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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
林江漫遊記
103/163

亡霊退治しよう!②

「あれが刑天……!!」

「シュガと拳聖玄羽が二人がかりで倒した蚩尤の悪魔の発明……!!」

「グルオォ……!!」

 バンビはもちろんいつも冷静なアンミツさえ、そのおぞましい姿とそれから発せられる禍々しいプレッシャーに戦慄し、息を飲んだ。

「何で刑天がこんなところに……!?いや、そもそももう一体いたのか……?」

「優れた兵器を造るためには、いくつもの試作品を製造するものです……」

「では、こいつは師匠達が戦った奴のプロトタイプだと……?」

「勝手な想像でしかありませんが……」

「だとしたら、シュガさん達が戦った奴より弱いんじゃねぇ?」

「それもわかりませんが、刑天は死人を素材にし、その者の生前の記憶を活用する非人道的兵器。あの時、素材にされたのは岳布……!」

 アンミツは話していて、怒りが甦ってきたのか拳をギュッと握りしめた。しかし、それだけ。これ以上の感情の発露はこの緊急時には不要と判断し、心の奥に押し込める。

「……あの岳布と同等、ましてや彼より強い人間など早々いるはずありません。そういう意味では間違いなく、こいつはかつてシュガが戦った個体よりは弱い……はず」

「かなり願望が混じっていますね……」

「無理矢理にでもそう思わないとやってられないので……」

「そうですね……こういう時こそ……なるようになるでいきましょうか!!」

 狻猊は一歩前に踏み出すと、構えを取った。

「おい!マジでやるのかよ!?」

「自分だってできることならやりたくない……一回、王都に戻ってシュガさんの意見を聞きたい!だけど、そんなことを許してくれそうにないだろ!こいつは!!」

「グルオォ……!!」

 刑天は地獄の底から響いてくるような低い唸り声を上げながら、胴体に付いた大きく不気味な眼で狻猊達をじっと睨み続けていた。

「品定めをしているのか何なのか、今は静観してくれているが、きっと逃がしてはくれない……!そういう眼をしている……!!」

「ちっ!くそが!!生きるためにはやらねぇと駄目なのかよ!!」

 鋼梟も半ば自棄になりながら、槍を召喚し、握り込んだ。

「グルオッ……!!」

(こいつ今……)

 その姿を見て、刑天はニッと笑ったようにリンゴには見えた。

「いや、今はそんなことより……アンミツさん!キトロン!下がって!ここは自分とバンビがなんとかする!!」

「ですが……」

「いいから早く!!」

「……わかりました」

 リンゴの剣幕に気圧されたのか、はたまた他に理由があるのか、アンミツは素直に指示に従った。キトロンも彼に続いて、木の陰に身を隠す。

「ふぅ……これで準備は完了かな……待たせたな、刑天……!!」

「グルオォォッ……!!」

 リンゴの言葉を理解したのか、刑天もまた腰を落として、どうやら戦闘態勢に入ったようだ。

「やる気満々だな……」

「死人の癖に……!!」

「バンビ……」

「わかってるよ……ここは意地を張り合ってる場合じゃねぇ。協力して、こいつを倒すぞ」

「あぁ、では先陣は……」

「一番槍はオレに決まってんだろ!!」

 恐怖を振り切るように鋼梟突撃!一気にトップスピードまで加速する!

「特別サービスだ!てめえ相手には一切加減はしねぇ!!」

 そして全力で握り込んだ槍を、勢いに任せて突き出す!


ブオォン!!


 突きの威力を物語るように、それに伴い発生した風圧が木の葉を揺らし、落とした。

「……ちいっ!!」

「グルオッ……!」

 けれど、肝心の刑天には当たらず。その巨体に似合わない軽やかさで回避し、側面に回り込……。

「聖王覇獣拳!!」

 刑天の背後から新緑の若獅子が強襲!空中をグルグルと高速回転し……。

「頭蓋砕き!!」


ドゴオッ!!


 その勢いを全て乗せた強烈な踵落とし!

 刑天には頭がないので、そもそも頭蓋骨は砕けないが、首元に見事にヒットした!さらに……。

「続けて行くぞ!聖王覇獣拳!猛爪連脚!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 そのまま刑天の上に乗り、踏みつけ!踏みつけ!踏みつけ!踏みつけ!容赦なく踏みつける!

(このままこいつが壊れるまで、自分は攻撃を止めな――)

「グルオォォォォォォォォッ!!」


グルゥン!!


「――いっ!?」

 刑天が独楽のように大回転!自分の上で地団駄を踏む狻猊を強引に振り払った!

