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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第一部
22/163

甦る金龍

 枝分かれした二本の角、空のような青い眼、そして金色に煌めくボディー、それはいつもの応龍以外の何者でもなかった。いや、心なしかいつもより眼は澄み、身体は輝いているように見える……。

「くっ!?離せ!!」

「おっと」

 朱操鉄烏は自分の拳を包む応龍の手を振り払うと、後退、間合いを取った。

「ジョーダン……!何が、応龍は使えないだ!下らない嘘を突きおって!!」

「いやいやいや、嘘じゃないって。嘘だったら、ボクどんだけサディストなんだよ」

 朱操の糾弾をジョーダンは黄金のマスクの前で手を振りながら、否定する。

「嘘じゃないだと?じゃあ、今俺の目に映っているのは何だ!?」

「それはもちろん応龍だけどさ……実際、ついさっきまで使えなかったんだって」

「はっ!じゃあ、この土壇場で急に使えるようになったというのか!?」

「そうだよ。この龍穴という場所が特級骸装機である応龍にいい影響を与えていたのか、それとも以前よりも嵐龍砲の反動が小さかったのか、もしくは……仲間がやられてるのを見て、応龍も頭に来たのか……!!」

「ぐっ!?」

 突如として応龍から発せられたプレッシャーに朱操は気圧された。もっと品のないわかりやすい言葉で言うと、びびってしまったのだ。

「この……!ま、まぁいい!そもそも俺の目的はお前と!その応龍と戦うこと!虚偽だろうが、奇跡だろうが、戦えるというならなんでもいい!!」

 感じてしまった恐怖を振り払うように、朱操鉄烏は剣を召喚し、構えを取った。その姿を見て、ジョーダンは……呆れる。

「はぁ……本能は力の差をきちんと理解しているのに、下らない意地を優先しちゃって……まっ、同じように遺跡で蚩尤に挑んだボクは責められないか」

「勝手に俺を!分析するな!!」

 鉄烏は咆哮とともに突進!剣を横に薙ぎ払う!

「当たるかよ」

 しかし、応龍はひょいと軽く回避する。

「ならば当たるまで!!」

 朱操鉄烏は今まで溜めに溜め込んだ鬱憤を剣に乗せ、全力で振るった……が。


ブンブンブンブンブンブンブンブン……


 黄金のボディーには掠りもしなかった。まるでダンスを踊っているかの如く、斬撃の隙間を移動していく。

「無駄だ、今のボクと応龍の感覚は研ぎ澄まされている。カンシチが言った通り、キミは傷一つつけることはできないよ」

「ちいっ!?傷どころか真っ二つに叩き斬ってくれるわ!!」

 安易な挑発だが、今の朱操には効果は抜群だ!さらに剣を加速させる!


ブンブンブンブンブンブンブンブン……


「惜しい惜しい、もうちょっとで当たるよ」

「この……!?」

 だけど、やっぱり当たらない。応龍はダメージを受けるどころか、どれだけギリギリで避けられるか、ゲームを楽しんでいるようだった。

「くそ!?だが、まだ……!」

「いや、もう終わりだ」


ガギン!!


「――ッ!?」

 撃ち下ろされた剣を、雰囲気が一変した応龍はカウンターの裏拳一発で粉砕する。二人の間をキラキラと刃の破片が舞い散った。

「今のボクは応龍が甦って、嬉しい気持ちと、仲間をいじめられて憤る気持ちがちょうど半分ずつだ」

「何を急に!?」

「だから、ここで大人しく退くというなら黙って見逃してやる。まだ戦うというなら……容赦はしない……!」

「うっ!?」

 至近距離で青い眼に睨み付けられると、再び朱操の心と身体は震え上がった。その生物として当然の反応に従っていればいいものを、愚かにも彼はまたその本能に強すぎるプライドの力で抗った。

「そんなの……二択になってねぇだろ!!」

 また迷いを、恐怖を振り払うように拳を振り下ろ……。


ドゴッ!!


「………がはっ!?」

 応龍の右拳が鉄烏の脇腹に突き刺さる。赤いボディーは思わず“くの字”に曲がり、朱操は耳に入った不愉快な打撃音と反射的に吐き出してしまった酸素のおかげで自分が殴られたことを遅ればせながらようやく理解した。


ガァン!!


