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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
153/163

因縁渦巻く地

 灑の国、絡南は領主丁羊の手腕によって、活気溢れ、住みやすい都市だと有名だった……そう、過去型である。

 姫炎暗殺未遂が発覚、そしてその報復を恐れてか、それとも顔見知りを亡き者にしようとした罪悪感に耐えられなくなってなのか、丁羊が家族と心中してからはこの土地にはずっと重苦しい空気が漂っている。その空気を嫌ってか、他からの悪評に耐えられなくなってか少しずつだが住人は減っていき、かつての活気は見る影もなくなっていた。

「まさか自分がここを訪れることになるとはな……因果なものだ」

 真夜中、都市の真ん中に位置する城の門を見上げながら、蘭景はしみじみと呟いた。

「んで、ここの領主の一家心中の原因の一端を作った負い目があるから、こんな小人数なのか?」

 バンビは嫌味ったらしく、自分の背後に控える三十人ほどしかいない兵士をなじった。

「下手に大軍を動かすわけにはいかなかった。我らの動きを察したら、奴らが何をしでかすか予想できないからな。秘密裏にここに忍び込ませられるのは、この人数が限度だ」

「だけどよ~、城一つ攻め落とすにしたら、この人数はさすがに心もとないぜ」

「拳幽会の存在を知り、協力しているのは、一部の人間だけだ。そう人数は多くない。この都市に住んでいる民に関しては本当に何一つ知らない状態だ」

「だから、小数精鋭で一気に制圧してしまおうってわけですね」

「イエス。リンゴの言葉を理解できる頭があるなら、文句を言ってないで、いつでも突入できる準備をしておけ」

「言われなくても、とっくに準備万端だっつーの」

 バンビは見せびらかすように深紅の槍をぐるぐると振り回した。

「それならばいい。では、キトロン」

「おうよ!!行きますよ~!むむっ!!」

 キトロンは目を瞑り、神経を研ぎ澄まし、門の奥の気配を探った。すると彼の脳内ではレーダーのように自分を中心に命ある者達の光を捉え、画像化していく。

「……確かに思ったより人数が少ねぇな。ただどいつもこいつも軒並みやる気満々だが」

「嘲風の力をもってすれば、我らの接近に気づくなど朝飯前。想定の範囲内だ」

「門番もいませんしね。あっちも市街地でどんぱちやるつもりはないんでしょう」

「こっちとしてもそうしてくれるとありがたい。戦いは城内だけで、そして、夜明けまでにケリをつけて、民には余計な不安を与えずに反逆行為を鎮圧する。皆の者、わかったな?」

「「「おう」」」

 バレているとはいえ、一応隠密行動となっているので問いかけも、返事も声はとても小さかった。

「それでは城内に入るぞ。門を開けろ」

「「はっ」」


ゴゴゴ……


 兵士の何人かが駆け出し、門を開けた。

「「「……………」」」

 すると、その奥にはすでに骸装機を装着した完全武装の兵士と、一人の若い青年が待ち構えていた。

「やはり我が前に立ちはだかるか、陳爽の息子よ……」

 青年の顔を見た瞬間、いつも無表情を崩さない蘭景が顔をしかめる。ここが決戦の地だと判明した時点で覚悟はしていたが、それでも実際に相対すると心の奥底に封じ込めたはずの罪悪感がざわつくのを感じた。

「あれだったら、彼はわたしが相手をしますが……?」

「気遣い無用だ、アンミツ。先ほども言ったが別に自分はこの絡南や奴に負い目を感じているわけではない。ただあんなことがあったのに、学習せずに同じ過ちを犯そうとしていることに若干苛立ちと嫌悪感を抱いているだけだ」

 まるで自分に言い聞かせるように蘭景は呟いた。

「そうですか。では、あの方はあなたに任せます」

「あぁ、お前はお前の因縁にケリをつけることに集中しろ」

「因縁ってほどではないですが……蓮霜さんと同じく、わたしもやられっぱなしは好きじゃありませんから、あっちがやる気なら、やってやりますよ……!!」

 アンミツは兵士の群れを睨み付けたが、実際はそこには姿がないあの軽薄な傭兵にメンチを切っている。決着をつけようと、全身からラブコールを発しているのだ。

「フッ、盛り上がって来たな。では、熱が冷めないうちに突撃と行こうか!!」

「「おう!」」

「やるぞ!スピディアー!!」

「錫鴎」

「造字聖人!!」

「惑わし、燃やせ狻猊!!」

 蘭景を先頭に政府軍と翠炎隊は機械鎧を纏いながら、門をくぐり、一気に城内に雪崩れ込んだ!

「迎え撃て!!」

「「「おう!!」」」

 対する絡南軍と拳幽会の合同軍はそれを全力で排除するために駆け出す!

