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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第一部
37/163

激突!一の門!

 盤古門、一の門に向かうマウに跨がった黄色い機械鎧の一団。自分達こそが正しき者だと言わんばかりに、統率された足音を猛華大陸の端まで響き渡るように高らかに鳴らす。

「どうして黄色なんだ?」

 一人だけ白い機械仕掛けのネニュファールに乗っているメガネでおさげの男、ジョーダンは納得いっていない様子で、ボソリと呟いた。

「どうしてって、くじ引きでそう決まったからだろ。最後は運任せの天任せでいいって、お前も了承したじゃん」

 カンシチが隣でいまだにぐちぐち言ってる彼に呆れ返った。

「別にくじ引きで決まったことに対して、文句はないよ」

「なら、いいじゃねぇか」

「くじ引きで選ばれたってことは、誰かが候補として挙げたってことでしょ?」

「まぁ、そうなるな」

「じゃあ、どんな理由で黄色を推薦したんだ?」

「そりゃあ、好きだったからじゃないか?」

「好き!?そんな理由だったらボクは許さないよ!ボクが熟慮に熟慮を重ねて、緑色を挙げたんだから!」

「量産機は緑色だと相場が決まっているとかいう謎理論だろ?」

「違う!いや、それもあるにはあるが一番の理由は違うんだ!」

「なんだよ?おじちゃんが聞いてやるから、言ってみ?」

「映えるからさ」

「えっ?」

「緑色の鉄烏の集団の中に金色の応龍がいたら映えるだろ?」

「結局!てめえの都合じゃねぇか!!」

 カンシチはマウの足音全てをかき消してしまうほど声を荒げた。長々と何を聞かされてきたんだと、怒り狂った。

「しかもめちゃくちゃ下らない理由だしよ~」

「下らなくないよ。ボクが承認欲求の塊だってことは、それなりの付き合いになったキミならわかるだろ?死活問題なんだよ、これは」

「お前がどうしようもねぇ奴だってことは再認識できたよ」

「それぐらいにしておけ、二人とも」

 しょうもない言い争いというか、じゃれ合いをする両者の間に銀色の獣人、シュガが割って入る。

「だけどシュガ~、やっぱり黄色っていうのは……」

「文句なら選んだ天に言え。俺が厳正に引いたくじでそう出たんだから、この色が我が軍にはベストなんだ。誰がどういう理由で候補に挙げたかなんてどうでもいい」

「ぐうぅ……」

 冷静に淡々と諭されるとジョーダンは口ごもるしかなかった。そもそもくじ引きで決めるとなった時点で、理由もくそもないのだ。

 ちなみにこの黄色を候補に挙げたのはシュガである。理由としては自分の銀色の毛並みが映えそうだから。そして見事に自分で自分の案を引き当てたのだ。さすがだ。

「ほら、お前らがくっちゃべってる間に、目的地が見えてきたぞ」

「ん?」「お?」

 シュガが顎を動かし、二人に顔を上げるように促すと、前方に大きな城壁が見えた。

「あれが……」

「盤古門、一の門……!!」



「偵察の情報通り、真っ直ぐこちらに向かっている。正面から突破するつもりだね」

「そんな舐めた真似、俺がさせん……!」

 一の門の前には制式仕様の黒い鉄烏の歩兵が隊列を組んでおり、その先頭で朱操と徐勇の幼なじみコンビが仁王立ちし、今か今かとジョーダン達の到着を待ちわびていた。

 そして、遂にその時が来た。反乱軍は朱操達の目と鼻の先に布陣した。

「それじゃあ、シュガ様お願いしますよ」

「おう!」

「わしも行こう。その方がいいだろ?」

「玄羽さんも?……確かに、二人並んだ方がインパクトあるか」

「そういうことだ。使えるもんは全部使わんとな」

 黄色の鉄烏の群れをかき分けて、マウに乗った見るからに強そうな銀色の獣人と、この場にそぐわない骨と皮だけの老人が前に出る。

 先頭に出ると二人はこの辺り一帯を無酸素状態にしてやろうと言わんばかりに、大量の空気を吸い込み、そして……。

「我が名はシュガ!!!王弟姫炎が配下なり!!!」

「「「いっ!!?」」」

「「「くっ!?」」」

 一気に声と共に吐き出す!シュガの堂々たる名乗りは大気を、大地を、そして敵軍はもちろん覚悟していたはずの自軍の兵士たちの心を強く揺さぶった。

「我らは圧政を敷く宰相、諸葛楽を打倒し!!この灑の国に平穏をもたらすために王都春陽に向かわなければならない!!!我らと心を同じくする者は、道を開けろ!!!そうでない者もこの場から去れ!!我らの邪魔をしようとする者はこの幻妖覇天剣の錆びになることになるぞ!!!」

