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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
148/163

悪夢再来

「…………」

 腹部に大きな穴を開けた紫色の豹は一歩、二歩と後退すると、その穴からバキバキひび割れていき、遂にはボロボロと土塊となって崩れ去った。

「見事!師匠超えを果たしたな!」

「師匠超え……まさか」

 慧梵の称賛に、マスクの下で苦笑いを浮かべながら、リンゴは首を横に振って否定の意を示した。

「今回、勝てたのはあくまで土人形が拳聖の身体能力を再現しきれなかったこと、そして何より若き日の師匠が狻猊の能力を知らなかったからです。きっと知っていたら、実体と幻を見極められ、自分が負けていたはずですよ」

「まぁ、確かにあやつならほんの少しの攻防で簡単に看破しそうじゃの」

「ええ……なんてったって拳聖ですから。それぐらいやってもらわなくちゃ困ります」

 リンゴは空を見上げて、師に思いを馳せた。

 様々な強敵や頼れる仲間と出会って来たが、やはり彼の中では最強といえば間違いなく、あの飄々とした老人なのだ。

「きっと奴もお主の成長ぶりを喜んでおるよ」

「どうでしょうか?紛い物とはいえ、自分をしょうもない策で嵌め倒したことに怒っているのかも。戦闘という極限状況下では案外こういう下らないことの方が効果的、何よりそれに引っかかった相手が屈辱にまみれる姿を見るのが最高……っていう誰でもない師匠の教えを実践しただけなんですけどね」

「あやつ……本当に性格ねじ曲がっておるな。どこが聖なんじゃ……」

「それは言わないであげてください。というか、それを言うなら慧梵様も大概――」

「まっ!何はともあれ修行はこれで一段落じゃのう!!」

(誤魔化やがった、この坊主)

 リンゴの冷たい視線が慧梵にチクチクと刺さったが、獣然宗の知らぬ存ぜぬと大僧正様はガン無視して話を進める。

「とりあえずこれであの玄允と同じステージに立てたな」

「はい。奴の言っていた先代の技をさらに磨き上げ、進化させるのが後継者の役目だとしたら、一番弟子である自分がやらなければ誰がやるんだって話ですよ!ありとあらゆるものを利用して、強さを求める聖王覇獣拳……自分はこの狻猊の能力を使ってさらに先へと進めます!!」

 リンゴが決意を口にし、力強く拳を握りしめると、それに応えるように狻猊が静かに熱を帯びた。

「燃えとるのう、お主も狻猊も」

「ようやくスタートに立っただけですから。これからですよ、これから」

「うむ。素晴らしい心構えじゃ。ならばその熱が引かないうちに二回戦といこうか」

「はい!………え?」

 狻猊の目の前で元始天尊が再び地面に血液を垂らした……二ヶ所に。

 そしてそこを杖で叩くと……。


ズズズ……


「…………」

「…………」

 今しがた必死こいて倒した闘豹牙の土人形が二体も生成された。

「これも複数体作れるんですか……?」

「見ての通りじゃ」

「で、この二体を同時に相手取れと……」

「うむ」

「うむ……じゃないでしょうが!!一体倒すのに、あれだけ苦労したのに二体同時なんて無理に決まってるでしょ!!」

「いや、お前の師匠は自分の分身十三体相手に大太刀回りしておったぞ」

「あんな化け物と一緒にしないでください!!」

「やる前から諦めるな!やってみれば意外となんとかなることも人生では多いぞ!」

「それは命がかかってない場合の話でしょ!!生き死にが左右される場合はもうちょっと慎重に……」

「ええい!うるさい!!もう出しちゃったから、やれ!!拳聖の血がもったいないでしょうが!!」

「………!!」

「………!!」

「な!!?」

 慧梵の思いを汲んで、二体の闘豹牙は一糸乱れぬ動きで、まるで鏡に映したかの如く同時に、全く同じ構えを取った!

「待って!マジで一回落ち着こう!!?」

「聖王……」

「覇獣拳……!!」

「だからストップだってば!!」

 リンゴの願いも虚しく彼は、狻猊はその後も師匠の模造人形にこてんぱんにしごかれることになった……。



「リンゴくんが修行に行ってから一週間か……」

 アンミツは客室でお茶をすすりながら、おもむろに呟いた。傍目から見るとかなりのんきで気楽そうだ。

「ずいぶんと暇そうですね、灑の軍人は」

 その向かいで嫌味を言いながら、関敦が届いた獣然宗の使いから受け取った手紙をペラペラとめくり、確認していた。

「軍人が暇なのはいいこと……って、この状況じゃなければふんぞり返れるんですけどね……で、そちらはどうなんですか?その言い方だと是は何かを掴んでいるように聞こえるのですが?」

「雑な探りですね。ワタシがそう簡単に口を滑らすと思いますか?」

「ですよね……」

「まぁ、滑らしたくても、こちらも手がかり無しなので、何も言うことないのですが。一応、迂才に協力していた人間は何人か捕まえたようですが、当の迂才本人と拳幽会については……さっぱりです」