「はあっ!!」

「ウオラアッ!!」


ガギィン!ガギィン!ガギガギィン!!


 両軍がぶつかり合うと、静かな城内は怒号と甲高い金属音が何度も何度も、絶え間なく鳴り響く戦場へとなり変わった。

 ついに玄羽と羅昂との決別を発端にして、様々な因縁と大量の流血を生み出して来た戦いの最後の幕が切って落とされたのだ!

「蘭景っ!!」

「デスクイラル……わざわざ父と同じマシンを手に入れたか『陳銘(ちんめい)』」

「そうだ!父の無念を果たすために!!」


バン!バン!バァン!!


「ふん」

「ちっ!!」

 デスクイラルは拳銃を乱射したが、蘭景は界踏覇空脚の力で空気を蹴り、普通の人間ではあり得ない立体機動を行うことによって、その全てを回避した。

「本当に無念を果たしたかったのなら、もっと自分に対して有効な骸装機を用意すべきだったな。一度完膚なきまで倒したマシンにこの自分が後れを取るわけないだろ」

「くっ!!」

「そもそも自分を責めるのはお門違いだ。貴様の父は王族を殺そうとしたんだぞ。普通に考えて極刑に値する。あの結末も致し方無しだ。そんなこともわからないほど、貴様はアホなのか?」

「わかってるよ!!これがただの逆恨みだって!!それこそ親父に刃を向けた相手に返り討ちにあっても、文句なんて言えねぇって言われ続けてきたからな!!」

「だったら……」

「だが、頭では受け入れても、心では受け入れられないこともある!それが人間だろ!!おれは……どうしてもあんたや、父と丁羊様の屍の上の玉座に座る姫炎が許せないんだよ!!」

「陳銘……やはりお前は……」

 その言葉は怒りよりも強く悲しみがにじみ出ているように蘭景には聞こえた。陳銘自身も最早どうしていいのかわからないと助けを求める声のように……。

「……いいだろう。ならば憤怒も憎悪も自分にぶつけて来い。そのために今回はわざわざ前線に出て来たのだからな」



「ぐわっ!!?」「ぎゃっ!?」「ぐへあっ!!?」

 蘭景がこの場を指揮する将の相手をしている横で翠炎隊は順調に敵の数を減らしていっていた。

「ヴォーインだっけか?もうこいつの相手は飽き飽きだぜ」

「わたしもですよ、バンビくん。でも飽きたからといって、鉄烏を攻撃する時は気を付けてくださいよね」

「わざわざ引っ張り出して来た黄色い奴が味方だぞ!」

「わかってるよ!あんだけ数が少ないって文句言っておいて、自分自身で減らすなんてバカやらかしたら、あの嫌味な蘭景にあとから何言われるかわかんねぇ!」

「というか思いの外、こちらが優勢だ。いっそのことここは蘭景殿達に任せて、拙僧達は羅昂もとい魔進真心の捜索に動いた方がいいんじゃないか?」

「そうですね……確かにその方が――」


バシュウン!!


