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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
林江漫遊記
107/163

盗賊退治しよう!③

「刑天の次は蛇連破……蚩尤め、滅んだ後も災厄を振りまくか……!!」

 リンゴは心底辟易しながら、吐き捨てる。

「フッ……こいつのことを知っていたか」

「あぁ、よく知っているよ」

「せっかく切り札として葉福の奴らには使わず温存していたのに」

「残念だったな」

「本当に残念だよ……このマシンの餌食になるお前の方がな!!」

 白蛇連破は腕を蛇の頭のように変形させた。そして……。

「こいつの能力を知っているなら、最初から全力でいかせてもらうぜ!伸びろ!蛇頭腕!!」

 その蛇の頭と化した片腕は猛スピードで伸び、まさに蛇そのものとなった!

 それを見て狻猊は……動じない。

「腕が伸びるだけの骸装機など!シュガさんが操る幻妖覇天剣と戦い続けた自分には!!」

 緑色の獅子は突進して来る純白の蛇に向かって拳を撃ち込んだ!

「聖王覇獣拳!剣砕き!!」


ヒュッ!!ガリッ!!


「……何?」

 しかし、いくつもの武器を砕いて来たカウンターは不発に終わる。蛇の頭は軌道を突如変更し回避、それだけに飽き足らず、あろうことかさらに一撃入れていった。

「どうした?腕が伸びるだけの骸装機なんてどうってことないんじゃなかったのか?」

「ちっ!!」

 得意気に腕をくねくねと動かす白蛇連破にリンゴは苛立ちを募らせる。

(さすがに初撃を仕留めようなんて、侮り過ぎだ。調子に乗るな、林江……しっかりと奴の動きを見極めれば、次こそは……)

「来ないのか?なら、もう一発行かせてもらうぜ!!」

 再び白蛇連破は腕を伸ばし、蛇の頭に微動だにしない獅子を襲わせる!

(今度こそ……!)

「今度ももらった!!」

「今だ!凶鬼断ち!!」


ヒュッ!!ガリッ!!


「――ッ!?また!?」

「またまたヒット!!」

 切れ味抜群の肘も当たらなければ、何の意味もない。

 狻猊の攻撃はまた空振りに終わり、白蛇連破の攻撃は再び当たる……先ほどとほぼ同じ再放送だ。

「くそ!?何で……!?」

「ふん!簡単なことだ。俺がお前より強いんだよ!!」


ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリィッ!!


「ぐうぅ!?」

 蛇の頭が縦横無尽に夜を駆け、狻猊の緑色の装甲を削り、抉り、砕き続けた……。

(攻撃の圧が強すぎて、本体に接近するのも難しい。一体こいつを倒すにはどうすればいいんだ……!?)



 白蛇連破に翻弄される狻猊だったが、もう一方、董兄弟の弟である宇静が纏う黒蛇連破と戦う鋼梟はそれに輪をかけたようなひどい有り様だった。

「ほれ!ほれ!ほれ!ほれぇ!!」


ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリィッ!!


「――ッ!!?」

 曲がりなりにも反応できていた狻猊に対して、鋼梟は伸びる腕による変幻自在な攻撃に文字通り手も足も出せずにサンドバッグに成り果てていた。

(くそ!?こいつの腕、速い上に動きが滅茶苦茶でどうしたらいいかわかんねぇ!?つーか、伸びる腕と戦ったことなんかねぇっての!!)

 リンゴよりもこの手の攻撃に耐性がないバンビには、対抗策の引き出しがないに等しい。だが、それでもなんとか頭の中をひっくり返して、使えるものはないか血眼になって探す。

(この動きは鞭……ともちょっと違うんだよな。あそこまで柔らかい感じはしない。どことなく槍の匂いもある気がする。っていうか、多分オレのような奴を混乱させるためにどっち付かずの挙動を心がけているんだろう。言動はバカっぽいが、戦闘に関しては間違いなくこの弟はセンスがある)

「ほれほれ!どうした!どうした!!やる気あるのか~!!もっと頑張れよ~!!」

(リンゴも口が悪いが、こいつも大概だな……!つーか、多分こいつ自身は煽ってるつもりはねぇな。それがむしろタチが悪いんだけどよ……!)


ビキビキ……


(やべッ!?)

 苛立ちを募らせた結果、鋼梟の槍を握る手に自然と力が入り、危うく自ら槍を壊してしまいそうになった。

(また加減を間違えた!槍使いが自分で槍を壊してどうする!!父上や応龍だったら、こんなことは……ん?)

 ふと頭の中に浮かんだ単語が、バンビの奥底に残っていた記憶の箱を開けた。

(そうだ!同じ槍使いとして、応龍の戦歴については調べたんだ!確か蛇連破を攻略した時は……)

「ほれほれほれぇ!!」


ガリッ!ガリッ!ガリッ!!


