勝利の鍵
官軍と反乱軍の初戦が行われたその日の夜、あの激闘が夢か幻かと思えてしまうほど静まり返った戦場を朱操と徐勇は城壁の上から見下ろしていた。
「……勝った……んだよね?」
「あれが勝利でなければ、何が勝利か。間違いなく我が軍の、俺達の勝利だ……!」
言葉とは裏腹に朱操の顔は険しかった。彼にはわかっているのだ、このままあの執念深いおさげメガネが引き下がるわけないと……。
「勝ったんなら、もっと嬉しそうな顔すればいいのに」
「ふん!放っとけ」
「ふふっ」
さらに眉間にシワ寄せた幼なじみの姿に徐勇は苦笑いした。
「でも、何で追撃しなかったの?あのまま追って行けば、さらに深刻なダメージを与えられたはずだと思うんだけど……もしかして今まで見逃してもらった借りを返したつもり……?」
「ふっ、そんなんじゃないさ」
どうやら大きな勘違いをしている徐勇を朱操は鼻で笑った。
「あくまでこの一の門の防衛を最優先したまでだ。あいつらの軍は情報よりも遥かに数が少なかったからな。俺達が追撃して、手薄になった門を別動隊が攻める可能性を考えた」
「なるほどね。でも、僕個人の意見を言わせてもらえば、数の少なさは広範囲、高火力攻撃が自慢のファイアーパンダー対策だと思う。そもそも初戦はそれが出てくるかどうかを見極める様子見のつもりだったんじゃないかな?」
徐勇の読みの方が正解に近い。ただ様子見するつもりはなく、反乱軍はこの数でも朱操率いる軍相手なら、シュガや玄羽を始めとした個人の武力で圧倒できるとたかを括っていたのだ。
「……お前がそう思うなら、それが正しいのかもな」
「いや、自分で言うのもなんだけど少し楽観的な気がするし、どうだろ?」
「まぁ、どちらにしてもあの状況で追撃はしなかったがな」
「理由は?」
徐勇の軽い問いかけに、朱操は表情を強張らせ、ギリッと歯を食い縛った。
幼なじみの質問に気を悪くしたのではない。
自分の不甲斐なさを最認識して、それに怒りを覚えたのである。
「あいつは……!ジョーダンは無傷だった……!あいつのマシン、応龍には遺跡で見た強力な竜巻を発射する兵器が搭載されている……!」
「確か……嵐龍砲だっけ?」
「あれはどうやら未完成の欠陥品のようだが、追い詰められたら、奴なら迷わず撃つだろう」
「なるほど……そうなったら、こちらも不必要な損害を受ける……君はそれを嫌ったわけか」
「あぁ……俺が奴をもっと痛めつけていれば、あのまま……!!」
朱操は怒りで叫び出しそうになった。しかし、それをぐっと押し留める……そのエネルギーを解放するのは次に奴と相対する時だと。
「奴はまたここに来る……!その時こそ、決着の時だ……!!」
朱操は漆黒の夜空で、一際強く輝く星を睨み付けた。
「こっち!誰か手伝ってくれ!」
「包帯や薬!足りないものはないか!」
「くそ!駄目だったか……!!」
盤古門、一の門攻略のために設営された拠点。本来の予定通りに事が進んでいたならば、すでに撤収に取りかかっていたはずのその場所は、多くの怪我人が運ばれ、その治療のためにこれまた多くの者が奔走し、さながら病院のようだった。
「ふぅ……これでよし!」
「ありがとうございます、文功様……」
「これがこの軍での私の役目だからね。当然のことをしたまでさ。それよりもゆっくり休みなさい、私の宝術などあくまで応急処置なんだから」
「はい……」
文功の言葉に従い、包帯に包まれながら横たわっている兵士はそっと瞼を閉じた。
「後のことは任せます。異変があったら、すぐに呼んでください」
「はい」
「……ふぅ、次は……」
治療の引き継ぎを終え、汗を拭いながら文功は次の患者の下へと向か……おうとしたのだが。
「おいおい!あんたも少し休まないと、ミイラ取りがミイラになっちまうぜ!」