「――ッ!?」

 さらに下がった頭部に左フックがクリーンヒット!そのまま頭が一回転し、背骨ごと引っこ抜かれて飛んで行ってしまうのではないかと朱操は錯覚する。


ガァン!!


「――ぐっ!?」

 頭が吹っ飛ばないように……とは、思っていないが応龍が右フックで朱操鉄烏の頭を強引かつ乱暴に元の位置に戻した。

 両者の視線が再び交差する……それが二人の今日最後のアイコンタクトになった。

「お、俺と……お前の……差は……なんだ……?なぜ……俺はお前に……勝てない……!?」

「ボクが丞旦で、キミが朱操……だからだよ」

「ふざけ……やがって……!!」


グアァァァァン!!


「ッ…………」

 視界が“黄金”から、黒と赤が混じり始めた空に支配される。右のアッパーカットが朱操鉄烏の顎を捉え、彼は宙を舞ったのだ。途中で鎧の方が先に限界を迎え、待機状態である剣の形に戻り、一足早く地面に墜落した。中身の朱操は……。

「朱操!!」


ガシッ!!


「ぐっ!!」

 水色の鉄烏を装着した幼なじみに受け止められ、この世からリタイアすることだけは免れた。

「ナイスキャッチだ、徐勇」

「ジョーダン……!!」

 徐勇は黄金の龍をギロリと睨み付けた。いや、正確には睨み付けることぐらいしかできなかったのだ。幼なじみの身に起こった惨劇を目の当たりにし、一矢報いることさえもできないと悟ったのだ。

「怒りに我を忘れないか……朱操やボクよりもよっぽど人間ができているな」

「お褒めいただき光栄至極……」

「皮肉のセンスも朱操以上か……そんなキミに最後通牒だ、もう二度とボク達の前に現れるな。縁も所縁もない灑の国のことに首を突っ込みすぎるのはどうかと思って、一定の距離を取っていたが、諸葛楽が……あいつがこの国の宰相だというなら話は別だ!ボクは全力でこの国の変革に本腰を入れる!」

「その宰相様の手先を続ける奴の命は奪うことも厭わない……」

「そういうことだ。そのバカにも起きたらちゃんと伝えておけ」

「あぁ……必ず……」

 徐勇はそう言うと幼なじみを肩に担ぎ、森の中へと消えて行った。

「あの様子じゃ、また会うことになるな……」

 彼らとの因縁がまだまだ続くことを予見して、ジョーダンは辟易……。


ゾクッ……


「――ッ!?」

 突然、全身に悪寒が走った。そして、それに導かれるように自然と身体が動く。


ボオォォォォォォォッ!!!


「炎……だと?」

 応龍が今までいた場所を業火が襲う!今まで見たことある赤よりもずっと赤い炎の揺らめき、黄金の装甲越しにも感じる熱、もし身体が動かなかったらと思うと逆に身体の芯が冷えていった。


ゾクッ……


「来る!!」

 再び悪寒が走り、反射的に回避運動を取る。すると……。


バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!


「今度は雷か!?」

 迸る雷光!威力もさることながら、その圧倒的なスピードにジョーダンは恐怖を感じた。

「一体何が……?」

「なんだよ、ちゃんと感知できてるじゃねぇかよ」

「!?」

 声のした方向を振り返るとそこには両手にきれいな石が嵌まった指輪を着けた壮年の男が立っていた。

「あんたは……?」

「完全に不意を突いた炎、見てから動いても回避できない超スピードの雷……どちらも避けられたってことは、ストーンソーサラー、いやこの国では宝術師の攻撃の“起こり”がきちんと感じられてるってことだ」