「ぐっ!?」

 鋼梟はガードを固めて、ひたすら攻撃に耐えた。しかし、先ほどとは違いその目には光が……。

(今は耐える時……全ての動きは把握できなくても、狙いを絞れば……地面を這うような下方からの攻撃だけでも見切れれば……!!)

「あれれ?もう諦めちゃったのかな?なら、とどめといこうか!!」

(来た!!)

 蛇が地面を這った!ずっと待っていた瞬間が訪れると、鋼梟はすぐさま槍を逆手に持ち替えて、蛇の頭蓋に向けて突き下ろした!


ヒュッ!ズボオッ!!


「なっ!?」

 起死回生の一撃になるはずだった攻撃は蛇ではなく地面に炸裂した。まるで来ることがわかっていたようにあっさり躱されてしまったのだ。いや、避けただけではなく……。


シュル!シュル!ガシィィンッ!!


「――ッ!?」

 そのまま鋼梟の身体を登り、巻き付いて羽交い締めにしてしまった。

「やったぜ!宇静!!」

「さすが!おれ達の頭!!」

 勝利を確信した周りの盗賊達がにわかに騒ぎ始める。

 その様子に董宇静もご満悦だ。

「やっぱり兄ちゃんは凄い!最初の蛇連破が腕を張り付けにされて負けたから、きっとそれを狙って来る奴がいるって!!本当にその通りだった!!」

(くっ!?完全にオレの思考が読まれていたか……!!考えてみれば当然か……ロールアウトから三年、こいつらがいつ蛇連破を手に入れたかは知らんが、少なくとも朱操とかいう最初の使い手よりはずっと長くこのマシンに向き合って来たはず。練度が段違いなのに、同じ手で倒せるはずがない!オレが浅はかだった……!)

 対照的にバンビはマスクの下で悔しさで顔を歪ませた。彼は完全に敗北したのである……。

「オレの……負けだ」

「え?負け認めちゃうの?降参しちゃうの?」

「あぁ、認めるよ。オレは負けた……槍使いとしてのオレはな」

「そうか、槍使いとしてのあんた……それってどういうこと?」

「こういうことだよ!!」


バギバギバギィィィン!!


「――うへっ!!?」

 鋼梟は文字通り力任せに身体中に巻き付いていた腕を引き千切った!その強大なパワーは自らにも影響が及び、全身に亀裂を生じさせる!

「蛇頭腕が!!?こんなの兄ちゃんから聞いてない!!?」

「だろうな」


ガシッ!!


「――うあっ!!?」

 さらに蛇の頭を無くし最早無駄に長いとしか形容できないボロボロの腕を掴み、逆に蛇連破の方を身動きできなくさせた。

「こいつ!?何で!?ずっと兄ちゃんの言った通り、上手くいってたのに!!?」

「お前も兄ちゃんも凄えよ。短所を補い、長所を伸ばす……口で言うには簡単だが、実際にやるとなると中々に難儀だ。でも、お前らはそれをやってのけた」

「なら、お前なんか相手にならないはずだ!なのに!!?」

「あのままヒット&アウェイに徹していたら、きっとお前の言う通りになっていただろう。悔しいが今のオレの槍の腕では、あの変幻自在の攻撃に対処できなかった。だけど、最後の最後でミスったな。わざわざオレの身体に絡みつくなんて……捕まえる手間が省けたぜ」

「ふざけるなぁ!!蛇頭腕に巻き付かれて逃げられる奴なんて普通いないんだよ!!」

「生憎オレの血筋は普通じゃねぇんだよ!!」


グイッ!!


「――ッ!?」

 鋼梟は力ずくで黒蛇連破を引き寄せた!

「オイラは!?オイラ!?どうすればいいんだ!?兄ちゃん!!」

「とりあえず世の中には常識が通用しない奴がいることを覚えておけ!!」


ドゴオッ!!


「――ッ!?」

 ヘッドバット炸裂!自らの鋼梟のマスクも相手の黒蛇連破のマスクも砕き、董宇静の意識を一撃で刈り取った!

「「「宇静ぇぇぇぇぇぇい!!?」」」

「そ、そんな……」

「あり得ない……」

 盗賊達のテンションはジェットコースターのように急降下。さっきまでのはしゃぎっぷりが嘘のように静まり返った。

「はっ!オレを含めて、ここにいる誰もが納得いってねぇってか……ったく、マジで嫌な仕事を受けおっちまったぜ……」

 勝者であるバンビの顔にも笑顔はなかった。結局彼はまたこの戦いで自らの未熟さを再認識させられたのだった。



(このざわめき……まさか宇静がやられたのか?やれやれ……やることが増えたな)

 部下達の動揺から弟の敗北を知った兄だったが、彼の心には揺らぎはない。ただ自分のすべきことを淡々とこなす。

(まずはこの緑色を速攻で倒す。そしてすぐに弟をやった奴を……宇静と戦って無傷でいられるはずがない。回復する前に叩いてやる。そのためにも……!!)