「キトロン」
小さな起源獣ルツ族のキトロンが文功の前に立ち塞がった。嫌がらせではなく、彼を慮って。
「こいつの言う通りだ、文功さん。ほい、水」
「あっ!?カンシチさんありがとうございます」
「大分落ち着いたし、休憩の一つ取ってもいいだろ?」
「……そうですね」
さらに後から来たカンシチが水を手渡す。周りを見渡すと、ボロボロの反乱軍が戻って来たばかりのあの混乱極まる最悪の状況はなんとか脱していたので、文功は彼の指示に従うことにし、水を口に含んだ。
「ふぅ……人生で飲んだ水の中で一番美味しいかも」
「そりゃあ良かった」
「……大変でしたね」
「……あぁ」
文功もカンシチも無理やり明るく振る舞おうとしたが、やはり到底不可能なことだった。ここまで完膚なき敗戦を喫するとは夢にも思っていなかったのだから……。
「まったく……情けないぞ!お前ら!」
「キトロン」
「下向いてたって仕方ないだろ!全滅したわけでもないんだから、対策を考えて、リベンジすりゃいいだろう!それができるチームだろ!」
暗い雰囲気が苦手なキトロンが渇を入れる。特に根拠もない強がりだったが、今のカンシチ達にはその前向きさが必要だ。
「……だな!変えられない過去よりも、変えられる未来のことを考えた方が有意義だよな!」
「そうだ!そうだ!」
「ええ。ですが、リベンジするならきっちり敗因も分析しないと」
「あっ……そっか、そりゃそうだよな」
「つっても、敗因は明確……蛇炎砲とかいう、新兵器だろ?」
「確か、ロックオンしたターゲットをどこまでも追って来る弾を撃つんですよね?」
「あぁ……今、思い出してもゾッとするぜ……!ファイアーパンダー対策に少数精鋭で行ってなかったら、きっともっとひどい有り様になっていただろうな……」
カンシチは恐怖の記憶に身震いすると同時に、偶然の産物だが、最悪の結末を避けられたことに胸を撫で下ろした。
「文功、宝術師でどうにかできる奴いねぇのか?」
「いやいやいや!!とてもじゃないですが無理ですよ!!話を聞く限りでは、皆で力を合わせて炎や水、土で何重にも壁を作っても貫かれてしまいます!何より数が凄まじいので広範囲にこちらも防御を広げなければいけない……そうなったら一ヶ所あたりの防御は薄くなりますし……」
文功は始めは首や手をブンブンと勢いよく振っていたが、話しているうちに自分の言葉の情けなさに元気を無くして行った。
「ん~、そっか」
「すいません……」
「別に謝ることじゃないけどよ……つーか、こうなったらあの二人頼みか……」
「灑の銀の剣と是の拳聖か」
「うん、そう。結局シュガの旦那と玄羽のじいさんの力技でどうにかできたんだろ?なら、問題ないんじゃないか?」
「それは残念ながら、無理だな」
「シュガさん!セイ!」
三人ぼっちの反省会兼作戦会議に、獣人とトレジャーハンターが合流した。
二人とも若干疲れた顔をしていたが、特に変わりがないように見える。ただ一点を除いて……。
「無理って……シュガさんもケガを!?」
「いや、疲労困憊ではあるが、幸いにも負傷はしてないよ」
「だったら……」
「こいつさ」
シュガは腰に差した幻妖覇天剣の柄をポンポンと叩いた。そう、これが唯一の変化、普段は限界まで幻妖覇天剣を小さくして、耳に仕舞っているシュガが普通の剣のように腰に差しているのだ。
「幻妖覇天剣……どうかしたんですか……?」
「こいつはダメージを受け過ぎると、しばらく大きくも小さくもできなくなるんだ」
「マジかよ!?」
「そんな!?」
「それは一時的なものですよね……?」
三人は強面なシュガの顔を心配そうに覗き込んだ。
シュガはそんな三人に対して……満面の笑みを咲かせた。
「安心しろ!こいつは骸装機と同じく自己修復機能がある!一日もすれば全快だろう!」
