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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
150/163

獣然寺燃ゆ②

「そんな……獣然寺が……」

 燃え盛る慣れ親しんだ家であり、信仰の対象でもある聖地の姿を見て、造字聖人は、道鎮は呆気に取られ、筆を止めた。

「一体、慧梵様にどう説明したら……いや、それよりも寺の中にいたみんなは……!!」

 そして、その場から離れ、同僚達を助けに駆け出そうとした。その時……。

「道鎮!!檮杌が狙っているぞ!!」

「!!?」

「グラアァァァッ……!!」

 陸吾の言葉で、視線を憎き怪物に向けると、それは寺を現在進行形で焼いているエネルギー球を発射した大口を開けて、造字聖人を睨んでいた。

(防御を!!いや、直接撃ち込まれたら、造字聖人の力ではどうにも……)

「グラアァァッ!!」

(ヤバい……死ん――)

「万家流槍術!剛烈!!」


ドゴッ!


「――グラアッ!!?」

「――だ!!?」

 瞬間、横からスピディアーが再び奥義発動!持てる全ての力を使い、檮杌の口を下からぶっ叩き、空へと強制的にかち上げた!その結果……。


バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 光の奔流は空へ。大気を焦がし、白い雲を貫き、書き消すことはできたが、狙っていた造字聖人には掠りもしなかった。

「助かったのか……?」

「そうだ!まだ生きている!オレも!あんたも!そしてきっと他のみんなもだ!!」

「何!!?」

「こんだけの騒ぎが起きていたら、普通逃げるだろ!!それとも獣然宗の連中はそんな判断もできないポンコツばかりなのか!!?ええ!!」

(バンビ……拙僧の命を救った上で、叱咤激励まで……あいつ自身、アンミツ殿の安否で気が気じゃないはずなのに……それに比べて拙僧は……)

 ついさっき怒りに我を忘れて特攻しようとし、すぐにそれを改めて、課せられた仕事をこなす気高きスピディアーの記憶がフラッシュバックすると、ただ呆けるだけの自分が情けなくて仕方なかった。今までの修行は何だったんだと。こんな立派な男を外から来たというだけで邪険にしていた自分はどれだけ矮小な人間なのかと。

「だから、あんたは――」

「グラアァァァァァァァァッ!!」

「ちっ!!」


ドゴオォォォォン!!


「話ぐらいゆっくりさせろよ!!」

 そして現在、今もまた撃ち下ろされた巨拳を避けては、すぐに檮杌に勇敢に向かっていくスピディアーの姿を見て、道鎮は心の中に熱いものが込み上げてくるのを感じた。

(奴の言う通りだ!きっと他の宗徒は大丈夫だと信じるしかない!!今、拙僧は拙僧のできることをやろう!!それしかない!!)

 その思いが造字聖人に伝わり、その手に握る筆に更なる力を与えた。

「陸吾!」

「できたのか!?」

「いや、もう少しだけ時間がかかる!!だが、今の拙僧ならば、完成さえすれば、奴でもただでは済まない文字を書ける!だから、スピディアーと一緒にまた奴の注意を引き付けてくれ!!」

「了解!!この俺を顎で使うんだから、今までで一番の字を書けよ!!」

 言われるがまま陸吾は檮杌へとまた駆け出す。

「オラアッ!化け物この野郎!こっちだ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「グラアァァァッ!!」

「そうだ……それでいいんだよ……!!」

 そして今までと同じくスピディアーの対角線上の位置を維持しながら、尻尾によるジャブを繰り返す。

 当然、一切効いていないが、それがまた気に障るのか檮杌の意識は陸吾に集中、ついさっきまで夢中だった造字聖人のことなどすっかり忘れてしまった。

「さすが陸吾に選ばれただけはある……性格はともかく実力は獣然宗屈指だな。では拙僧もこの地で学んだ全てを込めて、この文字を完成させる……!!」

 造字聖人は筆先を地面につけると、墨が、その中に凝縮された自分の思いが地面の奥に染み込むように、入念に押し付け、少しずつ少しずつ動かしていった。

(もう少しだ、もう少し……だからこそ焦るな。ここで焦って、誤字なんてやらかしたら、まさしく一巻の終わりだ……だから仕上げは丁寧……にっと!!)

