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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
158/163

二人の聖王覇獣拳②

「……ちっ!!」

 リンゴは舌打ちした。

 渾身の新必殺技を繰り出したのだが、悲しいかな全く手応えがなかったのである。

「……はぁ……はぁ……今のは正直肝が冷えたぞ……」

 狻猊が空振りした掌底の遥か先に言葉通り焦りからか呼吸こそ乱しているが、装甲には一切傷も汚れもない業天馬が立っていた。

「確かチョウジュウの型……」

「チョウジュウの型、無重滑りだ。もしこの技がなかったら、もし少し発動が遅れていたら今ので勝負はついていただろうな」

「それは残念……もしそうなっていたら、修行の成果がこれ以上なく発揮された自分にとって最高の結末になっていたのに。はぁ……」

 リンゴはマスクの下で思わずため息をついた。我ながら最高のタイミングで新技を披露できたのにと。

「修行の成果とは今の技……だけじゃなく、その前のおれが掴んだ手首から炎を吹き出したこともか?」

「あぁ、前にお前にぶん投げられて痛い思いをしたからな。敵に掴まれたら、反射的にその場所から炎を出せるように徹底的に訓練した」

「なるほど。狻猊の能力を存分に生かしたいい使い方だ」

「珍しいな……今のは嫌味や皮肉じゃないだろ?」

「優れた技術や発想には素直に賛辞を送るさ。ましてやこのおれと同じ領域までたどり着いた武道家にはな」

「!!」

 業天馬の青いボディーに玄允の昂る感情が迸り、場の空気を一段階重くした。

「完全適合……遂に本気か……!」

「さっきの技、あれはおれと業天馬と同じく拳聖の技と骸装機の能力を融合させ、更なる高みに到達した聖王覇獣拳だった」

「あらゆるものを利用して強さの頂きを目指すのが聖王覇獣拳の本質。そして先人の開発したものをただ模倣するだけではなく、さらに進化させてこその後継者……だったよな?」

「そうだ。そしてお前はそれを今実践して見せた。ならばおれも見せてやろう!お前以上の技と能力(ちから)の融合を!証明してやろう!チョウジュウの型の方がお前の付け焼き刃の型よりも強く進化していると!!」

「ならば自分はお前を返り討ちにし、エンテンの型の力を天下に、いや師匠のいる天まで示す!!」

 業天馬同様、狻猊の緑色の身体にも装着者リンゴの想いが駆け巡り、周囲の気温を僅かに上げる!

「ふん!その意気や良し!だったらもうこれ以上、言葉はいらないな!!」

「おう!どちらが正しいかはこの拳で決めよう!!」

「行くぞ!狻猊!!」

「来い!業天馬!!」

「「聖王覇獣拳!!」」

「チョウジュウの型!無重滑り!!」

 その瞬間業天馬から重さという概念が消失し、地面の上を滑るように、高速移動!一瞬で狻猊の目の前にまで迫った!

「はあっ!!」

 そして勢いそのままに蹴りを振り抜く!


ファサ……


「何!?」

 しかし足に触れた瞬間、狻猊は灰色の煙となって霧散した。

「煙による幻影か!?」

「イエス。エンテンの型、残煙滑り」

 本物の狻猊は煙人形に気を取られた業天馬の背後に回り込んでいた!その両拳に翠色の炎を灯しながら!

「聖王覇獣拳・エンテンの型!五月雨拳骨大噴火!!」

「ちいっ!無重滑り!!」

 放たれる拳の連打から逃げるために、また重量を消して高速移動!業天馬は一気に射程外まで……。


ボボボボボボボボボボボボボボッ!!


「――!!?」

 拳を象った炎が、連打に合わせて発射!業天馬の視界一面が緑色に染まった!

「遠距離攻撃だったか!だがそれなら!聖王覇獣拳双拳!焔砕き!!」


ボッ!!


 業天馬は右拳を上から、左拳を下からまるで豹の顎のように目にも止まらぬスピードで突き出し、その圧倒的速度とパワーで衝撃波を放つと、視界一面に広がっていた炎を一撃でかき消した!

「やっぱり聖王覇獣拳の使い手なら……そう来るよな」

「!!?」

 業天馬の背後から聞こえる狻猊の声……獅子はそうなることを読んでいた、そうなるように仕向けた。師匠の土人形と戦った時のように。

(焔砕きは聖王覇獣拳の中でもかなりの大技、使った直後には隙が生まれる……元始天尊に作ってもらった師匠の土人形は自らに骸装通しを打つことでこの後の攻撃を相殺したが……自称拳聖の息子は捌けるかな!!)