「ほっ……」
「ビビらせないでくださいよ……」
「うんうん!カンシチの言う通り!性格が悪いぜ、旦那!」
幻妖覇天剣の無事を聞き、三人は安堵の表情を浮かべる。シュガと幻妖覇天剣の組み合わせは戦力以上にこの反乱軍の心の支えになっているのだ。
しかし、当のシュガの顔は三人とは逆に笑顔から真剣な面持ちへと変化する。
「せっかく上がったテンションを下げるみたいで悪いが、冷静に考えてみろ。それってつまり蛇炎砲の砲撃は一発でこの幻妖覇天剣を一日以上使用不能にする威力があるってことだぞ」
「「「…………あ」」」
シュガの言う通り、三人のぐんぐんと上がっていたテンションは一瞬でほぼ直角に下方へと折れ曲がった。
「じゃあ……」
「最初に言ったろ?あれを俺の力で止めるのは無理だ」
「ってことは、玄羽のじいさん頼み……」
「あのジジイも無理だってよ」
ここにいない玄羽に代わってセイが答える。その姿は弟子と言われても仕方のないほどしっくりしていた。
「セイ、玄羽様は?」
「年寄りは早寝早起き、今日は特に疲れたからもう寝るってよ」
セイが後方にあるテントを親指で指差すと、その入口から見覚えのある骨と皮だけの細い手足が投げ出されていた。
「まっ、半分本当、半分強がりだ。あの蛇炎砲からオレ達を守った技、かなり体力を消耗するみたいだからな。ついでに言っておくと、闘豹牙は反動でひどい有り様、覇天剣と同じくしばらく装着できないとさ」
「じゃあ、玄羽のじいさんに頼るのも駄目か……」
「自軍最強戦力二人を犠牲にして、一発止めるだけしかできないとは……」
「その一発止めた後、二発目撃つまでになんとかしてあの蛇炎砲を制圧するとか?」
「なんとかって、どうするんだ?きっと次はこちらが蛇炎砲を狙うだろうと、ガチガチに防御を固めてくるぞ。あの訳のわからん光の膜もあるしな」
「だったら!……どうするんだよ……!」
「…………」
いい案が思いつかず、五人を沈黙と絶望が包み込む。こんな最悪の空気を打ち破るのは六人目……あの自称天才のおさげメガネしかいない!
「やぁやぁ!お困りのようだね!」
場違いなはしゃいだ声でジョーダンが合流。皆の冷たい視線を一身に集める。
「ずいぶんご機嫌だな」
「つーか、どこ行ってたんだよ?」
「ペペリに連絡取ってた」
「ペペリに?」
「あぁ、彼と雪破で色々と実験したけど、その中で蛇炎砲の攻略に使えそうなものがあったことをふと思い出してね。それを届けてくれるように手配していた」
「「マジかよ!?」」
カンシチとキトロンがきれいにハモると、ジョーダンは誇らしげにピースをした。
「本当にそれがあれば、あの蛇炎砲をどうにかできるのか!?」
「いや、あくまでそれは攻略の第一段階に必要なだけ」
「他にも行程が、やらなければいけないことがあるのか?」
「あぁ、そのためには蛇炎砲というものをもっと深く理解しなければならない」
「蛇炎砲を……」
「理解……」
「あっ!おれっちピンと来たぞ!!」
皆が首を傾げる中、何かを思いついたキトロンが指をパチンと鳴らした。
「どれどれ、ルツ族の俊英の考えとやらを聞かせてもらおうかな?」
「お前が届けてもらおうとしているのは制式仕様の鉄烏!つまり黒い鉄烏だ!」
「どうしてそう思う?」
「蛇炎砲は敵と味方を区別していたんだろ?きっと黒い鉄烏以外を攻撃するようにプログラミングされていたに違いない!だから、こっちも黒い鉄烏を装着すれば攻撃されない!どうだ!?」
「「おお!」」
カンシチとセイは素直にキトロンの案に感心した。しかし、肝心のジョーダンはというと、なんとも言えない複雑な表情をしている。
「うーん……25点ってところか……なっと!」
「うおっ!?」
