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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
149/163

獣然寺燃ゆ①

「ちくしょう……!!間に合わなかったか……!!」

 誰よりも窮奇の恐ろしさを知っているキトロンは、それと同等の存在が顕現したことに頭を抱え、絶望した。

「ワタシのミスです……迂才くらいの小物相手なら、放っておいて構わないなどと……発見次第処刑すべきだった……!!」

 関敦は後悔から全身を小刻みに震わせ、下唇を血が出るほど噛み締めた。どちらというと文官的な彼であっても、目の前で起きたことが自分達にとって不都合極まりないこと、命を脅かすことは檮杌から溢れ出すおぞましい威圧感と自らの本能、生物の持つ危機察知能力で理解できた、させられてしまった。

「反省も後悔も後です。まずは奴をどうするかを考えないと……」

 アンミツはさすがに冷静だった。こんな時こそ焦りや恐れは禁物だと経験で知っている……が、その彼でさえ内心では、恐怖と混乱の波に押し潰されそうだった。

「窮奇は拳聖玄羽とシュガ、蒼天の射手に特級骸装機が三体力を合わせて、なんとか退けた相手です。もし奴がそれと同じレベルの力を持っているとしたら……」

「俺達が力を結集させねぇとまともにやり合うことさえできないつーことか」

「リンゴが戻って来た時に、ここが瓦礫の山になってたら、なんて言われるかわかんねぇからな」

「それはこちらも同じ。慧梵様に留守を任されたんだ……役目は果たす!!」

「ワタシも……」

「関敦さん」

 戦いに参加の意志を見せた関敦だったが、錫鴎は首を横に振って、それを拒否した。

「ワタシでは皆の足を引っ張るだけか……」

「ええ、申し訳ありませんけど……」

「相手は是の人間、ワタシがやらなければ!……などと、突っ張るほど子供じゃない。それに奴もついに身体が馴染んだみたいだしな……!!」

「グラアァァァァァァァァッ!!」

「ッ!?」

 檮杌のおぞましい叫び声は再び大気と大地を揺らし、関敦は改めて自分の力では何の役にも立てないと教えられる。

「皆さん行きますよ!!」

「「「おうッ!!」」」

 一方、それを合図に翠炎隊と獣然宗の連合軍は動き出す!勝機も希望も見出だせないまま……。

「一筆入魂!造字聖人!!」

 先鋒は道鎮!四つの目を持ち、身の丈もある巨大な筆を持った特級骸装機、造字聖人をその身に纏うと、流れるように空中に文字を書き始めた。

「手始めに……これで!!」

 その文字は“剣”。自身の姿を隠すほどデカデカと書いた。するとそこから……。


ババババババババババババババッ!!


 無数の剣が射出!文字と同じ墨色の剣が絶え間無く発射され続けた!

(そんじょそこらにいる骸装機なら、これで串刺しになって終わるはずだが……)

「グラアァァァァァァァァッ!!」


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


 悲しいかな墨色の剣は檮杌のグレーの皮膚に当たると、いとも簡単に弾かれ、ただの黒い液体となって地面の染みになり果てた。

(まさか傷一つつけられないとは……だが、一番の目的は果たした。奴の気を逸らすという目的はな!)

(ナイスだ!造字聖人!!)

(おかげでここまで近づけた!!)

 剣はあくまで目眩まし。本命である陸吾とスピディアーは攻撃に紛れて、檮杌の両サイドに展開を終えていた。

(容赦も遠慮もしねぇ!つーか、そんな余裕はねぇ!!最初から全開で行かせてもらうぜ!!)

 陸吾は鋭い爪の生えた手を引き、そこに意識を集中させた。

(灑の国が誇る英雄達が総出じゃなきゃ相手にできなかった怪物……ならばオレなんかにはもう二度とこんなチャンスは来ないかもしれない!この一撃で全てを出し切る!!)

 スピディアーもまた餓血槍を握る腕にありったけの力を込める。

 そして両者同時に……。

「ウラアァァァッ!!」

「万家流槍術奥義!!剛烈!!」

 叩き込む!荒々しい両面攻撃に檮杌は全く反応できない!……いや、そんなことする必要ないのだ、この異形の怪物は。


ガギィガギィン!!


「「――ッ!!?」」

 武闘派二人の渾身の攻撃は、先ほどの墨色の剣と同じく檮杌の肌に全く歯が立たなかった。

「ちっ!こんな簡単に陸吾の爪が……!!」

「修行の成果が出せなかったか……いや、もう一度!!」

 奥義を弾かれたスピディアーだったが、すぐに気持ちを切り替え、再び技を放つ準備を……。

「グラアァァァァァァァァッ!!」

「!!?」

 檮杌動く!大きな口を限界まで広げ、スピディアーに襲いかかった!しかし……。

「おいおい!俺のことは無視かよ!!妬けるなこの野郎!!」


ガシッ!ガシッ!ガシンッ!!


