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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
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獣然宗の頂点

 元始天尊、そのマシンは頭が長く、髭を生やし、杖をついていて、まるで老人のような姿形をしていた。けれど、それの放つ威圧感はまるで巨大な起源獣のように重厚で圧倒的、荘厳で神々しかった。

「これが音に聞く元始天尊か……!!」

 玄允の頭からあれだけ憎悪と嫉妬、そして侮蔑と対抗心を燃え上がらせていたリンゴのことなどすっぽり抜け落ちていた。

 今の彼の興味はこの老人のような不気味な骸装機がどんな力を持つのか、そしてそれを自分がどう攻略するのか、できるのかしかない。

(あれが師匠が強いと認めた慧梵様の戦闘形態)

 それはリンゴもまた同じだった。

 彼もまた敗北の悔しさや、聖王覇獣拳の使い手としての不甲斐なさなどを一旦忘れ、敬愛する師匠が認めた男の力を見極めようと、それこそ修行僧が師の一挙一動を見逃すまいとするように極限まで集中していた。

「似てるな、お前達」

「「……は?」」

「リアクションも一緒か。本当にそっくりじゃな。儂への関心、つまり強さへの飽く無き貪欲さは……お主ら二人、とても良く似ておるよ」

「「ッ!!?」」

 リンゴと玄允はお互いに顔を見合わせると、若干それを赤らめさせた。

「ふ、ふざけたことを抜かすご老人だ。噂で聞くより耄碌していたのか?」

「誤魔化しのために、こんなジジイを煽るんじゃない。そんなことせんでも相手をしてやる。というか、その為に来たんじゃからなぁ」

「――ッ!!?」

 そう言うと元始天尊は先ほど業天馬が狻猊にやったことをやり返すように杖を持ってない方の人差し指を上に向けて、ちょいちょいと動かした。

「……いいだろう、そっちがその気ならやってやろうじゃないか……!」

 業天馬は完全にリンゴから顔を背け、元始天尊の方を向くと、ふぅーと深呼吸をしながら腰を落とし、構えを取った。

(思い出すの……玄羽と初めて会ったあの日のことを……)

 その姿をかつての拳聖と重ね、慧梵は仮面の下で目を細めた。

「行くぞ!!」

 そんな彼のノスタルジーなど知ったことかと、業天馬は突撃!からのパンチ……。

「ッ!!」


ヒュッ!!


「おっ」

 パンチはせずにバックステップ!目の前に迫り来る杖をすんでのところで回避した。

「おれのナックルにカウンターを合わせるか……!」

「儂のカウンターを避けるか……」

「「油断できないな……!!」」

 両者は一瞬でお互いの実力を認め合うと、呼応するように前進、距離を詰め、文字通り、手の届く場所まで近づいた。

「これならどうだ!!」

 今度こそはと再度抉り込むようにパンチを繰り出す業天馬!

「ほっ」


ヒュッ!!


 それをその見た目に似合わぬ軽快さで元始天尊は長い頭を動かし、回避した。

「危ない危ない」

「ちっ!!」

「んじゃ、次は儂の番じゃ」

 元始天尊は杖で突きを連続で放った!


ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!


「遅い!」

 しかし、さっきのお返しと言わんばかりに業天馬は最小限の動きだけで、躱し続ける。

「やるのう」

「そっちこそ」

「では、これならどうじゃ」

 元始天尊は突きを中断……したかと思ったら、即横薙ぎ!


ブゥン!!


 それを業天馬はしゃがんで避ける……拳を握り込みながら。

「聖王覇獣拳……」

(この技は拳聖のアッパー!!)

 過去の記憶から下から上へ顎に向かって拳が飛んで来ると察した元始天尊は後方に跳躍し、攻撃の軌道上から逃げようとした……が。

「チョウジュウの型」


ズッ!!


「――ッ!!?」

 上から何か強烈な力に押さえつけられ、足を地から離すことはできなかった。

 そこに予想通り、業天馬が身体ごとぶつかるように飛んで来る!

「魔爪翔撃!!」

「元始天尊!!」

 瞬間、背後の地面から土でできた腕が伸び、元始天尊の頭を掴むと、力任せに仰け反らした!


チッ!!


