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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
161/163

交わる拳②

「手応えは……微妙」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 悲鳴を上げ、悶え苦しみ暴れ回る拳魔神から業天馬はそそくさと距離を取った。

「玄允!!」

 そこに狻猊が合流。再び二人の聖王覇獣拳継承者が肩を並べた。

「やって……ないよな?」

「残念ながら見ての通りだ」

「ぐあぁぁぁっ!?があぁぁぁぁぁッ!?」

 二人の前ではいまだに拳魔神が荒ぶっていた。苦しんではいるが、動きは機敏で力強くこのまま命を落としてくれるようには見えない。

「骸装通しの衝撃は間違いなく魔進真心に届いた。だが……」

「壊すまでには至らなかったってわけか……骸装通しが通じないなら、一体どうすれば……!!」

 若獅子は悔しさと焦りから拳を握りしめた。彼にはこの後どうすればいいのかのビジョンがなかった。

「策はある」

 対照的に玄允にはわかっていた、この状況を打破し、勝利を手にする方法が。

「策!?何だ!?自分は何をすればいい!?」

「骸装通し」

「わかった!骸装通しだ……え?」

 狻猊が業天馬の方を向くと、彼は力強く首を縦に振った。

「骸装通しだ。おれ一人の力で駄目だったなら、おれ達二人で撃てばいい。ダブル骸装通しで魔進真心を破壊する」

「そんなもの策でも何でもない……!オレは骸装通しを使えないんだからな!」

 あまりに情けなくて、リンゴは言っていて軽く泣きそうになった。

「なら今すぐ使えるようになれ。咄嗟に業天馬の幻影を自分に被せることができたんならやれるだろ」

「あれは練習したんだよ!エンテンの型、煙夢!この戦いに使えると思って!技っていうかほぼ狻猊の基本能力だし!!」

「骸装通しも練習してきただろ?だったら撃てる」

「簡単に言ってくれる!師匠と出会ってからずっと会得のために拳を撃ち続けていまだにできてないのに、この土壇場で……!!」

「おれに勝った男ならできるさ」

「!!?」

「あれだけ聖王覇獣拳を使いこなしているなら、骸装通しだってできるはずだ。自分のやってきたことを信じろ」

「玄允……」

「というか、迷っている暇はないぞ」

「くそどもがあぁぁぁぁぁぁッ!!」

「――!!?羅昂!!」

 ようやく激痛が引いたのか拳魔神羅昂は目を血走らせながら、脇目も振らずに二人に向かって来ていた!

「やるぞ狻猊!やるしかないんだ!!」

「ええい!こうなったら……なるようになれだ!!」

 覚悟を決めた二人に拳魔神は両肘を繰り出した!

「凶王魔神拳!シン・鬼断ち!」

「「聖豹蹴撃!!」」


ゴォン!!


「――ッ!?」

 それを二人の拳士は下から腕の部分をかち上げることによって対応。そしてがら空きになった胴体に……。

「「骸装通し!!」」

 拳を捻り込む!


ボッ!ガァン!!


「――ぐっ!?」

(この音は)

(くそ……!不発だ……!!)

 狻猊の拳はライバルの期待に応えられなかった。

 ただ普通の、いや普通以下の打撃を放ち、拳魔神には一切のダメージを与えられず。むしろ逆に……。


ガシッ!!


「「!!?」」

 両者とも拳魔神に腕を掴まれ……。

「ウラアァァァァァッ!!!」


ドゴオッ!!


「――ッ!!?」

「ぐあっ!?」

 またお互いに力任せにぶつけられる!さらに……。

「もういっぱぁぁぁぁぁつ!!」


ドゴオォォォォォォッ!!


「「――がはっ!!?」」

 さらに渾身の力を込めて床に叩きつけられた!二人の肺から強制的に酸素が排出され、骨が軋み、クレーターを作る!

