最終決戦!三の門!
「ここを超えれば、王都か……」
二の門の戦いから五日、ついにたどり着いた最終決戦の地、盤古門三の門。
カンシチは目を細め、今までで一番大きな門、むしろ要塞と呼ぶべきそれを見つめながら、しみじみと呟いた。長きに渡る旅のゴールが見えて、思うところがあるのだろう。
「いやいや、感慨に耽るのはまだ早いよ、カンシチ。まずはあの門の前にいるお邪魔虫達を倒さないと」
一方、彼の隣にいるジョーダンは気が昂っていた。三の門の前に布陣している敵軍を見渡し、ターゲットを探す。
「どうやらお目当ての宰相様はやっぱり三の門の中に引きこもってるっぽいな」
右も左も黒い鉄烏、セイは前日のミーティングで話し合った通りの展開に、安堵し、同時に気を引き締めた。
「きっとあいつのことだから、どでかい三の門の中でも一番大きい部屋でふんぞり返ってるよ」
「そこにおれ達やシュガさん、玄羽さん達五人でなだれ込んで……」
「奴の首を取る……という算段だったな」
「あぁ、この際ボクの私情はどうでもいい。灑の国のためにも、こちらの最強戦力を蚩尤にぶつける……!!」
「ジョーダン……」
きっと輪牟の村に来た頃のジョーダンなら、こんなことは言わないだろうなとカンシチは思った。遺跡での敗戦、姫炎の暗殺未遂事件、さらには徐勇との一件が彼を良くも悪くも変えたのだと。
「それじゃあ、早速始めようか……シュガ!」
「おう!」
ジョーダンの呼び掛けに応じ、シュガは前に出……なかった。
「まぁ、威勢よく返事をしたが、今回、戦いのゴングを鳴らすのは俺じゃないんだが」
「おう!!待ちくたびれたぜ!!」
反乱軍の先頭に出たのはシュガではなく、声も身体も大きいでお馴染みの姫炎の次男坊、姫風であった。彼は空気を肺一杯吸うと……。
「我が名は姫風!!!皇帝姫山が弟、姫炎の息子なり!!!」
いつも以上に大きな声で名乗りを上げた!大気が震え、大地を揺るがす堂々たる名乗り……けれど、官軍は微動だにしない。
「おれは叔父に会いにいきたいだけだ!!!邪魔をしてくれるなよ!!!」
これにもまったくの無反応。姫風は予想通りのリアクションに苦笑いを浮かべながら、マウから降りた。
「やっぱり完全に宰相側の兵士で、しかも精兵で固めてるな。王族であるおれを前にしても、全く動じない。参ったな!」
「そういう割に嬉しそうな顔をしているように俺には見えるのだが?」
「バレたか……!!」
シュガに指摘されると、姫風の表情が苦笑いから満面の笑みに変わった。
「もしものことを考えて、王族のおれはこの最終戦まで温存だったからな!!ようやく暴れられるってことで、おれもこいつもテンション爆上がりよ!!」
姫風は懐から札のようなものを取り出した。彼の愛機だ。
「さぁ!出番だぜ!吼えろ!『蒲牢 (ほろう)』!!!」
札は主の声に応じ、光の粒子へ、そしてさらに墨のように光沢のない黒い装甲に姿を変えると姫風のたくましい身体を包み込んだ。
「おれの名乗りにはノーリアクションを貫けたが、この蒲牢の挨拶はどうかな!!」
蒲牢の胸と肩の装甲が展開すると、そこにはスピーカーが装備されていた。姫風の気持ちの昂りに比例し、そのスピーカーが震え始め、それがどんどんと、どんどんと大きくなっていく!そして!
「喰らえ!滅至咆哮!!!」
グオォォォォォォォォォォォォン!!!