「――ッ!?」

 錫鴎を銃弾が襲う……が、命中ギリギリで気づき、それに伴い反射的に身体が動いたためにかろうじて回避することができた。

「アンミツさん!!」

「大丈夫です。この攻撃は獣然寺で散々見ましたから」

「だよな」

 どこからともなく姿を現したのは鳥を模した特級骸装機、嘲風。まるでモデルがランウェイを歩くように、悠々と戦場に現れた。

「外から殺気ガンガン飛ばして誘って来やがって。あんたとのバトルは割に合わないから勘弁して欲しいんだけどな」

「わたしとしても心の半分では、あなたと拳幽会の契約が切れていることを願っていたんですが」

「残念。契約は絶賛続いてる。だからしっかりとお仕事させてもらうぜ……!!」

 そうまどろっこしい宣戦布告をしながら、嘲風は錫鴎に銃口を向けた。

「皆さん、わたしが奴の相手をするんで、魔進真心の方は頼みます」

「わかりました。行こうみんな!!」

「「「おう!!」」」

 錫鴎を残し、他の翠炎隊と造字聖人は一切振り返りもせずに城に向かって駆け出して行った。

「ずいぶんと聞き分けのいいお仲間さん達……というより冷たくないか?」

「獣然寺でそれぞれ因縁の相手ができてしまったんでね。事前にその相手と対峙した時は手助けはしないと取り決めていたんですよ」

「なるほどね。けれど、血気盛んな他の奴はともかくあんたはみんなで囲んで一人一人潰していきましょうとか、空気を読まずに言うと思ったんだがな」

「実際にそうしたらあなたはどうしました?」

「そりゃあ、契約なんかほっぽり出して、尻尾巻いて逃げるさ」

「だからですよ。あなたの、正確には嘲風の能力はとても厄介です。なので、この機会に確実に捕まえさせてもらおうかと」

「はいはい、そういうことね。やっぱ他の奴と違ってクールだよ、あんた」

「わたし的には彼らとずっと一緒にいたせいか大分感情的になったと思うのですが……あなたみたいな軽薄な人間にはわかりませんよね」



「ぐわっ!!?」「ぎゃっ!?」「ぐへあっ!!?」

「邪魔をするな!!」

 目の前の敵を蹴散らし、狻猊達は城に向かって進み続けた。迷いなく一直線に、最短距離で。

「このまま正門から突入するぞ!準備はできてるか!?」

「誰に向かって言ってやがる!」

「何も問題はない」

「おれっちもオールOK!」

「なら!!」

 狻猊は跳び上がると、地面と水平に横たわり、両足を豪奢な扉に向かって勢い良く突き出した!

「お邪魔します!!」


ドゴオォォォン!!


 ドロップキックで扉を蹴破り、ド派手に城内に侵入した翠炎隊。

「全く……獣然寺に来た時はあんなに礼儀正しかったのに。いつからこんなに野蛮な人になったのですか?」

「楊亮さん……」

 そんな彼らを獣然寺同様、皮肉をたっぷりと交えながら楊亮が出迎えた。

「狻猊、スピディアー、キトロン、ここは拙僧が……」

「了解」

「きっちりお灸据えてやれ!!」

「ガンバ!!」

 緑色の獅子と深紅の槍を持ったマシン、そして妖精はそのまま楊亮を素通りし上へと向かう。裏切り者はそれに対して、何もせずにスルーした。

 結果、その場に残されたのは同じ釜の飯を食い、修行に明け暮れた先輩後輩の二人……。

「まさか先輩が山を降りて来るなんて思いませんでしたよ。しかも造字聖人を持って」

「人間とは変わるものだ……お前なら、わかるだろ?」

「……ですね」

 楊亮は思わず自嘲した。確かに目の前にいる男と出会った時から自分は何もかもが変わってしまったと。

「問題はそれがいい方向に進んだものか、悪い方に転がり落ちたのかだ」

「まるで自分は成長したけど、ワタシは堕落したと言いたげですね」

「そうだ。それを今からその身体に痛いほどわからしてやる……!そのために拙僧は山を降りたんだ!!」



「お久しぶりです」

「よお、会いたかったぜ……夫諸泥棒……!!」

 上の階でも因縁の再会が。スピディアーの前に薄固が立ちはだかったのだ。

「狻猊、キトロン、ここは……」

「任せた!」

「ガンバ!」

「早えな!おい!!」

 言い終わる前に獅子と妖精はその場から全力でダッシュで離れていった。あっという間に背中が見えなくなる。

「信頼されているんですね」

「いや、ただあんたなんかよりも夢中になれる奴がこの上にいるからだろ。つーか、簡単に行かせていいのか?」

「ええ、我らが首領は拳幽会最強の戦士が守っていますから。ほどほどに強いわたくしは身の程を弁えて、適当な雑魚をあしらってればいいんです」

「ほう……このオレが雑魚だと……!!」

 安易な挑発だと頭ではわかっているが、バンビの心と身体の方は素直に反応し、普通の槍だったらへし折れてしまうほど、手に力が入った。

「最低限の記憶力と理解力があるなら、そう言われても仕方ないってわかると思いますが」

「……そうだな。てめえの言う通り、獣然寺での体たらくはひどいもんだった。だが、あの時とは一味違うぜ……!!」

「一味程度で覆せる差じゃないでしょうに。わたくしとあなたの間にある溝は」



「キトロン!この先にいるんだな!?」

「おう!嫌な感じがびんびんする!!この先にいるぜ!おれっち達が探し求めたものが!!」

「そしてそこにきっと奴も!!」

 城内でも一際巨大で豪勢な扉を開ける狻猊とキトロン。二人がたどり着いたのはきらびやかな装飾品で彩られた謁見の間。そこには……。

「来たか、玄羽の一番弟子……」

「羅昂……!!」

 領主のための椅子に腰を下ろす痩せ細ったみすぼらしい老人……。

 その胸には心臓を象った奇妙な物体がドクドクと脈打っていて、一目でそれが探し求めた神遺物と敵の首魁だと理解できた。

 そしてもう一人……。

「玄允……!!」

「懲りずにまたおれにやられに来たのか……紛い物の後継者よ」

 この世に残った聖王覇獣拳の使い手二人が再び相対した。自分こそが拳聖の名を継ぐに相応しい存在だと示すために……いや、単純に自分が誰よりも強いと証明するために!

「会いたかったぞ、自称拳聖の息子よ。前回は後れを取ったが、今日は……自分が勝たせてもらう……!!」


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