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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
林江漫遊記
114/163

今度こそ国の危機を救おう!②

「さてさて、昨日の今日で変わることができたか、それとも何も変わっていないか、お手並み拝見だな」

 典優はそう若獅子に語りかけながら、マウから降り、その姿を四本角と茶色い毛を生やした怪物へと変えた。

「さぁ、大サービスだ。作戦を考える時間をやっただけでなく、先手もくれてやる。好きなように攻めて来い」

 人差し指を上に向けてちょいちょいと動かす土螻。緑色のマスクの下でリンゴの顔が歪んだ。

「その余裕……後悔させてやる!!」

 怒りの炎を滾らせ、狻猊は両手のひらを土螻に向けた!

「喰らえ!狻猊ファイアー!!」


…………………


「……どこがファイアーなんだ?」

「……自分の心がかな」

 狻猊は心の中で怒りを燃やすことはできても、それを現実世界に放出することはできなかった。

 結局、リンゴはあの後、炎を出す術を見つけることができなかったのである。

「やっぱりな。身体に感じる圧力が昨日と何ら変わっていない。この一晩を無駄に過ごしたか……」

(反論できない……狻猊を長年蔑ろにしていたツケは想像以上に重かった。情けないことに何をどうすればいいか全くわからなかったんだ……!!)

 典優はもちろんリンゴ自身も期待を下回る出来の自分に心底失望していた。どこまでダメな奴なんだと。

「どうやらおれの見込み違いだったようだな。興が冷めた……ちゃっちゃと終わらせてもらおう」

 土螻は頭に生えた四本角を模した槍を召喚すると、気だるそうに構えた。

「失望させたことに関しては申し訳ないが、だからといってこのまま負けるつもりはない……!」

 狻猊もまた気を取り直すと、腰を落とし、いつもの構えを取った。

「セカンドプランがあるのか?」

「どうでしょうね……?」

「ふん!どっちでもいいわ!もうこれ以上サービスするつもりはない!!今度はおれから攻めさせてもらうぞ!!」

 土螻が踏み込む!一気に距離を詰めると、勢いそのままに突きを繰り出した!

「大地滑り!」


ヒュッ!!


 それを狻猊は独特の歩法を使って回避!さらに……。

「今日こそはその鬱陶しい毛を刈ってやる!!」

 肘を直角に曲げながら、さらに懐の奥に!

「聖王覇獣拳!凶鬼断ち!!」

 高速で振るわれる肘は名刀の如し!どんな刃物よりも切れ味のあるそれは……。


シュッ!!


 空を切った。土螻はいとも容易く回避したのだった。

「もうその技は見た!!同じことをやってこの土螻を攻略できると思うてか!!」

「だったらリクエストに応えて!まだあんたに見せていない……巨星震脚!!」


ドッ!!ゴゴゴッ!!


「むっ!?」

 狻猊は凄まじい力で大地を踏むことで局地的な地震を起こした。

 これで不意に足元を揺らされた普通の敵ならば体勢を崩したり、慌てふためくものなのだが……。

「続いて脳天揺らし!!」

「はっ!!」


ガッ!!ガッ!!


「――ッ!?」

 四本角を掴もう緑色の獅子が手を伸ばしたが、茶色の羊は頭を動かし、その角によって手を弾き飛ばした。

「大地を揺らすなんて凄ぇ踏み込みだが、おれの姿勢を崩すには、威力不足だ!!」


ドゴッ!!


「――がっ!?」

 ボディーブローが狻猊に突き刺さる!身体が強制的に“く”の字に曲がり、踞るような体勢を取る。

「曲がりなりにも拳聖の弟子を名乗る奴が、殴り負けてんじゃねぇよ!!」

 さらに土螻の追撃!黄金の鬣が生えた獅子の後頭部に拳を振り下ろ……。

「邪鬼穿ち!!」

 狻猊はそれを待っていた!近づいて来る土螻の顔面、正確には目の部分に向けて、力を集中させた人差し指を振り抜く!


ヒュンッ!!


