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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
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交わる拳①

 今にも死にそうな痩せ細った隻眼の老人の姿はどこにもなかった。

 逞しく隆起した筋肉。

 偉丈夫と言って差し支えないリンゴをも超える体躯。

 虫の甲殻のように黒光りした体表。

 何十年ぶりに両の目に灯された暗い光。

 それは生物のようであり機械のようでもあり、禍々しくもどこか神々しくもあった。

 それが生まれ変わった羅昂、拳魔神羅昂の姿である。

「怪物め……!!」

 その威容にリンゴは思わず息を飲む。

「誇るといい玄羽の弟子よ。新たな猛華の王の、いや神の誕生を見ることができたのだから」

「神だと?ただ古代の遺物の力によって、ちょっとばかしバルクアップしただけじゃないか。ドーピングジジイが何を偉そうに……!」

「フッ、強がるな。曲がりなりにも玄允に勝った武道家ならばわかるだろう……この身体に迸る圧倒的な力を!!」

「くっ!?」

 羅昂の指摘した通りだった。リンゴの拳法家として培ってきた経験と生存本能が目の前にいる異形の存在は危険だと、逃げろと今も訴えかけ続けている。だが……。

「それでも……いや、だからこそ!お前の野望をここで終わらせる!この国の民をお前の手から守ってみせる!!」

 そう高らかに宣言すると、狻猊は横に滑るように移動しながら、三人に増えた。

「残煙滑り・像煙」

「覚悟しろ!」

「羅昂!!」

 そしてすぐさま突撃!拳魔神羅昂に三方向から同時に襲いかか……。

「はあっ!!」


ファサ!!


「――ッ!!?」

 羅昂の一喝により煙で作った分身は霧散。正確には一喝と同時に全身から発生した衝撃波によって消し飛ばされた。

「こんな小細工、いつまでも通用すると思うな」

「くっ!?なら!!射針炎芯!!」


ボシュウッ!!


 人差し指に一点集中させた炎を突きと同時に噴射!復活したばかりの羅昂の左目を狙った……が。

「ふん!」


ヒュン!!


 羅昂はあっさりと回避。自らの実力を見せつけるようにギリギリまで炎を引き付けると、着弾寸前に体操選手のようにくるくると回りながら、飛び越した。

「いざとなったら容赦なく急所を狙ってくるところは師匠譲りか。だが、技量の方は遥かに及ばん」

「そんなこと言われなくてもわかっている!!」

 着地直後に狻猊急襲!

 脚を鞭のようにしならせ、大地に降りたばかりの拳魔神の脚に目にも止まらぬ速度の蹴りを繰り出した……三連続で。

「凶王破壊脚!!」

 その技は太腿を外から、ふくらはぎを内から、膝関節を正面から、超スピードでほぼ同時に蹴ることで脚を粉砕、再起不能にする絶技。かつて羅昂の脚を立つことすらままならないほどに破壊し、拳法家としての人生を終わらせた悪魔の蹴り……だったのだが。


ゴン!ゴン!ゴン!!


「――ぐっ!?」

 今回、ダメージを受けたのは蹴った狻猊の方だった。

 その甲殻にも似た拳魔神の体表は獅子の全力の三連蹴りでも折ることどころか傷一つつけることができず、むしろ逆に獅子の装甲にひびを入れた。

「この硬さ……檮杌並みか……!?」

「あんな理性もなく暴れ回るだけの怪物と一緒にされるのは心外だな。まぁ、丈夫さに関してはその通りかもしれんが」

「だったら!これはどうだ!!」

 狻猊は手のひらに炎を溜めながら、掌底を放った!

「焔発勁!!」


ゴッ!ボオウッ!!


 その焔発勁は掌底のインパクトと炎の噴射のタイミングが完璧に重なった今日一番の会心の出来であった。しかしそれでも……。

「いい技だ……人間相手には十分過ぎる威力だろう。けれど、拳の神相手にはあまりに力不足」

「なんだと……!?」

 あろうことか拳魔神羅昂は狻猊の必殺技を片手で受け止めてしまったのである!業天馬でさえ必死になって避けた一撃をいとも容易く止められたリンゴのショックは計り知れない……。

「気持ちはわかるが、呆けていていいのか?」

「!!?」


ガシッ!!


「しまった!!?」

 一瞬の動揺を突かれ、狻猊は手を掴まれてしまった!

 その刹那、最悪なイメージが脳裏に浮かぶ……自らの腕が千切れ飛ぶイメージが。

(ヤバい!?早く振りほどかないと!?)

「遅い。凶王魔神拳、シン・花捻――」

「天山崩し!」


ドゴオッ!!


「!!?」

「え!!?」

 拳魔神の恐ろしい技が放たれようとした瞬間、彼の愛弟子が乱入!背中から体当たりをかまし、獅子から強引に引き離した!

「玄允……」

「何のつもりだ、我が弟子よ?」

「弟子として、師匠の過ちを正そうとしているだけですよ。あなたがその力を武を極めるためではなく、無垢なる民の生活を脅かすために振るうというなら、このおれが止める……おれがやらなくて誰がやるというのだ!!」

 業天馬は師匠との決別を宣言すると、構えを取り、完全なる戦闘態勢に移行する。その青いマスクの下には苦渋の決断を下した辛くもどこか清々しく凛々しい顔があった。

「どいつもこいつも玄羽同様、才能を無駄に使いおって……」

「それはあんたの方だろうが、羅昂」

 狻猊もまた構えを取り直した。業天馬の隣で。

「こうしてお前と肩を並べることになるとはな」

「勘違いするな。我が師を止めるのに、お前の力を借りるつもりはない……と、言いたいところなんだがな」

「あぁ、自分だって一人でやれるなら一人でやりたい。けれど消耗した今の状態じゃ……いや、万全だとしてもきっと……」

「悔しいがここはおれ達二人でやるしかない!何をすればいいかわかっているな!!」

「もちろん!」

「では……行くぞ!!」

 二人の聖王覇獣拳の使い手による対拳魔神共同戦線!まず最初に仕掛けたのは……。

「聖王覇獣拳・チョウジュウの型!!」

 青き天才、業天馬!感情を滾らせながら、力強く踏み込む!

