プロローグ
猛華大陸――それは世界で一、二を争う血塗られた歴史に彩られた場所。
広大な大地に大小、様々な国がひしめき合い、様々な理由でひたすらに戦い続けた。
そんな中、歴史上唯一平和な時代だったとされるのは、数百年前に『煌武帝 (こうぶてい)』が治めた数十年だけと言われている。
後に煌武帝と呼ばれることになる“彼”は強靭な力と忠誠心を持った十人の臣下を率い、次々と国を滅ぼし、併合していった。
しかし、ついに戦乱が終結しようとしたその時、突如巨大で凶悪な起源獣、『紅蓮の巨獣』が大地を割って現れ、敵味方関係なく、ありとあらゆる命を蹂躙し、その深紅の体表をさらに血で真っ赤に染め上げた。
“彼”は紅蓮の巨獣を倒すため、部下だけでなく、敵国の兵たちもまとめ上げ、戦いを挑む。だが、紅蓮の巨獣はあまりにも強かった……。
次々と倒れていく兵士、血の池と死体の山が築かれる猛華の大地……。その光景に“彼”は大いに悲しみ、そして激怒した。
「天よ!わたしの命などどうなってもいい!!この身に宿る血の一滴まで全て捧げよう!!どうかこの猛華の民を救うため、あのおぞましい獣を打ち倒す力を我に与えたまえ!!」
“彼”の悲痛なる願いは、優しき祈りは天に届いた。
再び大地が割れると、そこから現れたのは、古の巨神『盤古 (ばんこ)』。盤古は紅蓮の巨獣に劣らない巨大な身体に“彼”を取り込み、“彼”自身となる。盤古と一体化した“彼”は紅蓮の巨獣に戦いを挑んだ。
猛華の憎しみから生まれた紅蓮の巨獣、猛華の祈りに背負う盤古、二つの巨大な存在がぶつかり合うと、猛華の大地は震え、猛華の空は裂けたと言う。
まさに超常的、人知を超えた激闘……それを制したのは盤古もとい“彼”だった。
「わたし一人の力ではない。盤古が応えてくれたのも、巨獣を討伐できたのも、猛華で生まれ育ち、わたしなんかについて来てくれた皆のおかげだ……ありがとう」
もう誰一人として“彼”が猛華を治めることに反対することはなかった。
こうして猛華大陸は統一され、“彼”は戦だけでなく、政でも非凡なる才能を発揮し、善政を敷き、完全無欠の“煌武帝”と称される。笑顔が溢れるこの時間を誰もが永遠に続くと思い、続いて欲しいと願っていた。
けれど、神のように崇められた煌武帝も所詮は人間だった。寿命には勝てなかったのだ。
“彼”が亡くなり、後を追うように十人の臣下もこの世を去ると、ありきたりな後継者争いを発端に再び猛華は数多の国に切り取られ、それらは懲りずに戦争を始めた。
戦と平和を繰り返しながら、煌武帝の英雄譚がおとぎ話と誤認されるほど長い時間が経った。
そして今、猛華にある『灑 (しゃ)の国』でまた闘争本能が猛り狂い、血の華が咲き誇ろうとしていた。