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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
継承拳武
118/163

プロローグ:在りし日の拳聖

「はぁ……はぁ……はぁ……!!」

「ふぅ……!!」

 地面には汗と血でできたシミ、聞こえるのは風と乱れた呼吸音……。

 荒野で行われた若き二人の拳法家の決闘はついに佳境、決着の時を迎えようとしていた。

「俺はお前にだけは負けん!!負けるわけにはいかないんだぁぁぁッ!!」

 細身で神経質そうな顔をした男はそう叫ぶと、残った力の全てを右拳へと集中させた。

「凶王拳!!覇獣狩り!!」

 そしてそれを目の前にいる無骨そうな男に撃ち込む!しかし……。

「動きが大き過ぎる!!」


チッ!!


「なっ!?」

 無骨そうな男はその拳を見切り、頬の薄皮一枚切り裂かれるだけで済ます。さらにそのまま神経質そうな男の懐まで潜り込んで……。

「これで終わりだ!!覇獣拳!骸装通し!!」


ボッ!!!


「――がはっ!!?」

 反撃のボディーブロー!いや、ただのボディーブローではない。その衝撃は体表を通り抜け、骨を貫き、内臓に深くダメージを与え、神経質そうな男を吐血させた!

「がはっ!?ぐはっ!?この技は……!?完成させていたのか!!くそ……!?」

 神経質そうな男は苦悶の表情を浮かべ何度も血と恨み言を吐きながら、よろよろと後退した。

「決着だ『羅昂(らこう)』。これに懲りたら、武の道を捨て、一人の人間として静かに暮らせ」

 無骨そうな男はとても悲しそうな顔で神経質そうな男、羅昂に降参と自己を改めろと促す。きっとこの頑固で執念深い男は決して了承しないと理解しながらも一縷の望みを懸けて……。

「断る!武があっての俺!凶王拳あっての羅昂だ!!歩みを止めるなどあり得ん!!」

「その道が間違っていたとしてもか?」

「間違い?そんなことを決められるくらいに偉くなったのか貴様は!?」

「わしも道半ばだが、お前の向かっている先が破滅しかないことはわかる。弱者を虐げ、権力を手に入れるために振るわれる拳など、武ではない!!」

「きれいごとを!!」

「きれいごとを言えなくなったら、終わりだろうが!お前はそれを言い続けることができる真の強さから目を背けたんだ。その時、武道家羅昂は死んだのだ!」

「ふざけるなぁ!!俺の拳を貴様ごときが語るなぁぁぁッ!!」

 怒りに身を任せて、羅昂は再び右拳を繰り出す!

 けれど、その動きは先ほど以上に大きく、そして緩慢で、とてもじゃないが目の前の男に通じる代物ではなかった。

「馬鹿野郎が!!」


ガシッ!!


「!!?」

 その雑に振り下ろされた右腕を無骨そうな男は掴み取り、肘関節が反らんばかりに無理矢理伸ばすと……。

「覇獣拳!凶王破壊撃!!」

 その肘関節に向けて、もう一方の腕をかちあげた!


バギバギィン!!


「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 不愉快な音と共に、羅昂の右腕は曲がってはいけない方向に曲がり、悲鳴にも似た咆哮をあげる!

「お前の技……使わせてもらうぞ」

「な!?」

 さらに男はすでに再起不能に近いダメージを負った羅昂の右腕を両手で掴むと……。

「凶王拳!花捻り!!」


バギバギバギバギィッ!!


「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 それをまたあり得ない方向に強引に捻り、さらに羅昂の骨と神経をズタズタに破壊する。

「右腕は……これで仕上げ!!」

 男は見るも無惨な形になった羅昂の右腕から手を放すと、その上下から肘と膝を叩き込む!

「覇獣拳!剣割り!!」


ゴギャン!!


