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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第一部
38/163

炎の蛇

「……あれは」

 蛇炎砲の威容がジョーダンの脳を刺激し、過去の記憶をサルベージした。かつて弟弟子が嬉しそうに見せてくれた図面のことを……。


「兄さん!これに対して、アドバイスをもらえませんか!」

「ん?これは……街でも消し飛ばしたいのか?」

「とんでもない!これは街を守るためのものですよ!!だから、兄さん……」


(……間違いない。あれはあの時の……!)

「ウオラァッ!!」

「!?」


シュルン!!


「ちっ!?」

 赤い蛇が再び黄金の龍を強襲した。あくまで今の敵は自分なのだと、強調するように、伸びた二本の腕が縦横無尽に応龍を襲う。

「人が思い出に浸っている時に!」

「俺と戦っているのに、ノスタルジーを感じているんじゃない!!」

「キミが自慢気にあの大砲を紹介したからだろ!あの……」

「蛇炎砲!」

「そう!その蛇炎砲!あれ、元々は別の名前だったとか諸葛楽は言ってなかったか?」

「ふん!名前のことなど何も!ただ反乱軍など一網打尽にできる兵器だとは言っていたぞ!!」

「やはり、あれを対人戦用に改造したのか……!諸葛楽……お前はどこまで……!」

 ジョーダンはやり場のない怒りに歯ぎしりした。それは朱操も同じ気持ちである。

「さっきからここにいない奴のことばかり考えて!」

 朱操は自分の攻撃を全ていなされていること、それを片手間でやられていることに腹を立てた。やはり根本的な怒りっぽさは変わらないようだ。そして結果、またその弱点を突かれる。

「別にキミのこと……忘れたわけじゃない!!」

「!?」


ガリッ!!


「――くっ!?」

 怒りで大振りになった一瞬の隙を見逃さず、応龍は接近からの槍の刺突で赤い蛇を仕留めようとした。しかし、すんでのところで蛇連破は回避……しきることはできず、頬の装甲を抉られる。

「くそ!?そうだ!熱くなってはダメだ……!あいつを倒すためには冷静に……手段に拘るな……!クールに淡々と任務をこなせばいいんだ……!」

 自分に言い聞かせながら、朱操は体勢を立て直すために後退した。

「つまらない人間になったね、朱操。ボクは前のキミの方が好きだったよ」

「だったら、俺の進んでいる道は正しいということだな。お前になど好かれたくない……!」

「悲しいこと言うなよ」

「白々しい……!!」

「それで蛇炎砲のチャージはまだ終わらないのかい?」

「!!?」

 その言葉が耳に入った瞬間、蛇連破の身体がビクリと動いたのを、目敏い天才は見逃さなかった。

「やっぱり時間稼ぎをしていたんだね。蛇炎砲とやら、元になったあれから連射性は改善していないか」

「それがわかっていて、俺に付き合っていたのか……!?」

「あぁ、キミにあの下品な大砲の守りに入られる方が厄介だからね。あれの対処は……ボクの心強い仲間がどうにかしてくれるはずだから……!」



「なんだ……」

「あれは……?」

 ジョーダンの信頼に応えるように、戦場で暴れ回っていたシュガとカンシチが蛇炎砲の存在に気づいた。

「なんだかわからんが……」

「厄介そうだ……壊すか!!」

 別の場所にいる銀狼と青い烏が示し合わせたようにほぼ同時に蛇炎砲に狙いをつけた。そして……。

「貫け!幻妖覇天剣!!」

「大サービスだ……五発同時撃ち!!」

 完全に同じタイミングで攻撃を放つ!両者の必殺攻撃に哀れ蛇炎砲はその威力を見せることなく、粉砕……。


キンキンキンキンキンキン!!


