表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
林江漫遊記
106/163

盗賊退治しよう!②

 すっかり夜も更けた葉福から少し離れた森の奥、その洞窟だけは揺らめく炎に照らされ、明るかった。

 入口の前には門番のように槍を持った若い男が二人立っていたが、その人相は正規の軍人のような精悍さはなく、チンピラとしか形容できない。

「……ん?」

「なんだ?」

 そんな怖い怖い場所にガタイのいい男三人とその周りをひらひらと飛ぶ妖精一匹が現れた。

「道に迷ったのか?」

「ノー」

「では、まさかおれ達に用があるのか?」

「イエス」

「取引したいのか?」

「ノー」

「仲間に入れて欲しいのか?」

「ノー」

「じゃあ……おれ達を捕まえにきたのか?」

「イエス」

 不敵に笑うリンゴは炎の灯りによって、さらに凶悪に、そしてより挑発的に見えた。

「てめえ!!」

「舐めてんじゃねぇぞ!!」

 見た目通り短気な門番は槍を引き、飛びかかっ……。

「遅い」

「「!!?」」


ゴッ!ゴッ!!


「――ッ!?」

「……がはっ!!?」

 門番が動くより先に、リンゴが動いた!目にも止まらぬスピードで懐に入ると、躊躇なく拳を鳩尾に叩き込んで、意識を断ち切った。

「まずは二人……残りは何人か……」

「どうした!!?」

「何かあったのか!!?」

「てめえらは……!!」

「みんな出て来い!!敵襲だ!!」

 物音を聞きつけた盗賊仲間が洞窟の奥からわらわらと涌いてくるように出てきて、あっという間に三人の視界一杯に広がった。

「……なんか思ったより多いな……」

「それでも、グモンダよりはマシだろ」

「あれと比べれば、そりゃあね」

「まぁ、これなら三人でどうにかできるでしょう」

「てめえら……!」

「どこの誰だか知らねぇが」

「舐めてんじゃねぇぞ!!」

「こんな奴らに容赦する必要ねぇ!全員骸装機を装着しろ!!」

「「「おう!!」」」

「鉄烏!!」

「武雷魚!!」

「撃猫!!」

 盗賊達は情報通り、この灑の国のマシンである鉄烏だけでなく、慇と是の主力量産機を装着した。

「形はどうあれ、こうして三国の骸装機が並ぶと壮観だな」

「言ってる場合か!オレ達も装着するぞ!」

「では早速……錫鴎」

「鋼梟!!」

「惑わし、燃やせ!狻猊!!」

 対する討伐隊三人も完全武装状態に移行!愛機を身に纏うと各々いつも通りの構えを取った。

「あいつらの骸装機……おれ達のより豪華じゃね?」

「うっ、確かに……」

「それになんか雰囲気も今まで戦った葉福の軍人とは違うし……」

 所詮は盗賊、真の武人が放つ威圧感に気圧され、飲まれてしまう。さっきまでの威勢はどこへやらだ。

(びびってますね。このまま降参してくれれば双方ともに最良の結果なんですが……)

 アンミツの脳裏に淡い期待が過る。けれど……。

「怯むな!!気持ちで負けてどうする!」

「そうだ!今までやって来たことを信じろ!!」

「「お、おう!!」」

 悲しいかな妙に爽やかな檄によって、盗賊の闘志は再び燃え上がってしまった。

「なんですか?部活気分ですか?そんなに体力気力有り余ってるなら、スポーツでもやりなさいな」

「うるせぇ!!偉そうに説教するなぁ!!」

 一体の鉄烏が戦闘の口火を切った!踏み込むと同時に錫鴎に剣を振り下ろす……が。

「はっ」


ガッ!グル!ガギィン!!


「――な!?」

 錫鴎が器用に剣で受け止め、絡めとり、そして弾き飛ばした。

「偉いに決まってるでしょう。盗賊なんかよりは間違いなくね」

「くそがぁぁぁ!!」

 剣がないなら拳で!鉄烏は半ば自棄になりながらパンチを繰り出した!けれど、やっぱり……。


ゴォン!!