「……何を言っている?ボクが訊いているのは……」

「それができるってことは準備はできてる……あとはスイッチの入れ方を理解するだけだな」

「おい!人の話を――」

「ゴールデンドラゴン!!」

「――きっ!?」

 壮年の男は人差し指を応龍の眼前に突きつける。思わずジョーダンは言葉を飲み込む。

「いいか、よく聞け……目の前にいる奴とわかり合いたい、もしくはぶっ倒したいと思ったら、そいつが一番大切にしていることを理解しろ」

「一番大切に……」

「あぁ、忘れるなよ。あと美学を持て、美学を」

「お、おい!」

「あとあと、そろそろ雨が降り始めるぜ。きっと数日にわたる長雨になる。お前達にとっては恵みの雨だ。このチャンス生かせよ」

「恵みの雨?つーか、雲一つもないのに雨なんて……じゃなくて!!」

「じゃあな!ゴールデンドラゴン。俺の血筋の者と出会うことがあったら、今の俺がお前にしたようにアドバイスの一つでもやってくれ」

 壮年の男はポンと応龍の肩を叩いて、森の方に歩き出した。

 男の不思議な迫力と魅力に毒気を抜かれた応龍は黙って見送った。

「一体なんだったんだ、あいつ……」

「あの方は『イツキ・タイラン』様です」

「!?」

 また別の声が湖畔に響き、それに反応して応龍は視線を移動させた。制服のようなものを着た男が、岸に船ごと乗り上げていた。

「あんたは……いや、あなたは賛備子宝術院の……?」

「はい、賛備子宝術院で宝術の研究と、後進への教育を行っている文功と申します。以後お見知りおきを」

 文功と名乗る男は船から降りると、手を合わせ、ペコリと礼儀正しく頭を下げた。

 その姿に敵意がないと感じたジョーダンは応龍をメガネの形に戻す。

「そうか……大学でいう教授みたいなものか」

「そんな大層なものではありませんが、やっていることはほぼ同じですかね」

「あいつの、そのイツキという奴を知っているってことは、奴も宝術院の関係者か?」

 ジョーダンは後ろの森を親指で指しながら、質問した。

「いえ、あの方は違います。ただの来客、美術館の館長です」

「美術館の………館長?」

 予想だにしない返答にジョーダンは首を傾げ、頭の上に?マークをいっぱい浮かべた。

「戸惑うのも無理はありません。私も初めて聞いた時は耳を疑いましたから……あんな強い美術館の館長がいるなんて」

「だろうね。ボクもまだ事態を飲み込めてないもん。でも強さはおいといて、美術館の館長が何でこんな場所に?」

「うちの院長と古い知り合いなんですよ。イツキ様は『神凪』にある自身の美術館『イツキ・タイランのスーパーグレイトフルドラゴン美術館』に飾るに相応しい作品を求めて、世界中を放浪しているのですが、たまたま近くに寄ったから、顔を見せに。あとホテル代わりにちょうどいいからと。ただで泊まって、ただで食わせてもらう飯が一番うまいからと」

「めちゃくちゃセコいな。あと美術館の名前がひどすぎる」

「けれど誰も文句は言えません。あの人が誰よりも強いから」

「タチ悪いな……」

 ジョーダンはひきつった笑みを浮かべた。

「でも、こちらとしても頭に超が付く一流の宝術師の技を間近で見られるメリットがありますし、WinWinですよ」

「あんた達がそう思うなら、別にいいけど……ところであいつ、“大爛”って言ってたけど、神凪出身だし、もしかして……」

「それを含めて、私達と話したいことがたくさんあるのでしょう?そのために遥々こんな辺鄙な場所に」

「あぁ、その通りだが……」

「だったら、宝術院で腰を落ち着けて話しましょう。お友達も介抱しないといけませんし」

「……あっ」

 イツキとやらのせいで、すっかり抜け落ちていた二人の仲間のことを思い出した。辺りを見渡すとカンシチもセイも今も気を失って、野晒しになっている。

「早く運びましょう。イツキ様曰く雨が降るらしいですから」

「雨なんて、だから雲一つない――」


ポツリ……


「――じゃ!?」

 ジョーダンが上を見上げると、いつの間にか空を灰色の雲が覆っていて、そこから落ちて来た水滴がメガネのレンズを濡らした。

「マジかよ……」

 さらに一滴二滴と雫が空から降り注ぐ。まるで激闘の熱を冷ますように……。湖の水面に無数の波紋を描きながら……。


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