「うっ!?」

 シュガが隠し持っていた幻妖覇天剣を高らかに掲げると、彼の毛並みと同じ銀色の刀身が太陽を反射させる。その姿はまるで光を抱いているような、天から祝福されているような、神々しさを見る者に感じさせるものだった。それを目の当たりにした官軍の兵士の心がさらに揺さぶられたのは言うまでもない。

 さらに彼の隣の老人が、容赦なく追い討ちをかける。

「おいおい!!!お主だけにはいい格好はさせんぞ!!!この拳聖玄羽!!!久方ぶりの戦場で、まだまだその力が健在であることを天下に示して見せようぞ!!!」

「け、拳聖玄羽!?」

「本当に反乱軍に所属していたのか!?」

 英雄と名高いシュガに続いて、また伝説の英雄が名乗りを上げる……その波状攻撃に官軍の兵士たちの士気はだだ下がり、逆に反乱軍の士気は爆上がりだ。

(効果は抜群。蘭景がこのために二人の誇張した噂を流してくれたおかげだな)

(あぁ、このまま引いてくれるとありがたいんだけど……)

 英雄二人の後ろで、もしかしたらいずれは同じく英雄と呼ばれるようになるかもしれないジョーダンとカンシチはひそひそと、先制パンチの成功を喜び、希望的観測を述べた……が。

「ええい!!静まれ!!!」

「「「うっ!?」」」

 たった二人のプレッシャーに完璧に気圧されていた官軍の震えを止めたのは、彼らに負けず劣らずの朱操の大きな怒鳴り声だった。

「噂には尾ひれがつくもの!!よく見てみろ!!!シュガはともかく玄羽などただの老いぼれではないか!!!」

「ひどい言われ様だな……」

 失礼だが、端からみれば今の自分はそういう存在だと理解している玄羽は苦笑するしかなかった。

「そもそも戦いの勝敗を決めるのは、一人、二人の英雄の有無ではなく兵士の数だ!!あの賊軍どもが我らより多く見えるか!!!」

「た、確かに……!」

 二人の傑物の圧と膨張色である黄色い装甲、そしてマウに乗っているおかげで大きく見えていたが、ふと冷静になって観察してみると反乱軍は官軍の半分の数もいなかった。

(ありゃりゃ、広域高火力持ちのファイアーパンダー対策に少数精鋭で来たのが裏目に出たか)

 ジョーダンはバツが悪そうに後頭部を掻いた。このまま勢いで押しきれるとは、さすがに思っていなかったが、彼の想定よりも官軍の立て直しが早かった。

 もちろんそれは朱操の鼓舞のおかげである。

「もし奴らが本当に正義の軍だとしたら、もっと賛同者で数が膨れ上がっているはずだ!!だが、現実はどうだ!!あれだけだ!!あんな少数しかいない!!聡明なる灑の民は正義がどちらにあるのか理解している証明だ!!!」

「おお……!」

「正義は我らにあり!!権力を手に入れるために、声高らかに虚言を撒き散らす奴らでは決してない!!!」

「そ、そうだ!!」

「我らが故郷を守るために剣を取れ!!宰相様は愛国心を示した者には必ず報いてくれる!!!奴らを血祭りに上げて、名誉をその手に掴め!!!」

「お……」

「「「おおぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 兵士たちの声が地響きとなって、周囲を包んだ。前哨戦はどうやら官軍の方に軍配が上がったようだ。

「うーむ……相手を怖がらせようとしたのが、悪者に見えてしまったか」

 反省の弁を述べる玄羽だったが、その顔は言葉とは裏腹に遠足前の子供のように目を輝かせている。

「そうですね、そんな邪悪な笑みを浮かべているから、上手くいかなかったんですよ」

「シュガよ……それは鏡に向かって言っているのか?」

 皮肉を言ったシュガも、どの口が言っているんだと突っ込みたくなるほど口角を上げていた。

「所詮、我らは一戦士ってことですな」

「だな」

「それでは一人の戦闘狂として暴れましょうか……『磨烈 (まれつ)』!」

「はっ!」

 シュガに呼ばれ、肩の部分だけ青色に塗った鉄烏が彼の隣に馳せ参じた。

「細かい指揮はお前に任せる」

「はい、シュガ様は心のままに戦場を駆けてくださいませ」

「あっ、わしのマウもよろしく頼むぞ」

「お任せください、玄羽様」

 玄羽はそう言って、マウから降りると地面の感触を確かめるように、首や肩を回しながら、ぴょんぴょんと二回ほど跳躍した。

「準備はよろしいか、玄羽様?」

「あぁ、ばっちりよ!つーか、こっちのことなどお構い無しみたいだぞ、あいつら」

「勇敢なる兵士たちよ!!賊軍どもを一気呵成に討ち滅ぼせ!!!」

「「「おおぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 朱操が剣をこちらに向かって振り下ろすと、それを合図に黒い鉄烏の軍団がこちらに雪崩のように攻め込んで来た!

