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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第一部
43/163

激突?二の門

「ど、どうしてこうなった……!?」

 二の門の城壁の上で、散々たる光景を目の当たりにした張昆は思わず心の声を口から出してしまう。

 城壁の下では官軍が反乱軍に一方的に、かつ徹底的にやり込められていた。

「うへぇ、なんかここまで来ると敵だったとしてもちょっと可哀想になるな」

 キトロンは見てられないといった様子で、片目を瞑り、顔をしかめた。

「治安維持部隊の隊長なんて、要は自分達を監査し、処罰してきた奴だからね。しかも張昆という男は“死神”と呼ばれるほど厳しかったらしいし」

「そんな奴の下で戦えって言われても、モチベーション上がんないか」

「聞き耳立てて、ゴシップ集めたり、難癖を考えるのは、得意だったのかもしれないけど、一軍の将として兵を指揮するにはあまりに人望が無さ過ぎる」

 明らかにやる気のなさそうに戦場を右往左往する兵士を見て、張昆とは自分の推測通りの人物なのだなと、ジョーダンは呆れ返った。

「シュガの旦那が黙っていたのも、わざわざ言う必要がなかったってことか。対策も何も要らねぇもんな、このレベルじゃ」

「あぁ、こんなしょうもない戦、ちゃっちゃっと終わらせよう。文功」

「はい!」

 いつもの柔和な顔とは打って変わって、凛とした表情の文功が前に出た。そして……。

「“炎術隊”!構え!!」

「「「はっ!!!」」」

 賛備子宝術院の戦闘部隊に命令を下す。

「さぁ!できる限りド派手に頼むよ!!」

「「「おおう!!!」」」

 同じ制服に身を包んだ集団が一矢乱れぬ動きで、手を前方に翳すと、その前に燃え盛る炎の球が出現した。それを……。

「てえっ!!」


ボオン!ボオン!ボボオン!!


 文功の合図と共に空中に発射する。火球は官軍の上に到達すると……。


ドゴォン!ドゴォン!ドゴドゴォン!!


「ひいっ!!?」

「な、なんだ!?」

 狙い通りド派手に爆音を戦場中に響き渡らせた。その音が、ただの音がさらに不利な状況の中、心をすり減らしている官軍の兵士の精神を削る。さらにだめ押しで……。

「カンシチ、今回もお願いね」

「おう!面倒だが、前回のミッションに比べたら余裕だぜ」

 その言葉の通り、カンシチ鉄烏は余計な力の抜けた穏やかなフォームで弓を構えると……。

「ほい!ほい!ほいっと!」

 立て続けに矢を三本放った。その矢は官軍の兵士達に……。


キン!キン!キン!!


「「「ッ!!?」」」

 当たらなかった。三本ともわずかに黒い鉄烏の頬の装甲を掠めただけである。でも、それでいい、それがいいのだ。

「ふぅ……わざと外すってのは、当てるよりも気を使うな」

「けれど、その成果は十分だよ。ほら」


「もうやってらんねぇ!」

「こ、降参だ!降参!!」

「大人しく投降するから命だけは助けてくれ!!」


 カンシチの矢は敵兵の戦意を見事に撃ち抜いていた。完全に心の折れた彼らの言葉は炎術隊の攻撃で心を削られた周りの者達にも波及していく。


「お、おれも降参!ギブアップだ!!」

「あんな奴のために命なんて懸けられるか!懸けてたまるか!」

「そもそも今の姫山皇帝に忠誠を尽くす価値などない!!」


 官軍の兵士達は次々と武装を解除し、両手を上げて降参した。最早、戦闘の継続は不可能。これにて反乱軍、二の門攻略……でいいはずなのだが……。

「ボク的にはこれで終わりでいいんだけどさ……」

「あの人は不完全燃焼だろうね」

「あとで憂さ晴らしの組手なんかに誘われたくないので……シュガ!」

「おう!」

 ジョーダンのお願いに応え、シュガは幻妖覇天剣を巨大化させる。

「それでは……玄羽様!」

「はいよ」

 その巨大化した刀身に既に闘豹牙を装着した玄羽を乗せた。そう、これはカタパルトである!

「いきます……よ!!」

 シュガがその膂力で幻妖覇天剣をおもいっきり振ると、刀身の上にいた闘豹牙は勢いに乗って吹っ飛んで行った。

 晴天の空を紫色の弾丸が駆け抜ける!そしてあっという間に目的地に到着!