「ぐあぁぁぁっ!!?俺の!!?俺の拳があぁぁぁ!!?」

 肘と膝は羅昂の拳を凄まじい勢いで挟み込むと、全ての関節を、指を粉々に粉砕した。もうまともに開くことも、閉じることもできないほど壊滅的に破砕したのだ。

「これでお前はもう二度と拳は握れん」

「き、貴様……!!」

「だが、それだけでは貴様の野心は止められんだろう……というわけで、左脚ももらうぞ!!」

「な!!?」

 最適な力みと脱力のバランスを実現した男の脚は圧倒的な加速を生み、目にも止まらぬ速度の蹴りを繰り出した……三連続で。

「凶王破壊脚!!」


ガギィ!ガギィ!ガギィンッ!!!


「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 太腿を外から、ふくらはぎを内から、膝関節を正面から、超スピードでほぼ同時に蹴る!

 一瞬で敵の脚の骨は粉々に砕き、立っているのもままならない状態にしてしまう悪魔の三連撃が、全弾きれいに命中した!

「あ、足が……俺の足が……!?」

 男の前にへたり込む羅昂の姿はまるで許しを乞うているかのようだった。

 だが、悲しいかな仮に本当にここで降参しても、男は止まるつもりは一切ない。

「腕と脚を一本ずつ失った。ならばバランスを取って、眼も一つ無くした方がいい」

「……は?」

「また使わせてもらうぞ。凶王拳、鬼穿ち」


ザシュウッ!!


「――ッ!?ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 力を一点に集中させた男の人差し指は羅昂の左目を貫き、いとも容易く潰してしまった。

 傷を抑える左手の指の間からまるで涙のように、ドロリと赤黒い血が溢れ、頬を伝うと羅昂の肉体に痛みと、心に深い絶望が広がっていく。

「腕と脚、そして目を片方ずつ失ったお前は肉体的にも拳法家として死んだ」

「ぐうぅ……!!そんなことは……そんなことは!!」


ドサッ!!


「ぐあっ!?」

 立ち上がろうとしても立ち上がれず、地面に転がる。腕も破壊されているので受け身も取れずに頭からそれはそれは無様に転んだ。

「これがわしと並ぶとされた天才拳士の成れの果てか……」

 男は思わず目を背けそうになったが、必死の思いで堪えた。この凄惨な状況を作ったのは誰でもない自分自身。責任をもって見届けなくてはと。

「……その身体ではもう戦うことはできない。けれど不便とはいえ日常生活ならお前であれば、そつなくこなせるであろう。これから心を入れ替えて、真っ当に生きろ」

「そこまでして、俺を生かしたいのか!ここまでするなら、殺せばいいだろうが!!俺に……武も野心も失った俺に、表舞台で輝く自分を見せつけたいのかよ……!?」

 無事な右目からも透明な液体が流れ出し、頬を濡らした。そんな弱さの象徴のようなものをこの男にだけは絶対に見せたくなかったが、自然と溢れ出し、どうしても止められなかった。

「そんなつもりはなかったが……それがお前にとって罰になるというならやぶさかではないな。精々、わしの活躍を羨んでおれ……!」

 そう言うと、無骨そうな男は羅昂に背を向け、歩き出した。やはり変わり果てたとしてもかつて友と呼んだ男のあまりに惨めな姿を直視できなかったのだ。

「この……!!確かに貴様の才は凄まじい!我が凶王拳を一度見ただけで、再現できる奴など、この世界にお前をおいて誰もおらん!だからこそいずれお前も理解することになる!その才を利用、もしくは嫉妬し貶めようとする能力がない癖にプライドだけは高いのクズどもの愚かさに!きっとお前もいつか俺と同じように魔道に落ちる!!」

「…………」

「今日のところは負けだが、最後に勝つのは、この俺だ!!覚えておけ!玄羽!!最後に勝つのは……この羅昂なんだ!!」

 羅昂の聞くに堪えない負け惜しみを受けながら、若き日の玄羽はその場を去った。

 彼はこの日の決断を終生、後悔し続けることになる……。


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