「――グラアァッ!!?」

 陸吾が九本の尻尾で怪物の四肢を絡め取り、その動きを強制的に中断させる。

「まぁ、破壊力ならそっちの方が上だからな……ビビる気持ちはわかるけどよ……!!」

「グラアァァッ……!!」

「ぐっ!?なんてパワーだ……悔しいが、俺だけじゃ止められない……造字聖人!!」

「応ッ!助太刀する!!」

 造字聖人は檮杌の上を飛び越しながら、その灰色の身体に“縛”と書き込んだ。


グルグルグルグル……ガシィン!!


「グラアッ!!?」

 その字から墨のような漆黒の鎖が無数に出現すると、檮杌の身体を縦横無尽にまとわりつき、拘束をさらに強固なものにする。

「直接書き込んだ“縛”の拘束力は、リンゴにかけたものとは段違い!!どれだけ力が強かろうが、早々に抜け出せはしない!!」

「プラス俺もいるからな!というわけで、スピディアー!もう一発凄えの頼むぜ!!」

「了解!!……ふぅ……」

 スピディアーは檮杌の正面に、その世にも恐ろしい顔を前にしているというのに、まるで自分の身体の形を確かめるように深呼吸をしながら、ゆっくりと構えを取った。

(さっきは焦り過ぎた。もっと落ち着いて、適切な力の出力をしなくては。俺の中にある力を最大限引き出し、槍の切っ先に込める……!)

 その突きは先ほどの荒々しいものとは真逆で、まるで演舞のように滑らかだった。

 しかしその威力は、先ほどの突きを遥かに上回っていた。

「剛烈」


ガギャアァァァァァン!!


「グ、グラアァァァァァァァァッ!!?」

 深紅の槍は見事に檮杌の眉間に命中、亀裂を入れた……ひびを入れることしかできなかった。

「完璧とは言えないが、結構な出来だったぞ……なのにこれっぽっちかよ……」

「グラアァァッ!!」

「!!?」

 気落ちするスピディアーに追い打ちをかけるように、眼前で檮杌がその口にエネルギーを集め、ギラギラと輝かせた。

「まずい!!」

 慌てて斜め後ろに下がるスピディアー。

「グラアァァァァァァァァッ!!」

 それから少し遅れて、檮杌は溜めたエネルギーを解放した。


ババババババババババババババッ!!


「散弾!!?」

 勝手に巨大なエネルギーが奔流となって一直線に飛んで来ると予想して動いていたスピディアーにとっては視界一面に満天の星空のように広がる光弾の群れは、最悪の光景と呼ぶ他なかった。

「これは……避けられない!?」

 迫り来る光の雨!それがスピディアーの身体にあとコンマ数秒で到達しようとしたその時!

「失礼!!」


ガァン!!


「――ッ!?錫鴎!!?」

 錫鴎が強烈な蹴りを入れて、スピディアーを攻撃範囲外に押し出す!

 そして逆に光の弾の真っ只中に残された錫鴎は……。

「はあぁぁぁぁっ!!」


ガシュン!ガシュン!ガシュウン!!


 二本の剣を巧みに操り、刃の上で攻撃を滑らせ、うまいこと弾を逸らした。

「一か八かでしたけど、なるようになりましたね……剣の方はもうダメみたいですけど……」

 だが、その代償はそれなりに大きく錫鴎の得物は熱によってドロドロに溶かされ、もう武器としての体を成していなかった。

「グラアァァァァァァァァッ!!」


バギィン!!バサアッ!!


「「うおっ!!?」」

「グラアァァァァァァァァッ!!」

 遠距離攻撃が通じないならばと、檮杌は鎖も尻尾も力任せに振りほどくと、武器を失った錫鴎に向かって、腕を振りかぶりながら突撃した。

「次から次へと……タイミングを見誤ったら即死……参りますね……!!」

「グラアァァァァァァァァッ!!」

 唸りを上げる檮杌の豪腕!

「はっ!」


ピョン!ブゥン!!


 自らの胴体よりも大きいその拳をギリギリまで引き付けると錫鴎は跳躍回避!

「おまけです」


ゴッ!!


「グラアァッ!!?」

 頭の上を超えるついでに一回蹴りを脳天に叩き込みながら反転、背後を取った。

「造字聖人!!」

「受け取れ!!」

 アンミツの声が響く前に造字聖人はすでに準備を完了していた。また空中に“剣”と書くと、そこから今度は二本だけ墨色の剣を生み出し、錫鴎へと射出した。

「無防備な背中ならば!!」

 錫鴎は使い物にならなくなった備え付けの剣を投げ捨て、造字聖人が作った墨色の剣を受け取ると、そのまま必殺技を……。

「グラアァァァァァッ!!」

「な!!?」

 檮杌は太い腕と短い足で地面を押し出すと、後方に凄まじい勢いで飛ぶ。つまり錫鴎に体当たりをぶちかまして来たのだ。

「ちいっ!!」

 即座に経験から回避は不可能と判断した錫鴎は少しでもダメージを減らすために、墨色の剣で防御体勢を取りながら、後ろに跳躍した……したのだが。


ドゴッ!!ドゴオォォォォォォォォォン!!


