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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第一部
15/163

新しき仲間と旧き友

「…………んん」

 ジョーダンが目を覚ますと、最初に視界に入ってきたのは、遺跡の天井であった。興味深く観察し続けていたので、すぐに自分が移動していないことは理解できた。

「…………この匂い……それにこの空腹感、結構時間が経ってるな……」

 次に彼が気付いたのは鼻腔を刺激する香ばしい匂いに、過敏に反応してしまう自分の胃袋。つまり中身が空っぽであり、そうなってしまうだけの時が流れたということだ。

 ジョーダンは重い身体を起こし、匂いのする方向に視線を向ける。

「おっ!漸くお目覚めか、天才」

 焚き火の前で肉を貪っていたカンシチが相棒の覚醒にいち早く気付き、声をかけた。

「あれから一日……腹が減ってるだろ?」

「早くしないと、全部食っちまうぞ」

 続いて、こちらも肉を堪能していた愛羅津とセイが親しげに呼びかける。ジョーダンは彼らの言葉に導かれるように、焚き火の前へと移動した。

「ほれ、水」

「あぁ、サンキュー……ん」

 カンシチにコップを渡されると、ジョーダンは一息にその中身を飲み干した。身体中に水分がかけ巡ると、視界が一段階クリアになった気がした。

「それで気を失う前のことは覚えているか?」

 ジョーダンの記憶を確かめる質問をしながら、愛羅津は肉を皿に盛り付ける。

「うまそうだな」

「そりゃあうまいさ。なんてったって、俺が倒したこの遺跡の主の肉だからな」

 愛羅津は皿を手渡すと、自慢気に親指で巨大な起源獣の死体を指さした。ジョーダンの位置からは見えにくいが、腹の一部が切り取られている。

「それで、記憶はあるか?」

「あぁ……あんたのハンマーを避けて、カウンターで拳を叩き込もうとしたら、あんたは既に武器から手を離し、逆にカウンターをぶち込む準備をしていた。それをボクはもろに食らって……つーか、そんなことを言わせるなよ!」

 苛立ちをぶつけるようにジョーダンは肉にかぶりついた。

「それだけ鮮明に覚えてるなら、頭は大丈夫だな。天才様の顔面におもいっきりぶん殴っちまったから、ちょっと心配だった」

「そう思うなら、もっと手心を加えて欲しかったね」

「いや、そんなことしたらもっと怒るだろ、お前」

「ふん……確かにそんな舐めた真似されたら、それこそ怒りで頭がおかしくなっていただろうね」

「だろ。だから俺はお前のためを思って、力いっぱいぶん殴ったわけよ」

「ものは言いようだな」

「まぁまぁ……ところでマシンの、応龍の方は大丈夫か?」

「それなら問題ない」

 ジョーダンがメガネのフレームに触れると、レンズに様々な文字や数字が映し出された。

「エネルギー充填も100%、修復も終わっている」

「へぇ、もう自己修復を終えているのか。立派な角を二本もへし折ってしまったから、もっとかかると思っていたよ」

「言葉の端々に嫌味を感じるが、まぁいい。待機状態の回復速度は地味に拘ったところだ。特級は上級までの骸装機と違って、最終手段である他の骸装機のパーツを使って、修復させることはできないからね」

