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第4話【ユウキ】

6月19日(月)


昨日新郎だった友人の大橋からの言葉にモヤモヤしながら、イベントの確認をした。


【友人の結婚披露宴に出席した】


「え?これが悪魔マスイベント?」


ポイントを確認すると、-36,150JPになっている。


「このイベントに関係する30,000…。ご祝儀だ」


そこへ音楽が流れ、画面を注視した。


『♪~チェックマスイベントが発生しました。2位通過はダイチさんとリョウスケさんです。お二人は全員から9万JPずつもらいました。ダイチさん、リョウスケさん、おめでとうございます』


【90,000JPをダイチとリョウスケの各々に支払う】


「ええー!!!!?二人同時?…それもそうか。ルーレットは順に回してるわけじゃない。◯ターン目っていって同時に回してるようなものだから、同じターンでたどり着けば同着なんだ」


ポイントを確認すると、-216,150JPとなっている。


「とうとう借金も一気に10万を超えてるよ…」


焦りを通り越し愕然としていたが、現在の状況を確認すべくポイントランキングを開くと衝撃を受けた。トップは1000万を超えており、最下位はマイナス400万に到っていた。0に近いものは3名程で、他はプラスマイナス20万前後に収まっている。


「どんなイベントが起こるとそんなに大きな額が動くんだ!?」


1週間の間に数百万もの金額に関わることなどそうそうないはず。最下位はリョウスケだった。


「チェックマスイベントでみんなからポイントを貰ったにも関わらず…。相当だな…」


マップを見ると、アラタが進行具合は独走している。


「アラタってやつ一貫して『8』を狙ってるんだな。狙って出せるものなのか?でも悪魔マスだろうが止まってるからなぁ。チェックマスイベントの内容から考えても、先頭でゴールすることは意味がありそうだ」


今週のルーレットは『6』だった。


「良かった。日常マスだ。チェックマスは通過したし、ボーナスが貰えるだろう」


今週も言われるがままに仕事し、ユリとの関係はというと進んでいった。


「やべぇ最高だったぜ。清楚だと思ってたけどなぁ、良い意味でギャップだったな」


◇◇◇


6月26日(月)


日常マスだったことが不思議なくらいユリとの一夜は最高だった。


「これが天使マスだったら、どれがイベントだったんだろう…」


この頃になると、1週間のうち何がゲームのイベントなのか考えるようになった。どれが現実ではなくゲームのイベントだったのか。そこに音楽が聞こえてきた。


『♪~チェックマスイベントが発生しました。4位通過はユウキさんとコウヘイさんです。お二人は全員から7万JPずつもらいました。ユウキさん、コウヘイさん、おめでとうございます』


【70,000JPをコウヘイに支払う】


【630,000JPを参加者からもらう】


はっと、ポイントに注目すると、343,850JPになっていた。


「やったぜ!プラスになった。悪いイベントを避けるのも大事だけど、先へ進むことも大事だな。チェックマスでもらえる額が減ってる。差がないと先へ急ぐ意味ないもんな」


チェックマスイベントを同時に通過したコウヘイとユウキはプラスのポイントとなっていた。


「この先は、もらえる額が払う額を下回ってくる…。危なかった。次のチェックマスまで急がないと。それも悪魔マスは避けながら」


ユウキはルーレットをまわした。


『7』


天使マスだった。


「よっしゃー!良いぞ!良い流れだ!」


天使マスで発生するイベントはプラスになる。マイナスにさえならなければそれが小さい金額でも十分だ。一度ポイントがマイナスに転じたユウキは天使マスに止まった喜びを噛み締めた。


朝から部長がしつこかった。水曜の定時迄には資料作成を済ませ提出するようにと。今週の木曜日に自分が担当する取引先へ訪問するアポイントがとってあった。ユウキの予定をがっつり管理している部長は今までもユウキの仕事に逐一指示を出していたが、この日は特に念を押された。2週間前にはこの資料作成に必要なデータを先輩から受け取っているにも関わらず、資料はちっとも仕上がっていなかった。


(ユリと出会ってからユリに合わせて生活してるもんなー。いつ会えるかわからないから、だいたい定時で帰ってたし)


水曜日。部長の小野田はユウキの姿を探していた。


「なあ、金田?今井はどうした?」


「さっき定時で上がりましたよ?」


「は?」


「もしかして、今回もまだなんですか?」


「ああ。資料は確認してない…」


「もう、いいんじゃないですかね。部長、すごく助けてたじゃないですか。響かないやつには何言ったって響かないですよ。部長の手を煩わす必要なんてないと思います」


「…。もう限界だな。悪いな金田。お願い…出来るか?」


「もちろんです。私もチームの一人ですから」


「ありがとう」




翌日、早々にユウキは小野田に呼び出された。


「なぜ定時で帰った?」


「え?いや、部長だっていつも定時で帰ってるじゃないっすか」


「私は自分の仕事を終えているから退社している。今井はどうだ?月曜に言ったこと覚えているか?そして今日の予定も」


やっと自分の仕出かしていることに気がつき青ざめた。


「その様子では忘れていたんだな。もういい。今日の訪問は私と金田で行ってくる」


「え!?でも俺の担当ですし」


「その担当者が担当分の仕事さえしないんだ。必要ないだろう。資料は昨日残っていた金田と私で作成した。君は資料の内容さえ知らないだろう?行く意味はない。金田は資料に必要なデータを集めてくれていたしな。引き継いで金田に担当してもらうことにする。人選も適切だと思うが?」


