表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第一部
48/163

再壊①

「グルオォォォォォォォォッ!!」


ドゴォン!!


 唸り声を上げながら刑天は三の門の壁を突き破り、遂に外に出た。反乱軍が攻めてきた方ではなく、王都側だ。

「こいつ……」

「いつまでも……」

「「触ってんじゃねぇ!!」」


ゴォン!!


「グルアァッ!?」

 頭を掴まれていたシュガと闘豹牙は示し合わせたかのように同時に蹴りを繰り出すと、見事に刑天に命中!黒い野獣はたまらず獲物から手を離し、吹き飛んだ。

「……ったく、まさか外まで追いやられるとは……」

「つーかここ、わしらが来た方とは反対側じゃねぇ?」

「王都側か……はからずも目的である三の門突破、達成しちゃいましたね……」

「全然、嬉しくないわ……」

「……ですね」

 ぶつくさと文句を言いながら、反乱軍最強の二人は体勢を整える。彼らの目の前では同じように刑天が起き上がり、こちらを睨んでいた。

「なんなんでしょうか、あいつ?」

「確か宰相は“刑天”と呼んでいたな」

「骸装機の名前でしょうね」

「だろうな。それにしても不気味だ……」

 不気味……玄羽のその言葉が刑天を表すに最も適した言葉だとシュガは思った。

 逞しい真っ黒なボディーに差し色で金が入り、所々刺々と隆起している。そんなド派手な身体に対して、頭部は不釣り合いに簡素で、まるで適当にとってつけたようだった。

 刑天は不気味だった。歴戦の勇士であるシュガと玄羽が生理的嫌悪感を隠せないほどに得体のしれない不気味さをその身から醸し出していたのだ。

「なんかあんまり闘志が湧かない相手なんですけど、そうも言ってられないですよね」

「だな」

「では……俺が先に仕掛けます……!!」

 そう言うと、シュガは愛剣を弓を引くように構えた。そして……。

「伸びろ!幻妖覇天剣!!」

 勢いよく突き出す!それと同時に覇天剣の刀身は伸びていき、不気味な刑天に迫っていく。

「グルアァッ!!」


ガギィン!!


「何!?」

 覇天剣が脳天を貫こうとした瞬間、凄まじい反応速度で刑天は盾を召喚し、それで攻撃をうまいこと受け流す。さらに……。

「グルオォォォォォォォォッ!!」

 盾をそのまま滑らせながら、前進する!火花を散らし、咆哮を上げ、一心不乱にこちらに向かって来るその姿は恐怖でしかなかった。

「グルアァッ!」

 刑天はさらにもう一方の手に斧を召喚し、銀狼に襲いかかる!

「おいおい……わしのことも見てくれよ」

 刑天の背後に、颯爽と紫の影が、闘豹牙が現れた!紫の獣は勢いそのままに見とれてしまうような美しいフォームで蹴りを放つ!

「わしを無視するような奴は脳ミソシェイクの刑だ!骸装通し!!」


ゴオォォォォォン!!


「………何?」

 闘豹牙の蹴りはきれいに刑天の簡素な頭部に炸裂した……したが、手応えが、この場合は足応えがなかった。まるで空っぽのバケツを蹴ったような感触、実際に今も耳に届く音もそんな感じのがらんどうに響いているような……。

「玄羽様!来てます!!」

「……へっ?」

 シュガの声で玄羽は我に返ると、目の前で刑天が反転しながら、そのまま盾で自分を殴りつけようとしていた。

「グルオォォォォッ!!」

「危な!!」

 しかし、そこは拳聖、跳び箱の要領で自分に向かって来る盾に手を着き、押し出し、くるくると回転しながら、大きな刑天の頭上を跳び越えた。

 一瞬、一瞬だけ背中合わせになる二人。だが、すぐさま両者反転、再び攻撃に移る。

「グルアァッ!!」

「遅い!双拳!骸装通し!!」


ボボォン!!


