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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第一部
49/94

再壊②

 蚩尤がこの国の英雄の命を奪ったあの日のこと。三の門の一室に横たわる岳布の遺体の前で黄括と諸葛楽は身体を震わせた。前者は恐怖で、後者は歓喜で……。

「さ、宰相様……この死体をどうなさるおつもりでしょうか……?」

「これを使って無敵の兵士を造る」

「無敵の……兵士……?」

「この死骸に特級骸装機を纏わせ、適合させる。そうすれば岳布の身体に染み付いた戦闘技術を持った不死の兵士ができるはずだ」

「そ、そんなこと……が!?」

 黄括は恐る恐る宰相の顔を覗き込んだ。すると、仮面を着けたその顔は邪悪な笑みで醜く歪んでいた。

「できるできないじゃない……ワタシがやりたいかやりたくないか……だ。科学者とはそういうものだ」



 現在に戻り、宰相の悪辣極まりない研究の成果、不死の魔物、刑天と化した岳布を見て、シュガと玄羽は怒りで身を震わしていた。

「岳布の遺体を使って、あんな化け物をを造るとは……!」

「道理で骸装通しが効かないはずだ……」

「死体ですからね……痛みも感じてないのでしょう……」

「死して尚も道具としてこき使う……この国のために忠義を尽くした者にする仕打ちではないの……!」

「ええ……一刻も早く、あのおぞましき機械から岳布を解放しましょう……!!」

「おう!!」

 二人が構え直すと、タイミングを合わせたようにまた刑天は胴体の大きな口を開いた。

「さっきの砲撃か!?」

「いえ……これは!!」

「グルオォォォォォォォォッ!!」


バババババババババババババッ!!


「拡散ビームです!!」

 銀狼と拳聖に流星群のように光の球が降り注いだ。

「威力よりも命中を重視したか!!」

「だったら、玄羽様!俺の後ろに!!」

「承知した!」

 言われるがまま闘豹牙はシュガの後ろに隠れた。すると……。

「我らが盾となれ!幻妖覇天剣!!」

 シュガは覇天剣を巨大化させ、宣言通りその大きく分厚くなった刀身を盾にした。

「蛇炎砲にも耐えられたんだ!この程度なら!!」


バババババババババババババッ!!


 シュガは幻妖覇天剣で刑天の攻撃を弾きながら、突撃した。もちろんその後に闘豹牙も続く。

「玄羽様!岳布は二刀流の使い手です!今の両手に斧を持った状態こそが本来のスタイルなんです!」

「姫風と似ているな」

「その通りです!姫風は手に入れた蒲牢の武器が二本の斧だとわかると、岳布の戦い方を参考、研究して、今のスタイルにたどり着きました!」

「ならば!姫風と手合わせしたわしなら対応できるか!!」

「はい!」

 刑天を射程に捉えた反乱軍最強の二人は左右に別れた。そして……。

「「はあぁぁぁッ!!」」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 左右から同時に刑天を容赦なく攻め立てる!しかし……。

「やはり硬い……!!」

 刑天の漆黒の装甲は二人の攻撃にびくともしなかった。

(必要もないのに、わざわざ回避行動をとっていたのは、生前の岳布の癖が出ていたというわけか……!!)

(大技を当てたいが、そんな隙はない……!いや!それどころか……)

「グルオォォォォォォォォッ!!」


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


(徐々に我らの攻撃に対応し始めている……!!)

 刑天はあろうことか反乱軍最強の二人の同時攻撃を防ぎ始めていた。これもまた最強と謳われた岳布の記憶がなせる技か……シュガ達からしたらたまったものじゃないけど。

(このまま戦闘が長引くのはまずいか……!スタミナ切れを狙うか?いや、そもそも死人であるこいつに体力の限界はあるのだろうか……?だとしたら早々に決着をつけないと……!!)

 シュガは眼球を忙しなく動かし、勝利への道筋を探る。そして刑天の足下を見て、覚悟を決めた。

「玄羽様!!」

「ん!?なんか名案でも浮かんだか!?」

「そんな大層なものじゃありません!一発限りの小細工です!」

「それで十分だ!!」

 闘豹牙が「一瞬でいい!隙を作れ!」と目配せをする。シュガは「了解した」と小さく首を縦に振ると幻妖覇天剣の切っ先を刑天の足下に向けた。

「伸びろ!幻妖覇天剣!!」

 幻妖覇天剣はその刃を凄まじいスピードで伸ばし、深々と突き刺さった……地面に。

「空中戦主体の生前のお前には使ったことのない小細工……受けてみるがいい!!」


ガコン!!