「「「――ッ!?」」」
まさに滅びに至る咆哮だった。蒲牢から放たれた目に見えない暴力は黒い鉄烏軍団の装甲を砕き、吹き飛ばした。
「あれが狴犴と同じく懐麓道が作ったとされる九つの傑作特級骸装機の一つ、蒲牢か……」
「広範囲攻撃に重点を置いたと聞いてはいたけど……確かにあれは乱戦では使えないわ……」
セイとカンシチは蒲牢の圧倒的破壊力に心の底から恐れおののき、それが味方であることに心の底から安堵した。
「さすがの威力だね。応龍の嵐龍砲が目指すべきはあれかも……って、言ってる場合じゃないか。畳み掛けるよ!文功!虞籍!!」
「はい!」
「おうよ!!」
続いて反乱軍の最前線に踊り出たのは、同じ制服を着た集団と、紅白というなんだかめでたい色をしている巨大な機械の塊であった。
「コシン族の尽力もあって、ファイアーパンダー、ここに復活!!」
現在主力の第五世代骸装機を遥かに超える大きさの第三世代骸装機、パワードスーツというより、もはやロボットと言った方が正しいんじゃないかと思うほどのそれが全武装を展開した。
「私達も負けてはいられません!賛備子宝術院、炎術隊!構え!!」
「「「はっ!!!」」」
同じ制服に身を包んだ者たちが一糸乱れぬ動きで、敵軍に向かって手を翳した。
「今回は脅かすためじゃなくて、倒すために……てえぇぇぇぇっ!!!」
ボォン!ボォン!ボォン!!
これまた同時に無数の火の球が放たれ、宙をかける!さらに……。
「負けていられないな!ファイアーパンダー!!こっちも全開だ!!」
ババババババババババッ!ドゴォン!!
両腕のガトリング砲!背中から伸びた四本のキャノン!肩と脚からはミサイル!胸と頭からはビーム!それらを一斉に発射する!
賛備子宝術院の類い稀なる鍛練の末、たどり着いた至極の宝術と神凪由来の科学の結晶、ファイアーパンダーの砲撃が官軍に降り注ぐ!
ドゴドゴドゴオォォォォォン!!!
「ぐわあぁぁぁぁぁっ!!?」
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!?」
黒い敵兵たちは真っ赤な炎に包まれ、悲鳴を上げながら、次から次へと倒れていき、最初に門の前でしっかり構えていた陣形は見る影もなくなった。
つまり、チャンスだ!
「よっしゃあ!!隊列が崩れた!それをさらにめためたにしてやろうぜ!野郎ども!!」
「「「おおう!!」」」
「その意気だ!突っ込むぞ!!」
蒲牢は二本の鉞を召喚し、猛り狂う黄色の鉄烏を率いて、敵兵の渦に突入していった。
「よし!蒲牢がこのままボク達の道を切り開いてくれる。準備はいいか、カンシチ、セイ!!」
「おう!」
「ふん!誰に言っている」
「万端みたいだね。じゃあ、ボクらも行くよ!!」
敵兵を薙ぎ払う蒲牢の後に続き、ジョーダン達も戦場のど真ん中を駆ける!
「行かせるかぁ!!」
そうはさせまいと官軍兵が飛びかかった……が。
「その程度でボクを……応龍を止められると思うな!!」
ザンッ!
「ぐあっ!?」
黄金の龍を装着したジョーダンは一太刀で襲いかかる鉄烏を切り捨てた。
「そうだ!そうだ!無駄な抵抗、やめちゃえよ!!」
バシュッ!!
「が!?」「ぎ!?」「ぐっ!?」
さらに彼の後ろからカンシチ鉄烏が一度に三発の矢を放ち、見事に全て敵兵に命中させた。
「丞旦!!」
「シュガ!!」
ここで灑が誇る銀色の剣、シュガが合流。さらに……。
「わしもいるぞ。ほい!」
「ぐぎゃ!?」
「玄羽さん」
紫色の闘豹牙が小器用に敵兵の頭を飛び移りながら、やって来た!
これにて対蚩尤メンバー五人揃い踏みである。
「よし!このまま三の門に突入する!!後は任せたよ、姫風!!」
「おう!任された!!」
五人は蒲牢を抜かすと、その蒲牢はくるりと反転し、三の門に背を向けた。そして彼の横に壁のように黄色い鉄烏が並んでいく。
「ここからはおれ達が官軍を門に向かわせないように立ち塞がる番だ!!」
「なんだと!?」
「男同士の意地の張り合い……邪魔してぇってなら、このおれを倒してみろ!!我が始祖にして、この灑の建国者『姫麗 (きれい)』の名にかけて、ここからは一歩も先には行かせない!!」
蒲牢のおかげで五人は悠々と三の門に近づいていく。
「うまいこと外の奴らと分断できたね」
「あぁ、後は少数の歩兵と!」
ザンッ!!