 ほんの僅かだが、闘豹牙の方が速かった。繰り出された両拳はこれまた見事に刑天の胴体にヒットする。

 これで普通の相手なら悶え苦しみ、戦闘続行不可能、つまり拳聖の勝利が確定するのだが、生憎刑天は普通じゃない……あの諸葛楽が自信満々に傑作と称する作品なのだ。

「グルオォォォォォォォォッ!!」


ザンッ!!


「何!?」

 刑天は拳聖の攻撃などものともせず、斧を振り下ろした!

 あり得ない光景に驚愕する玄羽だったが、長年の鍛錬の成果か、反射的に身体が動き、事なきを得た。

 けれども身体は無事でも、反撃された時点で拳聖のプライドはボロボロだ。

(わしの骸装通しをまともに受けて、動き続けられる奴などいないはずだ。しかし、現実にこの刑天はびくともしてない。つまり……どういうことだ?)

 長年の経験を蓄積した拳聖の脳ミソをフル回転させても答えは出なかった。なので、拳聖らしく武力で解決を試みることにした。

「シュガ!!」

「!!」

「逆をやるぞ!!」

 その一言で二人には十分だった。一瞬で、刑天撃破の道筋を共有する。

「了解しました!」

「よし!では、ギアを上げていくか!!」


ガンガン!!


 闘豹牙は目にも止まらぬスピードで二回パンチを放ち、またまた見事に刑天を捉えた。しかし……。

「グルオォォォォォォォォッ!!」

 やはりこの漆黒の野獣には通用しない。刑天は裏拳の要領で、盾を横に薙ぎ払う。

「甘い!」

 けれど、闘豹牙はぴょんと一跳び、回避して……。

「ハアッ!!」


ゴオォォン!ゴオォォォォォン!!


 そのまま空中で踏みつけるように刑天の頭に立て続けに蹴りを叩き込んだ。戦場にまたあの空っぽのバケツを蹴ったような音が響き渡る。そしてまた……。

「グルアッ!!」

 何のダメージを受けてない刑天は着地した闘豹牙の首に斧を繰り出す。

「だから、無駄だ!」

 闘豹牙は開脚したことで、斧を回避する。何もない空間を通過する斧、その先にキラキラと光る銀色が見えた。

「今だ!シュガ!!」

「おおう!切り落とせ!幻妖覇天剣!!」

 シュガは最大スピードで覇天剣を伸ばしながら、スイングした!


ザンッ!!


 伸びた銀色の刃は主の命令通り、簡素な作りの刑天の首を切り落とした。分離した頭部はガチャガチャと音を立てながら、地面に転がる。

「よっしゃ!」


ガンガン!!


 だめ押しにと闘豹牙が逆立ち状態になり、そこから回し蹴りを放った。今まで拳聖の攻撃にびくともしなかった刑天は、今回は糸の切れた人形のように、あっさりと倒れる。

「ふぅ……終わったか」

 勝利を確信した闘豹牙はゆっくりと足を着け、立ち上がると、手に付いた土埃をパンパンと拍手するように払いながら、刑天を背にし、タッグパートナーの方を向いた。

「よくあの一言でわしの考えがわかったな」

「逆というのは、最初の俺が攻撃してる間に玄羽様が奴の背後に回って頭部に攻撃した逆をしろということ。つまり……」

「わしが引き付けるから、お主が首を落とせ。大正解だ」

「ええ、きれいに……」

 シュガの口が動きを止める。信じられないものを目の当たりにしたからだ……闘豹牙の後ろで立ち上がる首なし刑天の姿を。

「玄羽様!後ろ!!」

「えっ?」

「グルオォォォッ!!」


ゴォン!!!


