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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
120/163

翠炎隊と拳幽会②

「やれやれ……いずれ気付いて、首を突っ込んで来るとは、我が師に言われていましたが……よりによって、このわたくしが遭遇することになるとは……」

 卞士仁はめんどくさそうに、身体を覆っていた布を脱ぎ捨てた。

 闇夜の下に晒された彼の身体は骨と皮だけしかないような細身で、あまり強そうには見えなかったが、リンゴとバンビは妙な胸騒ぎを覚えた。

「リンゴ……」

「見た目よりずっと強い……というより、なんか得体が知れないと言った方がいいかな。とにかく気を付けて立ち回らないと痛い目を見るはず」

「そこは推定ではなく、断定して欲しいところですね、拳聖の弟子よ」

 卞士仁は思わず苦笑した。

「さっきから自分が拳聖の一番弟子であることを強調するが、師匠のファンか?それとも……」

「玄羽にご執心なのは、わたくしよりも……軽々と自分なんかが喋っていい話じゃありませんね。機会があったら、ご本人に訊いてください……機会があったらね」

 卞士仁が指をパチンと鳴らすと、彼の部下達は皆一様に懐からナイフを取り出した。

「なんだよ、てめえがやるんじゃねぇのかよ?」

「わたくしが手を下す価値があると思ったら、すぐにでも相手をしてあげますよ」

「こいつらはその品定めのための道具ってわけか」

「ええ。巷で噂の翠炎隊の実力……是非とも我ら『拳幽会(けんゆうかい)』に見せてください!!」

「『ヴォーイン』起動!!」

 部下達の持っていたナイフがほぼ同時に光の粒子に分解、そしてすぐさま機械鎧へと再構成されると、彼らの全身を覆っていった。

「あれは骸装機というより……ピースプレイヤーか?」

 顕現したヴォーインという骸装機にリンゴは見覚えは全くなかった。だからこそ海外製のマシン、骸装機ではなくピースプレイヤーと呼ばれている代物なのだと推測し、警戒を強める。

「正解。海外の『ミェフタ』とかいう会社のマシンだ」

「え?知ってるの?」

「骸装機使いなのに、メカのことに興味をもたなかった結果、痛い目を見たからな。暇を見て、色々と勉強しているのよ、オレ」

 そう語るバンビはどこか誇らしげというか自慢気だった。

「それはそれは……素直に感心するよ」

「だろ?もっと褒め称えてくれて構わないぞ!」

 喜びを全身で表現するように、スピディアーは胸を張り、槍をくるくると回した……が。

「で、そのミェフタのヴォーインという機体はどういうマシンなんだ?」

「………」

「バンビ?」

「戦いの最中にのんきに話してる場合じゃないだろ!!オレはもう行く!!」

 張った胸を元に戻し、嫌なことを忘れるように目の前の敵に集中、スピディアーは愛槍を構えて、突撃した。

「誤魔化すなら、もっと上手くやれよ」

 そんな彼に呆れながらも、緑色の獅子、狻猊も続いた。

「総員!撃てぇ!!」


ババババババババババババババッ!!


 対するヴォーインはマシンガンを召喚。一斉に掃射し、厄介な乱入者を迎撃しようと試みる……が。

「そんなもんでオレを止められるかよ!!」


グルン!!キンキンキンキンキンキン!!


 スピディアーは深紅の槍、餓血槍を高速回転させ、弾丸を全て弾く。あまりのスピードに傍目には真っ赤な円形の盾が突如として空中に出現したように見えた。

「同じく。聖王覇獣拳、旋風ゴマ」


ブォン!!キンキンキンキンキンキン!!


 片や狻猊は自分自身を高速回転!自らを小さな台風と化し、巻き起こる風圧によって銃撃を防ぎ切った。

「ッ!?こいつら……!!」

「銃は効かん!接近戦用意だ!!」

 ヴォーインはマシンガンを消すと、続けてナイフを召喚し、構えを取る。しかし……。

「おいおい。拳なんちゃら会を名乗るなら、武器なんて使うなよ!!」


ザシュツ!!


「――ぐあっ!?」

「速い!?」

 後から動いたはずのスピディアーの突きには全く反応できず。あっさり肩を貫かれ、一人目撃破。

「ちっ!よくも!!」

 背後から二人目が急襲!しかし、これも……。

「オラァッ!!」


バギィン!!


