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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
130/163

獣然宗の強者①

 マルジアを穏便?に退けた一行は、その後、順調に崑萊山を登って行った。

「ノイシィィィィィィィィッ!!」

「うわっ!?またいた!?」

 順調に登って行った。

「マルゥゥゥゥゥゥッ!!」

「お前もかよ!?」

 順調に登って行った……。

「ヤシャアァァァァァァァァッ!!」

「久しぶりだな、ヤンラフィ!!会いたくなかったけどな!!」

 順調に登って……。

「グモオォォォォォォォッ!!」

「そりゃお前もいるよな!チクショー!!」

 順調に……。

「ももももーい!!」

「お前は……何だ!!?」

 とにかく崑萊山を幸か不幸か予想を遥かに上回るスピードで駆け上がり、獣然宗の住居のある近くまでやって来た。

「はぁ……はぁ……」

「大分お疲れみたいだな、お客人」

 翠炎隊プラス監視役関敦を出迎えたのは、大柄なバンビとアンミツよりも大きくリンゴと同じくらいの背の高さを誇る精悍な顔の男と、その取り巻きの見たこともない骸装機四体だった。

「あ、あなたは……?」

「申し遅れた。俺の名は『蓮霜(れんそう)』。ここで門番として、獣然宗を不埒者どもから守っている」

 そう言うと蓮霜と名乗った男は力強く手のひらに自らの拳を打ちつけた。

「では、そちらの骸装機も門番として……」

「あぁ、こいつは『尸解仙(しかいせん)』、獣然宗が独自に開発した骸装機だ」

「何が独自に開発したですか。猛華の東の軍需産業『天握』の主力商品、『機仙』シリーズの劣化コピーでしょうに」

「相変わらず手厳しいな、関敦。本当のことだからといって何でも言っていいわけじゃないぞ」

 関敦の嫌味はどうやら昔からだったらしく、かつての知り合い蓮霜は相変わらずな彼の様子にどこか安堵しながら、苦笑いを浮かべた……が、それはすぐに消える。

「それでそちらが噂の翠炎隊、そして……拳聖玄羽の弟子か」

 狻猊に視線を移した瞬間、蓮霜の顔は真剣なものへと変化し、下から上へと舐めるように獅子を観察した。

「こんな姿ですいません。仰る通り、自分が拳聖玄羽の元で聖王覇獣拳を学んだ林江です」

(ふむ……)

 深々と頭を下げる若獅子を蓮霜は好意的に思った。しかし、それと同時に物足りなさも感じてしまった。

「……どうかしました?」

「いや、若いのに礼節がしっかり身についていると思っただけだ」

「別に褒められるようなことじゃないですよ」

「こちらも別に褒めたつもりはない」

「……え?それってどういう……」

「おいおいな」

(この男は本当に……)

 蓮霜の意図を一人察した関敦は心の底から呆れ返り、深いため息をついた。

「そう嫌な顔をするな、関敦。すぐ終わる」

「そうはならないと思いますよ」

「ほう……それは楽しみだ」

「えーと、何の話をしているんでしょうか?」

「ここから先に行くのに、必要な道具の話だ」

「道具?」

「おい」

「はっ!!」

 蓮霜の声に応じ、尸解仙の一体がそそくさと走り出し、傍らにあったテーブルのような平たい岩の上に置いてあったこれまた平べったい何かを持って来た。

「それは……羅針盤ですか?」

「正解。この針が指す方向を進むと、獣然宗の集落にたどり着ける。逆に言えば、これがないと決してたどり着けない」

「そうなんです……か?」

 緑色の獅子が灰色の猫の方を向き、確認を求めると、嫌味な男は素直に首を縦に振った。

「この男の言った通りですよ。この先は特殊な霧に包まれていて、方向感覚を狂わせます。その羅針盤がないといつの間にかこの場所に戻って来てしまうのです」

「どうしてそんなことに?」

 再び蓮霜に視線を移すと、彼は肩をすくめ、手のひらを上に上げた。

「さぁ?この山が元々持つ特殊な力だとか、山のどこかで神遺物が暴走し続けているだとか、大昔にいた偉い坊さんの覚醒者が、起源獣を守るために命を懸けてやった神の御業だとか、みんな好き勝手言ってる。どれが真実なのか、それともどれも嘘なのか俺なんかには判断がつかん」