 狻猊は技の発動直後の闘豹牙に容赦なく、蹴りを繰り出し……。

「聖豹蹴――」

「巨星重震脚!!」


ズンッ!ゴゴゴッ!!


「――ッ!!?」

 業天馬が地面を踏むと同時に凄まじい重さが狻猊の全身にのしかかり動きを鈍らせた。

(今だ!)

 その僅かな隙に業天馬は体勢を整え、反撃の一撃を放つ!

「聖王覇獣拳・チョウジュウの型!」

「狻猊!!」

「天山崩し!!」


ボオォウッ!!ブォン!!


 業天馬の背中から突進を、狻猊は手のひらと足裏から炎を噴射し、吹き飛んだように後退することで回避した!

「ちっ!猪口才な……!!」

「幸か不幸か痛いのは慣れっこだが、だからといって無駄に痛い思いをしたくないからな!!」

 獅子はそのまま炎で業天馬の頭上へ。

「そう思うなら、もっと頭を使え!!巨星重震脚!!」


ズンッ!ゴゴゴッ!!


 再び業天馬の踏み込みと同時に獅子の全身に重さがのしかかる……これまたリンゴの狙い通りに。

「頭を使った結果がこれだ!聖王覇獣拳・エンテンの型!凶獣落火!!」


ボオォウッ!!


「!!?」

 背中から炎を噴き出し、加速!更に業天馬の能力も上乗せし、真下に向かって垂直落下ドロップキック!


ドゴオォォォォォォォォォォン!!


「!!」

「うおっ!!?」

 その威力は絡南城全体を揺らすほど!無言で観客に徹していた羅昂も眉を潜め、キトロンも思わず声を上げた!

 もし直撃したら、耐えられる者はいないだろう……直撃していたら。

「……まさかお前に二度も冷や汗をかかされることになるとはな……!」

 業天馬は最早お馴染みとなった無重滑りを使い、攻撃を回避していた。

「今のは決まったったと思ったんだけど……ちっ」

 自らが作ったクレーターの真ん中でリンゴはまたしくじったと舌打ちをする。

「今の攻撃といい、さっきの遠距離攻撃といい、貴様やはり業天馬の能力に気づいているな?」

「重力を操っているんだろ?あれだけ見せつけられれば嫌でも気付く。種がバレたから降参するかい?」

「知られたからと言って、どうにかできる能力ではない」

「それはこっちも同じ。狻猊をすでに攻略できたと思っているなら大間違いだ」

「!!?」

 そう言うと、狻猊は身体を揺らしながら、滑るように横に移動して行った……その姿を分裂させながら。

「聖王覇獣拳」

「エンテンの型」

「残煙滑り」

像煙(ぞうえん)

 一瞬で四体に増えた狻猊軍団は扇状に広がる。まるで業天馬を取り囲むように。

「一人でも不愉快極まりないのに四人に増えるとは……なんとおぞましい」

「ひどいこと言うなぁ」

「でもきっとそれは遠目で見てるからだよ」

「近くで見てみれば……」

「気持ちも変わるかもな!!」

 四人の狻猊が一斉突撃!正確にはまず二人が飛び出し、僅かに遅れてもう二体が動いた。

「一人で挟み撃ち、包囲攻撃をやるつもりか?だが、所詮は煙で作った分身だろ!!」

 咆哮と共に業天馬は今日何度目かとなる強烈な踏み込みを見せた。

「巨星重震脚!!」


ズンッ!ゴゴゴッ!!ファサ……


 青き天馬を中心に重力が増大!あくまで敵の動きを阻害するだけの技だが、煙による分身には即死技!二体が一気にかき消された!

「よくも自分を!」

「やってくれたな!!」

 逆に言えば狻猊はもう二人残っている。重力が消えたのを確認して、時間差で技を使った直後の業天馬に飛びかかる。

(やはり最初の二体は囮か。本命は後から来たこの二体のうちのどっちか。巨星重震脚が連続発動できずにどちらかしか対応できないと思っての策なのだろうが……浅はかだな)

 業天馬は身体を大きく捻った。そして……。

「貴様の打撃など通常の聖王覇獣拳で十分!旋風ゴマ!!」


ブオォォォォォォン!ファサファサ!!