「――ぐはっ!!?」

 振り返りながら槍を横薙ぎ!剛力でナイフごとヴォーインを撃ち砕いた。

「一対一じゃ太刀打ちできない!囲め!囲め!!」

「お――」

「その前に潰させてもらう!!」


ザシュツ!!


「――いッ!?」

「いよっと!!」


ドゴッ!!


「ぐあっ!?」

 前の敵を刃による突きで、後ろの敵を石突による打撃で粉砕!包囲網は完成する前に瓦解した。

「くっ……!?」

「強い……!!」

 立て続けに仲間を撃破されたヴォーイン軍団はついに攻撃の手を止め、スピディアーと一定の距離を取って、ただただ立ち尽くした。

「どした?もうギブアップか?」

「くっ!?」

「頼むぜ、オレとしてはもっとスピディアーの力を実戦で試したいんだ」

(あと餓血槍に血を吸わせてやらねぇとなんねぇし)

 スピディアーは感触を確かめるように深紅の槍をそっと撫でた。

(こいつらの血を吸ったおかげで、硬くなって来たな。蘭景の説明を聞いた時は硬度上昇は恒久的なものかと思ったが、血をしばらく吸わせねぇと、すぐに元に戻っちまう。こんな手間のかかるもんをくれやがって……ペペリの奴に、手紙と礼を送るんじゃなかった)

 マスクの下で「ちっ!」と、舌打ちをする。

 面倒な発明品を押し付けて来たペペリに対して苛ついたのではない。なんだかんだ文句を言いながら、そんなもんに頼らなければならない自分の未熟さに腹を立てているのだ。

(だけど、オレの全力に耐えられる槍は現状これしかないからな。こういうチャンスにたっぷりと血を吸わせて、甘やかしておかねぇと……!!)

 スピディアーは深紅の槍の切っ先を次の敵、いや生け贄に向ける。

「さぁ!次の餌は誰だ!!」



「喰らえ!!」

 ヴォーインはナイフを躊躇することなく、緑色の獅子に向けて突き出した!しかし……。

「遅い!聖王覇獣拳!剣砕き!!」

 狻猊はそれを真っ向から拳で撃ち砕く!


バギィバギィン!!


「――ぐきゃあっ!!?」

 ヴォーインにとって最悪のタイミングで放たれたパンチは彼の得物を粉砕すると、そのまま手までも容赦なく破壊した。

「続けて強角!!」


ドゴッ!!


「ぐふっ!!?」

 無防備になった腹に肘鉄!その破壊力を物語るようにヴォーインの装甲に命中箇所からクモの巣状にヒビが入った。

「すばしっこい奴め!ならばその動きを止めてやる!」

 別のヴォーインが狻猊を羽交い締めにしようと、両腕を広げ、覆い被さって来る。

「ふん」


ブゥン!!


「ッ!?」

 けれど獅子は跳躍し躱す。ヴォーインの腕は何もない空間を抱きしめた。

 そして敵の頭上を取った狻猊は……。

「聖王覇獣拳、猛爪連脚」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「ぐうぅ……!!」

 スタンピング!スタンピング!スタンピング!ヴォーインの頭を何度も何度も踏みつける!

「とどめ!頭蓋砕き!!」


ドゴオッ!!


「――ッ!?」

 さらに一回転してからの強烈なキック!

 短時間で頭部に何回も強い衝撃を受けたヴォーインの意識は深い闇の底に沈んでいった。


パチパチパチパチパチパチ……


「素晴らしい」

 突如響き渡る拍手の音。リーダーである卞士仁が手を叩いて、若獅子の奮闘を称えている。

「……仲間をやられたのに、その態度はないんじゃないか……?」

 称賛に対し、リンゴは不快感を露にした。敵に褒められたところで嬉しくはないし、何より部下をなんとも思っていない畜生からのものだとしたら尚更だ。

「フッ……仲間ねぇ~」

 対する卞士仁は意に介せず。ニヤニヤと不愉快な笑みを浮かべながら、倒れる部下の元に近寄った。

「確かにあなたの言う通り仲間は大切です。ただ彼らをそう称するのは過去の話」

「……は?」

「拳幽会では、敗者は仲間ではなく、ゴミと呼ぶのですよ」


ガッ!!


