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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
第一部
13/163

墓荒らし②

 起源獣に座った男は眼球だけを動かし、喧しく失礼な二人組を観察した。

「……お前達は何者だ?同業には見えないが……?」

「人を見る目はあるようだね。キミが思った通り、ボクはただ者じゃない……天才骸装機開発者、名を丞旦と言う」

「……そこまでお前を評価した覚えはないが……」

 男は呆れたようにため息をつくと、起源獣から飛び降りた。

「骸装機開発者なら、この墓にも、ここに眠ると云われる『無影覇光弓 (むえいはこうきゅう)』には興味ないはずだろ?」

「へぇ……」

 ジョーダンは男の言葉を聞くと、ニッと口角を上げた。

「ボクは知的好奇心が旺盛でね、骸装機に限らず、神遺物にも興味がある。でも今は急いでいるから、この墓に眠っているのが、何かだけ確認できればいいって思ってたんだけど……無影覇光弓なら別だ。もしそれがここにあるとしたら、必ず手に入れると決めていた」

 その宣言は目の前の男に対しての宣戦布告だった。男は険しい顔をさらに強張らせ、大胆不敵なメガネを睨み付ける。

「だとしたら、やることは一つだな……」

「だね」

「だが、その前に一つ聞きたい」

「なんだい?ボクのツレが失礼なことを言ったお詫びに答えてあげるよ」

「なぜ無影覇光弓にそこまで固執する?伝説じゃ、絶対に防御できない矢を放つとされているが、他の九つの武器よりもお前は何故この弓を評価した?」

「昨日までなら個人的には、傷を癒す音を奏でる『千喜覇音琴 (せんきはおんきん)』と肉体の力を強化する音を響かせる『千楽覇律笛 (せんらくはりつてき)』がボクの中で欲しいものツートップだったんだけど、天才の妙技を見てしまったからね」

 ジョーダンは親指で後ろに控えるカンシチを指さした。

「この猛華、いや世界で無影覇光弓を持つべき人間はただ一人、この次森勘七だよ」

「ジョーダン……お前、マジで……」

 さすがにここまで言われたらカンシチもジョーダンの言葉が本心であることを認めるしかなかった。この傲慢な天才が自分の弓に対しては、同じく天才であると評していることを。

「というわけで、無影覇光弓は必ずボクらがゲットする。邪魔しないでくれるかい?」

「無理な相談だな。オレ達はそいつを手に入れるために長い時間をかけ、ここまで来て、命懸けで戦ってきたんだ」

「戦うことに自信があるみたいだけど、今まではともかく今度は命を落とすことになるかもよ」

「天才相手だからか?」

「イエス」

 その言葉が戦闘開始の合図だと男は受け取った。眼光がさらに鋭くなり、身体中に闘志が駆け巡る。

「その醜悪に肥大した自尊心!この『星譚 (せいたん)』が砕いてやろう!!」

 男は服の中から手甲を取り出し、右手に装着、そしてジョーダンに向かって拳を突き出した。

「『撃猫 (げきびょう)』!!」

 手甲を中心に光が広がり、星譚を包んだと思ったら、オレンジ色をした骸装機がジョーダンに向かって飛び出してきた。

「セイと言ったか……その判断、後悔させてやろう!行くぞ!応龍!!」

 ジョーダンもいつもの彼の自尊心のように過剰に光輝く黄金の鎧を身に纏い、向かって来る墓荒らしに突っ込んで行く。

「一撃で終わらせてやる!!」

「それはこっちのセリフだ!!」

 両者、勢いそのままに拳を振りかぶり……。

「オラァッ!!」

「でりやぁっ!!」

 目の前の相手に叩き……いや!


ブウン!!


「何!?」

 応龍のナックルが何もない空間に炸裂した。その横で撃猫はすでに次の攻撃の体勢に入っていた。

「フェイントか」

「やはり一発で……十分だったな!!」

 逆に腕が伸びきり、完全に無防備を晒している応龍に今度こそ必殺の一撃を振り下ろす!しかし……。

「猪武者でないことはわかったが……その程度でボクは倒せないよ!応龍槍!!」

 パンチを撃っていない逆の手から槍が出現!襲いかかる撃猫を……。


ガァン!!


「ぐっ!?」

 逆に弾き飛ばした。見事に決まって本来なら嬉しいはずだが、ジョーダンの心は複雑な思いに覆われていた。

「あの坊主の真似ってのは、気に食わないが……まぁ、何事も模倣から始まるからな!成長したってことで!!」

 気持ちを切り替え、あの時の自分のように悶える撃猫に、追撃を繰り出した。義命のような慈悲は持ち合わせてないし、見習う気もない。

「この突きの嵐!耐えられるか!!」


ギンギンギンギンギンギン……


「ちいっ!?」

 上下左右から降り注ぐ突きを撃猫はかろうじて防御する。いや……。


ギンギンギンシュッギンシュッシュッ……


(こいつ……もう対応して……!?)

 時間にしたら、一分にも満たない時間、その刹那の時間で撃猫は応龍の突きを防御ではなく、回避し始めた。

「これのどこが嵐だ……小雨がいいところだろ」

「言ってくれるね、こんちくしょう!!」


シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!!


