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No Name's Dynasty  作者: 大道福丸
林江漫遊記
102/163

亡霊退治しよう!①

「ヤシャアァァァァァァァァッ!!」

 森の木々の隙間を凄まじいスピードでくぐり抜け、ヤンラフィは鋼梟へと突撃した!

 それに対し、ターゲットである鋼梟は……。

(回避したくなる気持ちはあるが、ここはアンミツさんに教えてもらった通りに……!!)

 地面をしっかりと両足で踏みしめ、腕を広げると、微動だもせず、完全に停止した。その姿は堂々としたまさに仁王立ち!しかし……。

(うおぉぉっ!!怖えぇぇぇぇッ!なんかわかんねぇけど凄ぇ怖えっ!!身体の丈夫さとかなんとか言ってたけど、むしろタフさが必要なのは心の方だろ!これ!!)

 しかし、見た目とは裏腹にバンビは内心ビビり散らかしていた。

 それなりの全長があるものが、凄まじい速度で突っ込んで来るのを、じっとして待つというのは、予想以上に精神的負担が大きいものなんだと、バンビは学びたくもないのに、学ぶことになった。

「ヤシャアァァァァァァァァッ!!」

 そんな彼の胸元についにトップスピードのヤンラフィが到達する!

(ええい!ままよ!!)


ゴッ!!


「――ぐっ!?……ん?」

 全身全霊の害獣の体当たりは、想定を少しだけ下回っていた。

(痛くないわけじゃないが、悶え苦しむほどでもない!高速飛行のために極端に軽量化した結果がこれか!!だったらもう何も恐れることはない!!)


ガシッ!!


「――ヤシャッ!!?」

 鋼梟はヤンラフィをあっさりとホールド。その細長い身体を軽く軋む程度の力で抱きしめた。

「ヤシャァッ!!ヤシャヤシャ!!」


カツ!カツ!カツン!!


 合意のない抱擁から逃れようとヤンラフィはじたばたと暴れるが、その力は骸装機をどうこうできるレベルでもなければ、爪も装甲に傷一つつけられないなど、とてもじゃないが脱出できそうにない。

「スピード乗ってなきゃ、爪も怖くねぇな。昨日の苦戦が何だったんだって感じだ」

 あまりに一方的かつあっけない終わりにバンビは嘆息を漏らした。そして、ヤンラフィを抱きしめたまま、後ろを振り返る。

「こっちは終わった!そっちはどうだ!?」

「こっちも……もうすぐ終わるよ」

「ノイシィィッ……!!」

 鋼梟VSヤンラフィの背後では、狻猊と太く鋭い牙を持った大柄な四足歩行の起源獣との戦いが同時に繰り広げられていた。

「ふぅ……!」

「ノイ……!!」

 両者は一定の距離でにらみ合い、攻撃のタイミングを伺っている。いや……。

「ノイシィィィィィィッ!!」

 起源獣が動いた!四本の足で大地を蹴り出し、自慢の牙の先を向け、一見すると太って見えるが、実際は筋肉の塊である身体が砲弾のように真っ直ぐと狻猊に迫る!

(ここは剣砕きで牙を破壊する!……のは、可哀想だから……)

 若獅子は両手を広げると、タイミングと距離を測った。そして……。

「今だ!!」


ガシッ!


「――ぐっ!!」

「――ノイ!?」

 狻猊は起源獣の牙を掴み、体当たりを真っ向から受ける!

「ノイィィィィッ!!」


ズズズズッ……!!


「この……!!」

「――ノ!!?」

 その凄まじいパワーに後退りし、足裏で二本の溝を掘るが、それでも最終的には完全に勢いを止めることに成功した。

「なんてパワーだ……!ちょっと、いやかなり焦ったよ……!!」

「ノイィィ……!!」

「嫌味が過ぎたかね。なんだかジョーダンさんに似てきたのかな」

 口の悪い自称天才の姿と今の自分が重なると、リンゴは苦笑いするしかなかった。嬉しいような、よくないような。

「……って、懐かしんでる場合じゃないか」

「ノイィィィィッ!!」

「怒るなよ。こちとら別に命を獲ろうなんて思ってやしない。少しだけ大人しくして欲しいだけだ!」

 そう言うと狻猊は牙を持った両手を左右に激しく振った。

「聖王覇獣拳、脳天揺らし」


ブルルンッ!!