「そうですか……」

「だが、今大事なのはそんなことじゃない。今のところ俺はお前に羅針盤を渡すつもりはないということだ」

「……はい?」

 てっきり歓迎されていると思い込んでいた狻猊は思わず前のめりになった。

「どうしてですか!?自分達はそちらの慧梵様に招かれた客人のはず!?」

「それはお前が本当に拳聖の弟子だった場合の話だろ?」

「え?まさか自分が拳聖の弟子だと疑っているんですか!?」

「そのまさかだよ。死人に口無し。名の知れた偉人が亡くなると、どこからともなく縁者がポコポコと涌いてくるのは世界共通だからな」

「それは確かにそういうこともありますけど……」

「だろ?」

「でも、慧梵様との関係を知っているのは……」

「そんなもんいくらでも調べられる」

「なら、関敦さんは!?この人がこうしてついて来てくれているのは、自分を本物の拳聖の弟子だと認めてくれているからで!」

「こいつの目は意外と節穴だからな~」

(この男は本当に……)

「というわけで、俺はまだお前を玄羽様の弟子だとは認められない。だから羅針盤を渡さない」

「くっ!?……どうしたら認めてくれますか……?」

 待っていたセリフを聞くと、蓮霜はニイッと口角を上げた。

「そりゃあもちろん、あの玄羽様から受け継いだ力とやらを見せてもらえれば……な!!」

 蓮霜が構えを取ると、一瞬だけ呆気に取られたが、すぐに意図を理解し、リンゴもまたマスクの下で笑みを浮かべた。

「そういうことですか……ならば全力で証明してみせましょう……!!」

 狻猊は蓮霜を真っ直ぐ見据えると、腕を上げ、足を広げ、軽く腰を落とす……こちらもヤル気満々、戦闘態勢に移行したのだ。

「形だけはちゃんとできてるな」

「力もしっかりと伴っていますよ」

「そうか」

「そうです」

「………」

「………」

 二人の視線がバチバチと火花を散らしながら交差し、今にも飛び出し、戦いが始まろうとした……その時。

「盛り上がってるところ悪いけど、その羅針盤とかなくても、おれっちなら多分この霧の迷宮突破できるぞ」

「「………え?」」

 狻猊と蓮霜、いやそれ以外の人間達の視線も一気にキトロンの小さな身体に向いた。

「それは本当なのかい?妖精君」

「人の集まってるところに行けばいいんだろ?だったらなんとなく方角とかわかるよ、カンちゃん」

「カンちゃん……まぁ、今はワタシの呼び名などどうでもいい……リンゴさん、そういうことですから、そこにいる煩悩を捨て切れていない坊さんは無視していいですよ」

「……でも」

「本当のところは何を考えているのかまったく知りませんが、あなた達の目的は獣然宗と戦うことではないのでしょ?」

「…………ですね」

 狻猊は後ろ髪を引かれながらも構えを解いた。戦士として強者との立ち会い以上に心が引かれることはないが、それはそれとして、こんな私的な感情で時間を浪費するのは間違っていると自制できるくらいの理解力と精神力は持っている。

「というわけで、あなたに認めてもらえなくても良くなりました」

「らしいな」

「なので、勝手に先に進ませてもらいます」

 獅子は金色の鬣の生えた頭を軽く上下させ一礼すると、蓮霜の横を通り過ぎ……。

「……闘争心と強さへの探求心は試すまでもなく、お師匠さんからは受け継いでないみたいだな」

「!!!」

 鎮火させたはずの若獅子の心の炎を蓮霜はそのたった一言で再びマックスまで燃え上がらせた!師匠から大切なことを受け継いでないなど彼にとっては絶対に聞き捨てならない言葉だったのだ。

 なので狻猊は巻き戻したかの如く、後ろ歩きし、さっきまでいた位置に戻り、また構えを取り直す。闘志剥き出しで。

「すいません、関敦さん……やっぱ自分はこいつに力を見せつけないと気が済まない……!!」

「あぁ、まんまと挑発に乗っちゃって……」

「挑発でもなんでもいい!やっちまえ!狻猊!!」

 蚊帳の外であったはずのスピディアーも何故かえらく興奮していて、拳を突き上げて仲間を応援する。

「あなたもそっちのタイプでしたね……」

「なんかすいません……うちの者が」

 同僚のアレさが恥ずかしくなったのか、錫鴎は肩を丸めて、小さくなった。

 そしてそんな外野のリアクションなど無視して、狻猊と蓮霜は勝手にどんどんとボルテージを上げていく……。

「それでいいんだよ、狻猊。若い奴はそれくらい血の気が多い方がいい!!」

「あなたはもう少し抑えた方がいいんじゃないですか?腐っても坊さんでしょ?それとも獣然宗の人はみんなこんな感じなんですか?」

「安心しろ、獣然宗は関係無い。こんだけ血の気が多いのは俺個人の資質だ。そういう血筋の家系なんだよ」

「ならばこちらもそういう流派です。売られた喧嘩は全て買い、必ずそのことを後悔させるのが、聖王覇獣拳という流派なんだ!!」

 狻猊は地面を蹴り押し、蓮霜に突撃した!