「では、こちらも……姫炎が配下、シュガ参る!!」

「闘豹牙行くぞ!!」

「全軍!シュガ様たちに続け!!!」

「「「おおぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 官軍を迎え撃つように、反乱軍も前進を始める。もちろん先頭に立つのは我らがシュガだ。

「皆の者!弓の照準をシュガに合わせろ!!どんな傑物だろうと数で圧倒してやればいいだけだ!!起源獣だと思って、容赦なく矢を放て!!」

「「「おおっ!!」」」

 まとめ役の上司の命令通り、十人以上の鉄烏が弓を構え、そしてこちらに脇目も振らず突進してくる銀の獣に矢を放つ!


ババババババババババババッ!!!


 それはまさに矢の雨としか形容できなかった。普通の相手ならば、その光景を目の当たりにすると、恐れをなして逃げ惑うことになるだろう。しかし、今回の相手は普通ではない。

「幻妖覇天剣よ!我が盾となれ!!」

 シュガの思いに応えて、覇天剣は刀身を広げて、主人の身体と彼の操るマウの姿を覆い隠した。


キンキンキンキンキンキン……


「何!?」

 矢の雨は幻妖覇天剣にいとも簡単に弾かれてしまった。だが、彼らの失態は矢を弾かれたことではなく、弾かれたことに驚き手を止めてしまったことである。

 その隙を見逃すほどシュガという男は甘くない。

「弾幕薄いぞ!!その程度だと、痛いしっぺ返しを食らうことになる……こんな風にな!!」


ザシュ!!


「……えっ!?」

「ひっ!?」

「隊長!!?」

 シュガは幻妖覇天剣を伸ばし、逆に指示を出していた男を狙撃した。刃は見事に男の首を貫き、その凄惨な光景を目にした弓兵たちは恐慌状態に陥ってしまう。

「呆けてる場合か!」


ザンッ!ザンッ!!


「ぐわっ!?」「ぎゃっ!?」

 銀狼はその阿鼻叫喚の弓兵隊の中、単騎突撃!そして、覇天剣を前後左右に振るうと、あっという間に壊滅させてしまった。

「これが灑の国の正規軍だと言うのか……嘆かわしい」



「うわぁ……同じ弓兵として、ああはならないようにしよう」

 後方で様子を伺っていたカンシチは戒めとして、その光景を心の奥に刻みつけた。

「のんきに観戦している場合か?オレは先に行くぞ。撃猫!!」

 さらに後方にいたセイが愛マウの薊から飛び降り、オレンジ色の愛機を纏いながら一人、乱戦の渦へと消えて行った。

「あっ、セイ!?……たく、勝手な奴だな、ジョーダン……って、いねぇし」

 カンシチが視線を横に逸らすと、そこには先ほどまでいたはずのおさげメガネの姿は見当たらなかった。

「まったく……どいつもこいつも……!しゃあねえ!おれたちも行くぞ!桔梗!!」

「ひひん!」

 カンシチが足で宝術院からの付き合いの愛マウ、桔梗の腹を叩くと、力強く地面を蹴り、前方へと走り出した。

「そして、ようやく御披露目……これがカンシチ鉄烏だ!!」

 腰に差した剣を抜くと、カンシチの身体は光に包まれ、一瞬の後、その光から飛び出して来た時には青色に差し色として赤が入った機械鎧を纏っていた。

「ペペリの野郎……わざわざ元の赤を生かそうなんて思わなくてもいいのによ……!!」

 このド派手なカラーリングの生みの親にぶつくさと文句を呟きながら、カンシチ鉄烏は教科書に載ってるお手本のような美しいフォームで弓を構えた。

「まっ、肝心の性能に関しては完璧だから……何も言えないだけどな!!」


バシュッ!バシュッ!バシュッ!!