「な……」

「にぃぃぃぃっ!?」

 攻撃が当たろうとした瞬間、蛇炎砲は光の膜で包まれ、それがシュガとカンシチ鉄烏の攻撃を弾き返した。

 何がなんだかわからない二人……。いや、反乱軍でこれを理解できる人間はあの男だけだろう……。



「先生の『絶対防御気光』……だと!?」

 黄金のマスクの下でジョーダンは強い怒りを滲ませた。恩師の技術をこんな下らないことに使うなんて……と。

 だが、今の彼がやるべきなのは怒りの炎を燃やすことではなく、冷静にあの蛇炎砲の光の膜を破り、蛇炎砲を破壊する方法を考えることである。

 残念ながら、そんな時間はなかったのだが……。

「ふん!宰相様がそう易々とやられるようなものを作ると思うてか!」

「人の成果を自分のもののように……恥ずかしくないのか……?」

「だからプライドなど捨てたと言っておろうが!この蛇炎砲がお前の命を燃やし尽くしてくれるなら、それで構わん!!」

「その前にキミもあのポンコツも応龍が仕留める!!」

「無理だ!今!チャージは完了した!!」

「!?」

 朱操の目の前、蛇炎砲と連携しているディスプレイに堂々と“100%”と表示されていた。それは準備が整った証……反乱軍を虐殺する合図が!

「さぁ!我らに弓を引いた愚かさを後悔しながら逝くがいい!!蛇炎砲!発射!!!」

 朱操の声と共に絶対防御気光が解除、そして砲口から光が……。


バシュウゥゥゥゥゥン!!


 放たれた!誰もいない空中に向かって……。

「どこに向かって……?FCSが狂ったか……?」

「そんなわけあるまい!蛇炎砲の本番はここからよ!!」


バシュッ!!


 空中に放たれた一つの大きな光の球は、無数の小さな光へと分裂、そしてその全てが急降下、反乱軍に向かって降り注いだ。

「拡散して広範囲を焼くつもりか……だが!!」

 応龍は自分に向かって落ちて来る光の球をあっさりと避けた……避けたはずだった……。


バッ……シュウゥゥゥゥゥン!!


「――!?なんだと!?」

 地面にぶつかるはずの光が急上昇、応龍に追いすがる!

「これは追尾弾か……!!」

「そうだ!蛇炎砲から放たれた弾丸が止まるのは、ターゲットに命中したその時だけだ!!」

「いいや!ボクと応龍なら振り切ってやる!!」

 その言葉を証明するために応龍は地面をおもいっきり蹴り上げ、方向転換した。しかし……。


バシュウゥゥゥゥゥ!


「くっ!?」

 光の弾丸はぴったりとその動きをトレースし、黄金の龍についていく。

「なんてしつこい……!」

「諦めろ、ジョーダン……お前の負けだ……!!」



「こいつ……オレの撃猫のトップスピードにもついて来るか……!」

 セイも光の弾丸のストーキングに苦労していた。彼の場合は速さに絶対の自信を持っているから尚更、心が刺立った。

「ちっ!こうなったら仕方ない!悪役みたいな真似したくはないのだが!!」

「えっ!?」

「盾にさせてもらうぞ!官軍!!」

 撃猫はその場にいた黒い鉄烏の影に隠れた。宣言通り盾にするために。しかし……。


バッ……シュウゥゥゥゥゥン!!


「何!?」

 光の弾丸は黒い鉄烏を避け、オレンジ色の撃猫だけを執拗に追いかけ続けた。

「敵と味方を識別できるのか!?」

「そうだ!宰相様の作った蛇炎砲はお前なんかよりもずっとお利口……」


カンッ!!