「ッ!?」

「知ってたよ」

 しかし、それを土螻は読んでいた!軽く顔を動かし、回避すると……。

「オラァッ!!」


ドゴッ!!


「――ぐはっ!?」

 上から拳ではなく、下から蹴りを叩き込む!

 狻猊の身体は軽く宙を浮き、また地面に着地すると一歩二歩と後退りした。

「読み合いで、てめえみたいなガキがおれに勝てるわけねぇだろ!!」

「くっ!?」

「わかったら、大人しく串刺しの刑に処されろ!!」

「大地滑り!!」


ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!ガギィン!!


「――ッ!?」

 大地滑り通用せず。土螻の突きは全段狻猊の身体を捉えていた。

「その技の効果があるのはごく短時間だって忠告したはずだぜ。見切られたら、ちょっとだけ気味の悪い移動方法でしかないんだよ!!」

「ふざけるな!聖王覇獣拳は絶対無敵の最強の拳法だ!!」

「ふん!技に殉じるか……ならば望み通りにしてやろう!!」

 土螻は抉り込むように、槍を突き出す!

「大地滑り!!」

 それに対し、狻猊は再び聖王覇獣拳の技の名前を叫び……。


ピョン!ヒュッ!!


「……な!?」

 叫びながら、普通に跳躍して槍を避けた。その名の通り、大地を滑るように移動していた狻猊を想定して、繰り出された槍はいとも簡単に回避されてしまったのだ。

「この嘘つき野郎が……!!」

「ふん!読み合いなら、負けないんじゃなかったのか!!凶獣落とし!!」


ドゴッ!!


 狻猊は上からのドロップキックで地面に叩き落とした……土螻ではなく、彼の持つ槍を。

「狙いはおれではなく、武器の方か!?」

「槍には打撃無効能力はついてないだろ!!」

「だが!格闘戦でも土螻は!!」

 茶色の羊はすぐに心と身体を立て直し、両腕を撃ち下ろした……が。

「それは驕りが過ぎるぞ!将軍!!」

 狻猊は身体を捻ったかと思ったら、そこから元に戻る反動を利用してその場で高速回転した。

「聖王覇獣拳!旋風ゴマ!!」


バチィン!!


「――ッ!!?」

 回転によって巻き起こった風が土螻の拳を弾き飛ばす!

 結果、茶色の毛に覆われた羊の胴体はがら空きに……。

「三度目の正直!聖王覇獣拳!凶鬼断ち!!」


ザン!ザンッ!!


「――ッ!?」

 ついに、ついに狻猊の肘が土螻を守っていた鉄壁の毛を刈り取ることに成功した!X状に毛に隠れていた下の装甲が覗き見えるようになったのだ!

(刑天の時と同じ……楔を撃ち込んだ!あそこから土螻を崩す!!)

 ついに見えた装甲に狻猊は拳を伸ば……。

「寄るな」


バババババババババババババッ!!


 瞬間、土螻を包んでいたふわふわモコモコの毛のいくつかがピンと真っ直ぐ伸び、射出された!

「――なっ!?」

 狻猊はたまらず攻撃を中断!身体を丸め、表面に毛の針を無数に突き刺されながら、後退した。

「……まだそんな小技を隠しもっていたか……!!」

「ふん!てめえごときに使うつもりはなかったんだが……な!」

(――ッ!?プレッシャーの質が……変わった……!?)

 土螻は槍を拾い上げると再び構えた。しかし、纏う雰囲気は先ほどとは明らかに別物になっていた。

「認めてやるよ、確か……林江だったな。お前は強いぜ。その年でそんだけやれるなんて、末恐ろしいぜ」

「……どうも」

「だが、今現在ではおれの方が上だ。あの時のおれと同じ、お前には大切なものが欠けている」

「大切なものだと……?」

「あぁ、お前には……忠誠心が足りない!!」


ザシュ!!


「――なっ!?」

 踏み込み一閃!土螻の槍が狻猊の装甲を抉り取った。

「驚いている場合か!!」

 さらに強靭な手首の力で刃を返し、振り下ろす!


