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第7話【ユウキ】

解雇によって退職し家に戻ったユウキは、非日常的な出来事はゲームの所為であると考えていた。この日は何をしたかも自分で覚えていない。これから仕事を探さなければならないことは理解できた。


翌日、朝からワイドショーを見ていたユウキは元ミスキャンパス殺害事件についていろんな情報を得ることが出来た。


アラタはユリの当初からの彼氏で、大学卒業後弁護士をしていた。学生時代からの付き合いのようだ。ユリの異性関係に関しては、友人付き合いが多いだけで浮気ではないと言いくるめられていたそうだが、弁護士として仕事をしているうちに男女関係の様々なケースを知ることになり、ユリの浮気を疑うようになった。事件の前の週末、出張で離れると偽り、ユリが油断した隙にユリの自宅の室内に隠しカメラを仕掛けた。本当はそこで自分が不在時の不貞を掴むはずだったがユリの帰宅が早く、都内に戻っていることがバレてしまった。この週末は証拠を掴むことは出来なかったが水曜の夜、男を連れ込んでことに及んでいることを知ると我を忘れ犯行に至った。アラタの証言によると確認できただけでもユリは三股かけていた。アラタは数年後に検察官になることを目指していたという。それほど正義感が強かったこともありユリの浮気をしっかり把握してしまったことが、彼の正義感に火をつけてしまったようだ。


こうなると報道は被害者であるはずのユリに関しても過熱していった。有名私立大学の元ミスキャンパスで清楚で可憐な容姿で人気があった。しかし就活では民放各局のアナウンサー試験に受かることはなく、大手企業に就職することも叶わなかった。現在は派遣社員として有名企業の受付嬢として勤めており社内の評判は上々であった。ところが、友人知人らの話ではやはり異性関係が派手であったことが明かされ、この3ヶ月くらいでも10回ほど合コンに参加していたという。特に仲が良かったという女性も、「アラタくんと付き合っているにも関わらず男漁りが酷かった。いつか痛い目をみるからきれいに関係を清算しておくように話をしていた。とにかくより条件の良さそうな人と結婚したいが口癖だった」と証言していた。こうなってくると、被害者のユリは自業自得ではないかという意見が多くみられ、犯人のアラタに対する同情もちらほらみられた。



「この女の何が良かったんだろう」


今となってはユリに想いはなく、同じゲームに参加していたアラタへの親近感しかなかった。


また、報道の一部に、「天使と悪魔は何か」「月曜日に何があるのか」というものがあった。取調べにおいて犯人は「悪魔の所為だ」とつぶやいている、「逃げないから月曜に一度家に戻れないか?」と話している、そして被害男性は命に別状はないものの重傷であるため入院中なのだが、「日曜日には退院させてくれ」「月曜の朝には家にいないと困る」と訴えており、時折「天使だったのに」とつぶやいていると関係者の証言があったという。しかしそれも月曜が過ぎると2人とも発言することは無くなったとあった。


「もしかして、被害男性ってケンタロウ?」


今週の脱落者はアラタとケンタロウだ。アラタは留置所に勾留、ケンタロウは病院に入院中だったため、月曜にルーレットが回せない状況だったと考えられた。


物理的にまわせないという状況が起こる可能性があることを残り3ターンで知ることになった。


◇◇◇


7月31日(月)


悪魔マスに止まっていたユウキは、恐る恐るイベントの確認をした。


【一連の失態により解雇される】


「そりゃそうだろう。問題はポイントだ…」


ポイントを確認すると、-6,941,150JPとなっていた。


「マイナス!?1,000万は越えてたのに!?差は1,700万…?あの時数字が色々出てたな。…俺がダメにした契約は1,200万だった、あと500万は何だ?この数字は確か…、あ、小野田部長の退職金。多く渡すことが出来た分だ…」


このままでは多額の借金を抱えたままになる。そこに追い討ちをかける音楽が聞こえた。


『♪~チェックマスイベントが発生しました。2位通過はリョウスケさん、ダイチさん、レンさん、ハルトさん、コウヘイさん、マサユキさんです。6人は全員から9万JPずつもらいました。おめでとうございます』