 神経と精神エネルギーをすり減らしながら、最後の一画を書き終える。

 完成した文字は“爆”。

 その一文字が、造字聖人の切り札であり、そして獣然宗・翠炎隊の最後の希望である。

「陸吾!スピディアー!!」

「!!」

「完成したのか!?」

「あぁ!!」

「そうか……!!」

「これで……!!」

 勝機の見えない真っ暗闇の中で戦い続けていたところに、ようやく光明が見え、マスクの下の蓮霜とバンビの顔は思わず綻ぶ。しかし……。

「というわけで、どうにかして、そいつをここまで誘き寄せてくれ!!」

「「…………え?」」

 彼らの苦難はまだ終わっていなかった。

 また新たな難題が仲間から提示され、拒否感から一時的に思考が停止する。

「ボーッとするな!早くそいつを連れて来い!!」

「簡単に言うな!!攻撃に当たらないようにするだけで精一杯だってのに!!」

「どうしてもそっちにこの怪物を行かせないと駄目なのか!?」

「駄目だ!!全ての力を攻撃力として使うために設置型のトラップにした!!だから、何がなんでもそいつをここに!!」

「くそ!わかったよ!!やればいいんだろ、やれば!!スピディアー!!」

「おう!!選択肢なんてないんだろ!チクショウ!!」

 今までお互いに向かい合うような位置取りを続けていた陸吾とスピディアーだったが、檮杌を誘き寄せるために合流、造字聖人を背にして、肩を並べた。

「さぁ来い!くそ野郎!!」

「カモンカモンカモン!!」

「グラアァァッ!!」


ババババババババババババババッ!!


「「「――いっ!!?」」」

 檮杌は口を開いた。一歩も動かずに大口を開いて、光の弾の群れを発射した!

「なんじゃそりゃ!!」

「くっ!!」

 せっかく合流した陸吾とスピディアーは即時解散!各々弾の攻撃範囲の外に逃げる。

「聖なる文字よ!我を、いや我らが希望を守れ!!」

 造字聖人は自ら書いた“爆”の文字に弾が触れないように、“盾”の文字を何文字も何文字も、何重にもなるように空中に書いた!


バギィ!バギィ!バギィ!バシュ……


「よし……ギリギリ……!!」

 “盾”の文字は瞬く間に破壊されていったが、最後の最後、残り一枚でなんとか全ての弾をかき消すことに成功した……したが、だからといって造字聖人達の抱えた問題が解決したわけではない。

「このタイミングで遠距離攻撃を選んだのは、偶然かそれとも……」

「残念だが、こっちの罠に気づいたんだろうな。あんななりだが、あれは俺らと同じ特級骸装機。きっと地面に込められた意思の力を感じ取ったんだ」

「だとしたら誘き寄せるのは無理……拙僧の判断ミスか……」

「いや、誘き寄せるのができないつーなら、無理矢理引っ張ってくりゃいいだけの話だ」

「いや、どうやって……?」

「そりゃあもちろんこいつで」

 陸吾はこれ見よがしに、九本の尻尾をうねうね動かした。

「忘れたのか?奴は拙僧とお前の拘束を強引に振りほどける剛力の持ち主だぞ」

「お前こそ忘れたのか、こっちにもバンビが、猛華きっての力自慢がいることを」

「え?オレ?」

「俺一人では無理でも、三人で力を合わせて引っ張りゃ、あいつの巨体も動かせるだろ」

「希望的観測が過ぎると思うが……」

「もう何度も似たようなことを言った気がするけど、もう一度だけ……それしかないなら、やるしかねぇだろ!!」

「その通りだ!!」

 陸吾とスピディアーは造字聖人の下に終結!そして集まるや否や……。

「気張れよ!俺の尻尾たち!!」

 陸吾が檮杌に向けて全ての尻尾を伸ばした!

「グラアァァァァァッ!!」

 檮杌はその太い腕を振り上げ、尻尾を迎撃しようとした……が。

「させるか!!」


ボンッ!!


 造字聖人が“砲弾”と文字を書き、そこから黒い塊が発射!それが……。


ボゴンッ!!


「――グラアァッ!!?」

 檮杌の腕を弾いた!

「今だ!!」


ガシッ!ガシッ!ガシンッ!!


「――グラアァッ!!?」

 その隙に陸吾が九本の尻尾で再び怪物の四肢を絡め取ることに成功!

「お前ら俺の尻尾を!!」

「よっしゃ!!」

「任せろ!!」

 さらにスピディアーと造字聖人がそれぞれ尻尾を掴む!

「んじゃ、タイミングを合わせろよ!いっせの……せ!!」

「「ふん!!」」

 そして引っ張る!三人とも限界まで腕に力を込め、重心を後ろに乗せて引っ張った!


ズズッ……


「グラアァァァッ……!!」

「くっ!?」

 なのに檮杌を動かせたのは、僅かに数センチ……たった数センチしか動かせなかった。

「マジかよ……」

「オレ達が三人力を合わせても……」

「無理なのか……!?」

「なら、もっと人数を増やしましょうか」

 また新たにこの人生を懸けた綱引きに仲間が加わった……檮杌に吹き飛ばされて、安否不明だった錫鴎だ!全身の装甲に亀裂を入れた錫鴎がここで合流した!