「よっと!」

 闘豹牙は二の門の城壁の上に、この戦の責任者である張昆の前に降り立った。

「紫色の骸装機……け、拳聖玄羽か……!?」

 一の門陥落の知らせを聞いた時の威勢はどこに行ったのかと突っ込みたくなるほど、張昆は狼狽した。

 その状態なら制圧も容易いのだろうが、それは玄羽の望むところではない。

「おいおい、ビビってるんじゃないよ。これは考えようによってはチャンスだぞ」

「チャンス……?」

「わしを総大将であるお主が討ち取れば、軍も息を吹き返すかもしれない」

「あっ!?」

「仮にそれが無理だったとしても、わしの首を持ち帰れば宰相もお主のことを悪いようにはせんだろ。なんだったら慇や是に鞍替えするのもいいかもな。きっと引く手数多だ」

「……そうだな……!!」

 消えかけていた張昆の闘志の炎が再び燃え上がる……敵の励ましによって。その炎が鎮火しないように、おもむろに腰に差した剣を握り締める。

「そうだ……お前を倒せば……おれの名は天下に轟く!そしておれにはその力があるはずだ!そうだろ!銅鷺!!」

 剣を抜くと同時に、名前の通り銅のような色をした装甲が張昆を覆う。その手には大きな鎌が握られており、それを……。

「我が名声の糧になれ!拳聖!!」

 目の前の紫色骸装機に躊躇なく振り下ろす!しかし……。

「振りが大きいな」


ヒュッ!!


 闘豹牙は最小限の動きで回避する。敵にアドバイスを送り、目の前ギリギリを通る鎌の刃紋をじっくり観察するぐらい玄羽には余裕があった。

「くっ!?老いぼれが!舐めた口を訊くな!!」

 銅鷺は地面に激突しそうになった鎌を力任せに止め、刃を横に向けるとそのまま薙ぎ払った。けれどこれも……。


ヒュッ!!


「それだけの大きな得物を扱いながら、その速度で連続攻撃が放てるというのは、さすがだな」

「――ッ!?」

 闘豹牙は地面すれすれまで身体を反らし、今回の攻撃も躱した。言葉では褒めているが、そうも簡単に避けながら言われては、説得力がないというか嫌味にしか聞こえない。

「くそッ!!舐めやがって!!」

 怒りを迸らせながら、銅鷺は鎌を再び振りかぶる……が。

「残念。その鎌はもう使い物にならない」

「何……」


バリィン!!


「――を!!?」

 銅鷺の頭上で鎌の刃が粉々に砕け散った。キラキラと太陽光と自分の愛機の姿を反射しながら降り注ぐ破片を見ながら、張昆は自分の認識があまりに楽観的だったかを痛感した。

(見えなかった……奴の攻撃が一切見えなかった……!!避けながら攻撃していたのか!?それともその前後か!?それすらもわからない……!!)

 張昆は早くも後悔の念に苛まれていた。あの拳聖を倒そうなど、身の程知らずにも程があったと。

 しかし、同時に既に刃を向けてしまっているからか、ある種の開き直りの境地に達していた。

(奴の攻撃を分析する暇も、まんまと口車に乗ってしまったことを悔やんでいる暇もおれにはない!!おれが今すべきことは……生き残るためにすべきなのは!これだぁ!!!)


ガシッ!!


「おっ」

 刃を失った大鎌を投げ捨て、銅鷺は闘豹牙を抱きしめた。久しぶりに再会して盛り上がっちゃった恋人のように熱烈な抱擁を交わしたのだ。

 その突飛にも思える行動を、抱きしめられた玄羽は高く評価した。

「ナイス判断だ、張昆よ。第四世代の骸装機で内蔵武装がなく、パワーもお前のマシンよりも劣っている闘豹牙にはそうやって密着するのが、正解だ。治安維持部隊などというから、弱い者いじめしかできないヘタレかと思ったが、一端の戦士じゃないか」

「拳聖にそこまで言われて、おれも鼻が高いよ……だが!一端の戦士ではなく、一流の戦士だ!お前を倒すほどのな!!」

 張昆は全身の力を両腕に集中させる。そして……。

「ハグ&デス!!抱き締め殺しや――」


ボォン!!


「――る……はっ!!?」

 芯を貫くような鋭い衝撃が全身をかけ巡り、強制的に酸素を吐き出させられる。張昆はいまだに攻撃を受けたと理解していない。

「お主の策は常識的に考えれば、何ら間違ったことはない。ただ!この拳聖玄羽!常識なぞ軽々と超えた存在!髪の毛一本分の隙間さえあれば、お主を殴り殺すなど容易いことよ!!」


ボォン!!


