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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
152/163

判明

「…………」

 檮杌との激闘から二日、焼け焦げ、穴の空いた獣然寺を静かに見上げながら、道鎮は自らの無力感に打ちひしがれていた。

「それ、造字聖人の力でどうにかならんの?」

「……キトロン」

 そんな彼のところに妖精がやって来ると、あっけらかんと率直な疑問を口にした。

「なんか“直す”とか、“戻す”とか書けば、たちまち元の無事な姿に戻りました~とかさ。できないのか?」

「無理だな。それはこのマシンの力の範疇を超えている。造字聖人を何だと思っているんだ?」

「そりゃあ文字を書けば何でもできるスーパーマシンだよ。幸か不幸かおれっちは結構な数の特級骸装機を見て来たけど、そん中でもトップクラスで無茶苦茶だぜ、そいつ」

 キトロンはその小さな人差し指で道鎮の手首に巻かれた数珠を指差した。

「あくまでそう見えるだけだ。冷静に考えてると、意外と弱点が多いんだぞ」

「そうなのか?」

「確かに造字聖人は書いた文字によって色んな能力を発揮できるが、逆に言えばそれは文字を書けなければ、能力を使えないということでもある」

「言われて見れば……仮に炎を出そうと思ったなら、狻猊はそう考えた瞬間に出せるのに、造字聖人はいちいち“炎”って書かないと駄目なのか」

「あぁ、どうしても書くという一手間分、能力発動にタイムラグが起こる。しかも厄介なことに文字の美しさによってその威力が増減する」

「だからあの地雷を作るのにあんな時間がかかっていたのか」

「あの“爆”は特別感情の力を溜め込む必要があったってのもあるがな。そしてそれだけやっても発動前に文字を壊されてしまったら、全ておじゃん。だからは必死になってあの文字を守った」

「きついな、それ」

「だろ?水でぼやけたりしただけでも、かなり効果が落ちるから、何でもかんでも好き勝手やっているような印象に反して、実のところ繊細な立ち回りが要求されているんだ。それこそ先の檮杌の時のように集団戦で他の仲間のサポートや、隙を見て罠を設置するのが正しい使用法なのかもな」

「うーん、やっぱりどんなものにも長所と短所、両方あるんだな」

「だからこそ学び、鍛練するのだ。拙僧も自分がまだまだ未熟な存在だと痛感したよ。蓮霜や君達翠炎隊がいなければ拙僧は……」

 思い出されるのは、自分と違い勇敢に知恵と力を振り絞って戦う仲間の姿と、それに助けられてばかりの情けない自分……悔しさから道鎮は拳を強く握りしめた。そして……。

(このままでは拙僧の気がすまん……!何より奴のこともある。拙僧は……!!)

 そして密かにとある決意を固める。真面目な彼にとって、決して他人任せにすることのできない問題に立ち向かうことを。

「どうした道鎮?急に眉間にシワを寄せて、怖い顔をしちゃって」

「いや、別に……それよりも君こそどうしたんだ?造字聖人のことを聞きに来たのか?」

「あっ!そうだったそうだった!すっかり忘れてたけど、おれっち、あんたのことを呼びに来たんだよ!」

「……何かあったのか?」

 立て続けの不幸によって完全にネガティブ思考になっている坊主は眉間を寄せて怪訝な顔をした。

「あったけど、そんなさらに怖い顔することじゃねぇよ。むしろ喜ぶべきこと」

「喜ぶ……?」

「さっき獣然宗の使いが灑の蘭景からの手紙を携えて戻って来た……拳幽会の居場所が判明したってよ」



 キトロンに連れられ、道鎮が獣然寺の寺の庭の真ん中に行くと、翠炎隊と関敦、田伝、そして慧梵と蓮霜がすでに集まっていた。

「どうやら待たせてしまったようだな」

「別に気にしてないですよ。どうせキトロンが迷っていたか、すっかり目的を忘れて関係無い話でもしていたんでしょうし」

「よくわかったな、リンゴ!褒めてやろう!」

「いや、いらないから」

「それよりも本当に拳幽会の居場所がわかったというのは本当か?」

「ええ、ここにしっかり」

 アンミツは手に持った手紙をゆらゆらと揺らした。

「ということで、わたし達はすぐにでも山を降りようと思っているのですが、その前にご挨拶をと」

「そういうこった」

「お前も付いて行くのか?関敦」

 旧知の坊主の問いかけに関敦は小さく首を横に振った。

「ワタシは別に拳幽会と因縁なんかありませんからね。唯一奴らに力を貸していた迂才のことはどうにかしたいと思っていましたが……」

「もう奴は死んで、完全に興味を無くしたというわけか」

「一応、このまま奴らを放置した場合の我が是の国への影響については興味津々ですよ。けれど、それ以上にワタシ達が捕まえられなかった迂才のせいで、これだけの被害を被った獣然寺を放ってはおけない」