「ぐあっ!?」「うがっ!?」
シュガは片手間で無謀にも左右から挟み撃ちを試みた愚かな歩兵を幻妖覇天剣で切り払った。
「城壁の上の弓兵……っと!!」
バシュッ!!
「がっ!?」「ぎっ!?」「ぐっ!?」
続いて、流れるような動きでカンシチ鉄烏は三発同時に矢を発射。城壁の上からこちらを狙っていた弓兵を逆に撃ち抜く。今の彼なら止まっている的など目を瞑っていても当てられるであろう。
「問題は門の内部にどれくらい人が……」
「ジョーダン!!!」
「!!?」
聞き馴染みのある、けれどできることなら二度と聞きたくなかった声が頭上から響いた。
復讐鬼と化した朱操が赤き蛇、蛇連破を纏って襲撃してきた!
「徐勇の仇!その命で罪を償え!!」
蛇連破はバカの一つ覚えのように蛇頭腕を黄金の龍に向かって伸ばす!
応龍はこれまた前回の再放送のように盾を構える。しかし……。
「お前の相手はこのオレだ!!」
ガギィン!!
「貴様!!」
「セイ!?」
オレンジ色の撃猫が応龍の前に飛び出し、拳で蛇頭腕を受け止めた。さらに……。
「違うだろ、セイ!“おれ達”だ!!」
バシュッ!!
「ちいっ!?」
カンシチ鉄烏が蛇連破の本体に矢を放つ!たまらず赤き蛇は後退する。
カンシチ鉄烏はそのままマウから降り、撃猫の隣に並んだ。
「セイ!カンシチ!キミ達……」
「ここはおれ達に任せて、早く行け!ジョーダン!シュガさんと玄羽さんも!」
「悔しいが、お前達三人がこの反乱軍の最強戦力だ。そんなお前達を下らないことで消耗させたくない」
「下らないだと……!」
友の仇討ちをバカにされたと感じた朱操はターゲットを黄金の龍からオレンジの猫と青赤の烏へと変えた。二人の思惑通りだ。
「行け!ジョーダン!!お前がこの戦いを終わらせるんだ!!」
「カンシチ……」
カンシチはジョーダンに背を向けたままだった……ままだったが、ジョーダンはその背中から放たれる強い想いを感じ取った。
輪牟の村から始まり、助けられてばかりだったカンシチは一の門の活躍を経て、ようやくジョーダンと並び立ったのだ。
「わかった!今のお前なら、朱操を任せられる!」
「おうよ!」
「セイも怪我がなければ、イケるだろ!」
「当然だ」
「なら……お言葉に甘えさせてもらう!シュガ!玄羽さん!」
「「おう!!」」
黄金の龍は銀狼と拳聖を引き連れ、その場から去って行った。
残ったのは三人……杏湖の時と同じマッチアップだ。
「あの湖の畔の時のように嬲り、いたぶり、そして殺し!お前らの首を持ってジョーダンを追いかけるとしよう……あいつに俺と同じ気持ちを味わわせてやる!!」
「それはこっちのセリフだ!あの時とは違うこと……」
「たっぷり味わわせてやるよ!!」
「邪魔!」
「ぐあっ!?」「ぎゃっ!?」
ジョーダン達は後ろ髪を引かれながらも、矢の雨をくぐり抜け、守衛をあっさり退け、門の内部に侵入する入口までたどり着いた。
「ネニュファール」
「ヒヒン」
応龍はネニュから降りると彼の首筋をそっと撫でた。
「お前はこの入口から敵が入って来ないように、守ってくれ」
「ヒヒン!!」
白い機械仕掛けの獣は「了解した」と嘶くと、人型形態に変形し、入口の前で仁王立ちになった。
「じゃあボク達は……」
「突入だ!」
ドゴォン!!