「こいつで……とどめぇッ!!」

 そして仰向けに倒れる二人の顔面に拳魔神は容赦も躊躇もなく、ハンマーのように拳を撃ち下ろしてくる!

「狻猊!!」

「応ッ!!」

 同じ聖王覇獣拳の使い手として、二度の激闘を繰り広げた好敵手として、二人が意志疎通を図るにはその一言で十分だった。

 両者は倒れながらも蹴りを繰り出した……お互いに向かって。


ゴッ!ドゴオォォォォォォンッ!!


「ちいっ!!」

 お互いに蹴り合った反動で狻猊と業天馬は移動。拳魔神の鉄槌を回避した。

「猪口才な……!どれだけ生きたいんだ!!」

「生への執着はあなた譲りですよ、師匠。そこに関しては、あなたを軽蔑していても、今後も改めるつもりはない」

「口だけは達者だな!玄允!!お前一人の骸装通しは不快だが、我が命を消す威力はない!つまり貴様に勝ち目はないのだぞ!」

「今はな!だが次は……狻猊!」

「!!?」

「もう一度やるぞ!次やったらできる!!」

「お、おう!!」

 両雄は再び禍々しき魔神を打ち倒すために駆け出した!不安と恐怖をなんとか胸の奥に押し込みながら……。

(奴ならできると言ったのは半分嘘で、半分本当だ。骸装通しは聖王覇獣拳の中でも特に感覚的な要素が強い技。おれのようにフィーリングが合って他の技に先んじて会得できることもあれば、奴のようにどれだけ技を修めても、一向にできないということも十分ありえる。だが、だからこそ感覚さえ掴めば、今この瞬間にできるようになる可能性もあるはずなんだ。おれはそれに賭ける……!!)

 玄允はあれだけ憎しみと嫉妬心を抱いていたリンゴに全幅の信頼を寄せると決意した。今の自分は奴を信じるしかないんだと半ば無理矢理自分に言い聞かせた。

(本当にオレはできるのだろうか……?またさっきみたいに失敗してしまうんじゃないか……?)

 一方のリンゴは先の失態が尾を引き、疑心暗鬼に陥っていた。

(かつてセイさんは慇との決戦の土壇場で骸装通しを会得した。あの人の才能と本番の強さだからこそ可能だったが、オレには……)

 弟弟子のことを思い出し、さらに劣等感に駆られると、無駄に身体が強張るのを感じた。

(駄目だ!無駄に力んだら骸装通しどころか、普通の打撃も満足に打てなくなる!師匠が口を酸っぱくして言っていたじゃないか!)


「力を入れればいいってもんじゃない。程よく力を抜くことで強く速く攻撃ができるんだ」


(力を入れ過ぎたら駄目だ……力を……ん?)

 師匠の言葉を反芻していたリンゴの目に揺らめく翠色の炎が見えた。

 まるで蝋燭のように小さいがしっかりと燃えている残り火を拳魔神の背後に見たのだ。

 刹那、師匠との別の思い出の記憶が脳裏に鮮やかに再生された。


「ここからあそこにある蝋燭の炎を消すつもりで拳を撃て。一回一回、あの離れた場所に衝撃を飛ばすイメージを思い浮かべながら、丁寧にやれよ」


(あの修行はもしかしたら骸装通しを会得するためのものだったんじゃないか?そういう感じで撃てばいいと、師匠は教えてくれたんじゃないか?だとしたらオレは……!!)

 獅子の目は翠の炎に集中した。ターゲットである拳魔神ではなく、その背後に揺らめく炎に。

(オレは師匠の言葉と自分の直感を信じる!オレが撃つのは羅昂ではなく、あの炎だ!!)

 改めて決心を固めた狻猊はその拳の握りを僅かに緩めながら、拳魔神の懐に加速し!突っ込んで行く!

(狻猊の雰囲気が変わった!これならいけるかもしれん!!)