「別に気にせんでもいい。田伝を匿うと決めた時点で、こうなることも、むしろもっと酷い状況になることも覚悟しておった」

「ええ……責任があるとしたら魔進真心をここに持ち込んだ私……残った人生は、この獣然宗のために尽くす……!!」

「どいつもこいつも責任感が強いの~。まぁ、元始天尊の力で作った簡易型住居の役目が無くなるまでは手伝ってもらおうか」

「「はい」」

 関敦と田伝は慧梵に頭を下げた。

「ということで山を降りるのはわたし達翠炎隊だけです。山の下までは獣然宗の方にエスコートしてもらいますがね」

「……そうか」

「ん?」

 道鎮は慧梵の方を真っ直ぐ見つめ直した。それはそれは真剣な眼差しで。

「その顔……そうかお主……」

「はい……拙僧も翠炎隊に同行することをお許しください」

「え!?道鎮さん、付いて来てくれるんですか!?」

「拳幽会には裏切り者の楊亮がいる。獣然宗の汚点は、獣然宗の僧であるこの拙僧がつける……この状況で寺を離れることを慧梵様が許してくれるというならだが」

「別にええぞ」

「「軽っ!!」」

 慧梵は二つ返事で了承した。

「本当にいいんですか?」

「お主一人くらいいなくなったところで、困りはせんわい。楊亮をどうにかせんといかんのも事実だしの」

「では、翠炎隊が一緒に行くことを許してくれるなら……」

「むしろこっちからお願いしたいくらいですよ」

「造字聖人、強かったもんな」

「ええ、わたし達はウェルカムですよ」

「かたじけない」

 道鎮は手のひらに拳を叩きつけながら、深々と頭を下げて、感謝の意をこれでもかと示した。

「なら、いっそのこと蓮霜も一緒に来ればいいんじゃねぇか?あんたもやられっぱなしのままじゃ嫌だろ」

「そうしたいのは山々だが、道鎮だけじゃなく俺まで獣然寺を離れるのはさすがにな。つーことで、玄允とかいう自称拳聖の息子へのリベンジはお前に任せるぜ、リンゴ!」

「……はい!必ずや!」

 蓮霜の拳で胸を優しく小突かれると、リンゴは身体の芯が熱くなるのを感じた。

「ちえっ!!蓮霜もいれば、またこのおれっち指揮の下、最強合体必殺技、トリニティ・バーストで拳幽会なんて一網打尽にできたのによ~」

「きっとそれは無理だと思いますよ」

「え!?あんだけ凄い攻撃なのに!?」

「あんなに凄い攻撃だからですよ。トリニティ・バーストの使い手が少ない理由の一番はもちろん感情の力を合わせるのも難しいってことなんですが、仮に使えたとしても威力が強すぎて使い所がないんですよ。今回は元始天尊のおかげで空中に撃てましたが……」

「地上に向かって撃ってたら、ここら一帯さらにひどいことになる……って、そう言えば言ってたな」

「それにキトロンくんも見たように、あれだけの光とエネルギーを発していたら、すぐに感知されてしまいます。なら、急いで発射すれば……ってできるもんでもありませんし。きっと溜め時間中に潰しに来るなり、逃げるなりされてしまう」

「そっか、溜めに集中できたのも檮杌を逃がさなかったのも元始天尊が引き付けてくれたおかげか」

「そうじゃ。儂が影のMVP」

 慧梵はニカッと満面の笑みを浮かべながら、ピースサインをした。

「感知についてもおれっち並みに敏感な嘲風があっちに付いてる限り、すぐに気付かれちまうし、トリニティ・バーストで一網打尽作戦は無理か……」

「むしろ相手も特級骸装機を三体以上所持しているのがわかっているのだから、こっちが撃たれないように気を付けなくては」

「だな……いや、気を付ける所の話じゃねぇよ!滅茶苦茶ヤバいじゃん!!」

 あの圧倒的で絶対的なエネルギーに飲み込まれる仲間の姿を想像して、キトロンは狼狽え、取り乱し、手足と羽をバタバタと忙しなく動かした。

「落ち着いてください。さっきも言った通り、特級が三体が揃ったからっておいそれと発動できるような技じゃないので」

「楊亮の奴はマシンを受け取ったばかりで緻密な感情コントロールは無理だろうし、嘲風の装着者は雇われているだけで、俺達ほどの信頼関係はねぇだろうからな」

「さらに言うと、今回は狻猊が炎、陸吾が地、そして……」

「造字聖人こと倉頡は混沌属性です」

「そうそう!このように三体の属性がバラバラだったからできたのであって、奴らの属性がだだ被りしていて、前提条件すら満たせていない可能性もある」

「でもそうじゃなくて、特級の属性バラバラで、意外とみんな仲良しで、感情のコントロールも上手くて、平気でトリニティ・バーストを撃って来る可能性もあるってことだよな?」

「ゼロではありません」

「そん時は?」

「もちろん全力で逃げます。君の感知能力で異変があったら、すぐに教えてください」

「結局、あれもこれもおれっち頼りかよ……優秀なのも考えもんだな」

 さっきとは打って変わってキトロンはどこか誇らしげにため息をついた。

「まぁ、拳幽会への対応は道すがら考えましょう」

「ですね。ところでアンミツさん、その肝心の拳幽会の本拠地ってのはどこなんですか?」

「ん?お前も知らないのか、リンゴ?」

「ええ、場所がわかったと聞いただけなので、自分も道鎮さんと同じく詳しいことは何も」

「オレもだ。というわけで、そろそろ教えてくんねぇか?」

「そうですね……」

「アンミツさん……?」

 アンミツの顔に陰がかかった。

 そこは彼にとって、いや灑の国の人間にとっては様々な感情が渦巻いてしまう複雑な場所なのだ。

 だが、その場所に国を蝕む邪悪が潜んでいるなら、向かわなければならない。

 だからアンミツは意を決して口を開いた。

「拳幽会がいるのは“絡南”。かつての内乱で現灑皇帝姫炎を暗殺しようと刺客を差し向け、それに失敗すると領主が家族ごと自害したあの絡南です……!」


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