「――さ……ん……!?」

 鉄烏の頭に刃が突き刺さった。撃猫が拾った剣を投擲したのだ。

「決してお前の減らず口に腹を立てたわけでも、八つ当たりしたわけでもないぞ、あくまで任務を遂行しただけだ」

 明らかに自分を小バカにしたことへの報復で、この状況に対しての苛立ちを八つ当たりだ。けれど……。

「まぁ、お前に弁明する必要もなければ、聞こえてもいないだろうが……などと言ってる場合じゃないか……!!」

 雑魚を一人退治したところでセイの心は晴れない。脅威を退けたわけではないのだから……。



「ダッシュ!ダッシュだ!!桔梗!!」

 青と赤のド派手な鉄烏が乗っているマウに発破をかける。

「ひひん!!」

 その主人の思いに応えるように、桔梗は四本の脚を忙しなく動かした……いや、動かし続けなければならない。そうでなければ……。

「ぐわぁ!?」「ひひ!?」「ぎゃあぁぁぁっ!?」「ひひぃぃん!?」

 彼らの横で断末魔を上げて絶命する同胞達のように、悲壮な最期を迎えることになるのだから……。

「くそ!?みんな……いや!悲しむのは、後だ!!まずはあいつから逃げきらないと……!」

 もしかしたらと淡い希望を持って、振り返ったが、悲しいかなカンシチの目に映ったのは、相も変わらずこちらに無慈悲に追いかけて来る二つの光の弾丸だった。

(盾で防ぐか?あの威力は無理だろうな……つーか、それでいいならみんなやってるだろうし。マジでどうする!?このままだと桔梗の体力も……)

「ひ、ひひん!!」

 カンシチは機械鎧越しに、桔梗の呼吸の乱れを感じ取っていた。このままではあと長くて数分、早ければ一分も立たずに脚が止まってしまうと……。

「マジで詰みなのかよ……!?」


「皆の者!!!このシュガの後ろに集まれ!!!俺がなんとかしてみせる!!!」


「シュガさん!?」

 シュガの咆哮が再び一の門に響き渡った。その言葉を聞いた反乱軍の面々は藁にもすがる思いで、銀狼の下へと全速力で向かった。もちろんカンシチも。

「策があるのか!?って、考えてる暇もないよな!!桔梗!後のことはもういい!スタミナを全部使い切っていいから、なんとかシュガさんの下へ行くんだ!!」

「ひひん!!」

 桔梗は命じられた通り、身体に残った力を振り絞り、今まで以上のスピードで疾走した。そして……。

「よくやった!到着だ!!」

 目的地であるシュガの後方へとたどり着いた。さらに……。

「あんたに頼ることになるとは……情けない……!!」

 撃猫が!

「さすがだ!ネニュファール!キミは最高!つまりキミを作ったボクも最高!!」

 応龍とネニュファールも合流!そのあとに続いて黄色の鉄烏とマウの軍団も次々とシュガの背後に集まった。

「シュガ!本当にどうにかできるんだろうな!?」

「体感では五分五分ってところだ!!」

「半分の確率でここが集団火葬場になるっていうのか!?」

「そうならない確率を少しでも上げるために、丞旦!嵐龍砲の準備だ!!」

「なっ!?あれは……!?」

「不完全なのは知っている!しかし、あのしつこい光の弾どもを相殺できる威力があるのは、お前の必殺技しかないだろう!!」

「それはそうかもだけど……」

「死にたくないなら、早く構えろ!丞旦!!」

「わかったよ!!」

 有無を言わさぬシュガの圧力に負け、応龍はネニュファールから飛び降りると、久方ぶりにファンの付いた二枚の翼を広げた。

「ほら!準備したよ!今すぐ撃てばいいのか!?」

「俺がミスったらだ!!」

「なら……撃たせてくれるなよ!!」

「善処する!!」

 シュガはそう言うとこちらに向かって来る無数の光に向かって、飛び出して行った!

「幻妖覇天剣!できるだけ大きく!分厚くなれ!!」

 命令に従い、覇天剣は刀身を大きく分厚くした。それで……。

「でやあぁッ!!!」


ボボボボボボボボボボボボボッ!!!


 数え切れない光の弾丸を受け止めた!さすがの威力と数に強靭な覇天剣も刀身にひびが入り、刃が溶けた。それでも……。

「幻妖覇天剣!ダイナミック!スマァァァシュッ!!!」


ザシュン!!!


 シュガが渾身の力で薙ぎ払うと、光の弾丸はキラキラと小さな粒子となって、露と消えた。

「……なるように……なったな……」

 力を使い果たし、幻妖覇天剣は普通の剣のサイズに戻り、シュガはそのたくましい腕をだらりと垂らした。圧倒的な疲労感が全身を蝕むが、それと同時に大事を成し遂げた充足感が……。

