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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
林江漫遊記
117/163

エピローグ:旅の終わりと……

「色々と大変だったな!まさか見に行くだけのつもりが、是と一戦交えることになるとは!」

 王都春陽に戻り、宮殿内で改めてシュガに事の顛末を報告すると、銀狼はその大きな口を目一杯開き、それはそれは楽しそうに笑った。

「他人事だと思って。自分、マジで何回も死ぬかと思ったんですよ」

「だが、死なずにこうして俺と話している。それでいいじゃないか」

「まぁ、そうなのかもしれませんけど……」

 リンゴは眉間にシワを寄せながら、お茶を啜り、喉を潤した。

「で、どこまでシュガさんはわかっていたんですか?」

「ん?」

「この期に及んでとぼけないでください。わざわざ最終目的地に泰宿を選んだってことは何か掴んでいたんでしょ?」

 リンゴの問いかけに、シュガは今度はニヤリと不敵に口角を上げた。

「そりゃバレるか。実はだな、蘭景がなにやら是の貴族と秘密裏に通じている奴がいるらしいと。だから、そいつらに揺さぶりをかけるために、王都から俺の使いとして、お前に葉福や泰宿に行ってもらったんだ」

「それなら、そうと言ってくれれば良かったのに……」

「敵を欺くにはまず味方からだと言うだろ?まぁ、あまりに激しく揺さぶり過ぎて、本当に是と戦うことになるとは思わなかったがな」

「自分達の前で、朱公英の失態とそれを挽回する自分の活躍を見せるために、祖球の奴は計画を前倒しにして、凶行に走ったらしいですからね……」

 リンゴは悲しげに目を伏せた。

「結果として、余計な死者を出してしまったのは反省点だな。だが、開き直るわけではないが、これ以上放置するのは危険だったのも事実。時間をかけて準備を整えられていたら、より多くの血が流れた可能性だってある。だからお前が落ち込む必要はないぞ」

「わかっていますよ。自分は自分なりに最善を尽くしました。自分にできるのは、もし同じ事態に直面した時、今回よりも穏便に事を収められるように、より強くなることだけです」

 再び目を開けたリンゴの瞳には強い決意の炎が灯り、力強く輝いていた。

 その眼差しにを受け、シュガは今までとは違い、とても優しそうに微笑んだ。こいつらなら任せられると。

「そうだな。お前達には期待している」

「達?」

「あぁ、お前らも入って来ていいぞ」

「それでは……」

「ちーっす!」

「ヤッホー」

「アンミツさん!バンビ!キトロン!!」

 シュガに呼ばれて部屋に入って来たのは、リンゴの旅の仲間達。各々思い思いの席に座る。

「どうしたんだ?曲陰に戻ったんじゃ?」

「オレが訊きたいよ。急に呼び出されたんだ」

「アンミツさんとキトロンも」

「おれっち達はまぁ……な」

「ええ……」

 一人と妖精は思わず口ごもった。

「その感じ……もしかしてまだ何か隠し事があるんですか?」

「この旅は君の見識を広めるためというのは目的の一つではあったんですが、それ以上にわたし達の相性を見るためのものだったんですよ」

「自分達の相性?」

「シュガ」

「実はな、先の戦いでジョーダン達が灑の国内を動き回って、大きな成果を上げただろ?」

「ええ……もちろん存じ上げてますが」

「それでな、軍の上層部で、あいつらのように少数精鋭で自由に活動できる部隊を新設してみてはという意見が出てな。そのメンバーに選ばれたのが……」

「あぁ~、自分達ってことですか……」

「つーか、だとしたら父上がオレを旅に出したのって!?」

「お屋敷に滞在中に今の話をして、そうなるように仕向けてもらいました」

「で、オレは何も知らずにまんまと父上やシュガさん達の手のひらの上で踊ってたわけか……」

 バンビは悔しさから顔をしかめ、「ちっ!」と、舌打ちした。

「ずっと悪いと思っていたんですけど、本当のことを話して、部隊として一緒に戦うことを意識し過ぎるのは良くないと思ったので、黙っていました。すいませんね」

「メンゴメンゴ」

 アンミツとキトロンは手を合わせ、ぺこぺこと頭を上下させた。

「まぁ、いいけど……なんだかんだ楽しかったし」

「では、この話受けてくれるか?」

「ええ。今回の旅でシュガさんの言う通り、自分には経験というものが圧倒的に足りないと理解させられました。拳聖玄羽の弟子として、もっと世界を見て、もっと色んな相手と戦えるなら、むしろこちらからお願いします」

「バンビは?」

「オレもリンゴと同じだ。上には上がいることと、結局実戦を積むことが一番の経験値になることを思い知らされた。それを積める機会を頂けるなら、こちらとしては願ってもないこと」

 リンゴとバンビはお互いに顔を見合わせ、力強く頷き合った。

「決まりだな。これからお前達、四人は『翠炎隊 (すいえんたい)』として、任務に当たってもらう」

「翠炎隊?」

「一応、関わりがあったから、ペペリにもこのことを説明したんだが、その時に狻猊の翠色の炎と、姫炎皇帝陛下から一字もらって、そういう名前にしたらいいんじゃないかと提案された」

「あいつ……あんな感じで、色々と考えて名前とか付けるのか」

 ペペリの意外な一面にバンビは驚きを隠せなかった。

「俺としては中々いい名前だと思うが、実際にその名前で呼ばれるのはお前らだからな。他の名前がいいなら、別に変えてもいいぞ」

「自分は特に異論はないです」

「オレは……若干、狻猊の部隊感が強いのが気に食わないが、語感はいいし、ペペリの奴にも借りがあるからな。あいつの顔を立ててやるよ」

「わたしは特に何も」

「おれっちも別に問題ナッシング!!意外とこういうところは融通効くのよ」

「では、改めて……翠炎隊!!」

 リンゴが辺りを見回すと、みんな一様に微笑みながら、頷いた。そして……。

「「「はい!!」」」

 皆で声を揃えて返事をした。

 これが灑の国、そして猛華の歴史に伝説として刻まれる部隊の始まりである……。


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