「いいね!そういうの俺は大好きだぜ!!」

 それに呼応するように蓮霜も飛び出す!指輪を輝かせながら!

「さぁ!暴れようぜ!『陸吾(りくご)』!!」

 指輪は機械鎧へと再構成され、蓮霜の全身を覆う。

 顕現した獣然宗を守る特級骸装機、陸吾は無駄な装飾のない良く言えばシンプル、悪く言えば特徴がなくつまらないデザインの機体であった。

「それがあんたのマシンか」

「お気に召したかな?」

「形は悪くない」

「はっ!力もきっちり伴っているぜ!!」

 そう高らかに宣言すると、その証明のために陸吾は拳を抉り込むように打った!

「どうだか!!」

 それに張り合うように狻猊もまた拳を力いっぱい握り込み……繰り出す!

「オラァ!!」

「はあっ!!」


ドゴオォォォォォォッ!!


「「――ッ!!?」」

 拳が衝突することで発生した衝撃波が大気を揺らす!しかし、それ以上に両者の、二人の猛り狂う戦士の熱き魂を大きく揺さぶった!

「……パワーは中々だな」

「そちらもね」

「ならお次は……」

「速度比べか!!」

「その通り!!」

 先に動いたのは、陸吾!拳を引くと同時に獅子の鬣に向けて足を振り上げた!長い脚が鞭のようにしなり襲いかかる!

「うりゃあぁッ!!」


ブゥン!!


「ちっ!!」

「当たるかよ!!」

 けれど狻猊はしゃがんでハイキックを回避!

 そのまま脚を伸ばすとまるでコンパスのように地面に円を描く!足払いを敢行したのだ!

「はあっ!!」

「おっと」


ブゥン!!


 だが、それを陸吾は跳躍して躱す!そしてすぐさま……。

「オラァ!!」

 空中から狻猊の頭に向かって、今度こそと蹴りを放つ……が。

「ふん!」


ドゴオォォォッ!!


「ちっ!!」

 けれども、これも不発に終わる。狻猊が後ろに下がったことで、陸吾の蹴りは地面に炸裂した。

「はあっ!!」

 直後、狻猊は即座にまた前進!踏み込むと同時に、まだ完全に体勢を立て直せていない陸吾に拳を放った!


バシッ!!


「ッ!?」

 こちらも不発!陸吾は腕で自らに迫るパンチを難なく捌き、はたき落とした!

「惜しかった……な!!」

 お返しのアッパー!狻猊の顎に下から拳を……。


バシッ!!


「あんたもな」

 やられたらやり返す!若獅子はアッパーを斜めから手刀で弾き、軌道を変えた!

「俺にできることは自分もできるってか?」

「あぁ、これぐらいのことなら、拳聖から教えを受けた者なら、目を瞑っててもできる」

「フッ……負けん気だけは一人前だなぁ!!」

「あんたもな!!」


バシッ!バシッ!ブゥン!バシッ!ブゥン!ブゥン!!


 両者ラッシュを仕掛けるが、その全てをお互いに捌き、躱し、指一本触らせることはさせない。戦況は拮抗しているように見えた。しかし……。

(伊達に獣然宗という大きな組織の守りを任されているだけはある。だが、どうやら純粋な徒手空拳なら自分の方が上みたいだ)

 ほんの少し、ほんの僅かだが狻猊の方が余裕があった。相手の動きをつぶさに観察できるくらいの余裕が……。

(大分相手の出方がわかってきた。これなら……)

「おりゃ!!」

(今だ!!)

 陸吾のパンチに合わせ、狻猊はそれを挟み込むように、肘と膝を動かした!

「聖王覇獣拳!剣割――」


ゾク……


「――り!?」

 瞬間、かつて卞士仁と戦った時のような悪寒が全身に走った。

(間に合うか!?)

 狻猊はほぼ反射的にカウンター技を中断。後ろに大きく跳躍し、陸吾から全力で離れた。すると……。


グンッ!!


 陸吾の拳から鋭い爪が飛び出した!もし逃げていなかったら、この爪が狻猊の腹に……。

「ちっ……勘もいいな」

「かなりギリギリでしたけどね……危うく串刺しになるところだった」

 本人としてもなんとか助かったという気持ちが強いのだろう。思わず狻猊は汗を拭うような仕草をして見せた。

「俺は血の気は多いが、何も考えてないわけでもなければ、傲慢なわけでもない。本当かどうかは知らんが、拳聖玄羽の弟子を名乗る男と殴り合いして勝とうなんて最初から思ってないんだよ」

「つまり今までのは様子見……本番は」

「そうだ!ここからだ!見せてやるよ!陸吾の本領を!!」

 蓮霜の気合に呼応し、両手両足から爪、さらに背中から九本の尻尾が生えた。


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