「確かに俺も狴犴の自己回復が間に合わなくてしんどい思いをしたことがある」

「本当は戦闘中に修復できるようにしたかったんだけど」

「そんなことできるのか?」

「特別な素材を使えばね。確か懐麓道の九つの骸装機の一つも何らかの方法で戦闘中も再生能力を発揮できるみたいな話だったけど……」

「ん?俺は狴犴のことしか知らないぞ。悪いな」

 そう言いながら愛羅津は肉を口に含んだ。悪いとは毛頭思っていないのだろう。その姿にジョーダンは呆れる。

「心にもないことを。というか、自分で始めた話なんだから、ボクより先に飽きるなよ」

「どうにもメカに関してはあまり興味を持てなくてな」

「そんな奴が狴犴を……!」

 ジョーダンの眉間に深いシワが刻まれる。メカに疎く、狴犴の価値を理解してない人間が所持しているのも腹立つが、それ以上にそんな奴に負けた自分に怒りを覚えた。

「恐い顔をするな。俺の問いに答えてくれた礼に、今度はそっちの質問に答えてやるから」

 ヤバいと思ったのか、めんどいと思ったのか愛羅津は話題を無理矢理変える。

「質問ねぇ……何でボク達仲良くご飯食べてるの?」

「今さら?」

 愛羅津の思惑は見事に成就する。ジョーダンの意識はメカのことから、今のこの状況の異常さに向いた。いや、元々彼はこのことについて思うところがあったのだ。

「最初から疑問には思っていたよ。けど、カンシチが……」

「ん?おれ?」

 いきなり話を振られたカンシチが肉を頬張りながら、自分を指さした。

「カンシチは人を見る目があるからね」

「どうしたんだよ、いきなり……あんまし褒めるなよ」

 カンシチは照れ隠しで頭を掻いたが、顔が見事にとろけているので、全然隠しきれてない。

「なんたってボクを仲間にしようとしたんだから。ボクの全身から溢れ出るいい人オーラと天才オーラをきちんと感じ取れるだけの最低限の感性は持っている」

「あぁ……そういうこと……結局、自分のことなのね」

 一瞬でカンシチの顔は真顔に戻った。そしてジョーダンのこういうところを理解していたはずなのに、素直に喜んでしまった自分を恥じる。

「その彼が大人しく食卓を囲むっていう選択を取ったんだから、きっとあんた達は信用に足る人間なんだろ?少なくともボクと同程度には。そもそも何かするなら、ボクがのびてる間にしてるはずだ」

「まぁ、そういうことになるか……カンシチ」

「愛羅津さん……今こんな奴の言葉を真に受けた自分を反省しているんで、申し訳ないけど、説明は……」

 話を振られたカンシチだったが、全てを拒絶するように横たわってしまった。

「そうか……なんか知らんが元気出せよ。あと食った後にすぐに横になるのは良くないぞ」

「ご忠告ありがとうございます……だけど今のおれは……なんでこんな奴を……」

「もうそいつはほっといて話に戻ろう、愛羅津」

「……だな。つっても、そんな改めて話すようなことでもないんだけどな。単純にお互いの目的を聞いてみたら、敵対する必要を感じなかったってだけさ。むしろ協力するべきだ、俺達は」

「ん?無影覇光弓を手に入れるんじゃなかったのか?だから、セイが……」

 ジョーダンがセイに目線を移動させると、無言でそっぽを向いた。彼はこの状況をまだ受け入れていないようだ。

「確かに俺がお宝を狙う奴が現れたら、迎撃しろと星譚に命じた。結果は残念なことになったが」

「愛羅津さん!オレは!!」

「敗北を認められない人間に成長はないぞ」

「くっ!?……そうですね……すいませんでした。話を続けてください……」

 荒ぶるセイを愛羅津は一言で諌めた。その僅かなやり取りで、二人の関係性、絶対的な師弟関係が伺え知れた。

「えーと、何を……あっ!お察しの通り俺達はトレジャーハンターな訳だけど」

「要は墓荒らしだろ?カッコつけんなよ」

「そう言ってくれるな。一応、その名前に誇りを持っているんだ。それに墓に探索に入ったのは俺も星譚も初めてだ」

「では、そこに関しては譲ってやろう。ぶっちゃけどうでもいいし。で、そのトレジャーハンター様が伝説の無影覇光弓を手に入れようとしているんだろ?そしてボク達も同じように覇光弓が欲しい……やっぱり敵じゃない?」

「いやいや、俺達の目的はその武器を売った金だ。気に入ったものは手元に取っておくこともあるが、俺と星譚が弓なんか欲しがらないのは、戦ったお前が一番わかっているだろ?」