「くそ……!!」

 若獅子は空中で来た時とは逆回転しながら体勢を立て直し、地面へと着地した。

「狻猊!」

「悪い、仕留められなかった」

「そんな簡単に倒せる相手じゃないのは最初からわかってる!とにかく決定打を与えるまで、今の感じで続けるぞ!!」

「お前が体勢を崩し、自分がその隙を突く……!」

「そうだ!それをやり続けるしかない!!」

 気合を入れ直し、鋼梟再突撃!今度こそ槍を……。


ガシッ!!ジュウゥゥゥゥッ!!


「――なっ!?」

 今度の槍は避けられるどころか、掴まれてしまった。指の間から立ち上る白い煙が両者の脅威的なパワーを分かりやすく提示している。

(一回見ただけでオレの槍を見切ったっていうのか!!?つーか、だとしてもオレの全力の突きに弾かれずに掴むなんて、なんてパワーだ……!!)

「バンビ!槍を放せ!そのままだと……」

「え?」

「グルオォォォォォォォォッ!!」


ブゥン!!ドゴ!ドゴオッ!!


「――がはっ!?」

 刑天は腕力だけで掴んだ槍を振り回し、本体ごとぶん投げた!

 凄まじい勢いで木に叩きつけられた鋼梟は一本目をへし折り、二本目にクレーターを作ると、全身に亀裂を入れながら地面へと落下した。

「グルオォォッ……!!」

(声をかけるのが一瞬遅かった……!だが、バンビならあれくらいのダメージはすぐに回復するはず。とにかく今は追撃をさせないように、自分が引き付ける……!!)

 打って変わって狻猊はゆっくりと刑天ににじり寄って行く。

「グルオォォォッ……!!」

 亡霊はそれに対し、何のアクションも起こさずどっしりと待ち構える。

(さっきからずっとこうだ。こいつは決して自分から攻めてこない。そういう風にプログラムされているのか、それとも素材となった名も無き誰かの好みか、それにあの動き……)

 頭の中で今までの刑天の動きを再放送させると、リンゴは妙な感覚に襲われた。

(もしかしたらこいつは自分と、自分達と同じ……)

 なんというか……あの凶獣に、最悪の兵器にあろうことか親近感を感じたのだ。

(……勝手に決めつけるのは良くないか。何にしても次の一手でわかるはず。そして先手をくれるというなら、その最初の一撃で致命的なダメージを与えるのがベスト……!)

 狻猊は人差し指をピンと伸ばすと、その一本に力を集中させた。

(まずは……視界を奪う!)

 そして間合いに入るや否や、金剛の針と化したその指を亡霊の眼球に向かって突き出す!

「聖王覇獣拳!邪鬼穿ち!!」

「グルオッ!!」


ヒュッ!!


 しかし、これも刑天は易々と躱し、横に回り込むと……。

「グルオォォォッ!!」

 蹴りを繰り出す!

 それを横目で確認し、緑のマスクの下でリンゴは……笑った。

「やはりお前も拳法家か!!」


ガッ!!


「――ッ!!」

「グルオッ!?」

 狻猊は蹴りを避けずに、その動きに合わせて身体を動かしながら、脚を腕と胴体で挟み込む。そしてそのまま……。

「聖王覇獣拳!清流投げ!!」


ブゥン!!ドゴオッ!!


「――グルッ!?」

 相手の力を利用して投げる!

 刑天は地面を転がるが、すぐに起き上がった……のだが、すでに狻猊が追撃のために脚を伸ばしていた。

「今度こそ喰らえ!邪鬼穿ち!足バージョン!!」


ザシュウッ!!


「グルオォォォォォォォォッ!!?」

 獅子の足の親指が、刑天の胴体に付いた大きな瞳を刺し潰した!痛みと動揺で破れかぶれに腕を振り回し、暴れる凶獣。


ガシッ!!


「!!?」

 その雑に振り下ろされた右腕を狻猊はまたまた掴み、肘関節が反らんばかりに伸ばすと……。

「聖王覇獣拳!凶王破壊撃!!」

 その肘関節に向けて、もう一方の腕をかちあげた!


バギバギィン!!


「グルオォォォォォォォォッ!?」

 不愉快な音と共に、刑天の右腕は曲がってはいけない方向に曲がり、悲鳴にも似た咆哮をあげる!

(普通の人間相手なら、ここまでやれば十分過ぎるけど、今自分が相対しているのはあの刑天!目と腕の次は脚だ!!)