 装着者、宇航の気持ちの高ぶりに呼応するように蛇頭腕は攻撃をさらに苛烈にしていった。


ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリィッ!!


「くっ!?」

 自らを抱きしめるように身体を丸める狻猊に容赦なく蛇の牙が襲いかかる!さっきからずっと変わらない光景だ!

(一気に絞め落としたいところだが、こいつは近接格闘に精通しているようだからな。接触するのは避けるべきだな)

 弟の失策を知る由もないが、兄はまるで同じ轍を踏まないと言わんばかりに、距離を取った攻撃に徹する。


ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリィッ!!


 衝突音と共に宙を舞う装甲の欠片。それが狻猊の足下にたまっていく。その光景を見て、マスクの下の宇航の顔が僅かに緩んだ。

(このまま攻撃を続けていれば、いずれ……!!)


ガギガギィン!!


「!!!」

 終わりは突然訪れた。いきなり砕け散り、動かなくなったのだ……白き蛇頭腕が。

「な、なんだと!!?」

 弟がやられても平静を保っていた宇航が声を荒げた!まさに青天の霹靂!彼の頭脳をもってしても予想できない展開!

「ふぅ……なるようになったな」

 対照的にリンゴは万事上手くいって良かったと、一息ついた。

「貴様……!何をした!!?」

「別に答えてやる義理などないが、きっとジョーダンさんなら自慢気に答えるだろうから、自分も倣わせてもらおうか」

 そう言うと、狻猊は先ほど攻撃を受けていた時のように身体を丸めた。ただ一つ違うのは、肘や膝を強調するように尖らせている。

 それこそがこの結末を生んだ技の正体である。

「拳聖の防御は最大の攻撃。インパクトの瞬間に肘や膝を当て、逆に相手を破壊する。これこそが聖王覇獣拳、纏鎧刃身(てんがいじんしん)

「何!?」

 白蛇連破は視線を落とし、緑の獅子の足元を凝視した。すると、その説明の正しさを証明するように緑に混じって、白い欠片も山盛りに積み上がっていた。

「あ、あり得ない……!?我が変幻自在の蛇頭腕の動きにカウンターを合わせるなんて……!?」

「それが自分にはできるんだな……と、言ってやりたいところだが、残念ながら上手く行ったのは三回に一回ってところ。ぶっちゃけどっちが先に限界を迎えるのかのギリギリのチキンレースだった……」

 狻猊もまた傷だらけのボロボロだった。装甲の表面を軽く撫で、いつもと違うざらつきを感じるとリンゴの背筋に悪寒が走った。

「だが、自分は勝負に勝った。伸縮自在の腕という最大のアイデンティティーを失ったお前にもう勝ち目はない。大人しく投降しろ」

「腕がなくとも……腕がなくとも足もあれば頭もある!この身体が動かなくなるまで……勝負は終わってねぇ!!」

 白蛇連破、覚悟の突撃!伸びた腕を後ろに翻しながら、頭から突っ込んで行く。

「組織の頭として、人間としては愚かとしかいいようのない選択だな。だが、戦士としては……嫌いじゃない!!」

 狻猊は向かって来る白蛇連破に対し、指をピンと伸ばし手刀を作った両腕を振り上げた。

「聖王覇獣拳……武威落とし」


バギィィィィン!!


「――ぐあっ!?」

 手刀を白蛇連破の肩口に撃ち下ろし、鎖骨、肩関節を破壊する。さらに……。

「聖豹蹴撃」


ドゴオッ!!


「――ッ!?」

 とどめのハイキック!弟に続いて兄の意識も刈り取られてしまった。

「「「お頭ぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」

「そ、そんな……」

「あり得ない……」

 そこからの盗賊達のリアクションも弟がやられた時と同じだった。完全に戦意を失い、ある者は項垂れ、ある者は何もない空間を虚ろな目で見つめる。

「終わったな」

 狻猊が周囲を見渡すとマスクを破壊されたバンビが苦笑いで返し、盗賊の山をバックに錫鴎が「よくやりました」と力強く頷き、そしてその顔の隣でさっきまで隠れていたキトロンが小さな親指をビシッと立てていた。

「しぶしぶ始めた盗賊退治、これにて完了……でいいかな」

 重圧から解放されたリンゴは再び深く息を吐いた。


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