「がっ!?」「ぎっ!?」「ぐっ!?」

 カンシチ鉄烏は立て続けに三連続で矢を放ち、三人の敵兵の肩を撃ち抜いた。

「やり過ぎるなって言われたからな……こんなもんだろ」

「ひひん!」

「あぁ、桔梗、このままどんどん相手の戦力を削りとってやろう……!」



「ばっ!?」「びっ!?」「ぶっ!?」

 こちらも一瞬で三人な敵を倒した。トレジャーハンター星譚と愛機撃猫である。

「ふん、こんなものか。肩透かしだな、官軍。それともオレが強過ぎるのか?」

 ジョーダンと出会ったあの日から戦う相手は格上だったり、同列でもケガしていて全力を出せなかったりで、フラストレーションが溜まっていたセイは言葉は悪いがおもいっきり弱い者いじめができて、上機嫌だった。しかしそれはほんの刹那の間だけ……。

「こ、これが拳聖玄羽の愛弟子の力か……!?」

「……あぁん!?」

 撃猫のオレンジ色のマスクの下で眉をひそめるセイ。図らずもセイに瞬殺された敵兵は気を失う直前、最後の最後で一矢報いた。

「おい!お前!オレがあのジジイの弟子だと!!ふざけたことを抜かすと、ぶん殴るぞ!!」

 倒れる敵兵の首根っこを掴んで、激しく揺らす。しかし彼の意識は深い闇の底に沈んでおり、セイの言葉は届かなかった。

「ちっ!?爆睡かよ!!」

 セイは敵兵がしばらく起きないと悟ると、雑に投げ捨てた。そもそもそうなるように彼自身が攻撃したのだから当然だろう。

「なんでオレがあのジジイの弟子なんて噂が…………あっ!」

 ちょっと落ち着いて考えれば、答えはすぐにわかった。こんな流言をばらまくような奴は、あの顔だけはきれいなあいつしかいないと。

「蘭景か……その方が箔がついて、相手を畏怖できると思ったんだな……」

 考えとしては納得できなくもなかったが、それはセイ個人のプライド的には許せないものであった。

「次会ったら、必ず泣かせて……」


ガギン!!


「ちっ!?」

 背後からの強襲!しかし、撃猫はくるりと軽やかにターンをすると、自分に撃ち下ろされた剣を手甲で受け止めた。

「そう言えば、先に泣かせてやらなきゃいけない奴がいたな、かわいこちゃん……!」

「あの地下での決着をつけようか、トレジャーハンター!!」

 襲撃者は水色の鉄烏、徐勇であった。初撃を失敗したと判断すると、ぴょんぴょんと後ろに下がり、適度な間合いを取ると剣を構え直した。

 彼の気持ちに応えるように撃猫も拳を握り直す。あの時はおもいっきり握れなかった右の拳を……。

「君たちとの因縁……今度こそ終わらせてやる……!!」

「それはこっちのセリフだ……万全のオレなら、お前なんて敵じゃないんだよ……!!」



「つまらんの……こんなに灑の兵士は弱いのか?それともわしが強すぎるのか?」

 黒い鉄烏の山の前で、弟子ということになっているセイと同じようなことを天下御免の拳聖様は呟いた。

「さすがに一般兵では束になっても、伝説の勇者相手にはならんか」

 そんな退屈そうな玄羽の前に現れたのは、今も彼が身に纏っている愛機、闘豹牙と同じ紫色をした鉄烏であった。

「俺様の名は『亜今 (あこん)』!!灑の国、紫電の三羽烏が一人!同じく紫を纏う者として拳聖玄羽と……」

「お主のような雑魚と一緒にするでない」


ドゴン!!


 闘豹牙は一瞬で距離を詰めると、紫の鉄烏の頭を掴み、勢いよく地面に叩きつける。結果、あまりの威力に頭だけ地面の下に埋まってしまった。

「なんだったんだ、一体……?」

「まさか亜今を一瞬で……面白い!次はこのわたし!紫電の三羽烏、異……」

「うるさい」


ドゴン!!


 紫電の三羽烏、二人目の男も名乗る暇もなく、亜今と同じく頭を地面に埋められてしまう。

「三羽烏ってことは……」

「そうだ!自分が最後の……」

「もうお腹いっぱいなんだ、バカの相手は」


ドゴン!!