「シュガ!!光弾はまだ残っているぞ!!」

「……え?」

 ジョーダンの声に反応し、顔を上げたシュガの視界を支配したのは、遅れてやって来た光弾の姿だった。

 今のシュガの無茶のおかげで、大分数を減らしたとはいえ、反乱軍に致命的な損害を与えるには十分こと足りる量に見えた。

「シュガ!下がれ!そこだとあんたも嵐龍砲に巻き込まれる!!」

 悲痛な声でシュガに指示するジョーダン。彼ほどの男ならわかっているのだ……今のシュガがその言葉に応じられないことが。

「悪い……足が動かない……」

「そこをなんとか動かせよ!!」

「無理なものは無理なんだよ……」

 案の定、シュガは立っていることがやっとで、一歩も動くことができなかった。彼はそれが自分の天命だと悟り、覚悟を決める。

「俺ごと撃て、丞旦……!それしかない……!」

「そんなことできるわけないだろう!?」

「それでも撃つんだ!丞旦!!」

「く!?くそおぉっ!?」

 銀狼の覚悟を受け入れ、金龍が必殺の一撃を放……。


「何、勝手に盛り上がってんだ?」


「「!!?」」

「玄羽さん!!」

「ジジイ!?」

 紫の豹が!空気の読めないジジイが!拳聖がバッドエンドをぶち壊しに降臨した!

 闘豹牙はシュガの前に立つと、身体中の力を両拳に集中させる。

「玄羽様!いくらあなたでも……!」

「拳聖の名を舐めるでない!……と言いたいところだが、先ほどの数は今の老いさらばえたわしには無理だっただろうが」

「では……!?」

「残ったこれぐらいなら!!」

「――ッ!?」

 闘豹牙の全身から覇気が立ち上った。それもまた両拳に集まっていく。そして……。

「拳聖の技は全てを超越する!消し飛べ!矮小なる光よ!!双拳!焔砕き!!!」

 闘豹牙は右拳を上から、左拳を下から!まるで豹の顎のように、目にも止まらぬスピードで突き出す!その圧倒的速度とパワー、いやそんなちゃちな言葉では測れない何かが、全てを打ち消す衝撃波を生み出した!


ボンッ!!!


「な……」

「なんだと!!?」

 無数の光の弾丸が拳圧に相殺され、跡形もなく消え去った。その光景にジョーダンも、そして朱操も、この場にいる全ての者が自分の目を疑う。

「ふぅ……やはりきついな。わしの身体もそうだが、闘豹牙がもたん」

 玄羽の言葉の通り、彼の愛機には全身に細かいひびが入っていた。技の反動でそうなったのだろう……信じ難いことだが。

「さ、さすがです、玄羽様……」

 いまだに目の前で起こったことが現実だと思えないシュガがなんとか振り絞って出した言葉が、拳聖への惜しみない賛辞だった。

 その言葉に当の玄羽は喜ぶどころか、呆れた。

「いやいや、そんなことより言うべきことがお前にはあるだろ?」

「……えっ?」

「あの大砲、一発撃って終わりじゃないはずだ」

「!?」

 そう、今反乱軍最強の二人が全力を尽くして、やっとのことで退けたのは一発目に過ぎない。二発目が今こうしている間にも放たれてもおかしくないのだ。

「今回は残念だが……そういうことだ」

「……はい」

 自分のやるべきことを理解したシュガは開戦の時のように目一杯空気を吸った。

 あの時とは逆に終わりを告げるために……。

「全軍撤退!!!全軍撤退だ!!!」

 悲しき敗北宣言がこだまする。しかし、今の彼らには逃げるしか道がないのだ。皆それがわかっているから、黙って従うのだ。だから黄色の鉄烏は来た道を全力で逆走するのだ。

「皆、素直だな」

「ええ……悔しいでしょうに」

「引き際を弁えているのが、いい将であり、いい軍だ。三十六計逃げるに如かずっていうだろ?」

「そうですね」

「というわけでわしらも……よっと!」

「うえっ!?」

 闘豹牙はシュガを肩に担ぐと、黄色い背中を追いかけた。

 そして、二人の命の恩人の後を、三人の不完全燃焼の戦士がさらに追う。

「ジョーダン、セイ……」

「皆まで言うな……」

「あぁ……この借りは必ず返す……!!」

 こうして反乱軍の初戦は敗北というあまりにも苦い結末で幕を閉じたのだった……。


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