【90,000JPをリョウスケ、ダイチ、レン、ハルト、コウヘイ、マサユキに支払う】


ユウキのポイントは-7,481,150JPとなった。


「どうすれば良いんだ!?」


そこに、大橋から着信があった。


「もしもし」


『おい!お前何でこんなにポイント下がってるんだよ』


「悪魔マスだったから…」


『悪魔の時はおとなしくしてないとまずいだろ?何があったんだよ』


「仕事で大きな失敗して…」


さすがに解雇されたとは恥ずかしくて言えなかった。


『仕事?お前の同期の本田ってやつは、首位に急浮上したぜ?』


「え?」


ポイントランキングを確認すると、本田のポイントは1,300万を越えている。


「たしか俺の失敗のあと、上司に呼ばれてたから俺の尻拭いさせられたのかも…」


『じゃあ、本田にとっては天使マスイベントになったってことか…』


「なあ、どうすれば良い?たしか大橋、500万ポイント近くマイナスになってる時なかったか?今じゃ800万近くポイントあるじゃん?どうやったんだ?」


『今井…、ちゃんと考えてゲームしてるか?』


本田にも似たようなことを言われたユウキは、考えることがそんなに重要なことかと疑問を抱いた。


「考えるって?天使マスは良いことイベントがあってポイントが増えて、悪魔マスは悪いイベントがあって減るってことだろ?」


『うーん、大体はあってるけどもっと単純なんだよ。天使はポイントが増えて、悪魔はポイントが減るんだ』


「何が違うの?」


『天使だから良いイベント、悪魔だから悪いイベントって訳じゃない。良い出来事はポイントが増えることを指して、悪い出来事はポイントが減るってこと自体を指してる。現実は天使でも良くない出来事だったり悪魔でも良い出来事だったりするわけだ。俺の400万近くのマイナスは何だったと思う?』


「え?あの頃?…結婚式か?」


『そうだよ。俺はあの週、運悪く悪魔マスに止まっちまった。でも俺にとって悪いイベントなんて何もなくて絶頂だったのによ、悪魔マスイベントは【結婚披露宴が無事終わった】だった。マイナスされたポイントは結婚費用と同じだったよ。そこで俺は考えた。悪魔マスだけは絶対に避ける、そして可能な限り天使マスに止まり大きな金を動かすんだ』


「天使マスに止まり大きな金を動かす?」


『そうだ。だから、どうにかするアドバイスとしてはまずは天使マスに何がなんでも止まれ、そして高級車を買う』


「車を買う!?」


『ああ。俺がポイントを挽回したのは車を買ったんだ。とりあえずマイナスをチャラにして少しでも上乗せでプラスにしたかったからそこそこいいやつをね』


「よくそんな金あったな…」


『今は無くてもゲームで獲得するんだよ。そうでなくてもローンを組んでるし、そこまで負担にはならないはずだけど。ゲームでチャラになるほど金額稼げなければ車なら売りに出せば逆に儲けが出るかもしれないし。あとは地道に仕事で成果を出すんだな。自分の金だと現実でも負担があるけど、仕事上の金ならば負担は会社側だから、実際のお前は痛くもかゆくもないだろ?』


たしかに、今回の契約金などは目の前で金が動いてる訳ではないし自分の金ではない。しかし退職したユウキにその方法は取れない。確実に金を動かすという車を買う提案は最善策だと思われた。


「俺、車買うよ」


『そうだな。俺から提案出来るのはそれだけだ。それと、他はおとなしくしてるんだぞ』


「え?」


『だって、【車を買う】がイベントじゃなかったら意味がないだろ?』


「あ、そうか。あ、そうだあと先は急がなくて良いのか?チェックマスまでも届きそうだけど…」


『お前の位置だと着順はもう挽回出来ないだろ?今日までに2回目のチェックマスは7人通過してるし、もう先を急ぐ意味はないよ。誰もゴールにたどり着けないだろうし』


ゴールははるか先だ。もしアラタが脱落していなければたどり着けただろう。ほぼ『8』を出さなければ難しい。


「わかった、ありがとう。でも何で教えてくれたんだ?本田は教えてくれなかったのに」


『勘違いするなよ。俺だってこのゲームについて考えたことを全て教えてる訳じゃねーよ。ただ、もしかしたらこのゲームは全員が損をしないプレイの仕方もあるんじゃないかってことだよ。最期の精算がある以上、自分のポイントを上げておくことも必要だろうし、着順も大事かもしれないけどな。でも恩は売っとく。後で返せよ』


「ああ、ありがとう」


通話はそこで終わり、ユウキはマップを確認した。天使マスは3と8マス先にある。チェックマスは7マス先。4と6マス先に悪魔マスがある。


「確実に天使マスに止まるためには…」


そこでカードの存在を思い出した。


「あ!【3が出るカード】だ!」


ユウキは14ターン目にして初めてカードを使用することにした。すると、選択画面が出てきて、持っているカードが表示された。


【3が出るカード】

【ルーレットの目の数が倍になるカード】


「これだ!!こういう使い方をすれば良かったのか!」


ユウキが【3が出るカード】を選択すると、画面上でルーレットがまわりだし、『3』で止まった。プレイヤーが3マス進み『天使マス』で止まった。


『天使マスに止まりました。スマートウォッチをタブレットにかざしてください』


スマートウォッチをかざすとユウキは伸びた不精髭を剃ることから始めた。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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