ジョーダンは優しく人差し指でキトロンの頭を押した。
「25点?全然じゃねぇか!」
「いやいや、正直驚いてるよ。敵味方の識別の方法に着目するなんて、中々見所がいい」
「そ、そうか?」
褒められて満更でもなさそうなキトロンは顔を赤らめ、頭の後ろで手を組んだ。
「それで蛇炎砲はどうやって敵と味方を識別しているんですか?さすがにキトロンの言ったように色を区別しているわけはないですよね?」
「その通りだ、文功。考えられる方法は大きく二つ、味方以外を攻撃しているか、もしくは敵を一人ずつロックオンしているかだ?」
「えっ!?味方以外!?一人ずつ!?全然わかんねぇだけど?」
カンシチは頭の上に大量の?マークを浮かべた。セイは済ましているが、内心は彼と変わらず何一つ理解していない。
そんな二人に呆れつつも、どこか嬉しそうにジョーダンは口を開いた。講釈垂れるのが大好きなのである。
「まず一つ目はキトロンの言った方法をより高度にしたやり方さ」
「おれっちの?」
「キトロンは色で区別と言ったが、色ではなく、骸装機が放つ信号で区別を行っているって可能性がある」
「信号……それを発している者以外を攻撃しているってことか……」
「うん、多分味方以外の熱源や動体反応でターゲットを決めているんじゃないかな。彼らがマウに乗っていなかったのも、こちらと区別がつかず巻き添えを食らう可能性があったから。まぁ、これは単純に門の周りに引き寄せたかったからかもしれないけどね」
「じゃあ、敵の鉄烏を奪ってその信号を解析すればいいんじゃねぇ?そうすればキトロンが言っていたように、攻撃が来なくなるはず」
「きっとボク達の手に信号のデータが渡ったと思った時点で、新しい信号に切り替えるよ」
「そっか……いい案だと思ったんだけどな」
「一つ目についてはわかった。では、二つ目の敵を一人ずつというのは……」
「それはそのままの意味さ、シュガ。ボク達一人ずつに地道に照準を合わせていたかもって話。朱操はエネルギー充填って言っていたけど、それは半分ブラフで、本当はターゲッティングに時間がかかってたんじゃないかな?」
「個人的にはそちらの方がありそうだな。エネルギーなら先に溜めておいておけばいい。そして開幕と同時に発射するのが、一番効率がいい」
「もしかしたら膨大なエネルギーが必要だから、長時間留めておくのが、無理な可能性もある。決め付けは良くないよ」
「……そうだな」
「ただ後者が正解で、エネルギーも先にチャージできるなら、今日の戦いでボク達のデータが残っているはずだから、次は本当に開幕で撃ってくるかもね」
「マジか……」
再び重い空気が周囲を包む……と思われたが。
「長々としゃべっているけど、それでどうやって攻略するんだよ?」
「「「……あ」」」
いつの間にか攻略法よりも、蛇炎砲の存在自体に興味が行っていたのを、キトロンが諌める。これには皆が皆、深く反省した。
「確かに……キトロンの言う通りだ」
「あぁ、大事なのは今の情報がわかったことで、おれ達に何ができるのか……!」
「いや、今の話は攻略どうこうには関係ない、余談だよ」
「「「関係ねぇのかよ!!!」」」
今度はジョーダン以外の五人の声が見事にハモった。
「関係ないことを何で話すんだ!!」
「だってキトロンが敵味方の区別について言い出すから」
「人のせいにすんなよ!つーか!それならおれっちの答え、25点どころか0点じゃねぇか!!」
「でも、目のつけどころは面白かったし」
「今は面白い面白くないはどうでもいいんだよ!!」
「少し落ち着け!みんな!気持ちはわかるが、落ち着け!これ以上、話を逸らすな!!」
「ぐうぅ……!」
シュガの必死の訴えで、カンシチ達は言葉の矛を収めた。