 挑発にまんまと乗り、応龍はさらに突きのスピードを上げた。けれど、完全に動きを見切り、先ほどのダメージから完全に回復した撃猫のオレンジ色の装甲に触れることはできなかった。

「無駄だ。オレにはもうその技は通用しない」

「うーん……最近、全然通じないな……さすがにショックだよ」

「ならばもっとショックを与えて、もう二度と戦う気など起こさせないようにしてやる!!」

 撃猫は姿勢を低くし、槍の嵐を掻い潜り、黄金の龍の懐に潜り込んだ。

「喰らえ!!」

 アッパーカット、というより下から上へのストレートが放たれる!拳は龍の顎を……。

「危な」


チッ……


「!?」

 渾身の一撃は龍の顎を砕くことはできず、僅かに角を掠めるだけで終わった。

「さぁ……反撃!!」

 動揺する撃猫を尻目に、応龍は瞬時に槍を逆手に持ち変え、自分を見上げているオレンジの仮面に突き立て……。

「この!?当たるかよ!!」

 撃猫はかろうじて回避!槍は地面に深々と突き刺さり、その間に距離を取ろうと後退するが……。

「まだボクのターンは終わってないよ!」

「何!?」

 まるでポールダンサーのように槍を使って、応龍の黄金のボディーは空中で横になる。そして……。

「ゴールドローリングドラゴン……キイィィック!!」


ガァン!!


 ぐるりと槍を中心に回転!その勢いを利用して強烈な蹴りを浴びせた。

「ぐわっ!?」

 それでも撃猫は反射的に防御の体勢を取る。けれども、衝撃を殺し切れず吹っ飛んで行った。

「ふぅ……そろそろボクと応龍に戦いを挑んだことを後悔してくれたかな?」

 地面に降りると、応龍は腰に手を当て、首を僅かに傾け、相手の精神をより逆撫でするように言い放った。

「後悔……するのは、てめえの方だろ……!!」

 ジョーダンの行為は無意味だった。そんなことしなくても、すでに星譚の心は怒りの感情で満たされていたからだ。

「まったく……冷静さを欠いたら、おしまいだよ?」

「お前ごとき、どんな状態でも負けやしないさ……!」

「そうか……人を見る目があると思ったのに、残念だ……この勝負はすでに決した」

「ぬかせ!さっきは油断したが、それさえなければもうお前の攻撃は当たらん!完全に動きは見切ったからな!!」

 激情の赴くままに撃猫は地面を蹴り、突進した。そこに迷いや躊躇はない。今言った通り応龍の動きを見切ったと自負しているからだ。

「今度こそ……喰らえ!!」

 全身から吹き出す怒りを拳に全て込め、黄金の龍の心臓目掛けて解き放つ!


ガァン!!


 撃猫の拳は見事に狙った場所にヒットした。だが、それは撃猫が凄かったというわけではない……ただ応龍が何もしなかったからだ。

「お前……何故避けない……?何故防御しない……?」

「その質問の答えは二つ。する必要がないからと……こうするためさ!」


ガシッ!!


「――ッ!!?」

 応龍は撃猫の腕を掴む。咄嗟に撃猫は振り払おうとするが……。

「離せ!!」

「敵に頼むなんて情けない真似しないで、自分でなんとかしなよ」

「くっ!?くそッ!?」

 全力で腕を引き抜こうとするが、びくともしない。まるで巨大な岩の塊に腕が飲み込まれているように感じた。

「まぁ、無理だろうね。キミはボクの動きを見切ったって言ったけど、ボクもキミのことを見切っている」

「オレの……」

「正確にはキミのマシンのスペックをね。悪いマシンじゃないが、ボクの応龍を相手取るには力不足。致命傷を与えることも、捕まったら逃げ出すこともできないよ」

「そんなこと……!!」

 どれだけ星譚が否定しても、今の状況がジョーダンの正しさを証明していた。

「でも、誇っていい。マシンのパワーでは応龍に傷一つつけることもできないはずだったのに、こうして小さくともひびを入れられたのは、ひとえにキミという装着者の強さが本物だからだ」

 撃猫の腕を掴んでいる逆の手で応龍は自分の胸を撫でた。そこには注意深く見ないとわからないが、確かに小さなひびが入っていた。

「お前なんかに……褒められたって、嬉しくねぇんだよ……!!」

「そう……じゃあ、そのボクにボコボコにされるのは耐え難い屈辱だろうね」

「な――」


ガァン!!!


「――に!!?」

 応龍の拳が撃猫の顔面を撃ち抜く!一撃でオレンジ色のマスクには無数の亀裂が入り、星譚は自分の首が無くなってしまったと錯覚した。

 しかし、それだけの衝撃を受けたら本来なら遥か彼方に飛んで行くはずが、そうはなってない……腕を掴まれてるからだ。

「自他ともに認める天才のボクとしてはこんな野蛮で原始的な方法は取りたくないんだけど、何度も言うが急いでいるんでね。このままサンドバックになってもらうよ」

「てめえ……!」

「もちろん反撃してもらっても構わない。どうせ効かないから……ね!!」

 応龍は再び固く握ったナックルを振り下ろす。

「ぐっ!?」

 撃猫には為す術はない、できるとしたら、意識を刈り取られないように歯を食い縛るだけだ。

 遺跡の中に金属同士が激しくぶつかる音が響き渡る……ことはなかった。


ビュッ!


「「!!?」」

 応龍と撃猫の間に“何か”が通過した。

 反射的に回避運動を取ってしまった黄金の龍は獲物から手を離し、後退した。

「今のは……石?」

 二人の激闘を、そして決着を中断させたのはただの石だった。遺跡の壁にぶつかり、コロコロと転がり落ちる何の変哲もない石だ。

「無粋な真似を……何のつもりだ!」

 応龍は石が飛んで来た方向に視線を向けると、そこには見知らぬ男が立っていた。

「悪いな……お前がボコッてたの、俺のツレなんだわ」


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