「グルアッ!?」

 シュガは、てこの原理で魔物の足を幻妖覇天剣で掬い上げた。生前の岳布としても、死後の刑天としても初見であるその小細工には対応できず、不死の兵士はバランスを崩した。

「でかした!シュガ!!」

 その刹那、闘豹牙は左の指をピンと伸ばし、そこに力を溜め、そして放つ!

「喰らえ!“邪鬼穿ち”!!」


ザシュッ!!


「グルオォォォォォォォォッ!!?」

 闘豹牙の貫手が刑天の胴体の目を貫いた!拳聖はさらに力を込め、奥までその手を進めていく。

「このまま終わらせて……」


ザシュッ!!


 再び物を貫く音が聞こえた。

 拳聖の技が完全に刑天の身体を貫いた音ではない……。

 逆に刑天が隠していた鋭い刃の付いた尻尾で闘豹牙を貫いた音だ……。

「――がはっ!?」

「玄羽様!?」

 尻尾を引き抜くと、闘豹牙は膝を着いた。そこに……。

「グルオォォォォォォォォッ!!」

 刑天は容赦なく斧を振り下ろす!


ガギィ!ザシュ!!


「ぐうぅ!?」

「シュ……シュガ……!?」

 シュガはとっさに幻妖覇天剣で斧の勢いを殺そうと試みた。しかし、その凄まじいパワーは剣だけでは止められないと判断し、自らの身体を盾にした。斧は銀狼の肩口に食い込み、美しい銀の毛を深紅に染めた。

「先に……覇天剣をぶつけていなかったら、腕が斬り落とされていたな……」

「グルァ……!!」

「だが、これで……懐に潜り込めた!!」

 シュガは片手で逃げられないように自らに斧を叩き込んだ腕を掴むと、もう一方の手で幻妖覇天剣を刑天の腹部に突き出した!


ガチィン!!ザシュッ!!


「……ぐはっ!?」

「シュガ!!」

「グルォォ……!!」

 盟友同士だからか、考えることは同じだった。唯一違うのは今の岳布は胴体に顔のある刑天であり、その口で幻妖覇天剣を噛んで止めることができることである。

 対して、両手を使っているシュガは為す術なく、先ほどの拳聖のように尻尾で貫かれた。

「グルオォォォォォォォォッ!!」

 刑天は自由なもう一方な腕を、斧を振りかざした!

「シュガ!!避けろ!!」

 玄羽は叫んだ!こんな時に動かない自分の身体を呪いながら、喉が張り裂けんばかりに叫んだ!

 その声を聞いてシュガは……笑った。

「安心してください、玄羽様……この戦いはもう終わっています……俺達の勝利で!!」


ザシュン!!


「グルア!?」

「……なっ!?」

 鋭い牙に挟まれた幻妖覇天剣はそのまま刃を伸ばし、刑天を貫いた!

 刑天は、いや刑天に宿る岳布の記憶は想定外の覇天剣の挙動に驚き、動きを止める。

「岳布なら……俺と何度も組手をした奴なら、こうすると思っていた。あいつは刀身に命あるものが触れていると伸縮できないという覇天剣の特性を知っていたから……きっと刀身を掴んで無効化を試みると……だけど岳布……お前は!お前はもう死んでいるんだよ!!」


ザシュッ!!


「グルアァッ!!?」

 シュガはそのまま幻妖覇天剣を横に動かし、刑天の大きな口を、さらに大きくするように、ついでに尻尾もまとめて斬り裂いた!

「刑天!お前の強さは岳布の記憶と経験を持つことと、すでに死んでいるからこその無敵の身体だ!!」

 シュガが天に高らかに幻妖覇天剣を翳すと、ぐんぐんと刃が鋭く長くなっていった。それを……。

「しかし!それが!それこそがお前の敗因だ!!」

 残った力の全てを込めて撃ち下ろす!


ザンッ!!


「――ルアッ!?」

 幻妖覇天剣は本来人間の首がある場所から侵入し、股下から出てきた。

 不死の兵士、刑天は真っ二つに分かれ、左右に倒れると二度と動くことはなかった。

「安らかに眠れ、友よ……」

 シュガは岳布に弔いの言葉をかけると玄羽の方を振り返った。

「玄羽様、大丈夫……ではないですよね……」

「命に別状はないが、戦闘継続は不可能だろうな……お互いに」

「ええ……後は反乱軍の兵士達に……」

「そして丞旦に……」

「任せましょう……」

 そう言うと、シュガも玄羽もその場で倒れ、気を失った。

 反乱軍最強の戦士二人は官軍最強の戦士を討ち取るも、ここで戦線離脱……。


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