第3話【ユウキ】
5月22日(月)
天使マスに止まった1週間を過ごしたユウキは、揚々と『イベントを見る』を押した。
【ミスキャンパスだった中野ユリとデートを楽しむ】
確かに楽しんだ。しかし、天使マスだ。この内容に得したことが思い浮かばない。ユウキはポイントを確認すると軽い衝撃を受けた。
105,450jp
「増えてる!?いくら増えた?4800円?」
このイベントは『デートを楽しむ』だ。デート代はユウキが払いユリに奢ってもらうことはなかった。
「あ、俺が払った額だ。映画鑑賞代二人分3600円と喫茶代1200円。俺が出費してるんだから損してるはずなのに、ポイントがもらえるのか!?」
どうやらイベントに関わった金額がポイントとなると予想された。
「現実では4800円昨日使ってるけど、ポイントがもらえてるから実質チャラってことか。確かに先週の出来事で良いことといったらユリ関係だな。それにしても金額まで正確に。どういうシステムなんだろう」
時計を見ると7時半をまわっている。
「やべっ!今週の分回して仕事行かないと」
コマを確認すると1と7に悪魔マス、6と8に天使マスだ。2と5にカードマスがある。
「2から6狙いだな。結構幅あるぞ。これで悪魔になるようなら余程腕がないか運がないかだ」
ユウキはルーレットをまわした。
『5』
【3が出るカード】
「カードマス?3が出るカードか。3マス先に行きたい時に使えるな。今回はカードがもらえるだけかな」
ユウキはスマートウォッチをかざすと家を出た。
カードマスはカードがもらえるだけで、日常マスの時と変わらぬ日々だった。ただ今週は、毎日ユリと連絡し合えたため、充実した毎日であった。
週末にはユリと遊園地へと出かけ、アクティブに過ごした。
◇◇◇
5月29日(月)
先週分はイベントもポイントも変動なかった。次のコマを確認すると、1と3と6が天使マス、2と5と8が悪魔マスだ。
「悪魔が3つもある。天使の隣にあるけど、3-4か6-7の所だな。どうするか」
今日は5ターン目だ。マップを見ると先頭は20マス程先に止まっている。少しでも先に進むことも大事だと、6-7を狙うことにした。
ガガッ
「あ!!!!」
アナログのルーレットは無情にもひっかかり、出た目は『2』であり、そこは悪魔マスだった。
「マジか~、初めての悪魔マス…。なーんで他はデジタルなのに肝心のルーレットはアナログなんだよー」
ユウキはモヤモヤしながらも注意をしながら1週間を過ごした。
仕事は順調…ではなかった。一から十まで指示や確認される。この書類は出来てるか?取引先には連絡したか?経理部には行ったか?山田さんが待ってるぞ…等々。
(イチイチうるさいんだよあの部長。その上仕事押し付けて定時で帰るしさぁ。先輩には何も言わないのに。とはいっても先輩も何も教えちゃくれないけどさ。あー、マジでめんどくさいしムカつくわ。これが、悪魔マスのイベントかなぁ)
金曜日、仕事終わりにユリと合流したユウキはユリの笑顔に癒されていた。
(やっぱり、彼女にしたいよなぁ。でも今週は悪魔マスなんだよ。上手く行く気がしない)
ところが夕食を共にしたユリから、帰りがけに告白された。
「良かったら私を彼女にしてくれないかな?」
「!?俺で良ければもちろんだよ!」
「うふふ。良かった。これからよろしくね」
「ああ。じゃあこのあとはどうする?」
「あ、ごめんね、明日朝早くから予定があって、今日は解散で良いかな?」
「そうか、じゃあ、また。連絡するよ」
「うん。今日もありがとう。連絡するね」
こうしてユリを駅まで送り、ユウキは家へと帰った。
「悪魔マス…。でも良いこともあったなー。まさかユリから告白されるなんて。信じらんねーな。ルーレットに腹立ててたけど、自分でまわした結果だから仕方ないか。これが、デジタルで出た目だったら仕組まれてる気がして納得しなかったもんなー」
手にルーレットを持ち隅々まで観察した。ターンで回す時だけタブレットに繋いでいるため、今は外されている。試しにまわしてみる。今はキレイにまわせている。
「難しいな。キレイに回せ過ぎても狙い目が出せないし、力むとひっかかるし」
心理状態にもよるのだろう。今はゲームに関係ないため、狙った数字を出せる回数が多かった。
「人生ゲームってどうしたら終わるんだっけ?ゴールすれば良いんだっけ?それは双六か?今回のゲームは全15ターンだったよな。つまりゴールまで行かなくても15ターン終了時の結果で終わるのか。そしたら順位が出てる意味がなくないか?」
タブレットを見てみると、ポイント順に並んでいると思われた順位が違っていた。
「あ!ポイント順じゃない!ん?切り替え出きるのか」
ランキングは先日見たポイントランキングの他に進行ランキング、幸福度ランキングに切り替えることができた。ルールを見直すと、『最終順位により獲得する賞金の反映後、参加者全員の精算が行われます』となっている。
「そうか。先にゴールできれば着順ポイントが貰えるんだ。幸福度ランキング…。天使マスに止まった回数が多い順かな?ゲーム中に獲得するポイントだけじゃなく最後に追加で賞金があるんだ。いくらなんだろう?」