 二度あることは三度ある、最後の男も埋められて、一分も立たないうちに紫電の三羽烏とやらは全滅した。

「ふぅ……こんなことなら慄夏に引きこもり続けてれば良かったかもな……」



「つ、強い……!!?」

 シュガ達の活躍により、反乱軍は数の不利などものともせず、戦局を有利に進めていた。一の門防衛隊の中にはすでに戦意を喪失している者さえいる。

 そんな光景を官軍の総大将である朱操は、眉一つ動かさず見ていた。

「ふん!口八丁手八丁で鼓舞してみたが、やはりこの程度か」

 彼からしたら今の状況は予想通り、つまりは最初からこの軍には期待などしていなかったのだ。

 そこに白い機械仕掛けの獣に乗った憎きおさげメガネがやって来る。

「知ってはいたけど、ひどい奴だな、キミは」

「お前だけには言われたくない。それに客観的事実に基づいて、俺は奴らを評価したに過ぎない」

「へぇ~、そんなに信用できない?」

「自分で考えることも止め、流されるままに戦っている奴など信用できるか。この一の門にいたまともな戦士は皆、虞籍と共に地下牢で、あいつらの負けを祈っている」

「なら、そのまともな人達の願いを叶えるとしますか」

 そう言うとジョーダンはネニュから飛び降りた。

「大将の首を取って、こんな下らない戦い、すぐに終わらせてやる」

「やれるものならやって見せろ!この俺と『蛇連破 (じゃれんば)』を倒せるものならな!!」

 朱操がその名を叫ぶと、持っていた剣が光に、そして赤い装甲となって主人の全身を覆った。そのままジョーダンに向かって飛びかかる!

「新型か……だが!それならこっちだって!応龍壱式・改!!」

 迎撃のため、ジョーダンも愛機を装着する。その姿は一見すると今までの応龍と何ら違いがないように思えた。

「何が“改”だ!名前だけ変えて強くなるなら、苦労せんわ!!」


ドゴォン!!


「当たらないよ」

 振り下ろされた蛇連破の拳は地面にクレーターを作っただけだった。容易くかわした応龍は反撃へと転じる。

「応龍槍!」

「させるか!蛇頭腕!!」


シュル!シュル!シュルン!!


「何!?」

 蛇連破の腕が蛇の頭のように変形したと思ったら、さらに伸びて槍を持つ黄金の龍の腕に巻きついた!

「これが蛇連破の真骨頂!宰相様作のニューマシンの力だ!!」

 驚く暇すら与えないと、蛇連破はもう一方の腕も伸ばし、応龍に襲いかかる。

「もらった!!」

「我を守れ!金色の龍の鱗よ!!」


ガギン!!


「なっ!?」

 必殺の蛇頭腕は応龍の左腕に突如として現れた円形の盾によって弾かれた。さらに……。

「男と手をつなぐ趣味はないんだ……離してもらえるかな!!」


ブゥン!!


「――ッ!?」

 応龍は力任せに蛇連破を振り回し、ついには投げ飛ばした。

 せっかく掴んだ黄金の腕から手を離し、彼方へと飛んで行くと思われた蛇連破だったが、その長い腕を地面に突き立て、その場に踏みとどまった。

「ちっ!?盾など持っていたのか!?」

「だから、“改”って言ったろ?雪破での一月で武器をほんの少しだけ増やした。本当は本体にも手を入れたかったんだけど、やることがいっぱいあってね。まぁ、キミと宰相の欠陥マシンを倒すにはこれで十分すぎるけど」

 応龍は挑発の言葉をさらに強めるようにこれ見よがしに槍を回した。

 今までの朱操だったら、それだけで頭に血が昇っていただろう。だが、今日の彼は一味違った。

「ふん!相変わらず人をバカにすることに関しては天才的だな」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

「あぁ、褒め言葉だ……ジョーダン、お前は本当に凄いよ」

「……どうした急に、キミらしくない」

 ジョーダンは微かな違和感に嫌悪を覚えた。

「俺は今までお前と二度戦い、二度敗れた……そのことで、思い知ったのさ……俺はエリートでも何でもないと……!!」

「…………へぇ」

 黄金のマスクの下、ジョーダンは眉間に深いシワを刻み込んだ。朱操の今の言葉は彼にとっては嫌悪感以上に失望感が大きかった。彼に対して唯一評価していた部分が、今まさに失われたのである。

 そんなこととは露知らず朱操の独白は続く。

「俺は才能のない凡人だと……そう認めるのは辛かった……だが!だからこそお前に勝てる!!プライドを捨てた俺だからこそ取れる策がある!!」

「策だと?」

「そうだ!俺はお前を直接倒すことに拘らない!!例え宰相様の超兵器の力のおかげだとしても、お前が地面に這いつくばる姿を見れるならそれでいいんだ!!だから!この蛇炎砲で全てを終わらす!!」

 蛇連破が拳を天高く掲げると、それを合図に一の門城壁の上に布が外され、隠されていた大砲が姿を現した。

 それが、それこそが蛇炎砲。この反乱軍と官軍の初戦の勝敗を分ける兵器である。


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