「――がっ!?」

 錫鴎は捉えられず。逆にすれ違い様に剣を叩き込まれた……剣の腹を。

「感謝してくださいね。命だけは獲らないでいてあげるんですから」

「よくも仲間を!!」

 背後から今度は武雷魚が急襲!だが、これも……。


ゴォン!!


「――がはっ!?」

 腹部を剣の柄で叩かれ、悶絶!腹を押さえ、へたり込んだところに……。

「はあっ!!」


ドゴッ!!


「――ッ!!?」

 顔面に蹴り!脳みそがシェイクされ、武雷魚はそのまま仰向けに倒れると、動かなくなった。

「さてさて……まだまだ数が多いですからね、次に行きましょうか!!」

 錫鴎は休む間もなく、盗賊の群れに突っ込んで行った。



 一方その頃、鋼梟は……。

「うおりゃ!!」


ドゴッ!!


「――ぐはっ!?」

「でやあぁぁぁっ!!」


ドゴッ!!


「――ぐぎゃ!?」

「オラァ!オラァ!!」


ドゴッ!ドゴッ!!


「ぐえっ!?」「がぎゃ!?」

 向かって来る盗賊を次々と殴り倒していた……そう、槍ではなく、拳や蹴りで殴り倒していたのだ。

(これじゃあ狻猊とキャラかぶってるよな……けど)


「やっぱ武人って人種はバカだな」

「オイラが言いたいのは武器を作る側と使う側の感性の違いだからよ」


(あのペペリって奴の言葉が頭にこびりついて離れない!あいつの言ったことを理解できないまま槍を振るって、また壊してしまったら……それこそバカだろ!!)

 バンビが戦っていたのは、目の前の盗賊ではなく、記憶の中のペペリであった。彼の言動によって長年の悩みはさらに深刻化していたのだ。

(ちっ!あんな奴に乱されるなんて情けねぇ……だが、武器の消耗を抑えるためと考えたらこれも悪くない。狻猊ほどじゃねぇが、オレだって肉弾戦にも自信があるんだ!雑魚なんてみんな殴り倒してやんよ!!)

「オラァァァァァッ!!」


ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!!


「がっ!?」「ぎっ!?」「ぐっ!?」

 鋼梟はその豪腕を振るい次々と盗賊を無力化し、それを山のように積み上げていく。



 そしてご存知緑の若獅子、狻猊は……。

「この野郎がぁ!!」

「聖王覇獣拳」


バギィッ!!


「剣砕き」

「ぐきゃあぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 撃ち下ろされた剣の柄の部分を持ち手ごとカウンターで破壊。指があらぬ方向に曲がった鉄烏が奇声を上げる。

「はあっ!!」


ドゴッ!!


「――がっ!?」

 さらに追撃。黙れと言わんばかりに、垂直に足を上げ、顎を蹴り抜いた。

「こいつ!!」

 続いて武雷魚!こちらは身の丈もあるほど槍をしならせながら、振り下ろす!

「凶鬼断ち」


スパン!!


「なっ!?」

 しかしこちらも武器破壊。超速の肘は名刀の如し。凄まじい切れ味で柄を真っ二つに切り裂いてしまう。

強角(ごうかく)


ドゴッ!!


「――ぐふっ!?」

 さらにそのまま肘鉄!武雷魚の腹にまさに逞しい角のように、獅子の肘が突き刺さり、空気と共に意識を身体の外に押し出した。

「こいつ強えぇ!!?」

「一人じゃ無理だ!!二人がかりで行くぞ!!」

 お次は撃猫と武雷魚の本来あり得ないタッグ!狻猊を挟み撃ちにするように、両脇から同時に攻める!しかし……。

「舐めるなよ。二人程度でどうにかできるほど拳聖の技はやわじゃない」


ガシッ!!ブゥン!!


