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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
136/163

獣然寺騒然

「んん……聖王覇獣拳……骸装通し」

「父上……オレ、こんなに強くなりましたよ」

「………」

「え?これ全部食ってもいいのか?」

「ようやく見つけましたよ、迂才……」

 翠炎隊と関敦は各々最高の夢の中にいた。

 本来なら、もう少しだけつらい現実とは真逆のこの素敵な空間を堪能できるはずだったのだが……。

「お前ら!!起きろ!!!」

「「「!!?」」」

 ドンと大きな音を立て扉を開け、さらに怒声にも似た声を発して部屋の中に入って来た道鎮とその後ろに付き従う楊亮によって、叩き起こされ、無理矢理現実の世界に引き戻されてしまった。

「んん……おはようございます……」

「もう朝飯か?」

「さすがに早すぎません?」

「いや、ここ寺だから全然あり得るぜ。坊主は基本早起きだからな、知らんけど」

「自分は朝ごはんは結構なんでもう一眠り……」

「微睡んでる場合か!!!」

「「「うっ!!?」」」

 寝ぼけ眼を擦るリンゴ達を一喝!さすがにここまで鬼気迫る態度を見せられると、彼らもただ事ではないと気づいた。

「もしかしなくても……何かあったんですか……?」

「あぁ……!!」

「先ほど蓮霜様のところから、尸解仙が戻って来ました……拳幽会と名乗る輩が、攻めて来たと……!!」

「「「!!!」」」

 瞬間、翠炎隊の面々の顔が引き締まり、布団から飛び起きた!

「奴らは今、どこに!?まさかもうここに……?」

「いや、こちらとしてはそもそも蓮霜が相手をしているはずだから、追い返すなり、捕まえるなりできると思っているのだが……」

「もしもの時のために皆さんにお伝えしておいた方がいいと思って……」

「自分も蓮霜さんと陸吾がどこぞ馬の骨に遅れを取るとは思いませんが……」

 リンゴの脳裏に過るのはこれまで拳を合わせた強敵達の姿と、噂に聞いただけで顔も知らないもう一人の聖王覇獣拳の使い手の存在……。

「拳幽会の幹部クラスが複数来ているのならば、陸吾でも止められない可能性が十分あります……!!」

「そうですか……」

 顔を伏せる楊亮。対照的に道鎮は怪訝な表情を浮かべ、リンゴを睨んだ。

「さっきの反応といい、今の発言といい、お前ら拳幽会という組織について何か知っているのか?」

「それは……」

「ワタシも是非ともお伺いしたいですね」

「関敦さん……」

 道鎮に同調し、関敦もリンゴに詰め寄った。典優の副官を務めた男の勘が、この事件の全容を明かすのは今だと訴えているのだ。

 けれど、幸か不幸かこの話はこの後すぐに中断されることになる。


ドゴオォォォォォォォォォォンッ!!!


「「「!!?」」」

 突如として爆音が獣然寺に鳴り響いた!言うまでもなく、緊急事態の合図だ!

「道鎮さん!関敦さん!詳しい話は後です!!」

「そのようだな……!!」

「全部終わったら、きっちり話してもらいますからね」

 全員、愛機だけを手に取ると、部屋から飛び出し、外へ。そこには……。

「「「…………」」」

 門を壊し、ヴォーイン軍団が流れ込んで来ていた。

「「「尸解仙!!」」」

 それに対し獣然宗の僧兵達も完全武装し、迎え打つ!

「ここはお前達のような輩が来ていい場所ではない!!」

「知るか!!」


ガギィン!!


「邪魔をするな!坊主風情が!!」

「人の家に土足で踏み込んでおいてなんて言い種だ!!」


バァン!バァン!!


 刃がぶつかり合い、発砲音が鳴り響き、各地で戦闘が勃発。早朝の獣然宗は騒然とした。

「アンミツさん!!」

 指示を仰ぐリンゴの声を受けて、アンミツは脳みそをフル回転。いくつもある選択肢の中で今できる最善を必死に探した。

「……リンゴくんとバンビくんは、獣然宗に加勢してください」

「はい!」

「おう!!」

「一つだけアドバイスというか、忠告。戦場の流れ……士気の高さには注意しておいてください」

「士気ですか……」

「はい。この戦いの明暗を分けるのは、きっとそこです」

「ぶっちゃけそういうのは良くわかんねぇな……」

(リンゴ君もバンビ君も一流の武人であっても、一流の将ではないというわけですか。まぁ、そんな彼らにワタシ達それにしてやられたわけですが)

 小首を傾げる二人を見て、思わずどうしてあんなに苦戦したのかと関敦は疑問に思った。

 一方、アンミツは……。

「きっとあなた達なら、すぐにわたしの言った意味が理解できますよ。ずっと一緒に旅や仕事をしてきて、君達の聡明さは理解していますから」

「アンミツさん……!」

「そこまで言われたらやるしかねぇな!!」

「おう!!」

(こちらの士気は……一気に最高値まで達したようですね。やはりこの安密という男油断できない)

 アンミツは二人に全幅の信頼を寄せ、彼の信頼に応えようと若き戦士達は闘志の炎を燃え上がらせる……それぞれを結ぶ固い絆とそれを利用し、効率良く士気を高める熟練の兵士の手腕に敵国、是の戦士は恐れを抱いた。

 そんな彼らから視線を外し、当のアンミツは目の前を飛ぶ妖精とこの寺の僧達に顔を向けた。

「キトロンくんはわたしと一緒にカワムラ先生のところに。道鎮さん、楊亮さん、案内してください」

「カワムラ先生!?どうしてあの人のところに!!?」

「ですから話は後です。というより慧梵様ももう少し事前に伝えてくれればいいものを……!!」

 情報共有ができていないことに若干苛立つ。秘密漏洩を防ぐためのものだろうということはわかるのだが、こうなってしまっては逆効果でしかない。

(慧梵様ね……もしかしてここがカードを切るタイミングかもしれませんね)