 闘豹牙は今度こそ盾を叩きつけられ、遠くに吹っ飛んでいった。

「玄羽様!?くそッ!?何で首を落とされたのに動け……る!!?」

 もう驚きのキャパシティーが一杯一杯のシュガはさらに信じられないものを目にし、言葉を失った。

 先ほど自らの手で切り落とした刑天の頭部には中身がなかった。空っぽのバケツと評したが、実際に中身が空だったのだ。

「頭部が空だと!?では、奴は最初から首なしだったというのか……!?あいつは一体……」

 もう一度確認しようと刑天本体に視線を移したが、そこには……。

「いない!?」

「グルオォォォォォォォォッ!!」

「しまった!?」

 横からあの不愉快な唸り声が聞こえた時にはもう遅い。刑天は斧を撃ち下ろしていた!

「グルアァッ!!」


ドゴォ!!


 斧は深々と突き刺さった……地面に。

 シュガはかろうじて回避し、自慢の銀色の毛が数本切られるだけの被害で済んだ。この状況にシュガは安堵よりも驚きの感情の方を強く感じた。

(どういうことだ?なぜ、俺は生きている?なぜ奴の攻撃を避けられた?今のは完全に不意を突かれていた……俺の身体は真っ二つになっているはずなのに……いや、わかっている。俺が奴の攻撃を避けられたのは、俺が奴の太刀筋を何故か知っていたからだ……!)

 絶命していたはずの自分を救ったのは、今日初めて相対したはずの刑天の攻撃の記憶であった。それがまた刑天の不気味さに磨きをかけた。しかしそれでも……。

「ええい!考えるのは後だ!!こいつを倒した後に考えればいい!!そうだろ!幻妖覇天剣!!」

 シュガは気持ちを切り替え、後退しながら、刑天に幻妖覇天剣を伸ばした。

「グルアァッ!!」


ヒュウッ!!


 けれども、当たらない。刑天はその大柄な姿に見合わない敏捷性を発揮し、覇天剣をいとも容易くかわした。

「こいつ!?ならば当たるまでやり続けるまで!!」

 シュガは幻妖覇天剣の伸縮を最高速で繰り返し、突きを連打する。


シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!!


 しかし、これも刑天は軽快なステップで避け続けた。

(こいつ……玄羽様の攻撃には全く反応できなかったのに、俺の攻撃には容易くついてくる。それだけ拳聖と俺に差があるのか、単純に相性の良し悪しか、それとも……こいつも俺の太刀筋を知っているのか……)

 ふと頭を過るあり得ない考え。普段のシュガならこの時点で答えにたどり着いていたかもしれない。しかし、今の彼は無意識にその残酷な答えから目を逸らしていた。

 どんな傑物だろうと、身内の生き死ににはナイーブになってしまうものだ。

「グルオォォォォォォォォッ!!」

 シュガの気持ちなど露知らず刑天は狂気の咆哮を上げながら、襲いかかってくる。

「ちっ!!」

 シュガは舌打ちをしつつ、防御の体勢に……。

「シュガ!下がれ!!」

「――!?玄羽様!!」

 拳聖戦線復帰!シュガと刑天の間に紫の獣が落ちてくる!そして……。

「この技を使うのは久しぶりだな……逃走我!!」


バフン!!


 着地した瞬間、闘豹牙は地面に左の掌底を放った。すると、周囲を土埃のカーテンが覆い尽くす。拳聖流の煙幕だ。

「シュガ!一旦下がるぞ!!」

「はい!!」

 土埃で刑天が自分達を見失っている間に反乱軍最強の二人は尻尾を巻いて逃げ隠れた。



「とりあえずここまでくれば大丈夫か……」

「……はい」

 二人は三の門の影に身を隠した。猛華大陸にその名を轟かしている者とは思えない情けない姿。しかし、むしろこういうみっともない真似も平気でできるからこそ、今の今まで生き残り、英雄とまで言われるようになったのだ。