「――がはっ!?」

 二発目の超超至近距離からのボディーブロー炸裂!これにはたまらず銅鷺は抱擁を止め、よろよろと後退りする。見ての通り、身体もグロッキーだが、それ以上に闘争心が粉砕されてしまった。

「ま、参った……おれの負けだ……だからこれ以上は……」

 最早、戦士としてのプライドも粉々になった張昆には、目の前の相手に許しを乞うという選択肢しか残っていなかった……いなかったが。

「はて……最近、年のせいか耳が遠くての……」

「――ッ!?」

 拳聖玄羽は彼の必死な懇願に唾を吐き、踏み潰した。

「さ、散々、おしゃべりしたじゃないか!?」

「あ~あ~、聞こえない。何にも聞こえない」

「嘘をつくんじゃないよ!このくそジジイが!!」

「誰がくそジジイだ!!!」

「やっぱり聞こえ――」

「でりゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!!


「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 パンチ!パンチ!キック!パンチ!ジャブ!ジャブ!ストレート!フックにアッパー!ボディーブロー!前蹴り!回し蹴り!膝蹴り!下段!中段!上段!さらにパンチ!パンチ!パンチ!パンチ!!

 目にも止まらぬスピードでありとあらゆる打撃が銅鷺に撃ち込まれた。舞い散る装甲の破片、砕ける骨の音、銅鷺は刹那でボロ雑巾と化した。

 誰が見ても勝負は決した……決したのに、それでも拳聖は止まらず両腕を引いて力を込める。

「これで仕上げだ!双拳!骸装通し!!」


ボボォン!!


「――がっ!?」

 撃ち出された二つの拳が立っているのもやっとな銅鷺にぶつけられると、装甲は一切破壊せず衝撃だけが通り抜け、張昆の五臓六腑を揺さぶった。

 その一撃で意識は完全に漆黒の闇に沈み、壊れたマスクの奥から真っ赤な血を吐き出しながら、張昆は前のめりに倒れ込んだ。

「恥じることはない。拳聖を相手によくぞここまで戦った……って、聞こえてないか」



「いくら何でもやり過ぎだろ……」

 遠目で玄羽対張昆という結果の分かり切った戦いを観察していたセイだったが予想を超える虐殺劇を目撃した結果、敵であり、彼が最も嫌いなタイプの人間であるはずの治安維持部隊隊長に同情をしてしまった。

 何はともあれ一の門突破から三日、二の門の戦い、反乱軍の圧倒的勝利で決着である。

「はいはい!勝ちました!嬉しいですね!これで喜ぶのはおしまい!次の三の門の話をするよ」

 早くも気持ちを切り替えたジョーダンが手をパンパンと叩いて、他の者もそうするようにと促しながら、みんなを集める。

「ちっ!また余韻なしかよ……」

 不服そうにしながらもセイは大人しくジョーダンを中心とした輪に加わった。

「さてさて次の三の門だけど、まぁ普通に考えれば、最終決戦になるわけですな」

「あぁ、多分王都を戦場にしようとは、思わないだろう」

「兵士も前回や今回のように、この戦いに疑問を持っているような人達じゃなくて……」

「きっちりばっちり忠義溢れる精鋭部隊で固めてくるだろうな」

「相手は全戦力を投入してくる……ってことは……!!」

 みんなの顔が鬼気迫るものに変わった。彼らの脳裏には思い思いの因縁の相手の顔が浮かぶ。

「奴は、黄括は前線に出てくるだろうか……いや、出て来なくても、必ず見つけてオレが取っ捕まえてやる……!!」

 セイは固く拳を握り締めた。

「朱操の奴もいるだろうな。きっと徐勇のことで我を失っている。何が何でもジョーダンを殺しに来るはずだ、空気も読まずに。けど、させない……!必ずおれがジョーダンを因縁の宰相の下に送り届けてやる……!!」

 カンシチは鼻の下を親指で勢いよく拭った。

「灑の国に忠誠を誓う最強の戦士、岳布……我が盟友もきっと……」

 シュガはそっと目を伏せた。

「ようやくここまで来たぞ、ラク……!!先生の命を奪った罪!そしてこの灑の国をもて遊んだ罪!必ずお前の命で償わせてやる!!」

 ジョーダンは二の門を、いやその先にある三の門を睨み付けた。

 彼らの推測の通り、因縁の相手は全て三の門に集結していた。

 しかし、その日の夜、彼らの想像を超える展開がそこで巻き起こることになる……。


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