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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第一部
50/163

真実と夢①

「応龍槍!!」

「軍神の剣」


キンキンキンキンキンキンキンキン!


 部屋の中を金属がぶつかり合う甲高い音が響き渡る。同門の士二人の決戦は応龍の攻撃を蚩尤がひたすら受け流すことから始まった。

「ふむ……遺跡の時と変わらんな。何の策もなくリベンジしに来たのか?」

「そんなことあるわけないだろうが!応龍槍!追加だ!!」

 応龍は新たにもう一本槍を召喚、倍になった武器で今の倍の突きを放つ!

「でやあぁぁぁぁっ!!」


キンキンキンキンキンキンキンキン!


「ぐうぅ……」

 直撃こそしていないが、圧倒的密度の攻撃に蚩尤は僅かにたじろいだ。

「このまま穴だらけにしてやる!」

「調子に乗るな……手数の多さなら、こちらも自信がある!」

 蚩尤は剣を持ってない方の腕を変形させ、エネルギーを集中させる。そして……。

「お前が穴だらけになれ!軍神の矢!!」


バババババババババババババッ!!


 撃ち出される無数の光弾!応龍の視界を光が覆った。しかし……。

「なってたまるか!!」

 黄金の龍はまるで木の葉のようにひらひらと、光の雨の隙間を舞い踊り、傷一つつけることなく後退した。

「……軍神の矢は、確かお前は初見のはずだ……なぜ対応できる?」

 蚩尤は心に浮かんだ疑問を素直に口にした。本来なら敵であるはずの者が答える義理などないのだが、自己顕示欲の強いジョーダンなら答えるだろうと同門だからこそ理解していた。そして、実際にその通りだった。

「確かにその攻撃は初見だ……だけど、あれだけ武器を積んでいて遠距離武器を持っていないとは考えられない、かつ一の門でお前の発明、蛇炎砲を相手にしている……なんとなくそんな感じの攻撃をしてくるとは予想できるさ」

「なるほど……では、これはどうだ!軍神の光鞭……!!」

 光の弾を発射していた砲口から今度はにょろにょろと光の蛇のようなものが生えてきた。

「羽虫が!はたき落としてやる!!」


バンバンバンバンバンバンバァン!!


 光の鞭は部屋中を縦横無尽に暴れ回り、壁や床を高熱で溶かし、焼け爛れさせ、深い傷をつけた。けれど……。

「それがお前の虎の子だとしたらがっかりだな!!」

 やはり応龍には当たらない。龍もまた壁や天井を蹴り、縦横無尽に動き回り、蚩尤の魔の手から逃れる。いや、それだけではない!

「守りに回るのは趣味じゃない!攻めさせてもらうよ!!」


ギィン!!


「くっ!?」

 壁を発射台として、応龍は自分自身を金色の弾丸とした。加速した彼はすれ違い様、蚩尤を斬りつけた。

「唯一ワタシよりも勝っているアジリティを生かすつもりか……!?」

「そうだ!相手よりも自分が優れているところで戦う……戦闘の基本だ!!」


ギンギンギンギンギンギンギィン!!


「――ッ!?」

 応龍は蚩尤の前後左右、さらに上下、つまり全方位を跳び回り、攻撃を繰り出した。蚩尤はそれを防ぐことも、反撃することもできない。

「これが丞旦流のヒット&アウェイだ!」

「なるほど……よくわかったよ……下らないお遊びだってことがな!」

「何!?」

 蚩尤は避けるどころか、逆に応龍の軌道上に立ち塞がった。

「加速がつき過ぎて止まれない……!なら!!」

 応龍はさらに勢いを増しながら、二本の槍を全力で突き出した!

「喰らえ!!」


ギイィィン!!


「――なっ!?」

「ふん!」

 二本の槍は蚩尤の青銅の装甲を僅かに欠けさせた……そう、壁を使って限界以上のスピードを乗せた槍でほんの少し欠けさせることしかできなかったのである。

「敵よりも優位にある部分で勝負する……真理だな。では!ワタシもお前よりも勝っている装甲とパワーで勝負させてもらおうか!!」

「くっ!?」

 蚩尤は自分に突きつけられた二本の槍を掴み、応龍ごと振り上げた。そして……。

「でりやぁぁぁぁっ!!」


バギン!!