「玄羽様、けがは……?」

「わしも焼きが回った。昔だったら、完全に攻撃をいなせていただろうに、右腕と肋骨にひびが入っちまった」

 彼の愛機闘豹牙にも今の言葉が事実だと証明するように同じ部分に亀裂が入っていた。

「戦闘の継続は……?」

「まぁ、それはなんとかなるだろ。わし、拳聖だし」

 玄羽は無事な左手でピースサインを作り、まだまだやれるとアピールする。

「そうですか……正直助かります。あの刑天を一人で相手するのは骨が折れるってレベルじゃない」

「だろうな。首を落としても……いや、最初から首がなかったのか」

「あれはなんなんでしょう?丞旦の作ったネニュファールのような自律型の機械でしょうか?」

「宰相諸葛楽は奴と同門らしいし、その可能性はある……あるが……」

 紫の仮面の下で玄羽は眉間にシワを深々と寄せた。

「違うと……思っているんですね?」

「あぁ、どうにも奴の動きは人間くさ過ぎる。無駄は少ないが、機械のように合理性を突き詰めたようなものじゃなくて……」

「厳しい修練の末に無駄を削ぎ落とし、洗練させていったようなもの……」

 シュガはそう言いながら、ある人物の姿を思い浮かべていた。今の言葉に完璧に当てはまる盟友の姿を……。その時!


「グルオォォォォォォォォッ!!」


「「!!?」」

 噂をすれば何とやら、刑天来襲である!その漆黒の獣は首を無くした代わりという訳ではないが、新たにもう一本斧を持っていた。

 その二本の武器を持つ姿が今しがたシュガが思い浮かべた人物と重なった。

「あの構えは……!?玄羽様!全力で回避に徹してください!!」

「言われなくても!!」

「グルアァッ!!」


ザザザザザザザザザザザンッ!!


 銀と紫の獣がいた場所が無数の斬撃によって斬り刻まれた。

「これは……間違いない……!くそ!!」

 回避しながら、その光景を見たシュガは確信する。当たって欲しくない予想が、より最悪の形となって的中してしまったことに……。

 そんな彼の想いを嘲笑うかのように刑天は淡々と振り返りながら、胴体の装甲を変形させた。

「あれは顔か……!?」

「あれがあのおぞましい相貌が奴の本当の頭か……!!」

 刑天の胴体は玄羽が指摘したようにおぞましい獣の顔へと形を変えた。そして、その獣の口がガパッと開き、そこに光が集まっていく。

「グルアァッ!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


「「!!?」」

 口から強力なエネルギーの奔流が放たれた……空中の闘豹牙に向かって。

「しまった!?」

 身動きの取れない紫の獣に、漆黒の獣の一撃が迫る!拳聖の命運もここまで……と思われたが。

「御免!!」


ゴォン!!


「――ッ!?」

 シュガが伸ばした幻妖覇天剣の刀身で味方であるはずの闘豹牙をはたき落とした。しかし、そのおかげで刑天が放った光の奔流に飲み込まれる最悪の事態は免れる。

「すいません!玄羽様!」

 シュガは慌てて自分が叩き落とした闘豹牙の下に駆け寄った。

「気にするな……あれしかわしが生き残る方法はなかった。助かったよ、シュガ……まぁ、できることなら、もうちっと優しくして欲しかったがな……」

 グワングワンと響くような鈍い痛みを頭から追い出そうと、玄羽は自らのこめかみのあたりをトントンと軽く小突いた。

「すいません。俺が至らぬばかりに……」

「だから、それはいい。それよりも……何に気づいた?知っているのか、あの技を?」

 玄羽は最初の刑天の攻撃を見て、何かを察したようなシュガの顔をあの一瞬の間に確認していた。彼の驚愕と憤怒と悲しみに満ちた顔を……。

 そして今の質問で銀狼の顔はその時と同じ表情になる。

「あれは秘剣、銀風烈刃……岳布の技です……!」

「では……!?」

 シュガはその問いに力強く、しかしどこか憂いを帯びながら頷き、言葉を絞り出した。

「刑天は……岳布です……!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