「くっ!?」

 結果、業天馬の拳は元始天尊の髭を僅かに散らすことしかできなかった。

「惜しかったの」

「まだ終わっていない!」

 飛び上がった業天馬は拳をほどき、両手の指を伸ばし振り上げたかと思うと、即座に元始天尊の肩に向けて撃ち下ろした!

「聖王覇獣拳・チョウジュウの型!武威天落とし!」

「大地よ!我が敵を穿て!!」

 元始天尊は今度は足下から土でできた腕を伸ばし、自らに襲いかかる手刀を迎え撃った!しかし……。

「だからどうした!!」


バゴオォッ!!


「おっ!?」

 しかし、業天馬の手刀は止められず!土の腕は無惨にも粉砕されてしまう。

「なんという威力じゃ……」

 けれど、ほんの僅かにスピードが緩んだ隙を見計らって、元始天尊は後退、攻撃自体は目論見通り回避することができた。

「ご老人……ちょこまかと動き過ぎだ!!」

 それに対し、勇壮たる天馬は着地すると同時に追撃にかかる!

「大地よ!我を守れ!!」

 向かって来る業天馬の前に土壁が競り出す!進路を塞ぐつもりだ!

「それはさっき見た!聖王覇獣拳・チョウジュウの型!無重滑り!!」

 けれども業天馬は即座に対応、自分自身の重量を消失させつつ、鍛え抜かれた足裏で地面を掴み、土壁の横に回り込んだ……が。


ゴッ!!


「――なっ!!?」


ズザザーーーッ!!


「――ぐあっ!!?」

 そこには目立たぬように地面を隆起させていて、それに足をかけた業天馬はおもいっきりすっ転んだ!

「技を知っているのは、儂も同じ。そいつは拳聖に見せてもらった」

「否!この技はそれよりも速い!!」

「それが仇になったな。おかげで方向転換が間に合わなかった」

(くっ!?悔しいがこいつの言う通りだ……一刻も速く回り込もうとして、少し焦り過ぎた。この屈辱は……おれの至らなさのせいだ……!!)

 玄允は悔しさからマスクの下で歯噛みした。ただその一見傲慢に見えるが、こうして自らの失態を素直に認め、反省できることは彼の美点の一つでもある。

 今、やることではないが。


ドロッ……!!


「!!?」

 不快な感触が地面に着いた手足にまとわりつく。

 視線を落とすと、その周辺だけが液状化し、底無し沼のように業天馬を飲み込もうとしていた。

「これは……!?」

「母なる大地に抱かれ、眠るがいい」

「まだ眠りにつくには日が高過ぎるだろうが!!」

 業天馬は泥に捕らわれた両手両足に意識を集中させた。そして……。

「聖王覇獣拳!身震気衛!!」


バシャアァァァァァァァン!!


「よし!!」

「ほう……」

 超高速で全身を振動させることによって、泥を弾き飛ばし、拘束から脱出した。

 その光景を見て誰よりもショックを受けたのは当然、技を破られた慧梵……ではなく、ただの観客に成り下がってしまった拳聖の一番弟子、林江であった……。



(身震気衛……まだオレが習得していない技まで使えるのか……!?ということは、もしオレだったら、脱出できずにあのまま終わっていたのか……!?)

 試行錯誤を繰り返す日々が脳裏に甦るとどうしようもなく、やるせなくなった。

(そもそも元始天尊もオレ相手だったら、あの技を使わない……いや、使う必要なかったんじゃないか?そもそもオレだったらもっと早く倒されていたのでは……!!?)

 自分の才能を遥かに凌駕する者達の一進一退の攻防は、ひびだらけで今にも崩れそうだったリンゴの自尊心を砕く最後の一押しには、十分過ぎる威力だった。

(オレはなんて……未熟……!!)

 リンゴは砂利を握りしめる。今の彼にはそれだけしかできない……。



 リンゴが絶望の淵にいる間も、猛華随一の戦士達の戦いはもちろん続いていた。

「ならばこれでどうじゃ?」

 元始天尊が杖を掲げると、その上に砂や小石、土が集まり凝縮。巨大な質量の球を形成した。

「押し潰されるといい」

 杖を振るうと、それに合わせてその圧倒的密度の球は業天馬へと落ちていく。

「獣然宗の頂点に立つ者の趣味が泥団子作りとは……下らんな」

 対する業天馬は拳を引きながら、ぐっと腰を下ろした。先ほど見た構えだ。

「聖王覇獣拳!爪翔撃!!」


ドゴオォォォォォォォォン!!