皆が冷静さを取り戻したのを確認すると、シュガは自分の心から苛立ちを追い出すように一回息を吐くと、ジョーダンの方を向き直した。
「それで丞旦、結局攻略法というのは何なんだ?できるだけ寄り道しないで、簡潔に教えてくれ」
「わかりました。えーと、まずはあの蛇炎砲というのは、かつて諸葛楽が研究していた『旱魃砲 (かんばつほう)』というのが元になっている」
「旱魃砲……それも蛇炎砲のような恐ろしい対人兵器だったのか?」
「いや、本来の用途は紅蓮の巨獣対策だよ」
「紅蓮の巨獣って、あの煌武帝と伝説の巨神盤古が倒したっていう、あれか?」
「そう、あれだよ」
「あれは煌武帝の名声を高めるためのおとぎ話じゃないのか?」
「ラクはそうは思っていなかった。もしかしたらまたいずれこの猛華に姿を現すかも、そうでなくとも巨大な起源獣対策にそれなりの大きさで、運搬でき、それでいてどんな相手でも倒せる威力を持った大砲が必要だと信じていた……この猛華の、世界の平和のために……」
「兄さん!これ見てください!この旱魃砲ができたら、きっと起源獣災害で悲しい思いをする人が今よりずっと少なくなるはずです!」
ふと無邪気な笑顔で自分の発明品の図面を見せてくる弟弟子の姿が脳裏に過った。
懐かしく温かい気持ちが一瞬ジョーダンを包んだが、すぐにどうしてこんなことになってしまったのだというやりきれない怒りが湧いて来て、拳に自然と力がこもった。
「ジョーダン?ジョーダン!!」
「おっ!?」
「おっ!?じゃねぇよ!続き続き!」
「……そうだね」
カンシチの声で我に返ったジョーダンは気持ちを新たに再び語り始めた。
「それで、その旱魃砲を対人用の追尾弾が放てるマシンに改造したのが、蛇炎砲なんだけど、あれには先生の絶対防御気光が搭載されていた」
「絶対……なんて?」
「絶対防御気光、キミの矢を弾いた光の膜だよ」
「あぁ!あれか!!」
カンシチは合点がいったと、手をポンと叩いた。
「あれは本来は骸装機用に研究されていたもので、膨大なエネルギーが必要だから、先生はとりあえずエネルギーに余裕のある完全適合した特級骸装機への搭載を試みていた。全ての攻撃を弾き返し、逆にこちらからの攻撃は全て通過する無敵の盾としてね」
「ん?あのバリアを張ったまま攻撃ができるのか?でも蛇炎砲は……そういうことか……!」
「そういうことだよ、シュガ」
一足早くシュガが答えにたどり着いた。しかし他のみんなはまだ迷路の中、首を右に左に傾けている。
「んん~?どういうことだ?もう疲れたから、答えを教えてくれないか?」
「答えも何も今シュガが言った通りだよ。蛇炎砲に搭載された絶対防御気光は不完全、何らかの理由で砲撃の時には解除される……そこを狙い撃つ!」
「「「!!?」」」
「なっ!?でも確かにそれなら……いや……」
カンシチは一瞬の驚きの後、これまた一瞬だけ笑顔を覗かせたが、すぐに暗い表情へと戻った。彼の頭でもそれがどんなに無謀なことか理解できたのだ。
「ジョーダン……言うのは簡単だが、それは不可能だ。蛇炎砲の発射のタイミングなんてわからない、ならば狙撃も無理だ」
「狩りの真髄は獲物をよく観察することだったね、キミの父上曰く」
「そうだ。観察できなければ、狩ることなど不可能」
「だから観察させてあげるよ、じっくりと……キミとキトロンにね」
「ん?」
「カンシチとおれっち?」
カンシチとキトロンはお互いを何度も見つめた。だが、何度見てもジョーダンの言っていることが理解できなかった。
「おれ達が……」
「なんだって……?」
「何度も言わせるなよ。カンシチとキトロン、キミ達二人が蛇炎砲の発射のタイミングを見極め、そして破壊するんだ。反乱軍の勝利の鍵はキミ達なんだよ」
「「え……ええぇぇぇぇぇぇっ!?」」
二人の絶叫が夜空にこだました。