 関敦は不機嫌そうに眉を八の字にして、テーブルの上に手紙を滑らした。

「さすがにそろそろ焦りが出て来ますね」

「ワタシ的には是に迷惑さえかからなければ、拳幽会の方はどうでもいいんですがね。迂才は絶対に捕まえて、必ず処刑しますけど」

 関敦が頭に憎たらしい迂才の顔を思い浮かべたその時だった。

「失礼します!!」

「ん!?」

「どうしましたか……?」

 突然部屋の中に獣然宗の僧が飛び込んで来た。その様子からただ事でないことはすぐにわかった。

 けれど、彼の口から出た言葉は関敦とアンミツの予想を遥かに超えるものだった。

「拳幽会の者が、多分迂才が……迂才が門番を倒して、この寺にやって来ました!!」

「「!!!」」

 瞬間、関敦とアンミツは考えるより先に立ち上がり、部屋から飛び出して行った。

「来たか」

 外ではすでに道鎮と蓮霜、そしてバンビが三人並んで待っていた……目の前でゆらゆらと不気味に揺れる迂才を警戒しながら。

「あれは……迂才なのか?」

「拙僧が聞きたい。奴とはほんの少しだけ相対しただけだが……明らかにあんなではなかったぞ」

 迂才の目は虚ろに焦点など全く合っておらず、目の下には真っ黒いクマができていて、ただの不愉快な金持ちという軽く見られがちな以前の印象とは打って変わり、妙な迫力を醸し出していた。不気味と言ってもいいかもしれない。

「もしかしたらよ……拳幽会に置いて行かれ、ずっと山をさ迷っていただけなんじゃねぇの?」

「バンビ、それなら門番を倒す必要ねぇだろ。普通に降参して、助けを求めればいい」

「あっ、そっか」

「そもそも俺がいないとはいえ、そう簡単に突破できるもんじゃねぇ。霧の迷宮に惑わされずここに来たのもおかしい」

「つまり油断ならねぇってことだな」

「なんにせよノコノコとワタシの前に現れてくれたのなら、身柄を拘束させてもらいますよ」

 関敦は探し求めたターゲットをその手中に収めるために愛機を……。

「檮杌」

「「「!!?」」」

 関敦より先に迂才が骸装機を装着!その弛みきった肉体を逞しい灰色の装甲で包み込んだ!

「あれは特級骸装機ですか?」

「だな。俺の陸呉と同じ感じがする」

「まさかあの人の影に隠れることしかできない臆病者が自ら骸装機を身に纏うとは、ちょっとだけ感心しましたよ」

「だが、勇気と無謀は似て非なるものだ」

「ええ。その立派なマシンを拳幽会にもらってはしゃいでいるのでしょうが、この面子を相手に一人で何ができるのですか」

「目の前で骸装機を装着されたとあっちゃ、穏便になんか済ませられないぜ」

「それで結構。ちょっとばかし痛めつけてやりましょう」

 関敦だけでなく、そこにいる灑と獣然宗の精鋭メンバーも愛機を呼び出す準備をし……。

「何をやってる!!」

「「「!!?」」」

「キトロンくん?」

「とっととそいつを殺せ!!一刻も早く息の根を止めるんだ!!」

 突如としてどこからともなく猛スピードで飛んで来たキトロンは血相を変えて、物騒極まりない言葉を叫んだ。

「気持ちはわかりますし、いずれは死んでもらいますが、その前に奴の持っている情報を……」

「もう無理だ!あのマシンを使った時点で、あいつは人として終わっているんだよ!!」

「……はい?」

「あいつは……あのマシンは!!窮奇と同じだ!!!」

「「「!!?」」」

「「!!!」」

 窮奇という単語に戸惑いを隠せず動きを止める関敦や獣然宗の二人を尻目に、それの恐ろしさを誰よりも知っている灑の国所属の翠炎隊が走り出した!

「錫鴎!!」

「スピディアー!!」

 二人が愛機を纏ったのとそれはほぼ同時だった。

「グラアァァァァァァァァッ!!」


ブオォォォォォォッ!!


「「――ッ!!?」」

「「「ぐっ!!?」」」

 まさに天地鳴動!檮杌が世界を揺らすような声を上げると、衝撃波が発生!翠炎隊二人を吹き飛ばした!

「グラアァァッ……!!」

 そしてそのまま唸り声を響かせながら、みるみるうちに檮杌は形を変えていく。

 身体全体が一回り、いや二回り大きくなり、その中でも特に腕は太く長く膨張、逆に足は短くなる。そして口が裂け、そこにはびっしりと鋭い牙が……。

「グラアァァァッ……!!」

 完成したのは異形の怪物……。

 かつて灑の国を襲った悪夢の存在と同じものがここ獣然寺に再来したのだ……。


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