 蚩尤はそのまま力任せに床に叩きつける!槍は二本とも無惨に砕け散った。

「さすがの逃げ足だな、ゴールドドラゴン」

「ちっ!」

 応龍はとっさに得物から手を離すことで難を逃れていた……いや、まだ彼の受難は終わっていない!

「しかし、空中ではご自慢のアジリティも生かし切れないだろう!軍神の矛!!」

 蚩尤は今度こそ鬱陶しい羽虫をはたき落とすために新たな武器を呼び出し、それでおもいっきり薙ぎ払う!

「盾よ!!」

 応龍は回避は不可能と判断し、こちらも盾を召喚、矛を受け止め……。

「その程度の盾でどうにかできる蚩尤ではないわ!!」


ガアァァァァン!!


「――ッ!?」

 軍神の矛は些細な抵抗などものともせず、盾ごと応龍を吹き飛ばした。黄金の龍は受け身も取れずに壁に大きなクレーターを作る。

「くそ……いてぇな、この野郎……!」

 時間にしてほんの数秒の攻防で武器を失い、盾をひびだらけにされた応龍。しかし、その青い二つの眼はまだ淀んでいない。

「さぁ、どうする兄さん?またヒット&アウェイを繰り返すか?それとも自棄になって至近距離で殴り合うか?ここから尻尾を巻いて逃げ出すってのも、いいかもね」

 蚩尤はすでに自身の勝利を確信したようで、穏やかな口調で話しながらゆっくりと同門の士の下へ歩き出した。

 その姿を見てジョーダンは……笑った。

「今だ!黄金龍の髭!!」


バシュン!!


「――何!?」

 突如として蚩尤が大の字に身体を広げた。いや、そういう格好に強制的にさせられたのだ。

「……これは……ワイヤーか……!?」

 首も締められて動き辛くなっている蚩尤は眼球だけ動かし、自身の腕が光の反射のおかげでなんとか確認できるほどの極細ワイヤーで捕縛されていることを確認した。

「そう、これが黄金龍の髭……お前へのリベンジの為に作り出した新兵器だ!!」

「なるほど……壁や床をバカみたい跳び回っていたのは、ワタシを倒すためではなく、これを仕掛けるためか……」

 蚩尤はワイヤーを目で追っていき、壁に小さな機械が仕掛けられていることを確認した……見事に自分が嵌められたことを。

「ふん、やるではないか。ここまでは合格を上げてもいい」

「先生の真似をするなんて、余裕じゃないか、ラク」

「それは、次にお前がやろうとしていることが手に取るようにわかるからだよ」

「そうか……見えたようだな!自分が敗北する姿が!!」

 応龍はファンの付いた二枚の翼を展開する。満を持して登場!黄金龍最強の武器だ!

「やはりな」

「遺跡では盾に防がれたが、黄金龍の髭に捕らえられた今のお前では盾どころか、ガードの体勢を取ることもできない!」

「全てはこの一手のための布石というわけか……」

「あぁ!ボクはこの一撃に全てを懸ける!!」

 ジョーダンの覚悟に呼応するようにファンが回転を始める。スピードはみるみるうちに上がっていき……。

「奴との因縁も憎しみも全て吹き飛ばせ!応龍!嵐龍砲発射だ!!」


ブルオォォォォォォォォォン!!


 二本の凄まじい威力の竜巻が発射される!その風の暴力に蚩尤は巻き込まれ……。

「絶対防御……光壁、三重」

「何!?」

 蚩尤の目の前に光の壁が彼を守るように三枚出現する。その壁に……。


バリン!バリン!バリィン!!


 嵐龍砲が直撃する!いとも簡単に砕け散る光の壁。しかし、それを破壊した分嵐龍砲の勢いも落ちてしまった。


ブルオォォォォォン!