三人は扉を蹴り壊し、要塞のような門の内部に侵入した。
内部は狂気と熱気が充満した外の戦場とは真逆で、静かで肌寒かった。
「中に兵はいないみたいだな」
「油断は禁物ですよ。この静けさも策の一つ、罠があるかもしれません」
「わかっておるよ」
三人は先ほどまでと打って変わって、お互いの死角をカバーしながら、ゆっくりと進んで行く。
特にシュガはいつもの堂々とした姿が嘘のように、キョロキョロと目線を忙しなく動かした。
「……岳布か?」
「……はい」
シュガが警戒していたのは、罠ではなく盟友の岳布の存在だった……幸か不幸か無駄な心配だというのに。
「あいつは外にいなかった……となると……」
「門の内部にいる」
「だが、気配を感じない」
「だとすれば、ラクの奴と一緒にいるんじゃないか?」
「それとも虞籍の時のように地下牢にでもぶち込まれたか」
「そうだったらいいんですけど……」
どの推察も外れ。彼らがあえて口にしなかった真っ先に思い付いたそれが正解である。いや、彼らが思っている以上に岳布は最悪な状態にあると言った方がいいかもしれない。
“あれ”をまだ岳布と言うなら……。
「どうやら……着いたようだよ」
先頭を歩いていた応龍が大きな扉の前で立ち止まった。
「手に入れた図面ではここが一番大きな部屋だが……」
「傲慢なあいつのことだから……きっとこの中に!!」
扉に手を置くと、躊躇なく開けた。そこには……。
「やぁ、煌武帝の忠臣の墓以来だね、兄さん」
「諸葛楽……!!」
青銅色の仮面を着けた男が一人、だだっ広い部屋の真ん中でポツンと立っていた。
「宰相様がこんな広い部屋で……寂しいこったな」
「わざわざ兄さんと二人になるために、他の者には出て行ってもらったんだよ」
「じゃあ、悪いことしたな。勝手にツレを呼んじゃって……!」
銀色のシュガと紫色の闘豹牙が前に出て構えた。いつでも戦闘に入れるように心も身体も臨戦態勢だ!
「お邪魔させてもらうぞ、宰相様……!!」
「お前が全身全霊をかけて作ったという蚩尤とやらの力、この拳聖に見せてみろ」
反乱軍最強の二人に睨み付けられた諸葛楽。普通の者なら気圧され、腰を抜かすところだが、彼は……嗤った。
「……何がおかしい?」
「いや……予想通りの展開過ぎてね。ちゃんと用意しておいて良かったよ……『刑天 (けいてん)』……!!」
ドゴォン!
「「「!!?」」」
「グルオォォォォォォォッ!!!」
天井を突き破り、唸り声を上げながら黒と金色の禍々しい骸装機が降ってきた。それは着地すると同時に……。
「グルオォォォォォォォッ!!」
「な!?」
「にいっ!?」
ガシッ!!ドゴォン!!!
一気にシュガと闘豹牙に接近すると、手練れ二人に反応もさせずに頭を掴み、そのまま今度は壁を突き破り、外に出て行った。
「シュガ!玄羽さん!!」
ジョーダンは二人の名前を呼んだ!いや、それしかできなかった。彼はこの場に踏みとどまらなければいけなかったのだから……。
「そちらの最強のカードには、こちらも最強のカードをぶつけさせてもらうよ」
「ラク……!!」
諸葛楽は刑天の活躍に満足そうな笑みを浮かべながら、ゆっくりと応龍に歩み寄った。
「あの刑天は我が発明の中でも蚩尤に次ぐ傑作だ。こと戦闘に関しては一番と言っていい」
「ボクと応龍に使うにはもったいないか……?」
「あぁ、黄金の龍を狩るのは同門であるワタシとこの蚩尤の役目だ」
仮面が眩い光を放つと、青銅色の軍神が降臨。黄金の龍と相対する。
「三年前とこの間の遺跡……これで三度目か。二度あることは三度あるって言葉が事実であることを教えてあげよう、兄さん」
「三度目の正直って言葉知らないのか、愚弟……!!」




