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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第一部
27/163

伝説の武器

 それは一見、ちょっと小綺麗な装飾の付いた普通の剣だった。しかし、今も目の前でみるみる小さくなっていく様を見せられては、誰も普通の剣だとは思わないだろう。

 短剣ほど小さくなると、シュガは慣れた手つきでくるくると回し、それをジョーダンは必死に目で追った。

「興味津々だな」

「まぁね。なんてったってあの伝え聞く幻妖覇天剣だからね。ボク達の使う骸装機が小さな待機状態に変化するのも、古代遺跡から発掘された神遺物の技術を解析したおかげだけど、それがサイズを変えられるその剣と同じようなものなのか、それとも全く別の技術なのか……」

「そんなに気になるなら、調べて見ればいい」

「貸してくれるのかい?」

「いいや、そうじゃなくて……俺を倒して、奪ってみせろって言ってんだよ!!」

 シュガの突きの動きに合わせて、幻妖覇天剣は再び刀身を伸ばす。まるで弾丸のように猛スピードで切っ先が黄金の龍に襲いかかる。

「初見じゃなければ!」

 しかし、今回はあっさりと応龍は回避した……のだが。

「興味があるのはわかるが、剣にばっか注目しすぎだ!」

「何!?」


ゴンッ!


「――がはっ!?」

 応龍が攻撃を回避したことに安堵している隙に、覇天剣から手を離したシュガは回り込み、蹴りを放った。蹴りは見事に無防備な龍の腹部にヒットし、応龍は吹っ飛んでいく。

「まだまだ!」

 シュガはさらに刀身を掴み、宙を舞う黄金の龍に向かって投げつけた。再び銀色に光る切っ先が応龍に迫る。

「だから……当たってやるかよ!!」

 未だダメージから回復していないが、無理矢理身体を捻り、空中で勢いよく回転すると、文字通り紙一重で覇天剣の強襲をかわした。だが……。

「さすがの反応速度だ。ではこれはどうだ!」

 再度幻妖覇天剣の柄を握っていたシュガは剣を普通のサイズに戻しながら、一息つく間も与えないと言わんばかりに斬りかかってきた。

「これはどうだって……ただの剣の攻撃なんて!」

 けれど、これは応龍も余裕を持って対処する。彼が今言ったように普通の剣と同じ使い方をしてくれるなら別段恐れることはないのだ……そう思っていたのだが。

「ならば、お次はこれだ!」

 シュガは手首を返し、覇天剣を地面に水平に構えると、間髪入れずに横に薙ぎ払う。

「そんな攻撃!」

 応龍は反射的に後ろに軽く跳躍する。普通の剣ならば、それで十分回避可能な距離をジャンプしたのだ。だが……。


ガリッ!!


「――なっ!?」

 幻妖覇天剣は何度も言っているように普通の剣ではない。斬撃の瞬間に僅かに刀身を伸ばし、応龍が安全圏だと思っていた場所にも刃を届かせた。

「くそ!?セコい真似を!!」

「そのセコい技に翻弄されているのは誰だ!悔しいなら次はきちんと避けてみせろ!!」

 シュガは今度は地面に垂直になるように幻妖覇天剣を高く振り上げた。そこから放たれるのは間違いなく必殺の太刀。回避しなければ死が待っているだろう。言われなくても絶対に避けなければならない、それが普通の人間の考えだ。

(今度こそ避け……ない!勢いに乗る前ならば、応龍の装甲で受け止め切れる……!!)

 しかし、天才ジョーダンの考えは違った。彼はあえて振り下ろされる覇天剣に突っ込み、勢いを殺して防御するつもりなのである。

「行くぞ!ゴールデンドラゴン!!」

「来い!シルバービースト!!」

 振り下ろされる幻妖覇天剣!

 そこに両腕をクロスさせて突っ込む応龍!

 再び地下に金属がぶつかり合う甲高い音が響き……。


ブン……


「何……!?」

 金属が衝突する音が鳴ることはなかった。代わりに二人だけに虚空を剣が通過する音、つまり空振りする音が聞こえた。

「こいつ、剣を縮めて……!?」

 ジョーダンは苛立ちを覚えた。幻妖覇天剣を縮めるという単純なことで、自分の渾身の策を打ち破ったシュガに対してではない。そんな単純なことを見落としていた自分に対してだ。

「負けん気が強い奴は大好きだ……動きが読み易いからな!!」


ザンッ!!