 回転によって巻き起こされた風圧により、二体の狻猊は煙となって消し飛ばされた!これもまた二体とも……。

(何!?全て分身だったのか!?では奴は……)

「聖王覇獣拳……!!」

 回転する景色の中、業天馬は本物の狻猊の姿を捉えた。

 まるで弓のように、炎を人差し指の指先に集中させて腕を引く獅子の姿を。

「エンテンの型、射針炎芯(いしんえんしん)!!」


ボシュッ!!


 突きと同時に炎をレーザービームのように噴射!鮮やかな翠の軌跡を描き、大気を焦がしながら、未だ回転中の業天馬に迫る!

(これは旋風ゴマでは弾けない!ならば!!)

 業天馬は足裏から白い煙を出しながら急停止!さらに腰を落とし掌底を大きく振り被った!

「チョウジュウの型!烈掌隕石・反!!」


ドゴオォン!!ボオォウッ!!


「何!!?」

 掌底を地面に叩きつけると、まるで羽毛のように業天馬が宙に舞い、向かって来る一筋の翠炎を躱した。

(なんて奴だ……腕には加重しつつ、逆に本体へかかる重力は軽減、インパクトの瞬間に解除することで爆発的な上への推進力を得た。能力の加減やタイミングを間違えたら、下手したら腕が引き千切れる可能性だってあるのに。やはりセンスと胆力は間違いなく、師匠並み……!!)

 策を破られたというのにその芸術的とも言える妙技に一人の武道家としてリンゴは思わず感動すらしてしまった。

「って、見とれてる場合じゃない!聖王覇獣拳・エンテンの型!」

 気を取り直し、狻猊は手のひらと背中に炎を溜めながら、逆立ちし、足裏を空中に業天馬に向けた。そして……。

「凶獣昇火!!」

 炎を地面に噴きつけ自らを発射!ロケットの如く、勢い良く天へと昇る!

「ちっ!調子に乗るな!!お前が考えるようなこと、おれはとっくに通過している!!」

 対する業天馬も空中で体勢を整え、足を引き、全身に加重した!

「チョウジュウの型!凶獣重落下!!」

 ドロップキックにはドロップキック!

 これもまたこの二人が最初に出会った獣然寺の時と一緒。

 あの時は狻猊が一方的に打ち負けたが……。


ゴッ!ガアァァァァン!!


「「――ッ!!?」」

 今回は相討ち!両者凄まじい衝撃に襲われ、空中を木の枝からこぼれる落ち葉のように舞った。

「正面から力勝負では決着がつかないか……!なら!何度でも翻弄してやる!残煙滑り・像煙!!」

 着地と同時に再び移動しながら、煙の分身を生成!獅子は四体に分裂した!

「バカの一つ覚えが!もう見飽きたわ!!」

 業天馬は迎え撃つために、どっしりと構えを取って、その場から動かない。

「見飽きようがなんだろうが、自分はお前を倒すまで、これを続ける!!」

 そう宣言すると、三体の狻猊が臆することなく業天馬の射程内に足を踏み入れた。

(お前の目論見はお見通しだ。今までの新技からして、我が業天馬の能力の範囲外からのヒット&アウェイか拳法家らしからぬ炎による狙撃でおれを下すつもりだろ?つまり接近戦に来たこの三体はただの目眩ましのための分身)

 玄允はマスクの下で目を凝らし、こちらに迫る獅子の姿を改めて観察した。

(そう見せかけておいて実は本物が……という可能性もなくはない。だが、一連の攻防の中でおれは分身と本物の見分け方を探り当てた。この数を作るのはお前の実力じゃ、まだしんどいのだろう。凝視しないとわからないが、微かに蜃気楼のように揺らいでいる)

 刹那、玄允の説を証明するように、三体の獅子の装甲が僅かだが不自然に歪んだように見えた。

(やはり三体とも分身だ!幻とわかれば何も怖くない!技など使わずとも!)


ファサ!ファサ!!


 最初の二体を軽く腕で撫でた。すると、それは予想通り分身で触れた瞬間に簡単に霧散した。

(バカが浅知恵を振り絞ったところで、この程度……)

 そして三体目も消してしまおうと腕を伸ばす……。


ファ……ガァン!!


「………え?」

 業天馬の腕が金属音と共に弾かれる!

 確かにその狻猊は分身だった……分身だったが、その中に本物の狻猊が隠れていたのだ!