「二人ともゴリゴリのインファイターだもんね。じゃあ、その弓をボクらに売ろうっていうの?そんなお金持ちに見える?」

 ジョーダンは手を広げて、身体を揺らした。服が擦れる音だけで、小銭どころか財布も持ってないようだった。

「安心しろ、見えねぇよ」

「自分から仕掛けておいてなんだけど、そう肯定されると腹が立つね」

「天才様は気難しいことで。そんで話を戻すが、俺達は無影覇光弓を手に入れたら、宝術院か王弟、姫炎様とやらに売りつけようと考えていたんだ」

「……何?」

 どこか緩んでいたジョーダンの顔が真剣で険しいものへと変化し、身体を愛羅津へと近づけた。

「おっ!漸く興味が湧いてきたか」

「まぁ、少しだけね。つまりボク達とキミ達、当面の行き先は一致していた訳か」

「カンシチからそこに向かう理由も聞いている。俺達が覇光弓の売却先に灑の国を入れてないのも、あいつと同じく今の中央政府にキナ臭さを感じているからだ」

「行き先も考えも似てるのはわかったけど、それだけで協力する必要までは感じないな」

「だろうな。だけど、この奥に行ったらきっと気持ちも変わるぜ」

 愛羅津は昨日自分が現れた場所を顎を動かして指した。

「……そんなに厄介なのかい?」

「あぁ、完全に迷路だ。おまけに罠もたっぷり。とてもじゃないが、俺と星譚二人だけでは時間がいくらあっても足りない」

「だからボク達と協力して、四人でお宝を目指そうと……」

「そういうことさ。この場で争って時間を浪費しても仕方ないし、俺達は宝術院に弓を売れればいい。その後はお前達が口八丁手八丁で貸し出してもらえばいいんじゃないか?一緒に革命を起こすなら、そういうこともできるだろ」

「確かに……ちょっとそれは都合良すぎる気がするが……仮に無影覇光弓が最終的にボクらの手から離れても、手に入れたという“箔”がつく。ボクはともかくカンシチは今のままだと、意識高いだけの痛い奴だからね」

「ジョーダン……お前、おれのことそんな風に思ってたのかよ……」

 反省を終えたカンシチが起き上がり、話の輪に入る。

「でもまぁ、その通りだ。お前が寝てる間に愛羅津さんとも今みたいなことを話して、おれも同じ結論に至った。おれ自身が信頼を得られるような“結果”を持たなきゃ駄目だってな。そういう意味では無影覇光弓はお土産として最適だ」

「だから同盟か……」

「あぁ、お前は……どう思う?」

 カンシチは不安そうにジョーダンの顔を覗き込んだ。

「……キミがそう言うならボクはもう何も言うまい」

 ジョーダンは腕を組み、目を瞑った。それが同盟締結の合図だと皆、心で理解した。

「決まりだな」

「あぁ!一時的だけど、おれ達はチームだ!!」

「あまり気を許すなよ、カンシチ。いざとなったら隙を見て、覇光弓をこっそりちょうだいしなきゃいけないんだから」

「あぁ!?そんなことオレがさせると思うか!!」

 ジョーダンの言葉にセイは膝立ちになって、詰め寄った。

「冗談だよ、冗談……丞旦だけに」

「次、下らないことを言ってみろ……愛羅津さんが止めても、容赦しないぞ……!」

「無理だね。だって自分より弱い相手の意見なんて聞く訳ないじゃん、星譚くん」

「こいつ……!!」

「まぁまぁ星譚、落ち着け。チーム結成のお祝いに乾杯しようぜ。お前らも」

 愛羅津は強引にセイにコップを持たせると、残りの二人にもそうするように強要した。

「いい大人がはしゃいじゃって」

「いい大人だから、はしゃぐべき時はおもいっきりはしゃぐんだよ。みんなコップは持ったか?」

「うす!」

「………はい」

「それじゃあ、乾ぱ……」


「盛り上がってるところ、失礼するよ」


「「「!!?」」」

 コップがぶつかり合う音が響くはずの遺跡に、穏やかな、それでいて冷たい男の声が響き渡った。

 四人が声のした方向を向くと、そこには同じく四人組の男が立っていた。

 声を発したのは先頭の、仮面を着けた男だったが、カンシチもセイも愛羅津も見覚えがないので、ただ不気味がった。

「お前は……」

 だが一人だけ、ジョーダンだけがその男を知っていた……彼が探し求めていた男だ。

「ショカツラアァァァクゥゥゥッ!!!」

 目を血走らせたジョーダンはコップを投げ捨て、仮面の男に向かって駆け出した。


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