血獣人と凶王拳①
完全に戦闘態勢に移行した翠炎隊の前に現れたのは屈強な三人組の男であった。
「おっ!いたいた!」
ただその強面な見た目とは裏腹にとても気さくに声をかけて来る。それがまた不気味だった……。
「自分達に何か用か?」
普段は礼儀正しいリンゴが不躾に応対する。その姿を見て、真ん中に陣取っている一際大柄な男はニヤリと口角を上げた。
「そんなに邪険にしないでくれよ~。俺様達はちょっと聞きたいことがあるだけなんだ」
「拳聖玄羽の武勇伝ならいくらでも話してやる」
「いやいや、それは我が師から耳がタコになるくらい聞いてるから結構です」
男の言葉に一歩下がって控えている仲間達もニヤニヤと薄ら笑いを浮かべた。
「ならば貴様とはもう話すことはない。お帰り願おう」
「ちょっとちょっと!せめて質問くらいさせてくれよ~!そんぐらいはいいだろ~?」
「……いいだろう。話だけは聞いてやる。自分達に何が訊きたい?」
「えーとね……そいつの中に何が入ってたの?」
「「「!!!」」」
男がリンゴの後ろ、壊れた人型を指差すと、一気にその場に緊張感が走った。
「プライベートなことなので答えられない」
「そこをなんとか」
「少なくともお前達には必要ないものだ」
「それを決めるのは俺様達じゃねぇ?」
「いや、自分たちだ。もう一度言う……お前達には必要ない……!!」
「「「ッ!!?」」」
あらゆるものを拒絶するようなリンゴから迸るプレッシャーに三人組は気圧され、人を小馬鹿にしたような余裕の態度を崩した。
「さすが拳聖の一番弟子……その若さでここまでの威圧感を放てるとは……!!」
「褒めても自分の答えは変わらんぞ」
「だったら力ずくで奪い取るしかないな!『ライティ』!『トーレフ』!やるぞ!!」
「「おおっ!!」」
三人が精神を集中すると、身体が一回り膨れ上がり、みるみるうちに人間とは異なる形に……。
その姿は古代にいたカバのようだった。
「仙獣人……いや、血獣人か」
「俺様達は猛華の外の人間なんでブラッドビーストと呼んでもらいたいね。金を稼ぐために西に東にと、さまよっていたらいつの間にか拳幽会の幹部になっていた男、それがこの『ムーアクラフト』だ!!」
「「ふん!!」」
三人は思い思いに自分の肉体美をアピールするようなポーズを取った。
「なんかちょっと……いや、かなりバカそうだな」
バンビは毒気を抜かれたといった感じで呆れ返った。一方リンゴは……。
「油断するな、バンビ。言動こそアホくさいが、その端々から見える所作からして、武道の心得があるのは明白。ましてや拳幽会の幹部の一団ならかなりの使い手だろう。舐めてかかると、痛い目を見るぞ」
リンゴは師匠からの手紙を読んで気を引き締めたのか、一切の慢心もなく臨戦態勢を維持していた。
「嬉しいね~。人によっては俺様達がブラッドビーストだと知るとそれだけで見下してくる奴もいるのに」
「全ての点において、ピースプレイヤーに負けている欠陥技術だと思われてたりしますからね、ブラッドビースト」
「きちんと強敵認定してもらえて嬉しいっす」
「あぁ、これは感謝を込めて……全力で叩き潰してやんねぇとな!!」
三人はその巨体に似合わぬスピードで、翠炎隊に襲いかかって来た!
「バンビ!アンミツさん!自分達も!!」
「おおう!行くぜ!スピディアー!!」
「戦いは好きじゃないのですが……やりますよ、錫鴎」
「惑わし、燃やせ!狻猊!!」
翠炎隊も愛機を身に纏い突撃!スピディアーはライティに、錫鴎はトーレフに、そして狻猊はムーアクラフトの迎撃に向かった。
「どりゃあっ!!」
勢いそのままに放たれたパンチもまたその巨体に似合わぬスピードを誇っていた。しかし……。
「ふん」
ヒュッ!!
若獅子はあっさりと回避。拳は空を切る。
「オラアッ!!」
そして隣で行われているトーレフVS錫鴎も……。
「あくびが出ますね」
ヒュッ!!
「こいつ」
全く同じ結末。狻猊以上に少ない動作、ギリギリで避けて、実力差を見せつける。
こうなると当然スピディアーも……。
「はあッ!!」
「当たるか――」
ガァン!!
「――よ!!?」
残念!スピディアーは見事に顔面に拳を叩き込まれた。
「くっ!?なんだ!?避けたと思ったのに!?」
「さぁ?どうしてだろうね~?」
ライティが小刻みにステップを踏んで煽って来る。単純なバンビは当然それにまんまと引っかかる。
「舐めた真似しやがって!後悔させてやる!!」
スピディアーは背負っていた餓血槍を構えるや否や間髪入れずに突き出した……が。
「ほっ!」
あっさりと避けられ……。
「はっ!!」
懐に潜り込まれるとアッパーを打たれた!