 それとほぼ同時に獅子の変化に気づいた業天馬も加速!

 両者同時に射程内に入った!

 だが、それは拳魔神の射程の中に入ったということでもある!

「もう二度と撃たせなどせぬわ!!」

 拳魔神は両手の人差し指に力を集め、突きを放った!

「凶王魔神拳!シン・鬼穿ち!!」


ガリッ!!


「――ぐっ!?」

 片方の指は黄金の鬣を抉った。たまらず後退する狻猊。


ガリッ!!


「くっ!!?」

 もう片方の指も業天馬のマスクを大きく傷つけた。しかし、彼はそのまま前進し、拳魔神の巨体の下にしゃがみ込む……拳を引きながら。

「聖王覇獣拳・チョウジュウの型……」

「魔爪翔撃か!?だが、貴様の重力で押さえ込める拳魔神ではない!!」


ブゥン!!


「はっ!!」

 重力で上から押さえ込んだところに、下から身体ごとぶつかるようなアッパーを放ってみたが、拳魔神が力任せに拘束を振りほどき、回避されてしまった。

 目の前を腕を伸ばしながら虚空へと跳び上がって行く弟子の姿を見て、師匠は勝ち誇ったように笑みを浮かべ……。

爪鬼(そうき)重連打」


ドゴオッ!!


「――がっ!?」

 アッパーから肘の撃ち下ろし!重力を加えた業天馬の肘が拳魔神の顔面に叩き込まれ、視界が一瞬真っ暗になり、その巨体がよろめいた!

(あれは鬼爪の逆!!まさかたった一回、さっき食らっただけでコピーどころか応用まで!?しかも重力を加えるアレンジまで……どこまで天才なんだ、お前は……!!)

 この極限の状況下で更なる輝きを放つ玄允の才能にリンゴは見とれ、開いた口が塞がらなかった。そんなことしている場合じゃないのに……。

「狻猊!ボーッとするな!今がチャンスだ!!」

「あっ!そうだった!!」

 再度狻猊は残り火にロックオン!そこに拳を届けるイメージを、そのために必要な身体の動きを瞬時にシミュレーションし直した。そして……。

「やるぞ!業天馬!!」

「おう!!」

「「聖王覇獣拳!骸装通し!!」」

 好敵手と共に拳魔神へと叩き込んだ!


ボボオッ!!


「できた……!!」

 二人の打撃の衝撃は拳魔神の黒光りした硬い体表を通り抜け、見事魔進真心に届いた……が。

「まだ浅い……!!」

「――ぐぎやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 壊すには至らず。再び羅昂は耳をつんざくような絶叫を上げるが、その人間を超越した肉体は健在だ。

「狻猊!狙いを遠くに置き過ぎだ!!衝撃のピークをもっと手前に持ってこい!!」

「わかった!すぐにアジャストする!その代わり!」

「こちらもわかっている!ずれたタイミングはおれが合わせる!だからお前はもう一度骸装通しを成功させることだけ考えろ!!」

「安心しろ!今のでコツは……掴んだ!!」

 再び二人の聖王覇獣拳の継承者は腰を落とし、拳を引いた。この戦いと長きに渡る因縁に幕を下ろすために。

「ぐっ!?させるか!!!」

 対する拳魔神羅昂は長年の苦心の末に手に入れた新しい肉体と命を終わらせないために、その太く逞しい腕を胸の前でクロスし防御を固める。しかし……。

「愚かな!ガードをしたところでこの技には意味はない!!」

「骸装通しが……いや!オレ達の新たな技がお前の野望と偽りの生を砕く!!」

「聖王覇獣拳!」

「交拳!」

「「魔神砕き!!!」」


ボオウンッ!!!バギィィィン!!


「――がはっ!!?」

 狻猊と業天馬の拳の衝撃は拳魔神羅昂の身体を貫通し、魔進真心に到達!その脈動を止めると同時に、粉々に粉砕した!


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