっちか」

 セイは薊から降り、手綱を引きながら一番大きな門を目指した。もちろんカンシチ達も後に続いている。

「お前達何者だ!!」

「止まれ!止まらないと痛い目を見ることになるぞ!!」

 門番はセイ達を視界に捉えると、大きな声で制止し、腰の剣に手を伸ばした。

「お仕事ご苦労様。色々あって気が立ってるのはわかるが、これを見てくれるか?カンシチ」

「ほいよ!」

 セイに命じられるがままカンシチは懐から一枚の紙を取り出した。

「それは……」

「王太子、姫水様直筆のお手紙なりよ」

「な、なんだと!?」

「本当か!?」

 姫水の名前を聞いた瞬間、門番達は目を見開き、その紙に釘付けになった。

「確かに姫水様の署名がある……ように思えるが……」

「本物かどうかわかりませんね……」

 門番達はギロリと再び鋭い眼差しで品定めするようにカンシチとセイの顔と身なりを観察する。

「おれ達が王太子の使いに見えないのは、悲しいけど理解できる。だから、署名が本物か判別できる人を呼んで来なよ。大人しくしているからさ」

 カンシチの言葉に門番達は顔を見合わせた。

「……おい」

「はい、小隊長を呼んで来ます……!」

 二人の門番のうち若い方はそう言うと砦の中に走り出した。

 それからすぐに髭の立派な男を連れて戻って来た。

「あなた方が姫水様のお使いですか?」

「それをあなたに証明してもらいたい」

「左様で……」

 髭の男にカンシチは紙を突き出した。男はそのまま紙を受け取ると、まじまじと眺めた。

「ふむふむ……間違いなく、姫水様の筆跡ですな。わたしは人の文字を判別できるんですよ。下らない特技ですが、こういう時には役に立ちます」

「つーことは……」

「わたしが証明します、そして感謝も……遥々わたし達を助けに来てくれてありがとう、次森勘七様、星譚様」

 男はニコリと笑うとカンシチ達に頭を下げた。

「「失礼しました!!」」

 門番達も彼に倣い、深々と頭を垂れた。

「別にいい。それよりもオレ達のマウを頼む。朝から走りっぱなしで、疲弊し切っている。丁重に労ってやってくれ」

「わかりました!」

「マウの世話係を呼んで来ます!」

 若い門番は再び砦の中へ走り出した。

「それではわたし達も参りましょうか。磨烈様の下へ案内します」

 髭の小隊長は踵を返すと、門をくぐり抜ける。彼の後ろをカンシチ達が続いた。

 砦の中は閑散としていた。必要最低限……いや、それ以下の数の兵士だけが、警備に当たっている。しかし、その目はおしなべて血走っていた。

 その鬼気迫る様子にカンシチ達の脳裏に最悪の予想が浮かぶ。

「安心してください」

「……え?」

 彼らの不安な胸中を察した髭の小隊長は肩越しに優しい眼差しを向け、「大丈夫」と頷いた。

「敵が少数だったので何かあると踏んで、こちらも少数精鋭で打って出たのが、功を奏した……というのは、言い過ぎでしょうが、まぁ最悪の事態は防げました」

「じゃあ……」

「ええ、警備の人数が少ないのは、怪我人の手当てにあたっているからで、死者は出ていません。慶亮将軍と三羽烏のおかげですな」

「そうですか……」

 カンシチはほっと胸を撫で下ろし、彼の隣でセイもふぅ……と不安感を追い出すように息を吐いた。

「こちらの階段を登った一番奥の部屋が司令室になります」

「ありがとうございます。ここから二人で行けます」

「わかりました。では、わたしはこれで」

 髭の小隊長は頭を下げると、警備に戻って行った。

 彼を見送ると、カンシチ達は言われた通り階段を登り、奥の部屋を目指した。

「王宮と違って、装飾一つないな」

「そりゃそうだろ。つーか、田舎者が王宮暮らしでずいぶんと目が肥えたみたいだな」

「お前な……!ちっ!」

 カンシチはセイの嫌味に苛立ちを覚えたが、よくよく考えると今の発言はそう言われても仕方がないかなと、反論を思いとどまった。

 そうやっていつものようにじゃれあっている間に目的の部屋の前に到着した。


コンコン


「……入れ」

 カンシチがノックをすると扉の向こうから、いつもより元気がないが聞き覚えのある声が聞こえた。

「失礼します」

「――!?カンシチ君!セイ君まで!!」

 二人の顔を見た瞬間、青ざめていた磨烈の顔に血色が戻り、彼らの下に駆け寄って来た。

「援軍が来るとは聞いていたが、もう到着したのか?」

「おれ達二人だけだけど、ご覧の通り」

 カンシチは見せびらかすように両腕を広げた。

「いや!君達二人なら百人力……いや二百人力だよ」

「あっ、はい、どうも……ちょっと痛い」

 興奮した磨烈はバンバンとカンシチの肩を叩いた。嬉しい気持ちはわかるが、援軍に対してひどい仕打ちである。

「磨烈、オレ達は強行軍で疲れているんだ。座らせてくれ」

「あっ!そうだな!悪い悪い!是非是非座ってくれ!」

「では……」

「サンキューな、セイ」

「ふん」

 見かねたセイが助け船を出し、カンシチは手荒い歓迎から解放された。

 二人はそのまま部屋の中央にある椅子に腰かけた。

「喉も乾いているだろう。今、お茶を淹れる」

 磨烈は部屋の片隅にあった茶葉を手に取った。

「茶もいいが、この砦の現在の状況と、そうなってしまった原因を教えて欲しい」

 セイの問いかけに磨烈の手が止まった。

「申し訳ないが、私も詳細はわからないんだ」

「そうなんですか?」

「あぁ、話し合いの結果、私は砦に待機することになったんだ。だから、戦闘については……」

「では、戦闘に出た中で話せる者は……」

 磨烈は振り返ることもせず、首を横に振った。

「みんな満身創痍で話せる状態じゃない。この佐羽那砦を指揮していた慶亮様も、『亜今 (あこん) 』、『異健 (いけん)』、『迂訓 (うくん)』の三羽烏も、兵卒達もみんなね」

 カンシチは「あいつらそんな名前だったのか……」と思わず口に出しそうになったが、さすがにそれは空気が読めなさ過ぎなので、必死に喉の奥で抑え込んだ。

「でも、傑物である彼らなら明日の朝にはしゃべることもできるだろうよ。だから、今日はこのお茶を飲んだら休むといい」

 ちゃっかりお茶を淹れていた磨烈は芳しい香りを漂わせる器をお盆に乗せ、カンシチ達の下へゆっくりと歩み寄った。

「じゃあ、お言葉に甘えて、今日のところは休ませてもらおうか」

「だな」

 彼らの前のテーブルの上にお茶が置かれる。すると……。

「あっ!!」

 磨烈が何かを思い出し、声を上げた。

「どうかしたのか?」

「そう言えば、慶亮様がお戻りになった時に“新型に……全身に水晶のついた新型にやられた”……とおっしゃっていた」

「水晶……」

「それってこいつのことかい?」

「「「!!?」」」


ドゴオォォォォォォン!!


「「「――ッ!?」」」

 突如として司令室の壁が破壊され、そこからゆっくりと漆黒のボディーに水晶をつけた骸装機が出てきた。

「噂をすれば何とやらか……!」

「こいつが……三羽烏をやった新型か……!!」

 司令室は煙と闘気と溢れたお茶のいい香りで包まれた。


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