「でもそれじゃ金田さんが大変じゃないっすか」


「そうしたのは誰だ?何と言おうがこの件は外れてくれ。それだけ価値のある案件だから」


ユウキが金田と目が合うと、やれやれと溜め息をつかれた。面倒ごとを押し付けられたと思っている感じでも、仕事を奪ってやったという感じでもない。ただただユウキに呆れてる様子だった。

金田が近づいてきたと思ったら、肩を叩かれ耳打ちされた。


「部長の顔を見てみろよ。もっと深く反省をするべきだ。君からはまだ仕事を怠った謝罪の言葉が出てきてないじゃないか。もし部長にお話する機会があれば、きちんとするんだな」


はっと部長の顔を見ると、目の下に隈を作り、数日前よりも明らかに老け込んでいた。


ところが、この後ユウキが小野田に会うことは二度となかった。小野田はこの日取引先から直帰すると1ヶ月有休消化した後退職した。この日担当代えした取引は金田に引き継がれ成立するのであった。


◇◇◇


7月3日(月)


イベント内容を確認しても、自分が何のマスに止まっていたかすぐに思い出せないくらいユウキは固まっていた。


【定時で退社しユリとデートする】


「天使マスイベントがこれ?確かに、良いことって言ったらユリと楽しんだことだけだけど」


そしてポイントに驚愕した。


「なんで???なんで1,000万も増えてるの?」


ポイントは10,343,850JPになっていた。


「わからない。喜んで良いのかわからない。だって、何の金額なのかわからない…」


画面ではチェックマスイベントが発生している。


『♪~チェックマスイベントが発生しました。6位通過はハルトさんとケンタロウさんとレンさんです。お三方は全員から5万JPずつもらいました。ハルトさん、ケンタロウさん、レンさんおめでとうございます』


【50,000JPをハルト、ケンタロウ、レンに支払う】


ポイントを確認すると10,193,850JPとなっている。


ユウキのルーレットをまわすはずの手が動かない。


「わからない。とにかく、イベントとポイント獲得が結びつかない。今までは動いたポイントに心当たりがあったけど、今回は額が大きいだけに心当たりがないことが怖いな」


それでも回して仕事に行かなければならない。ユウキはルーレットをまわした。


『2』


この日は手が強ばってしまい狙った数字を出すなど不可能だった。


「カードマスだ。【ルーレットの目の数が倍になるカード】か。これはかなり進行度を稼げるぞ」



職場に着くと、新しく部長代理が赴任していた。


「部長の小野田は今月末での退職となる。残りは有休を消化するとのことで、最終日に挨拶のために出社する予定だ。その間は私が代理を務める、秋山だ。小野田とは同期でね。だからといって彼と似たタイプではないから混乱はあるだろうがよろしく。ではそれぞれ始業してくれ」



秋山は引き継いだ部下の情報を照らし合わせるべく、一人一人に声をかけて回っていた。隣の金田の元に来た秋山との会話を盗み聞いた。


「金田、先週はご苦労だったね。しかし、まさかあの企画で1,000万の契約をもぎ取ってくるというのはたまげたよ。ずいぶんと大きく出たな」


「当初は800から申し出て下がってもと思っていたのですが、小野田部長に修正頂いたんです。強気で行こうとお声かけ頂いて。ここのところ一人で任される仕事が多かったのですが、同行していただけたのは勉強になりました」


「小野田の采配あってのことじゃないか?君が担当になるからいけると判断したのだと思うが。これからも期待してるよ」


「ありがとうございます、よろしくお願いします」


ユウキは理解した。1000万という数字は担当代えした企画の契約金だったのだ。ユウキがユリに会いに行き資料作成を放置したことで、担当者が代わり高額の契約に取り付けた。『風が吹けば桶屋が儲かる』理論だ。


(これがもし悪魔マスだったら…、ゾッとする)


熟考していると、秋山がやってきた。


「君が今井か。小野田は面倒見が良いタイプなんだがな、厳しかったか?人間関係は合う合わないもある。先に言っておくと私は自主性を重んじるタイプなんだ。まあ、よろしく頼むよ」


「あ、はい」


秋山は伝えるだけ伝えると、次の人の元へと移動していた。小野田の時は月曜の朝は色々と指示があったのにこの日は挨拶だけで終わった。挨拶が終わっている他の人たちは自分の作業に取りかかっている。ユウキは自分のデスクに向かったものの、作業には手がつかなかった。



今週もユリから呼び出しがあり食事を共にすると、珍しく自分から仕事の話をした。ユリはある程度話を聞き終えた所で、明日は朝が早いからと食事を終えると帰っていった。あまり話を親身に聞いたり共感をしてくれることもなくあっさりとした対応に、ユウキは仕事の話はつまらなかったかと話題を間違えたと思った。


週末は何の予定もなく家の中で過ごした。今週はイベントが発生しないとわかってはいるものの、ゲーム上急に1000万も増えていることに心のどこかでは脅えていた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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