「――ノ!?」

 振動は脳を揺さぶり、頭蓋骨に叩きつける。一瞬で起源獣の意識は遠のき、狻猊が手を放すと、降伏を示すように腹を晒し、横たわった。

「おやすみ、ノイシ」

「キザったらしい。何が、おやすみだ」

「ヤシャアァァァァァァァァッ!!?」

「自分にケチつける暇があったら、早くそいつを放してやれよ。もう完全に戦意を失ってるだろ、それ」

「おっ!そうだったそうだった」

「ヤシャアァァァァァァァァッ!!」

 鋼梟が拘束を解くと、ヤンラフィは振り返りもせずに全力で大空へと逃げ飛んで行った。

「お疲れ~」

「お疲れ様です」

 戦いが終わったのを確認したキトロンとアンミツが木陰から姿を現し、二人に近づいてきた。アンミツの顔色はすっかり元通りに戻っている。

「ヤンラフィは見ての通り、逃がしましたけど、このノイシはどうしましょうか?」

「え?そいつも逃がすんじゃねぇの?」

「自分もそのつもりで気絶だけで済ましたけど、考えてみればこの森にいつまでいるかわからないから、食料として捌いちゃってもいいかなって」

「まぁ、確かにグモンダの時と違って、終わりがわかりませんからね」



 時を少し遡り、昨日グモンダを退治し終わった後のこと……。

「ありがとうございます!本当になんとお礼を申し上げたら……ありがとうございます!!」

 枯れ井戸の外で待機していた案内人の村人は何度も何度も頭を下げた。

「気にするな!この辺りの困りごとを解決するのが、万家に生まれた男の仕事だ!!」

 胸を張り、誇らしげにそう語るバンビを、さすがのリンゴも弄る気にはなれず、呆れ半分、好意半分の笑顔で後ろから静かに見守った。

「そんで井戸の底にあるグモンダの死体はどうするよ?このまま放置しても平気なのか?あれだったらやっぱり燃やしちまうか?」

「え?万備様たちが引き取るんじゃないんですか?」

「え?あれをオレ達が?」

「はい。あんな役に立つもの、普通はそうするでしょ?」

「え?グモンダの死体が……役に立つ?」

 バンビとその後ろに控えるリンゴは間抜け面を晒しながら、アンミツの顔を見る。

 アンミツは呆れ100%の苦笑いを浮かべていた。

「はぁ……えーとですね、ご存知の通り、あなた達の使っている骸装機は起源獣の死骸を素材に造られていますよね?」

「はい……」

「それはもちろん知っています……」

「グモンダも例外でなく、その身体はそれなりの値段で取引されているんですよ」

「そうなのか……」

「そうなんです。さらに言えば、核石も賛備子宝術院が引き取ってくれますし、毒も他のものと調合すれば薬にもなる。体液も、手を加えれば、その毒に対する血清になります。つまり、今井戸の底に転がっているのは宝の山、回収すればまとまったお金になるんですよ」

「そうだったのか……」

「そうだったんです」

「リンゴ……燃やさなくて良かったな」

「……だな」

 ヤンラフィに続いてリンゴとバンビは自分の無知さと、情報の大事さを思い知らされた。

「それで……どうしましょうか?」

「これはオレの一存では決められねぇな……どうする?」

「いや、お前の一存で決めていいよ」

「旅の資金や補給に関しては、シュガの旦那が手配してくれてるから必要だったら、各所から受け取れるしな」

「ですから、万家の男として、あなたが決めてください。曲陰に連絡して、報酬として回収するか、それとも……」

「うーん……」

 バンビは悩……まなかった。

「……なんかわざわざ実家に連絡入れるのも、めんどくせぇし、この村で好きにしてくれて構わんぞ」

「ええっ!!?本当によろしいんですか!!?」

「まぁ、あえて注文をつけるなら、売った金で村の防備を固めろ。ゴリゴリの軍用でなくとも、骸装機の一体でもあれば、ちょっとした起源獣が出没しても、対処できるだろ」

「そんな……グモンダを退治してくれただけでもありがたいのに、そんなことまで……本当にありがとうございます!!」

 改めて村人は深々と頭を下げた。

「だから気にするなって!オレ達が好きでやったことなんだからよ」

「その通り、いい修練になりました。だが、まだ足りない」

「は?」

「え?」

「まだって……もうこの村にいる起源獣は全部倒しただろうが。なぁ」

「ええ……他の起源獣は確認されてませんが……」

「今はそうかもしれんが、このままだとまた別の奴がやって来ることになる。最近、増えているって言ってましたよね?起源獣の出没」

「はい……」

「なら、その根本原因をつき止めないと、また同じことになる」

「仰る通りですが……」

「何でもいいんで、心当たりはありませんか?」

「心当たりというか、村に現れる起源獣は基本的にこの近くの森に住んでいるはずです」

「そう言えばそんなこと言ってましたね。なら、きっとそこに答えが……」

 リンゴは仲間達に目配せすると、皆一様に力強く頷いた。

「次の目的地は決まりだな。その森への地図を用意してください。この村に起きている異変は自分たちが終わらせます」



 そして現在……。

「……やっぱりいざという時のために保存食として確保しておきますか」

「可哀想ですが、わたしもそれがいいかと」

「じゃあ……」

「わたしが捌きます。戦いは嫌いですが、こういうのには慣れているんで」

 そう言ってアンミツが腰の剣に手をかけたその時!

「必要ねぇ!!」

「「「!!?」」」

 突如としてキトロンが叫んだ!

 三人が声をした方向を向くと、彼は小さな身体を自ら抱きしめ、ガタガタと震えていた。

「どうしたキトロン!?」

「来る……!!騒ぎを聞きつけて、ここに来る!!」

「来る?何が来るって言うんだ!?」

「だから、この辺りに起きていた異変の原因、いや元凶が来るんだ!!」

「何だって!?」

「元凶ですって……!?」

「同じ起源獣のおれっちにはわかる……ヤンラフィもグモンダもノイシも、奴を恐れて逃げて出したんだ!!」

「キトロン!奴って!?来るってどこから!?」

「上だ!!」


ドスウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


「「「な!!?」」」

 それはキトロンの言葉通り、空から降ってきて、横たわるノイシ豪快に踏み潰した。

 それにリンゴは見覚えがなかった。だが、すぐにそれが何なのかはわかった。散々シュガに聞かされてきたから。

 それは色こそ灰色だったが、首が無く、その代わりに胴体全体が大きく恐ろしい顔になっている骸装機であった。

 それは……。

「まさか……刑天……!!?」

「グルオォォォォォォォォッ!!」

 最凶最悪の亡霊が再び灑の国に降臨した……。


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