 思わず顔をしかめるアンミツの横で関敦は懐にある切り札の使い道に思いを馳せる。

「とにかく!今はわたしの指示に従ってください!!行きますよ!!」

「よっしゃ!!」

「お、おう……」

「了解しました」

(ワタシもこっちに付いていくべきかな)

 道鎮は納得いっていなかったが、気が動転しているので素直にアンミツに従い、彼を連れて門とは逆方向に走り出した。

「バンビ!自分達も!!」

「あぁ!出番だ!スピディアー!!」

「惑わし燃やせ!狻猊!!」

 仲間を見送ると、リンゴ達も愛機を纏いながら疾走!こちらはもちろん渦中の門に向かってだ!

「む!?あの緑色のマシン……狻猊か!!」

 ヴォーインの一体がこちらに猛スピードで走って来る獅子に気づくと、マシンガンの銃口を向けた。

「お前を倒せば……大手柄!!」


バババババババババババババババッ!!


 そして躊躇することなく引き金を引き、弾丸を乱射した!しかし……。

「しょうもない出迎えだな」

「なっ!?」

 狻猊、朝っぱらから躍動!弾丸の間をすり抜け、一気にヴォーインの目の前に!そして……。

「はあっ!!」


ドゴオッ!!


「――ッ!!?」

 ハイキック一閃!不届き者を文字通り一蹴した。

(エネルギーの回復は……完璧じゃないが、この程度の奴が相手なら問題ないか。この程度の奴らだけなら……)

 マスク裏のディスプレイに表示されたゲージを見つめながら、リンゴの心は昨日激闘を繰り広げた男の顔を思い浮かべていた。

(こんな状況になっているのに、いまだにあの蓮霜さんが突破されたことが信じられない……あの人が止められなかった相手を自分が……あ!)

 その瞬間、リンゴはアンミツの言葉の意味を頭でも心でも理解した。

「こういうことか!だとしたら、今は余計なことを考えるのはやめだ!自分は自分のできることをやる!!」

「うわあぁぁぁぁっ!!?」

「!!?」

 突然の悲鳴。その声がした方向を向くと尸解仙が尻餅をつき、今にも目の前にいるヴォーインに刺されそうになっていた。

「坊主ごときが我らに敵うわけないだろ!!」

「ぐうぅ!!?」

 振り下ろされるナイフ!思わず身体を丸め顔を腕で覆う尸解仙!

「させるか!!」


ドゴオッ!!


「――ぐへぇ!!?」

「……え?」

 そして飛び蹴りを繰り出す狻猊!急にカットインしてきた獅子はまたまたヴォーインを一蹴した!

「あ!ありがとうございます!!」

 九死に一生を得た尸解仙は狻猊に感謝の言葉を述べた……が。

「礼なんていい!!」

「!!?」

 これまた一蹴されてしまった。予想だにしない返しに尸解仙のマスクの下で坊主は目を丸くして驚く。

 その戦場に似つかわしくない行動や態度を見て、リンゴは自分の考えが正しいことを確信する。

(この覇気のない感じ、さっきの自分と同じく蓮霜さんがやられたと思って不安になっているんだ。昨日会ったばかりの自分でさえ、あそこまで恐怖を感じたのだから、ずっと一緒にいた彼らからしたら……しかもトップの慧梵様も体調不良だし、こんなことになるなんて想像もしていなかっただろうし。それに対して……)

 狻猊は自分の足元に転がるヴォーインを見下ろした。

(こいつらは予定通りの奇襲を実行しているのだから、当然覚悟はできている。そしてこっちとは逆に蓮霜さんという難敵を退けて、気分的にのっている。これが勝負の明暗を分ける士気の差か……)

 狻猊はアンミツの言葉を噛みしめながら、顔を上げ、いまだに立ち上がれずにいる尸解仙に視線を向けた。

(自分がまずすべきことは……)

「あの……」

「いいから早く立ち上がるんだ!!今、この獣然寺を守れるのは自分達しかいないんだぞ!!」

「!!?」

「不安なのはわかるが、そういう負の感情に押し潰されないために、心も身体も鍛えてきたはずでしょ!?今こそその成果を見せる時だ!!」

「その……通りです!!」

 丸くしていた目に闘志の炎が灯ると、尸解仙は力強く立ち上がった。リンゴの必死の訴えが、狼狽えるだけだった彼の心を一人の戦士に戻したのだ。

「ありがとうございます!そうですよね!私達がやらねば誰がやるというんですか!!」

「その意気だ!!」

「はい!あなたの鼓舞のおかげで、気合が入りました!今すぐ前線に戻ります!!」

「頼んだぞ!ただ無茶だけはするなよ!」

「はい!!」

 先ほどまでとは打って変わって身体中から覇気を迸らせる尸解仙を見送ると、狻猊は辺りを見渡した。

(彼のように自信を取り戻してくれる人が増えてくれればいいんだが、そのためには……)

「うらあぁぁぁぁぁっ!!」

「このぉ!!」

「どけどけぇ!!」

「どいてたまるかぁ!!」

(あそこか……!!)

 獅子の眼が一際激しい戦いが行われている場所で止まる。そして……。

「一人ずつ話していては埒が明かない!自分がやるべきは、我が武を存分見せつけ、味方の士気を上げ、逆に敵の士気を削ぐこと!そうでしょ!アンミツさん!!」

 その戦場に恐れも一つも見せずに飛び込んで行った。


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