「分身の中に!?」

「エンテンの型、残煙纏い。お前なら分身の不安定さに気づいてくれると信じていた……その聡明さを利用させてもらったぞ」

「くっ!!?」

「恥じることはない。この技は土人形とはいえ拳聖さえ欺いたのだから……この敗北は何ら恥じゃない!」

 煙の奥から出て来た本物の狻猊は腰を落とし、掌底を引き、カウンターを捌かれた業天馬に狙いを定め、技を放つ準備をしていた。

 この因縁の戦いを終わらせる技の……。

「聖王覇獣拳・エンテンの型!焔はっ――」

「おれはお前にだけは!!」

「――けっ!!?」

 しかし、ここで極限状態に追い込まれた玄允がその抜群の戦闘センスをいかんなく発揮する。

 普通の人間なら何もできずに攻撃を食らうか、恐怖から後退してしまうところで、彼は前進したのだ。

 何のために?相手の攻撃のタイミングをずらすためにだ!


ドッボッ!!


「「――ぐっ!!?」」

 焔発勁、不完全な形で命中。然れどその威力は中々のものでよろよろと後退する業天馬の青い装甲はひび割れ、焼け爛れていた。

「まさかあそこで焔発勁を乱すために前進してくるとは……だが、それ以上に……」

「ぐっ……!?が……骸装通し……!!」

「がはっ!!?」

 狻猊、膝から崩れ落ちる!なんと業天馬はあのタイミングでカウンターの骸装通しを放ち、リンゴの内臓にダメージを与えていたのだ!

(あの場面で反撃して来るとは、本当に師匠顔負けの実力だな……!!でも……)

(さすがのおれでも予期せぬ攻撃を受けながらでは、完全な骸装通しを撃つことはできなかったか……それでも奴にはかなりのダメージを与えたはず。この勝負はどちらが先に回復するかで決まる……!回復すれば、もう二度とこいつに遅れなど取らん……!!)

 焔発勁の痛みに耐えながら、その痛みが和らいだ後の展開をシミュレーションする玄允。

 けれど、残念ながらそれは無意味。だってすでに戦況は動いているのだから。

「燃えろ!狻猊!燃えろ!オレ!!」

「なっ!!?」

 狻猊は立ち上がると同時に再び業天馬に向かって駆け出していた!まるで痛みなど感じてないように力強く大地を蹴り出して!

「どうしてもう動ける!?」

「痛みには慣れっこだって言ったろ!!悔しいがお前の方が才能は上だ!オレがお前に勝っているところと言ったら……敗北の数と、そこから立ち上がった数だけだ!!」

 獅子はそう吠えながら直角に曲げた右肘を振り上げ、天馬の頭上から飛びかかった!

「聖王覇獣拳!!」

(凶鬼断ち!?これを食らったら……いや、奴ができるならおれもできる!痛みに耐え、無理矢理身体に言うことを聞かせて……この攻撃は必ず避ける!)

 玄允は肉体の限界を意地によって超越した。


ブゥン!!


「よ――」

 業天馬は撃ち下ろされた右肘を身体に鞭打ち後退することでかろうじて避けた……これでこの攻撃は避け切ったと、勘違いした。

「連拳」

「――し!!?」

 青き天馬の眼が捉えたのは、右肘の撃ち下ろしの勢いのままにしゃがみ込み、左の拳を引いて構えている緑色の獅子の姿……。

 その姿は彼の良く知るあの技の構え!

「爪翔撃だと!?」

「鬼爪ッ!!」


ドゴオォォォォォォォン!!


「――ッ!!?」

 下から撃ち込まれた拳によって、業天馬の頭は背骨が引っこ抜けるかと錯覚するほど、勢い良く跳ね上げられ、吹き飛ばされた。


ゴォン!!


「――がはっ!?」

 そして受け身も取れずに背中から落下。

「ぐっ!!ぐうぅっ!!」

 なんとか意識を繋ぎ止めた玄允は再び意地で立ち上がろうとする……するが、今回は精神力だけでどうにかできるダメージではなかった。まるで自分の身体ではなくなってしまったように、まったく言う事を聞いてくれない。

「無理だ。お前にだってわかっているだろ?しばらくは立ち上がれない」

「くっ!?まだ……!!」

「玄允……」

「く……くそ……!!このおれが……」

「……そうだお前の負け……自分の勝ちだ」

「ぐうっ……!!」

 そして肉体だけでなく、自称拳聖の息子の心までも、拳聖の一番弟子に屈した。

 二人の聖王覇獣拳の使い手同士の二度目の対戦は狻猊の勝利!リベンジに成功したのだ!


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