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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
131/163

獣然宗の強者②

「それがそのマシンの真の姿か……!」

「フッ……」

 息を飲む若獅子の目の前で、陸吾はこれ見よがしに大量の尻尾をうねうねと動かした。

「誇るといい。俺をこの姿にしたのは、慧梵様と死んだ義命くらいなもんだ」

「義命さん、やはり獣然宗の中でも、かなりお強い方だったんですね」

「知っているのか?」

「以前、一度だけ師匠を訪ねてきました。あとジョーダンさんやカンシチさんからお話を少し」

「そうか……」

 義命の名前をリンゴから聞くと、マスクの下で蓮霜は寂しそうに、けれどどこか嬉しそうに目を伏せ、ほんの少し口角を上げた。

「死んだあいつのことを俺達以外も覚えてくれている奴がいるってのは……なんかいいものだな」

「蓮霜さん……」

「フッ……湿っぽいのは、俺には似合わねぇよな!!仕切り直しだ!存分にやり合おうぜ!狻猊!!」

 悲しみを振り切るように、全力で地を駆ける陸吾!再び、だが先ほどまで生えてなかった鋭い爪を煌めかせて、拳を突き出す!

「望むところだ!大地滑り!!」

 獅子はそれを独特の挙動で回避。その勢いのまま側面に周り込むと……。

「聖王覇獣拳!強角!!」

 力を一点に集中させた肘鉄を獣の角の如く、繰り出す!しかし……。

「陸吾!!」


ヒュッ!ガァン!!


「――な!?」

 陸吾の尻尾の一本が盾となって立ち塞がり、渾身の一撃が本体に届くことはなかった。

「ちっ!邪魔くさいものを!!」

「敵にそう思われるってことは、俺にとっては素晴らしいものだってことだな!ますます気に入ったぜ!陸吾のことを!!」

 さらにテンションを上げ、陸吾は今度はハイキック!ついさっき避けられたばかりの攻撃だ!

「それはもう見――」

 再びしゃがんで避けようと視線を下に向けた狻猊を待っていたのは、迫り来る別の尻尾の姿であった。

「オラァ!!」

「くっ!?」


チッ!!


 獅子は驚異的な反射神経で頭を傾け、これを回避……しようと思ったのだが、僅かに動くのが遅く、自慢の黄金の鬣に掠らせてしまった。

 ただ幸か不幸かそのことについて悔やんでいる暇はなかった。こうしている間にもハイキックが迫っているのだから!

「ウラアッ!!」

「ちいっ!!」


ガァン!ズッ!!


「はっ!残念!!」

「くそ!?」

 ハイキック自体は脛に腕を当てて受け止めることができたが、足の爪先から伸びた鋭い刃がこれまた金色の鬣に到達し、突き刺さり、穴を開けた。

「このまま押し込んで、中身も刺してやろうか?」

「それは……遠慮させていただく!旋風ゴマ!!」


ブォン!ガキィン!!


「――うあっ!?」

 狻猊はその場で高速回転すると、刺さっていた陸吾の足の爪をへし折り、近くにあった尻尾を、そして陸吾本体を風圧で弾き飛ばした!

(この回転を利用して、土螻の時のように魔天穿滅蹴りで――)


ガシッ!!ギャルウゥゥゥゥッ!!


「――ッ!?うあっ!?」

 回転は強制的に停止させられた……陸吾の尻尾三本がかりで軸足を掴まれて。摩擦のあまりの凄さに脚と尾の間から白い煙が立ち上るが、絶対に放すことなく強制的にブレーキをかけ続けたのだ。

「念のために三本にしておいて正解だったな……まさかここまでの回転力があるとは、驚きだぜ!!」

「うおぉっ!?」


グイッ!!