「ぐっ!?」

 縮んだ刀身が再び伸びる!応龍に向かって!精神的にも体勢的にも立て直しのできていないジョーダンは応龍のもう一本の角まで切り落とされてしまった。

「よくも応龍のチャームポイントを!!」

「言ってる場合か!このままだと次に落とされることになるのは首になるぞ!!」



(一観客的には幻妖覇天剣を使うシュガさんが見れて、大変満足なんだが……チャレンジャー的には最悪、予想通り完全に主導権を握られちゃったな)

 戦っている本人達自身も自覚しているが、遠目で観戦している姫風の目にはより顕著に、シュガが戦いをコントロールしているのが理解できた。

(きっとあのジョーなんとかとかいう奴は幻妖覇天剣のことを大きさを変えられるだけの宴会芸だと、武器を出し入れしながら戦う骸装機の戦いを熟知している自分なら、あっさり対応できるはず!……とか思っていたんだろうな。だけどそれはちょっと認識が甘過ぎる。ほら、また……)

 姫風の視界内で、回避運動を取った応龍だったが、これまた覇天剣を避け切れず、黄金の装甲をキラキラと撒き散らす。

(ある程度より上の相手と戦うとなると、防御行動は頭で考えてからでは遅い。反射的に身体を動かし、正確に攻撃範囲を捕捉しなければならない。それを幻妖覇天剣は狂わせる。しかも優秀な戦士ほど、より直感的に、反撃のため最小限の回避を心がけている場合が多いからまんまと攻撃を喰らってしまう。今のように……)

 再び姫風の前で応龍に新たな傷が刻まれた。

(なまじそれなりの実力があるのが仇になったな。あくまでそれなりでは、パワー、スピード、ディフェンス、テクニック、メンタル、インテリジェンス、全て兼ね備えた傑物であるシュガさんには勝てない。勝つ見込みがあるとしたら、最初のマントを破った一撃、あの攻撃はちゃんと“できていた”。自覚して発動は無理なようだが、この土壇場で会得できたならあるいは……)

 普段は大雑把で知性の欠片も感じられない姫風だが、戦闘に関しては誰よりも理知的だ。そんな彼が唯一見出だした応龍勝利への希望の光、それをジョーダンは掴むことはできるのだろうか……。



「いっ……てぇ!?」

 ちょっと無理そうである。

 何度目かわからない幻妖覇天剣の刀身を伸ばす突きに、遂に対応し切れなくなって、装甲の下、肩先の肉をほんのちょびっと抉られた。

「どうした?動きが鈍くなっているんじゃないか?もうへばったのか?」

 刀身を縮めながら煽るシュガ。いつものジョーダンなら煽り返してやるところだが、悲しいかな今の彼にはそんな余裕はない。

(あの野郎……!わかってるだろうに!体力もヤバいが、それ以上にもうどうやって避けていたかわからなくなってんだよ!!)

 まさに変幻自在の幻妖覇天剣に翻弄され続け、ジョーダンは今まで培ってきた戦い方を完全に破壊されてしまっていた。今の彼は誰よりも天才と嘯いてきた自分のことを信じられない。

(このままだと肉体より先に精神が死ぬ……!自分を、自分が今までやってきたことを信じられなくなったら、完全におしまい……そうなる前に決着をつける!!)

 ジョーダンは全神経を研ぎ澄ませ、眼前の短剣を握る銀狼に集中した。

(今までなんとか致命傷を避けながら、観察した結果、あの剣はでかくなるのは一瞬だが、小さくするのには若干の時間がかかる。それがボクに残された唯一の勝機だ……!)

 腰を落とし、前傾姿勢を取る。いつでも飛び出せるように……。

「ほう……最後の大勝負に出るつもりか」

「ちょっと違うね。最後の大勝負に出て……勝つつもりだ……!」

「そうか……ならば!有言実行してみせろ!!」

 今までで最速のスピードと幻妖覇天剣は刀身を伸ばし、応龍の額に迫った!

「この攻撃は……気合で避ける!!」


ジッ!ジッ!!


 応龍は僅かに顔を逸らし、刃に頬を擦りつけ、火花を散らしながら突進していく。

(このまま懐に……!)

 あと三歩、いやあと二歩歩けば拳が届くところまで接近!そのまま……。


ゾクッ……


(ッ!!?)

 ジョーダンの背中に悪寒が走り、足が止まる。

 まるで杏湖で突然、通りすがりの美術館の館長に襲われた時のように考えるより先に身体が反応した。

「まさか俺の追撃を読んだのか?」

「なっ!?剣が!?」

 率直に感じた疑問を口にするシュガの方を見ると、その手には既に幻妖覇天剣が短剣と呼べるまで縮んでいた。

「こいつ!?わざと小さくするスピードを遅くしていたのか!!?」

「お前のように目敏い奴を嵌め倒すためにな」

「なんと性格の悪い!」

「抜け目がないと言ってもらいたいな!!」

 再び刀身を伸ばす!しかし……。

「この!」


ヒュッ!!