「!!?」

 卞士仁は倒れるヴォーインの頭をあろうことか足で踏みにじった。

 その外道な行為がリンゴの心に怒りの炎を灯したのは言うまでもない。

「……適当に痛めつけて捕まえるつもりだったが……やめだ。あんたに徹底的に敗北というものを教えてやる……!!」

「わたくしにゴミの仲間入りをしろと?それは……ごめんこうむる!」

 卞士仁は顔の前に腕輪を嵌めた手を翳した。そして……。

「撃猫」

 その真の名前を呼ぶ。

 腕輪は光を経て、機械鎧に再構築されて、卞士仁の全身を覆っていく……紫色の鎧が。

 その姿を見た瞬間、黄金の鬣に彩られるマスクの下で、リンゴは顔をしかめ、眉間に深々とシワを刻んだ。

「……どこまでも自分を不快にする男だな。猛華でその色の骸装機を纏う意味がわかっているのか?」

「もちろん。紫は拳聖玄羽のパーソナルカラー。それを纏うのはわたくしなりに彼へのリスペクトの証。そして……彼を超えるという覚悟の証です」

 さらにリンゴの心を逆撫でる言葉を発しながら、卞士仁撃猫はゆっくりと腰を落とし、軽く手を開きながら前のめりに構えを取った。

「一人の人間を集団で追いかけ回す時点で常識も倫理もない奴だとは思っていたが、まさかここまで腐っていたとは……その冗談、ちっとも笑えん……!!」

 狻猊もまた静かに構えを取り直す。その全身からはリンゴの憤りが熱へと変換されて放出され、彼の周囲の気温が若干上がっていた。

「本当に素晴らしい……!これが拳聖の弟子の本気!狻猊の全力!」

「その目に精々焼き付けておけ……もう二度と見ることはないのだからな」

「ええ……これで見納めとなると思うと、残念ですよ……あなたほどの戦士がこんな路地裏で最期を迎えるなんてねぇ!!」

 先に動いたのは卞士仁!さらに姿勢を低くして、獅子の足元に突っ込んだ!

「はあっ!!」

「ふん!!」


ブゥン!!


 脚を掴もうとした卞士仁のタックルを狻猊は跳躍で易々と回避、頭上を取った。

「バカにしていた奴らと結局同じじゃないか。いや、奴らがやられるところを見ながら、同じ手で倒されるお前の方がずっと酷い!!」

 部下と同じ末路を辿るであろう卞士仁を嘲りながら、真下に蹴りを……。

「猛――」


ゾクッ……


「――ッ!?」

 踏みつけを急遽キャンセル!若獅子はそのまま卞士仁撃猫を飛び越し、再び距離を取り、身構えた。

(今、寒気が……もしあのまま技を放っていたら、良くないことになっていた気がする……!)

「動きも良ければ、勘もいい。感服しますよ、一番弟子さん」

「……やはり何か策があったのか?」

「答える義理はないですし、わざわざ説明するまでもなく……きっとすぐにわかりますよ!!」

 卞士仁撃猫、再び低空タックル!獅子の足を掬おうと地面スレスレを這うように移動する!

(セオリー通りなら、ここは膝蹴りでカウンター!!)

 狻猊は脚を振り上げるような素振りを見せた。

「おっと!」

 それを見て、卞士仁は急遽ストップからのバック!タイミングをずらした……が。

「あんたならきちんと反応してくれると思ったよ……大地滑り」

 膝蹴りはフェイント!狻猊はすぐに足を戻し、指に力を込めると、ヌルリと独特な挙動で卞士仁の背後に回り込んだ。

(あの低空タックルからして、奴は組技使い。掴まれるのだけは絶対に避けるべき……つまり最善手は奴の手の届かない場所、背後からの攻撃!)

 狻猊は卞士仁の背中に拳を撃ち下ろ……。

「残念」


ガゴッ!ゴォン!!


「――なっ!?」

 パンチは見事に命中した……卞士仁撃猫が放ったものが狻猊に。

 紫色の猫の肩と腕は人間ではあり得ない方向に曲がり、背後の獅子の顔面に裏拳を叩き込んだのである!

「くっ!?まさか振り返りもせずに拳を放つなど……」

「あり得ないと思いますか?ですが、できるのですよ。我が師の教えを、より実践的に改良し、編み出したこの卞士仁流拳法ならね……!」


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