(そんなへなちょこパンチに当たるかよ!今度こそ……!!)
しかし、スピディアーはその動きを見切っていた。顔を逸らして回避……。
ガァン!!
「――ッ!?」
木の枝のような角の生えた頭が勢い良く跳ね上がった!アッパーはスピディアーの顎にまたもや命中したのだ。
(なんだ!?なんでもらった!?今のタイミングなら、完璧に避けられたはずなのに何故……!?)
「バンビ!!血獣人の動きには独特のキレと伸びがある!!」
「!!?」
「骸装機と同じ気分で相手をしていたらダメだ!!」
「そういやそんなこと聞いた記憶がある……あるけど!!」
「口で言ってすぐに対応できるなら、そんな注意が出回らないよなぁ!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!
「ぐっ!?」
リンゴのアドバイスも虚しくスピディアー滅多打ち!為す術もなくサンドバック状態に陥る。
(見た目通りのパンチの重さ、それに加えて、見た目に反するスピードとキレ……!こいつの言う通り、ちょっとやそっとじゃ対応できねぇが、どうにかしないとタフなスピディアーでもすぐに……!)
「ほれほれ!どうした!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガァン!!
「――ッ!?」
ラッシュの最後にお手本のようにキレイに決まったストレート。それがバンビの中の何かをキレさせた。
「野郎!!」
ガンガンガンガンガンガン!ガシッ!!
「うおっ!?」
乱打などお構い無しにスピディアーは距離詰め、ライティにぴったりとくっついた。
「ごちゃごちゃ考えるのはやめだ!!こちとらタフ&パワーで売ってんだ!至近距離の殴り合いと行こうぜ!ブラッドビースト!!」
スピディアーはほぼゼロ距離からボディーブローを放つ!
ここまで接近していると強いパンチは打てないものだが、このマシンの装着者はバカ力の代表格、万備。持って生まれた膂力だけで、大抵の敵を悶絶させる一撃を繰り出すことができる……はずなのだが。
「ふぅッ!!」
刹那、ライティはその大きな口から息を吐くと呼吸を止めた。
ゴッ!!
「ッ!!?」
ライティはまるで巨岩の如く微動だにせず。ボディーブローを正面から受け切ったどころか、軽く弾き返した。
「この手応え……てめえ、何をした……!?」
バンビの質問にライティはただ無言で微笑み返した。
「やるな、拳聖のお弟子さん」
狻猊対ムーアクラフトの戦いは依然獅子がカバの攻撃を全て躱し続けていた。
「ずっと仙獣人であるシュガさんに稽古をつけてもらっていたんだ。ブラッドビーストの特性とやらにも慣れている」
「なるほどね。この国最高の獣人に比べれば、俺様のパンチなんか屁でもねぇってことか」
「そうだ。わかったなら、降参しろ。お前の持っている情報を洗いざらい話すというなら悪いようにはせん」
「慈悲深いね~。我らが首領様とは大違いだ」
「その首領というのは羅昂か?」
「なんだよ……もう知ってるじゃねぇか!!」
ムーアクラフトはその筋肉の塊のような太い脚を振り上げ、ミドルキックを放った。しかし……。
ブゥン!ガシッ!!
「――ッ!?」
狻猊はそれを易々と回避しながら、脚を掴み、その勢いに逆らうことなく、むしろ流れるように自分の力を上乗せた。
「聖王覇獣拳!清流投げ!!」
ドサッ!!
「――うおっ!?危ね!?」
ムーアクラフトの巨体が地面に転がる!けれども、ギリギリのところで受け身を取り、すぐに立ち上がる。
(やはりこいつも聖王覇獣拳に対応できているな。だとしても今の状態なら、この技の防御は間に合わないだろ!!)
狻猊は両手を手刀の形にして、振り上げたと思ったら、即座に斜めに撃ち下ろす!
「聖王覇獣拳!武威落とし!!」
獅子の手刀がカバの両肩に迫る!
「ふぅッ!!」
刹那、ムーアクラフトはその大きな口から息を吐くと呼吸を止めた。
ゴッ!ゴッ!!
「――なっ!?」
狻猊の手刀はムーアクラフトの肩を破壊することはできず。逆にその硬度によって弾き返した。
(今の手応えまるで……)
「ドデカい岩を殴ったみたいだろ?」
カバは大きな口を歪め、不敵な笑みを浮かべながらリンゴの心を見透かした。
「……これはお前の変化したそのブラッドビーストの能力ではないな。今のは……“技”だ……!!」
「イエス!我らが拳幽会首領、羅昂が生み出した技の一つ、凶王拳、纏鎧個宮だ!!」