「何!?」

「あれ、避けられた……?」

 今まで為す術のなかった攻撃をまるで他愛もないことのように回避したことを、誰よりも驚いたのは避けた本人、ジョーダン自身であった。

「こいつ……まさか……いや!まぐれかそうでないかはもう一度試してみればいい!!」

 再び短剣ほど縮めた覇天剣を伸ばしながら、横に切り払う!しかしこれも……。


ヒュッ!!


「よっと!よくわからんが避けられるようになったぞ!覚醒って奴か、これ!!」

 天才を謳う者としてどうかと思うが、ジョーダンには自分の眠っている力が突然目覚めたしたとしか思えなかった。まぁ、あながち間違ってはいないのだが。

(やはりこいつ無自覚に俺の幻妖覇天剣の攻撃の“起こり”を感じ取れている。宝術師の攻撃を読み取る特級骸装機使いの話は聞いたことはあるが、まさか神遺物まで……意志でコントロールするという面では同じだから、原理的には可能か。鋭敏なレーダーのような感覚を持っていればの話だが)

 相対するシュガの方が今のジョーダンの状態を正確に把握していた。そして同時にその先を見たいと思ってしまった。

「面白い!ならばこれはどうだ!!」

「デカっ!?」

 シュガが幻妖覇天剣を頭上に掲げると、今度は刀身だけでなく、剣自体が大きくなった。

「この質量!今のお前が到達しているなら、受け止められるはずだ!!」

「何を訳のわからないことを!?」

「四の五の言わずにやってみせろ!丞旦!!」


ガアァァン!!


 巨大化した覇天剣を応龍は手で挟み込んで、受け止めた。もっと分かりやすく言うと真剣白刃取りを決めたのだ。

 黄金の龍の周りには風が吹き、くすんでいた身体がみるみると輝きを増していく。

「……このパワー、間違いない……!」

「ごちゃごちゃごちゃごちゃ!うるさいんだよ!!」

「――ッ!?」

 応龍はそのまま剣ごとシュガを持ち上げ、投げ飛ばした。さすがのシュガもこれには反応できずにきれいな銀色の体毛を水で濡らすことになってしまった。

「もう一丁!!」

 さらに地面に倒されたシュガに向かって、追撃の踏みつけを敢行。

「調子に乗るな」


ヒュウッ!!


 しかし、シュガは幻妖覇天剣を短剣に戻して地面に突き立て、そこから再び刀身を伸ばすことで移動し、事なきを得た。

 バシャッと音を立てて、着地する金龍。

 剣を元に戻しながら、音もなく着地する銀狼。

 両者は距離を取り、再び睨み合った。

「ここまでやるとは思わなかったぞ、丞旦」

「まだまだこんなもので驚いてたら、この後大変だよ、シュガ」

「ほう、その自信、どうやら真剣白刃取りをしたことで、我が幻妖覇天剣のもう一つの特徴に気づいたか」

「ありゃ?その軽い感じだと、刀身に触れられている間は大きさを変えられないことはバレてもいいと思ってた?」

「あぁ、触れられないように立ち回ればいいだけの話だからな。ちなみに補足すると、幻妖覇天剣の変化を止められるのは、刀身に命あるもの、つまり生物が触れている時。また変化を完了させた状態で触れると、新たに形態変化を起こさせないのであって、変化途中で触れても、俺が望んだ形になるまで止まることはない」

「ご丁寧にどうも。確かに変化途中で触れて止まるなら、ボクの身体を切り裂く度に止まらないとおかしいもんね。本当、知的好奇心が満たされたよ、ありがとう」

「で、次は何を満たすつもりだ?」

「あんたを倒して、自尊心をね……!!」

 応龍は構えを取り、全身から闘争心を迸らせた。

「もう既に十分満たされているように見えるが?」

「そんなことないよ。散々あんたにやられて、ボクの心はボロボロさ……でも、今すごく調子がいい!正直、かなり“ハイ”だ!今ならあんたを倒せるかもしれない!いや、今しかない!!」

 興奮して、今にも飛びかかってきそうなジョーダンを、シュガは鼻で笑った。

(まだ感情のコントロールもできていないか、この分だと自分の意志で発動するのも、まだ無理そうだな。仕方ない、もう少し付き合ってやるか……!)

 シュガも幻妖覇天剣を構え直した。両者が放つ覇気がぶつかり合い、二人に極上の緊張感を与える。

「さぁ……今度こそ……」

「決着の……」

「「時だ!!!」」


「急報!!賛備子宝術院が雪破を襲撃!!城を占拠!!城主姫炎様とご子息姫水様を人質にし、黄括様とその配下の撤退を要求しています!!!」


「……………へっ?」

 すっかり蚊帳の外に追い出されていたこの戦いの責任者黄括は間抜けな声を上げ、小首を傾げた。


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