マップを見ると、先頭とは20マス程離れている。先頭はスタートから40マス目、つまりずっと最大の『8』を出していたことになる。
「あいつ、狙えるのか?いや、そしたらわざわざ悪魔マスも止まることになる。はじめから着順ランキング狙いか?」
5ターン目、開始から1ヶ月だ。ユウキはゲームの3分の1が終った所で漸く戦略を練る必要があることに気が付いた。
「自分1人でやってるわけじゃない。ランキングがある以上、ただ参加し悪魔マスに止まらないようにするだけじゃダメだ」
先頭にいるアラタはチェックマスを通過している。チェックマスイベントは脱落後も参加するとなっていたことに気が付いた。
「チェックマス…。自分が脱落しても参加するということは、他人のチェックマスイベントも関わるってことだ…。一体どんなことが起こるんだ?」
週末はユリの予定が合わず、1人寂しくすごした。
◇◇◇
6月5日(月)
ユウキはこの日判明するであろうイベントに怯えながら確認ボタンを押した。
【ユリから告白される】
「え!?悪魔マスイベントだよな?ユリからの告白が何で!?」
ポイントを確認すると、93,850JPになっている。
「減ってる!?そりゃ悪魔マスだからそうだろうけど、えーっと、11,600円ってことだろう?…あ、ユリとのご飯代だ」
金曜の飲食代はユウキが奢った。
「まあ、デートでの夕食代としては高かったんだけどさ。行ってみたい所があるって言われて。これがイベント?」
ユウキは真意を考えようとしたが、アナウンスと画面に表示されたイベントによって遮られた。
『♪~チェックマスイベントが発生しました。一位通過はアラタさんです。アラタさんは全員から10万JPずつもらいました。アラタさん、おめでとうございます』
【100,000JPをアラタに支払う】
「んな!?」
ユウキがポイントを確認すると、-6,150JPになっている。
「嘘だろ!?マイナスになってるじゃねーか。アラタは900,000JP増えてる。他9人から貰えたからだ…。悪魔マスに止まろうが報酬の方が多ければマイナスにはならないわけか。アラタはそれ狙いだったのかな。でもこの後他の9人がチェックマスに止まる度に支払いがあると考えると、喜べる額ではないかもしれないな…」
アラタが通過したチェックマスと自分のマスとの間に止まっている人数は3人だ。彼らよりも先にチェックマスを目指す必要が出てきた。
「この際悪魔マスに止まっても良いからなるべく大きい数字を出そう」
ルーレットを繋ぎ『あなたの番です』を確認すると、ユウキはルーレットをまわした。
『8』
「よし!」
幸い8マス先は日常マスだった。今週は自分のイベントによるポイントの増減はない。ユウキはガッツポーズから力を抜きほっと肩を撫で下ろすと、仕事へと出かけた。
◇◇◇
6月12日(月)
1週間は通常の仕事をこなし、ユリと週末は予定が合わず、平日仕事終わりに合流し2回夕食を共にした。
タブレットの画面を見ると、今回チェックマスにたどり着いた人はいなかったようだ。
ユウキは日常マスだったためイベントは発生しなかった。大きな数字を出すべくルーレットを回すと今回も『8』を出すことに成功したのだが、奇しくもそこは悪魔マスであった。
「あー!!しまった!今回は7を出すのが正解だったな…」
憂鬱な気分のまま1週間を過ごすこととなった。
日曜日。大安のこの日は大学時代の友人の結婚式だった。
「大橋、おめでとう!早くねぇーか?結婚。別に急ぐような相手じゃなくね?ま、高校からの同級生だったよな。付き合いとしては長いから責任ってところか?」
新婦はこの日の主役らしく美しく仕上がっていたが、そこまで元が美人ということもなくいわゆる普通な感じがした。ミスキャンパスと付き合い始めたユウキからしてみればどこに魅力が?と思わざるを得ず、つい口から皮肉が出た。
「なんだよ、祝いの言葉を言いに来たんじゃねーの?そこそこモテるお前からしたら理解できないかもしれないけどさ、俺からしたら可愛くて仕方ないの!それに、ここまで付き合ってきたけど他の人は考えられなかったし、これからもずっと一緒にいる未来しか思い浮かばなかったから、なら年齢を理由に待つ必要もないなーってな。大卒で授かり婚でもなしに23歳で結婚って早いけどさ、互いの両親もよく知る仲だし何も障害はなかったぜ。お前は?楽しくやってんの?」
「ああ。実は偶然ミスキャンパスだった中野ユリに出会って、今付き合ってるんだぜ。目の保養が過ぎるぜ」
自慢気に語るユウキに新郎は唖然としていた。
「え?アキナちゃんは?わかれたの?」
「まー、そんなところだな。自然消滅ってやつかな?」
「…そーなんだ。アキナちゃん、良い子だったのに。中野ユリねぇ。ま、頑張れよ」
羨ましがるわけでもない様子にユウキは不満だった。
「なんだよ。悔しくて何も言えねぇってか?」
「あ?知ってて付き合ってるんじゃないの?中野ユリの噂」
「噂?」
「まあ、所詮噂だしな。気にならないんだったら良いんじゃない?」
そうこうしてると次の招待客が新郎に挨拶に来たため、ユウキは席へと戻った。
(噂ってなんだよ。僻んでるだけじゃね?)
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