 最適な力みと脱力のバランスを実現した狻猊の脚は圧倒的な加速を生み、目にも止まらぬ速度の蹴りを繰り出した……三連続で。

「凶王破壊脚!!」


ガンガンガギィンッ!!!


「――ッ!!?」

 太腿を外から、ふくらはぎを内から、膝関節を正面から、超スピードでほぼ同時に蹴る!

 一瞬で敵の脚の骨は粉々に砕き、立っているのもままならない状態にしてしまう悪魔の三連撃が、全弾きれいに命中した!

「これで防御も回避もままならないだろ!ここからは一方的に殴らせてもらう!!」

 凶獣の左脚を破壊した狻猊は再びしっかりと大地を踏みしめ、両拳を固めると、ひたすらに目の前の敵に向かって……撃つ!

「聖王覇獣拳!五月雨拳骨!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 それはまさしく拳の暴風雨!宣言通り圧倒的な密度で刑天を殴る!殴る!殴る!

(いける!このまま殴り倒せる!あの刑天を自分が!!)

 別に驕っていたわけではない。むしろ勝機を強く感じたことで、精神が高揚し、拳の回転率も威力も上がっているくらいだ。

 だが、そんな最善を超えた狻猊を、狂気の怪物、刑天は真っ正面からさらに超えていく。

「グルオォォォォォォォォッ!!」


ガアァァァァン!!


「――はっ!?」

 刑天は両腕で、狻猊の拳を強引に弾き飛ばした……両腕で。

(さっき魔技で完全に破壊したはずの腕がすでに回復している!?いや、かつて蚩尤がラクさんを操っていた時のように、外側の骸装機が無理矢理動かしたのか……だとしたら!!)

 狻猊は弾かれた両腕を急いで戻し、胸の前でがっちりクロスさせた。

「グルオォォォォォォォォッ!!」


ドゴッ!


「――ぐっ!?」

 そこにこちらも先ほど破壊したはずの刑天の左脚が炸裂!狻猊は後ろに吹き飛んだ……が、しばらくすると、トントンと少しだけミスを犯した体操選手のように、なんというかカッコ悪いこと以外問題無さそうな感じであっさりと着地した。

(……危なかった……!もう少し防御が遅かったら、咄嗟に後方に跳んでいなかったら、今の一撃でやられていた……!!)

 黄金の鬣の生えた緑の仮面の下でリンゴは冷や汗を流す。まさに刹那の判断が生死を分けた。もしものことなど考えたくもない。

(けれど、オレは生きている……!生きてさえいれば、なんとでも――)

「――つぅっ!?」

 腕を動かそうとした瞬間、強烈な痺れをリンゴが襲う。

 その原因を探ろうと、恐る恐る腕を見下ろしてみると、装甲にバキバキに亀裂が走っていた。

(ちっ!わずかに跳ぶのが遅かったか!どうやら骨は大丈夫そうだが、この感じ、しばらくは拳を握れないぞ!?)

 一難去ってまた一難。狻猊の腕は意志に反して小刻みに震え、とてもじゃないが戦闘に耐えうる状態ではなかった。

「グルオォォォォォォォォッ!!」

「――ッ!?」

 そんな彼に刑天は容赦なく襲い掛かる!こちらはさっきまで散々殴られたダメージなどなかったように、両手両足を機敏に動かし、元気に森を疾走し、間合いを詰めてくる!

(強敵と認めた相手に“待ち”はしないか……!認めてくれたのは嬉しいけど、今はちょっと勘弁願いたかったな……)

 改めて拳を握ろうとしたが……やっぱり無理だった。指を少し動かすだけでビリビリと腕全体が痺れ、行動が強制的にキャンセルされる。

(ッ!?くそ、やっぱり選択肢は逃げ一択だな……けれど、今のオレが、拳を握れない武道家が、あの刑天相手にそんなこと可能なのか……!?)

 考えれば考えるほど絶望的な状況。しかし、悲しいかな頼れるのは自分だけ。助けなんて、いくら望んでも……。


「仕方ない……久しぶりに頑張ろうか『錫鴎 (すずかもめ)』」


「!!?」

「――グルオッ!!?」

 狻猊驚愕!刑天急停止!二人の間に見たこともない骸装機が降って来たのだ!

 けれどもリンゴには、その中から聞こえる声に覚えがあった。

「その声……もしかしてアンミツさんですか?」

「はい、アンミツです」

「どうして?」

「君がピンチに見えたので」

「でもアンミツさん、戦いは嫌いだって……?」

「ええ……嫌いですよ。だけど……」

「だけど……?」

「苦手とは言ってません……!!」

 錫鴎は湾曲した刀を二本召喚し、構えを取った。


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