 ほぼ三分の一の威力まで減衰した竜巻が青銅の獣を飲み込む。けれど、そんな威力では……。

「……惜しかったな、ゴールドドラゴン」

「くっ!!?」

 応龍最強の一撃は蚩尤の青銅の身体の表面に無数のかすり傷をつけた……それだけしかできなかった。

「絶対防御気光の応用……あんなものいつの間に……?」

 先ほども述べたが敵の質問に答える義務などない。でも、ジョーダンと同門の彼もまた肥大化した自己顕示欲を満たすために、ご丁寧に語り出すのだ。

「あれは未完成品だ。お前の今しがた撃ったあの竜巻と同じくな」

「なんだと……?」

「絶対防御気光を後付けするのは難しいし、そもそも骸装機に搭載成功した例が情けない話、まだない。だから、目の前に壁を作るだけの簡易的なものを蚩尤に取り付けた。それでもエネルギーチャージに時間がかかるわ、強度も大したことないわと、とてもじゃないが、ワタシの発明としてカウントできる代物じゃない」

「それでも開発者としてのプライドを捨てて、わざわざ搭載したのは、こうなることを予想していたのか……?」

 蚩尤は大きな角の生えた頭を縦に動かした。

「その通りだ。その応龍とやらの武装でこの蚩尤に対抗できるのはあの竜巻攻撃だけだ。そしてお前なら前回ワタシが指摘した問題点の対策を考えてくるはず……いや、むしろ負けん気の強いお前なら絶対にそいつで決着をつけようとするはずだ。ならばワタシもそれを上回る対策を考え、お前のプライドごと打ち砕くだけよ……ふん!」

 蚩尤は力任せにワイヤーを引き裂き、役目を終えたというのにいつまでもしつこく絡みつくそれをさらに細かく引き千切ると、雑に床に投げ捨てた。

「しかし、中々、悪くない策だったぞ。足を止めて撃つしかないその失敗策を当てるために、ワイヤーで動きを止めるというのは。だが、手足が動かせなくとも使える武装があることを考慮すべきだったな」

「くっ!?」

 黄金のマスクの下、ジョーダンは悔しさから歯を食いしばった。その屈辱で強張った表情が蚩尤には手に取るように理解できたようで逆に喜びに顔を歪ませた。

「まぁ、そう自分を責めるな。凡人にしてはよくやったよ、本当」

「お前なんかに慰めてもらいたくない……!!」

「そうか……では、こう考えるのはどうだ?弟弟子が立派に成長していてくれて嬉しい……と。ずっとワタシのことを、いつも謙虚で礼儀正しくて、努力家で……だけど、毒気が無さ過ぎて心配になるって、言っていたじゃないか?今のワタシはお前の心配していたあの時の諸葛楽じゃ……ん?どうした?」

 蚩尤の言葉を聞いた瞬間、強張っていたジョーダンの表情は一瞬で緩まり、目を見開き、ただ呆然と彼を見つめた。

 今の言葉はあり得ない言葉なのだ。諸葛楽が発することは決してない言葉……知り得ない情報なのだから。

 なぜそんな言葉が今、彼の口から発せられたのかジョーダンは知りたいと思うと同時に知りたくないと思ってしまった。もし

、今彼の脳裏に浮かんでいる推理が真実だとしたら、それは三年前から始まった彼の復讐の旅を根底からひっくり返すことになるのだから……。

 それでもジョーダンは口を開く。残酷な真実を知るために、そして復讐に目を曇らせ、本当に大事なことを見落としていた自分を咎めるために……。

「何で……何でお前がそのことを知っている……?」

「それはお前が……」

「ボクはそんなこっ恥ずかしいことを本人の!ラクの前で決して言わない!!っていうか、実際言わなかった!!その言葉を知っているのは……この世でただ一人……!!」

「ああ……」

 蚩尤は「やってしまった」と言わんばかりに、手のひらで額をトントンと叩いた。

「ちょっとばかりいい気にしゃべり過ぎたか。まぁ、ここまで騙せたから良しとしようか」

 蚩尤の声は聞き馴染みのある諸葛楽の声から、しゃがれた老人の声に変化した。

 けれど、ジョーダンはその声にも聞き覚えがあった。それは、その声は間違いなく……もう二度と聞くことはないと思っていた恩師の声であった。

「お前は……いや、あなたは……!?」

「そうだよ、丞旦……ワシじゃよ、ワシ……お前の“先生”じゃよ……!!」


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