「え!?」

 狻猊は武雷魚の突き出した槍を掴み、その勢いを利用して投げた……撃猫に向かって。

「清流投げ」


ドガシャアァァァァァッ!!


「――がっ!?」「――ぐっ!?」

 味方同士で 正面衝突!そして両者同時にダブルノックアウトだ!

「ふぅ……次に我が聖王覇獣拳を食らいたいのはどいつだ?」

「「「うっ!?」」」

 狻猊の周りを囲んでいる盗賊達は誰一人として前に出なかった、出れなかった、ただただびびって。

「ふん!もう降参か?」

「くっ!?ふざけるな!!数はこちらがまだまだ上!!攻め続けていれば、先に体力は底を尽くのは、お前の方だ!!」

「そう思うんなら、早くかかって来いよ。セリフと行動が合致してないぞ」

「ぐうぅ……!!」

「ん?」

「――ッ!?」

「どうした?」

「ふぐぅ……!!」

 ゆっくりと回転しながら、睨みを効かせる。やはりみんな怖がって、決して手を出そうとはしない。

 たった一人を除いては……。

「情けないな。たった一人にここまでビビるなんてよ」

「お頭!!」

 盗賊の群れをかき分け、一際屈強そうな男が出てくる。

 部下の言葉がなくても、そいつがトップだとわかるくらいに身に纏った雰囲気は全くの別物であり、その姿を見た盗賊達は一瞬で落ち着きを取り戻し、逆に相対するリンゴの心はざわついた。

「あんたが噂の董兄弟の……」

「兄だ。董宇航」

「やっぱり他の有象無象とは違うな」

「あんたも寝惚けた葉福の兵士と比べもんにならねぇ。俺達を捕まえるために、中央から派遣されたのか?」

「まぁ、そんなところだね」

「やっぱり……この国は腐り切ってやがるな」

 董宇航はどこか寂しげに吐き捨てた。

「お前ら役人の言うことなど聞くつもりはない。痛い目に合いたくなかったら、とっとと失せるんだな」

「ご忠告どうも。だけど……断らせてもらう」

 狻猊はファイティングポーズを取り、盗賊の首領の提案をこれ以上ないくらいわかり易く拒絶した。

「そうかよ……そっちがその気なら……宇静!!」

「あいよぉ!!!」

 この辺一帯に響き渡る大声で返事をすると弟である董宇静が姿を現した……鋼梟の前に。

「今の会話が本当なら、てめえが盗賊兄弟の片割れか?」

「うん!オイラが菫宇静!賢くて強い宇航兄ちゃんの強くて強い弟だよ!」

(こいつ……)

 その幼さを感じる言動、それに似合わない鍛え抜かれた筋肉の塊としか言いようのない立派な肉体、バンビは底知れない不気味さを感じた。

「てめえがバカなのと強いのはわかった。だが、どれだけ強かろうが、所詮盗賊風情、このオレには勝てない。オレはてめえ以上に強くて強い……!!」

 そう言いながら鋼梟は槍を召喚して構えた。董宇静は知る由もないが、言葉とは裏腹に今のバンビにとってその行為は最上級の賛辞だ。

「ははっ!!なんだかよくわかんないけど、兄ちゃんはオイラにできないことを命令はしない。オイラは兄ちゃんを信じて、言われたことをやるだけだ!!」

 弟、董宇静は腰に差した剣に手をかけた。

「さて兄の威厳を見せるためにも、さっさと終わらせないとな」

 そしてまったく同じタイミングで、兄、董宇航もまた柄を握りしめる。そして……。

「「蛇連破!!」」

 またまた同時にその真の名を叫びながら引き抜くと、剣は光の粒子に分解、そして機械鎧へと再構成されて、二人の全身に装着される。

 兄、宇航は純白、弟、宇静は漆黒、色こそ違うがかつて盤古門で応龍を苦しめた蚩尤が生み出しし邪悪な蛇が再び灑の国に降臨したのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