「――ッ!!?」

「アンミツさん!!?」

 そこまでしてでも想定を遥かに上回る衝撃が身体を襲う。錫鴎は液体になった剣で空中に黒い線を引きながら、獣然寺に叩きつけられた。

「野郎!!」

 バンビという男は仲間が目の前でやられたのを黙って見過ごせる人間ではない。その沸き立つ激情に身を任せて、スピディアーは突……。

「取り乱すな!!」

「――!!?」

「錫鴎はきちんと防御体勢を取れてた!威力は少なくとも殺せているはず!死にはしてない!!だからここでお前が我を忘れる方が、錫鴎の命を縮めることになることぐらいはわかれ!!」

「陸吾……」

 激情に任せ突撃しようとしたが、蓮霜の必死の呼びかけで、バンビの昂った気持ちは急速に冷却していく。

「……その通りだ!無駄な手間をかけちまって悪かった!」

「いいってことよ!」

「面倒かけたついでにもう一つ!オレはどう動けばいい!そこまで考える余裕も経験も今のオレにはない!!」

「とにかくヒット&アウェイだ!俺と二人で奴の気を引く!その間に造字聖人!!」

「え?拙僧か!!?」

「そうだ!パワーで勝るスピディアーの攻撃が通じないなら、俺の陸吾ではまともにダメージを与えられないだろう……つーことで、そのマシンと文字の力でなんとかしてくれ!!」

「なんとかって言われても……」

「できなかったら、みんなまとめてお陀仏だぞ!!死ぬ気でアイディアを捻り出せ!!」

 そう言い残すと、陸吾は檮杌の下に走り出す。同時にスピディアーも先ほど同様反対側から迫り、挟み撃ちの形に。

「そうだ!俺の対角線上にポジションを取れ!注意を散らすんだ!!」

「おう!」

「そんじゃやるぞ!時間稼ぎ!!」

「万家流槍術奥義!!瞬烈!!」

「オラアッ!!」

 スピディアーは槍を、陸吾は尻尾を目にも止まらぬスピードで何度も繰り出した。しかし……。


ギンギンギンギンギンギンギンギンギィン!!


「「くっ!?」」

 さっきの再放送。攻撃は全て弾かれてしまった。防御を取る素振りさえ見せない。

「剛烈だけでなく、瞬烈まで……」

「足を止めるな!」

「グラアァァァァッ!!」

「!!?」

 あろうことか檮杌は偉丈夫と言って差し支えないバンビや蓮霜の倍以上ある体格で大きく跳躍した!そしてそのまま頭上からスピディアーにボディープレス!


ドゴオォォォォォォォォォン!!


「危ないんだよ!もう!!」

 けれど陸吾の注意のおかげでスピディアーは檮杌の落下地点からそそくさと退散、事なきを得た。そしてそのままターゲットを視界に収めながら、全力で疾走する。

「足が折れるまで、いや折れても動き回れ!!止まるのだけは絶対にダメだ!!」

「おう!!」

(つっても、どうやったって体力には限界がある……それまでに造字聖人がこいつの攻略法を見つけられるかどうかだが……)

 陸吾は一瞬だけ、檮杌から目を離し、僧兵仲間に目を向けた。

「むうぅぅぅぅぅん……!!」

 すると造字聖人は身の丈ほどある筆で地面に何かを一筆一筆、丁寧に、文字通り精神を削りながら書いていた。

(とりあえず何かしら準備はしてるみたいだな。んじゃ、あいつに近づかせないように……)

「時間稼ぎ続行だ!!」

「グラアァァァァァァァァッ!!」


ボシュウッ!!


「……は?」

 ほんの一瞬、瞬き一つするそんな僅かな時間だけ目を離した隙に檮杌は上空に向けて、口から巨大な球を発射していた。

 そしてその球がある程度の高度に達すると……。


バシュウン!!バババババババババッ!!


 弾け、小さな光の弾へと分裂した!そしてそれは恵みの雨と言うには、あまりにも強大な熱量を保ちながら、地上に降り注いだ!

「避けろ!!」

「ッ!!」

 陸吾が叫ぶ前に、檮杌の動きを注視し続けていたスピディアーは頭上で槍を高速移動させながら、回避運動を取っていた。

「聖なる文字よ!拙僧を守れ!!」

 造字聖人もまた作業を中断すると、自らの上方にデカデカと“盾”の文字を書き、防御を整えた。

 そんな彼らに、そして獣然寺に檮杌の狂気の輝きが襲いかかる。


バババババババババババッ!!ボオウッ!!


 猛華でも屈指の長い歴史を持つ建造物である獣然寺を光の弾が貫き、破壊し、穴が開き、そして燃やした……。 


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