「まぁ、俺のパワーの方が凄いんだけどな」

 陸吾は尻尾で狻猊の脚を持ち上げ、目の前に逆さ釣りにした。その姿はまるで……。

「いいね……ちょうどいいサンドバッグだ!!」

 陸吾は言葉の通り、殴りやすい位置にいる獅子に、まるで練習の時のように悠々とパンチを放つ!

「サンドバッグはこんなことしないだろ!!」


ブゥン!!


 しかし狻猊はパンチが当たる直前で鍛え上げられた腹筋の力で身体を起こし、攻撃を空振りに終わらせる。さらに……。

「聖王覇獣拳!凶鬼断ち!!」


ザザザザンッ!


「くっ!?しまった!?」

 高速で振られた肘は名刀の如し。狻猊は肘による斬撃で足を掴んでいた尻尾を切り裂き、拘束から脱出した。さらにさらに……。

「凶獣昇天!!」

 着地するや否や腕と全身のバネを使い、地面からミサイルの如く自分を発射!両足揃えてドロップキックだ!

「食らうかよ!!」


ゴォン!!


「――ぐっ!!?」

 陸吾は咄嗟に残った尻尾を折り重ねて、壁を作った。しかしそれでも威力は殺し切れずに地面に線を引き、自らの意思とは裏腹に後退してしまう。

「凶獣昇天も防ぐとは……やはり先にその邪魔な尻尾を全て刈り取るべきか!!」

 こちらも反動で空中を後ろに飛んでいた狻猊はまた全身のバネを器用に操り、くるりと回転しながら、今度は足から着地……と、同時に肘を直角に曲げながら、陸吾に、正確には陸吾の憎らしい尻尾に向かって突っ込んだ!

「もう一度!聖王覇獣拳!凶鬼断ち!!」

 再度放たれた肘による斬撃!また尻尾を……。


ヒュッ!ヒュッ!!


「はっ!!」

「くっ!?」

 尻尾を斬ることはできず!うねうねと狻猊を嘲笑うかのように動き、悪魔のような肘から逃れる。

「同じ失敗はしねぇよ!!」

 そして、そのまま獅子を取り囲むように展開すると……。

「ヒット&アウェイでいかせてもらうぜ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「ぐっ!!?」

 四方八方から滅多打ち!拳のように先を硬く丸めた尻尾があらゆる方向から襲いかかり、狻猊には為す術が……ある。

(数こそ多いがやっていることは蛇連破と同じ!ならばあの時と同じく纏鎧刃身で攻略できるはず!!)

 過去の経験から紡ぎ出した攻略法を実行するために、狻猊は身体を丸めた。端から見ると、なんとか少しでも被弾面積を減らそうとしているようにしか見えない。

「ほれほれ!どうした!どうした!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


(くっ!?今は雌伏の時……まずは動きを見極める……!)

 挑発にも、攻撃にも歯を食い縛り耐えながら獅子は虎視眈々とタイミングを探る。

 逆転の一手を打つタイミングを……。

「やる気がねぇなら、このまま終わらせてもらうぞ!狻猊!!」

(ここだ!!)

 狻猊はこちら凄まじい速度で振り下ろされる尻尾に合わせて肘を突き出した!

「残念」


ヒュッ!!ゴォン!!


「……がはっ!!?」

 尻尾は肘に当たる直前で軌道変更!腕の下に潜り込み、強烈なボディーブローを食らわした!

「お前が悪巧みをしてるのなんて、こちとらお見通しなんだよ!!」

「くっ!?」

「わかったら、今度こそサンドバッグに徹してくれや!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「ぐうぅ……!!?」

 さらに尻尾は勢いを増して行く!ひたすらに無慈悲に、獅子の鮮やかな緑色の装甲をへこませ、ひびを入れ、砕いた!