 身体ごとぶつかるようなジャンピングアッパーが今度こそ炸裂!球を粉々に撃ち砕いた!

「今までの暴れっぷりを見れば、それくらいはやってくれると思っとったよ」

 しかし元始天尊、動じず。こうなることはわかっていたと言わんばかりに優雅に指を動かすと、砕けた球の破片が……。


グンッ!!


「!!?」

 落下を止め、一斉に空中にいる業天馬の方を向いた!

「改めて言わせてもらう……押し潰されるといい」


ババババババババババババババババッ!!


 四方八方から地に足がついていない業天馬に襲いかかる破片!

 それに対し、青い天馬は器用に身体を捻った。

「全方位から攻撃が来るなら、全方位を吹き飛ばせばいい!聖王覇獣拳!旋風ゴマ!!」


ブオォォォォォォォン!!


「ちっ……!!」

 高速で回転することで生じた風で宣言通り破片を彼方へと吹き飛ばす。さらに……。

「押し潰すのが得意なのは、おれと業天馬もだ!!」

 驚異的なボディーバランスを駆使し、業天馬は横回転から、縦回転へ。その回転によって得た遠心力ともう一つ、特級骸装機業天馬の能力を加えて、踵を加速!元始天尊に撃ち下ろした!

「聖王覇獣拳・チョウジュウの型!闘魂砕き!!」

「大地よ!!」

 元始天尊はまたまた大地から土壁を生成し、ドーム状にして自らを覆った……が。

「はあぁぁぁぁッ!!」


ドゴオォォォォン!!


 それを業天馬の踵はあっさり突破!

「くっ!?ならば!!」

 元始天尊はすぐに次善の策、杖を横に構えて防御を図る。さらにどこからか発生した土で杖と腕を強固に固めるおまけつきだ。

(この威力ではあの杖を砕けない……!下手したらおれの足の方が砕けてしまうやもしれん……!!)

 刹那、玄允の天性の戦闘センスと今まで培ってきた経験から、この先に起こるであろう彼にとって不都合な結末を瞬時に弾き出した。

(攻撃を中断するか?いや、もう止められない!!ならば今以上に業天馬の力を脚に加えるか?これ以上加重したら、インパクトの瞬間、どちらにしてもこちらにダメージを食らうことになるが……このまま一方的に負けるよりはマシか!!)

 玄允の覚悟がその身に纏う青い機械鎧に迸り、それを燃料に業天馬は能力を限界まで引き上げた!

「ええい!ままよ!!」


バギィン!ドゴオォォォォォォォォン!!


「――なっ!!?」

 天馬の蹄は元始天尊の大地の力で補強した杖を見事にへし折った!

「ぐうっ!!?」

 けれど、その破壊力の代償として、踵が地面にぶつかった瞬間、玄允の全身に激痛が走り、仮面の下の顔に脂汗を溢れさせ、醜く歪ませた。

「構うものか……構うものかぁッ!!」

 けれども、それを根性で誤魔化す!業天馬は即座に体勢を立て直し、尋常じゃなく痛む足で大地を踏みしめると、拳を打ち込む準備をした!

「ちいっ!!なんという気概!しかし!!」

 先ほどの玄允と業天馬のように、慧梵の想いが元始天尊に駆け巡ると、その身体からどろりどろりとまるでチョコレートフォンデュのように泥が溢れ出し、表面をコーティング、それを幾重にも重ねて固めると、老人のようなマシンは一回り大きな鎧の戦士へと姿を変えた。

「何重にも折り重なった土の鎧!主のパンチがどれだけ強かろうと、本体である儂まで届かんぞ!!」

「それは力だけのバカの話だろ!拳聖玄羽が編み出した至高の技を舐めてもらっては困る!!」

 会ったこともない父への敬意を込めて、玄允は拳を振り抜いた。

「聖王覇獣拳!骸装通し!!」


ボォンッ!!


 拳聖の代名詞たる技が土の鎧で完全防御態勢を取っている元始天尊に命中した。

 果たしてその結果は……。


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