「アンミツさん!!やっぱり生きてたのか!!」

「ええ、もちろん。ですが、喜ぶのはまだ早いですよ」

「だな。このままだと、全員まとめてお陀仏だ」

「そうならないためにやれることをやりましょう。綱引きは好きでもないし、得意でもないですが、全身全霊頑張りますよ」

「気持ちはありがたいが、アンミツ殿一人増えたぐらいでは……」

「安心してください。援軍はわたしだけではありません」

「何?」

「無理はするなと止めたんですが、背に腹は変えられないのでね……」

 錫鴎のマスクの下でアンミツは目を細め、檮杌を見つめた。その時が来た時に、決して見逃さないように……。

「グラアァァッ……!!」

 対する檮杌も錫鴎を睨んでいた。始末したはずの相手が再び現れ、その目には怒りが滲んでい……。

「ばあっ!!」

「――ラアッ!!?」

 瞬間、目の前にキトロン出現!怪物は驚愕し、注意がその小さな身体に注がれる!

「はあぁぁぁぁっ!!」


ガァン!!


「――グッ!!?」

 それと同時に関敦撃猫が渾身のスライディングタックル!檮杌の足目掛けて突っ込み、僅かに姿勢を崩した!

「やはり是の人間として、ただ見ていることはできませんよ。まぁ、そうは言っても、ちょっと小突くくらいしかできませんし、仕上げは結局他人任せなのですが……というわけで、あとはよろしく頼みます」

「「「おう!!!」」」


グイッ!!


「――ラアッ!!?」

 踏ん張りが効かなくなった檮杌の巨体が宙を浮き、キトロンを通過!そして“爆”の文字の上に……。

「ほどけろ!!」


バッ!!


「グッ……」

 タイミングを合わせて、陸吾が尻尾の拘束を解くと、まっ逆さまに頭から落ちて行き、地面に落下、文字に触れると……。


ドゴオォォォォォォォォォン!!


 大爆発!文字に溜め込んだ造字聖人のエネルギーが解放されると、凄まじい衝撃と爆炎が檮杌の身体を襲い、大気と大地を轟音で揺らした!

「やったか!?」

 祈るように黒煙の塊を見つめる一同。もしこれが通じなかったら……。

「グラアァァァァァァァァッ!!」

「「「!!?」」」

 怒りの咆哮でまとわりつく炎も煙を吹き飛ばすと、檮杌が再び皆の前に姿を現した。

 その身体はひび割れ、所々欠けてはいるが四肢は健在で、暴れ回るのに支障がないように見える……。

「そんな……拙僧の最大の火力で仕留められないのか……」

「造字聖人」

「陸吾……」

「もう一発……いや、奴を倒すまで何度でもやるぞ」

「だが、もうあれだけの威力は……」

「だとしてもだ」

「また言うことになっちまったが、それしかねぇならやるしかねぇ。もうちょい脆くなればオレの槍でも殺れるくらいになるかもしれねぇし……続けよう」

「……わかった。誰よりも危険なミッションをこなしてきたお前達が折れてないのに、拙僧が折れるわけにはいかないよな!この命が果てるまで、何度だってやってやるさ……!!」

 仲間達の言葉と決して諦めない姿勢に触発され、造字聖人も改めて決意を固め直す。しかし……。

「グラアァァァァァァァァッ!!」

「「「!!?」」」

 そんな自らを必死に奮い立たせる彼らを絶望のドン底に落とす光景……檮杌がエネルギーを溜めた口を上に向けていた!

「あの攻撃は!!」

「さっきはなんとか防いだが、消耗している今食らうのは!?」

「まずい!!あいつを止め――」


バシュウン!!


「――ろ!!?」

 絶対に発射を阻止しなければいけなかった攻撃が発射されてしまった。光の球は再び空気を焦がしながら、ぐんぐんと高度を上げていき、一同はそれをただ見送るだけ……。

(くそ!?止められなかった……!?)

(こうなった意地でも耐えて、あの野郎にオレの槍で倍返ししてやる……!!)

(“爆”のエネルギーは減るが、ここは残った力を使って最大級の“盾”を書くか!?だが、それでも皆を守れるか……)

「焔発勁」


ドゴオォォォォォォォォォン!!


「――グラッ!!?」

「「「え?」」」

 頭上で光の球が翠色の炎に貫かれ、爆散!突然、翠色の炎に貫かれ、かき消されてしまったのだ!

「あの炎の色は……」

「あぁ、あの野郎だ……!」

「これ以上ない最高のタイミングですね……」

 そして陸吾達の前に炎と同じ色をした獅子が降り立つ……修行を終えて、新たな力を得た若獅子が!

「状況がよく飲み込めてないんだが……あいつを倒せばいいんだよな?」

 狻猊帰還!からの即バトル!


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