(速度、パワー、精度……あらゆる要素が蛇連破を遥かに上回っている……!!今のオレの纏鎧刃身では太刀打ちできない……なら、オレは一体どうすれば……)

 希望を打ち砕かれたリンゴは再び記憶の中を検索する。この状況を打破する方法を祈るように頭の中で探し続けた。

(纏鎧刃身が無理なら、剣砕きもダメだ。きっと躱され、さっきみたいにカウンターのカウンターを食らう。まずはこの包囲を抜けるのが先決か?だとしたら大地滑り……いや、さっき見せたから対応される可能性が高い。というか、この全方位攻撃自体がその対応策かも。なら旋風ゴマで……ってこれもさっき……いや)

 瞬間、先ほどの旋風ゴマを軸足が尻尾で絡め取られた記憶と、もう一つこの山に来る理由になった戦いが脳内にフラッシュバックした。

(……分が悪い賭けだな。もし陸吾がオレの思う通りに動いたとしても、勝率はかなり低い。だが、今のオレにできる最善は……これしかない!!)

 覚悟を決めた狻猊は身体を広げたかと思うと、思い切り捻った!

「またそれか!!芸がねぇな!!」

 その動きに反応して、陸吾の尻尾の動きが変化する。

 殴りための動きではなく、捕まえる動きに!


グルグルグルゥン!!


「――ぐっ!!?」

 尻尾は緑色の獅子をぐるぐる巻きにし、ギリギリと締め付け、一切の身動きを取れなくさせた。

「追い詰められて、打つ手が無くなったのはわかるけどよ~。さすがに直近に破られた技を使うのはどうなのさ?」

 完全に狻猊を封じ、勝利を確信する陸吾。

 そんな彼の姿を見て、マスクの下でリンゴは……笑った。

「いや、さっき破られた技だからいいんですよ」

「……あ?」

「ついさっき破ったのに、詰めを誤って勝利を逃したからこそ、きっとあなたは今度は腕を使わせまいと、こんな風に拘束してくると思った」

「この状況を予測していたというのか?」

「予測というほど自信はなかったですよ。だけど、結果はこの通り……最初の賭けは自分の勝利だ!!」

 気合の咆哮とともに、リンゴは意識を自らの肩へと集中させる。相手にダメージを与えるためではない。自分自身の関節を外すためにだ。

「感謝するぞ卞士仁!お前のおかげでこの技のコツを掴めた!聖王覇獣拳!骨開法!!」


ガコガコン!!スルッ!!


「何!!?」

 自ら肩関節を外すと、その分できた空間を利用し拘束から飛び出す!

「再接続!!」


ガコガコン!!


「ぐっ!!ウラアッ!!」

 そして着地しながら嵌めなおすと、陸吾に向かって駆け出した!

「この!戻れ!!」


ググッ……


「ちっ!!」

 陸吾はそれを迎え撃とうと、尻尾を自分周辺に戻そうとしたが、拘束のためにぐるぐる円を描いたのが仇となり、ほんの僅かだが反応が遅れた。

(案の定、尻尾の戻りが遅い!この時間が最後のチャンス……逃したら次はない!!)

 狻猊はさらに地面を力強く蹴り出し、加速する!

「尻尾が使えなくとも!!」

 対する陸吾の選択はパンチ!爪の生えた拳が唸りを上げる!

「尻尾はともかくパンチはすでに見切っている!」


ガシッ!!


「――しまった!?」

 それを狻猊はあっさりキャッチ!からの……。

「聖王覇獣拳!清流投げ!!」

 勢いを利用しての投げ!陸吾は突然無重力空間に投げ出されたかのような浮遊感に襲われると、視界が目まぐるしく変化した。


ブォン!ドゴオォォォン!!


「――ぐはっ!?」

 そしてそのまま背中から地面に叩きつけられる!

 衝撃とともにようやく止まった視界に映るのは、白い霧と茶色い土埃、その先に見える青い空……そこに鮮やかな緑の獅子がカットイン!

「――ッ!!?てめえ!!?」

「自分の勝ちだ!陸吾!!聖王覇獣拳!掌隕石!!」

 狻猊は倒れる陸吾に掌底を撃ち下ろした……。


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