「巨星重震脚!!」


ズンッ!ゴゴゴッ!!


 強烈な踏み込みが局所的な地震を起こし、さらにそれを上から重力で押さえつけることによって敵の体勢を崩しつつ動きを封じる技。まさに最初の一撃に相応しい攻撃だと思ったのだが……。

「少し前までは、これだけの技を使えるお前に師匠の身でありながら、内心嫉妬すら覚えたものだが……今はただの児戯にしか見えん」

 拳魔神羅昂は揺るがず。まるで何も攻撃を受けてないと錯覚するような動きで拳を突き出すと、目にも止まらぬスピードと圧倒的なパワーで手を開いた。

「凶王魔神拳、シン・花弾き」


バァン!!


「――がっ!!?」

 業天馬を襲う衝撃!能力を解除させられながら、吹き飛ばされた!

(ただ手を開いただけで、これほどの衝撃波を発生させるのか!?おれはなんて恐ろしい存在を作り出してしまったんだ……!!)

 痛みと激しい後悔に顔歪める玄允。

 けれどその瞳には希望の炎を捉えていた。

(けれど最低限の注意は引きつけた。ここまでお膳立てしたしたのだから決めろよ、狻猊……!!)

「聖王覇獣拳・エンテンの型!焔武威(えんぶい)落とし!!」

 拳魔神羅昂が業天馬に夢中になっている間に、息を潜め、頭上を取っていた狻猊は鮮やかな翠の炎を纏わせた両手刀を鎖骨に向かって撃ち下ろした!

「浅はかな」


ゴッ!!ガァン!!


「――ッ!!?」

 しかし、その奇襲は拳魔神に見透かされていた。あっさりと受け止められ、弾き返される。

「攻撃とはこうやるんだ」

 そして間髪入れずに追撃のナックルが飛んで来る!

(避ける?剣砕き?いや、ここは一か八か!!)

 狻猊は迫り来るパンチに対し、決して目を離さず、身体を翻しながら掴みにかかった!


ガシッ!


「よしっ!!」

 腕を掴むことには見事成功!このままいつもの如く……。

「清流投――」


グッ!!


「――げ!!?」

 そのまま投げようとした狻猊だったが、突然動きが止まる。

 ただ単純に拳魔神羅昂の力が強すぎて……。

「相手の力を利用すると言ってもあまりにも力の差があればどうにもならんということだな」

「くっ!?」

「聖豹蹴――」

「同じ手にかかるか!!」


ブゥン!ドゴッ!!


「「――ぐあっ!!?」」

 救援に来た業天馬に狻猊を投げつける!二人の聖王覇獣拳の使い手は空中で衝突し、折り重なって落下した。

「このまままとめて砕いてやろう!」

 容赦ない追撃!拳魔神羅昂は拳を……。

「聖王覇獣拳!」

「何をしようと拳魔神は止められ――」

「じゃなくて、ただの煙と炎!!」


ボオウッ!!


「――な!!?」

 狻猊が顔に宣言通りただの煙と炎を大量に吹きつけると視界を塞がれ、意表を突かれた拳魔神は僅かに怯んだ。


ブゥン!!


「くっ!?」

 結果、拳は空振り。憎き玄羽に連なる者達にとどめを刺すことは叶わなかった。

「セコい真似を!」

「それに引っかかる」

「あんたがアホなんだ」

 体勢を立て直した二人は左右に分かれ、挟み撃ちの形に。

「さぁ!我らの挟撃!」

「拳魔神様はどう対処する!!」

 迫り来る業天馬と狻猊。

(対処も何も……決まっているだろうが)

 普通の人間ならば、文字通り右往左往してしまうところだが、羅昂に迷いはなかった。

(今までの一連の攻防から私に通常の打撃技は通用しないと考えたこいつらがすがるのは、骸装通し。あの忌々しい技で我が身体の奥に眠る魔進真心の直接破壊を狙ってくるはずだ。つまり真っ先に倒すべきは!!)

「!!?」

「我が弟子、業天馬!!」

 拳魔神羅昂は狻猊からは完全に背を向け、業天馬を真正面に捉えた!

「お前らの魂胆など見え見え……そんな浅知恵で拳魔神を倒せると思うな!!」


ドゴッ!!


「――ぐあっ!?」

 羅昂の最短距離を最速で撃ち抜くパンチをなんとか防御したが、威力は殺し切れず狻猊は勢い良く吹き飛んだ。

「……は?」

 業天馬を殴ったと思ったのに、吹き飛んだのは狻猊……。その意味不明な光景に拳魔神の動きがまた一瞬止まった。

(これはどういうことだ?いや、難しい話じゃない狻猊は火力と撹乱能力特化……!こいつは!)

 全てを察し、怒りの眼差しで振り返った拳魔神が見たのは霧散する狻猊の中から出てくる業天馬だった!

「あいつが言える状況じゃないので代わりに言わせて貰う。聖王覇獣拳・エンテンの型!技名は知らん!!」

「煙で偽装を!!?」

「そしてこちらは言うまでもないが言わせてもらう!聖王覇獣拳の代名詞!骸装通し!!」


ボッ!!


「!!?」

 弟子の拳が師匠の胸に躊躇なく叩き込まれた!


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