ザンッ!!


「くっ!?」

 続いて胸に傷を刻みつける!さらにさらに……。

「はあッ!!」


ガギィン!!


「ぐっ!?」

 斜め下からの斬り上げ!柄の部分で脇腹を叩かれた若獅子は緑の破片を撒き散らしながら、回転し、吹き飛んだ。

(速い!?今までの攻撃はマックスじゃなかったのか!?)

 リンゴの全身を悪寒が襲う。圧倒的な力の前に生存本能が警告を出していた。

「怖いか?」

「ッ!!?」

「これが特級の完全適合だ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「ぐうぅ……!?」

 槍は右から左から上から下から、まさに縦横無尽、四方八方から狻猊を一方的に打ちのめした!

「わかるかこれが完全適合の力!おれの忠誠心の力だ!!」

「忠誠心……!!」

「当時のおれは、花則に挑んだあの時のおれはただ力をもてあまし、それを発散する場所を求めていただけの愚かな男だった!国のことなど……どうでも良かった!!」


ガンガンガンガンガァン!!


「くっ!?」

「結果、奴にも敗れ、是国内で後ろ指を差されることになった!そんなおれに唯一手を差し伸べてくれたのが、今の皇帝、統極様だ!!」


ガンガンガギィン!!


「ぐあっ!!?」

「あの人はおれに居場所をくれた!仲間をくれた!その時、おれは思ったんだ……この人に一生ついて行こうと!!」


ガギィ!ガギィン!!


「――ッ!?」

「その想いに倉庫で埃を被っていた土螻が応えてくれた!花則が言っていた意味を理解できた!!忠誠心こそ力!愛国心こそ正義!おれの中にその感情が芽生えたからこその完全適合!きっと花則の奴も同じだったんだろう……奴の誇り高き忠誠心があの狻猊の美しい緑色の炎の燃料だったんだ!!」


ドゴッ!!


「――がはっ!!?」

 石突を腹部に叩き込まれ、よろよろと後退する狻猊。その緑色の身体は無数の毛針が突き刺さり、ひび割れ、削れ、抉れ、見るも無残なものになり果てていた。

「お前はかつてのおれと同じだ。力を振り回しているようで、逆に振り回されている。何の目的もなく、求めた力など脆いものよ」

 土螻は残念そうに語りながら、腰を落とし、槍の切っ先を改めて瀕死の獅子に向けた。

「おれの槍には是という国の重さが乗っている。ただただ漠然と力を求めるお前の拳では……決して対抗できないんだよ!!」

 渾身の力を込めた突きが放たれた!

 それに対して狻猊は何もできない!ただ呆然と近づいて来る槍を眺めているだけだ!

(典優将軍……あなたの言う通りだ。

灑の国の端に生まれたオレに愛国心は薄い。

あんたやシュガさんのように皇帝に心の底から忠誠を誓うようなエピソードもない。

この旅でも困っている人を助けているようで、内心ではただ自分の力を試す機会にはしゃいでいただけかもしれない。

きっとオレはあんたや狻猊の前の持ち主のように人や国に忠誠を誓うことは一生来ないだろう……)

「さらばだ!若獅子よ!!」

「だけど!!」


ボオォォォォォォォォッ!!


「――なっ!?」

 それはエメラルドのように美しい翠色の炎だった。

 狻猊の全身から翡翠を彷彿とさせる鮮やかな炎が噴き出し、彼の身体に刺さっていた毛針を焼き、土螻の槍をドロドロに溶かした!

「この炎は……!?この威圧感は……!?まさかこの土壇場で!!?」

 土螻は信じられないといった様子でたじろいだ。だが、目の前で起きていることは現実なのである。

「なぜお前が!!忠誠心も愛国心も持ち合わせていないお前が!!何で炎を使えるんだよ!!?」

「忠誠心ならある」

「……は?」

「自分は……この林江は!師匠玄羽と同じく、“武”に絶対の忠誠を誓っている!!」

 狻猊、完全適合!!


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