内乱決着!そして……
三の門の瓦礫の中で、立派な体格の男が一人、ボロボロになって横たわっている。
そこに先ほどまでの輝きを失った黄金の龍がゆっくりと歩み寄る。
「やぁ……元気かい、ラク?」
「これが元気な人間の姿に見えますか、兄さん……」
応龍はそっと弟弟子を抱き抱えた。慈しむように、謝るように……。
「済まないな……もっとスマートなやり方があれば良かったんだが……」
「あの状況では、これが最善ですよ……助けてくれてありがとう、兄さん……」
ラクは龍の腕の中で優しく微笑んだ。その顔はかつてお互いに切磋琢磨した時の顔と全く同じで、ジョーダンの中で喜びと罪悪感が溢れ出す。
「……ラク、ボクは……」
「ずっと……ずっと悪い夢を見ていたんです……お互いにね。それでいいじゃないですか……」
「ラク……」
「……だから今度はいい夢を見るために……お先に仮眠取らせてもらいます。兄さんもやるべきことを終えたら……」
「……あぁ……!!」
目を閉じたラクを優しく地面に寝かせると、応龍はある場所へと再び歩き出した。
さらに遠くに飛ばされているひびだらけの青銅の仮面の下に……だ!
「ジョ、丞旦……!?」
仮面から発せられる声は恐怖で上擦っていた。彼にとって三年ぶり二回目とも言える死が近づいている……。
「本当はこの内乱の元凶として、色々と話を聞いたり、法に則って裁かれるべきなんだろうけど……」
「そ、そうじゃ!!そうすべきじゃ!!法こそが絶対!法を無視する行為は争乱の下じゃぞ!!」
この期に及んで、自分の助かる僅かな可能性にすがりつく蚩尤の生への執着にジョーダンは呆れると同時に、感心さえした。
しかし、だからといって許すわけはない。
「あんた、自分で言っていたじゃないか……?」
「な、何を……?」
「自分は人間を超越した存在だって」
「あ、あぁ、そんなことも言ったな……」
「この灑の国の法は人間のためのもの、人を超えた存在には適用されない……!」
「なっ!?」
万事休す……蚩尤の頭の中にその四文字が浮かんだ。彼が絶望に打ちひしがれている間も応龍はどんどんと近づいて来ている。
「あんたはこの世界にいるべき存在じゃない……!」
「ぐ、ぐうぅ……!!」
あと十秒ほどで、自分の命運は尽きると蚩尤の頭脳は悲しい計算ではじき出した。
けれど、その十秒が彼だけでなく、ジョーダン、そして灑の国を誰も計算できない運命へと導くことになる……。
「宰相……いや!蚩尤様!!」
「「黄括!!?」」
聞き覚えのある不快な声が晴天の空に響いた。布で包まれた“何か”を背負った黄括が全速でこちらに走ってくるマウの上から身体を乗り出し、手を伸ばしていた。
「今!お助けします!!」
「おお!そうじゃ!ワシを助けろ!黄括!!」
「させるか……よ!?」
一刻も早く蚩尤の息の根を止めなくてはと、応龍は足に力を込めたが、彼の足は言うことを聞いてくれず、逆にその場で膝をついてしまった。
(完全適合前に受けたダメージと嵐龍砲のせいか……!?ボクも応龍も力が入らない……!!)
後悔に苛まれるジョーダン。その前で黄括が青銅の仮面を掴み取る。
「ご無事でしたか!蚩尤様!」
「あぁ!お前こそ真の忠臣じゃ!!お前に我が正体を伝えておいて本当に良かった!!」
「わたくしはあなたの下でしか生きていけない!どうかご命令を!我らはどこに向かえば!?」
「完全適合……ワシと!蚩尤と完全適合をできる者を探す!そのためには……」
蚩尤はボソリとある国の名前を呟いた。
「……わかりました……そこに向かいます!!行くぞ!」
「ひひん!」
命を下された黄括はマウの腹を蹴り、加速させる。遠ざかっていく背中……そこには、黄括の後ろには、もう一人荷物のように乗せられていた。
「あれは……朱操……あいつも回収していたのか……」
ジョーダンが状況を言語化して、把握しようとしている間にもマウは地平線に向けて走っており、ついには見えなくなってしまった。
最後の最後でジョーダンは宿敵達に逃げられてしまったのだ……。
「くそ……!やっぱり黄括だけは……真っ先に……殺しておくべきだっ……た」
限界を向かえた応龍は待機状態に戻り、その中身であるおさげメガネも地面に伏した。
後味は悪いがジョーダン達反乱軍の当初の目的である盤古門、三の門突破、そして諸悪の根源である悪辣宰相の追放は達成した。
つまり……これにて灑の国内乱の終結である。




