第19話【リョウスケ】
「ねぇ、本当にこれでいけるかな?」
「大丈夫だよ。私達の推理が合ってれば、これがイベントに選ばれるはず!ちゃんと記録も取ってたんでしょ?」
心拍の変化が大きかった出来事がイベントになると予想したリョウスケたちは、緊張が走った瞬間の脈拍数の記録を残していった。今週の最大値は『車のディーラーで契約書にサインする時』だった。手が震えて字が汚くなってしまうほどだった。
タブレットに表示されている『イベントを見る』をタッチした。
【車を購入する】
「やったー!!」
「ほらね、大丈夫だったじゃーん!!っていうかりょうちゃんの心臓が優秀だったね」
契約は日曜に行った。実際に車は必要としていない。とはいえ使えたら使っても良いと考えてもいるため、自分達の生活スタイルにあった車で、売りに出すときに少しでも高く買い取ってもらえるような人気のメーカー、車種、色を調べた。平日は仕事中に大きな動きもなく淡々と業務をこなすと、土曜はこれまた平穏に自宅で過ごした。いざ、日曜日。この日はエリが仕事のためリョウスケ一人で契約に向かった。これが緊張の始まりだった。エリの指示のもと動いていたため、この日一人での決断や最後のサインでは心臓が破裂するかと思ったほどだ。だが、それはエリの狙い通りでもあった。
そこに音楽が聞こえてきた。
『♪~チェックマスイベントが発生しました。4位通過はユウキさんとコウヘイさんです。お二人は全員から7万JPずつもらいました。ユウキさん、コウヘイさん、おめでとうございます』
【70,000JPをユウキとコウヘイに支払う】
そこで、ポイントに注目すると、191,350JPになっていた。
「良かった~。少しでもプラスになるような車にしておいて。このあともチェックマスイベントで支払いがあるもんね」
「そうか。ギリギリ赤字脱出して悪魔マスを避けても、減るイベントがあるんだもんな。次はどうする?」
「とにかく悪魔は避けよう。この際天使じゃなくてもいいよ。先週緊張しすぎたでしょ?休むのに日常とかカードでもさ。それに次のチェックマスまでは上位で到着しないと全員から貰えるポイントとみんなに支払うポイントの差がマイナスになっちゃうから、着順をあげるのも大事だね。前回はちょうど良いカードがあったから使えたけど、ルーレットはどんな感じ?アナログ仕様なところも理由がありそう」
「前にまわすのに失敗したことがあるんだけど、そしたら反応しなくて。いろいろ試したら手を離して回るスピードで1周以上まわらないとダメだった」
エリはタブレットに繋がってないルーレットをダイヤルをまわすようにまわした。
「こんな感じじゃダメなのね?」
「そう。そういうこと!しっかりまわった感じがないとダメだった。止めたい目にぴったり止まる技術を身に付けないとかなぁと思ってるんだけど、俺は5から8辺り~って考えてまわすと7が出る確率が高かったぜ」
「何その曖昧な感じ。技術かぁ。特訓するしかないかな?自由に目が出せれば怖くないし、最悪カードを集めておけば間際に助けて貰えるかもだしな。…止めたい目にぴったり止まるスピードでまわす?ん?ねぇ、…止めたい目にぴったり止めるだったら?」
「ん?どういうこと?」
「止まるようにまわすんじゃなくて、ルーレットを止めちゃったらどうなる?」
「…止まり方ってこと?」
「そう。ルーレットってさ、まわすところまでじゃない?あとは運。でもさ、これ、ゲーム機なんだよね?しかもプレイヤー同士とか事務局が見張ってるわけでもない。ルーレットに不正を施してもわからないんじゃない?」
「てっきり不正がないことを示すためにアナログなんだと思ってた。デジタルじゃ出目の確率を事務局側が操作出来そうだなって思ってたから」
「うん。でもプレイヤー側からしたら、アナログの方が手中にあるよね?やってみる価値はあるかもよ?」
「そうなると、スロットの目打ちの技術が要るね」
「練習すれば身に付くんじゃない?」
何度か練習を重ねた後、いざルーレットをまわすことになった。
「どこ狙う?」
「天使はないけど、カード、日常、カードの所があるからそこにしよう」
ルーレットを強めにまわし、そして狙いを定めて止めた。タブレットは反応して止まったマスはカードマスだった。
「…できた。まわすのには条件があったけど、止め方にはなかったね」
「…よかった。できたね。これでほぼ攻略じゃない?出したい目を出せて止まりたいマスに止まる。発生するイベントもこっちが選べる」
「うん!そうだよ!これならいける!」
「ただ、忘れないで?現実で430万の買い物をしてるってこと。実際の金を動かさずにポイントを獲得出来ないと、現実の赤字分を賄えるだけの賞金じゃないと厳しいよ?」
現時点でゲームが終われば、約20万円しかもらえない。全く得ではないのだ。
この日出たカードは、【7を出すカード】だった。
◇◇◇
7月3日(月)
午前5時、この日はエリが早番をするというので、夜早く寝てこの時間に起きた。エリは支度を整えており、ルーレットを見届けてから出発する。先週はカードマスだったため、自身のイベントは発生しなかった。
そして画面ではチェックマスイベントが発生している。
『♪~チェックマスイベントが発生しました。6位通過はハルトさんとケンタロウさんとレンさんです。お三方は全員から5万JPずつもらいました。ハルトさん、ケンタロウさん、レンさんおめでとうございます』
【50,000JPをハルト、ケンタロウ、レンに支払う】
ポイントを確認すると41,350JPとなっている。
「3人同時っていうところが厳しいね。それぞれ違う順位なら12万で済んだはずなのに」
「同時にルーレットをまわしてることになるから、同じターンでたどり着けば同着なんだね」
「このルーレットをまわせる時間も幅があるじゃない?なんでだろうね?」
「えりりんみたいに夜勤とかあると、午前0時って指定されても回せないからじゃない?」
「それだと月曜の午前9時とかも厳しいよね。ほとんどの人が始業してる時間じゃない?」
「でも、高校生とかだったらもっと厳しくない?」
「そもそも高校生が該当するかな?電子マネー登録したんでしょ?未成年が自分でして良いことじゃないんじゃない?こんなに大きなお金も動くし、そもそも高校生じゃこんな金額が動く出来事ってないよね?」
マップを見ると1人移動しているのが見れた。
「0から9時までにルーレットをまわして、その結果を何時に反映とかじゃないんだよね。マスの移動があればすぐに反映されてる。これだと他のプレイヤーの動向が見れるね」
「そうか。他のプレイヤーの状況に合わせて出す目を考えてもいいね。今回はどうする?」
「せっかくだからカードを使っちゃおう。【7を出すカード】を早速使おうよ。7マス先は日常マスだし、できるだけ大きく先に進める。8マス先は悪魔だしね。ルーレットはもう少し練習して確率上げようよ」
「天使じゃなくて良いの?なんか、ポイントランキングの上位は1,000万超えてるよ?」
「人は人。まずは自分が損をしないように進もうよ。ランキングで賞金がもらえることはあっても、罰金はないんじゃない?それだったら、上位を狙えそうなランキングに特化したらいいよ。ポイントランキングより進行度かな。それに今10ターン目だよ?カード余っちゃったらもったいないじゃん」
「確かに。使えるカードは使っとくか。でもそれだったらもう一つのは?これは止まった先が天使だよ?」
「このカードさ、ビックリしなかった?こんなのあんの!?って。だから、ギリギリまで取っておく。それに確実に8を出せるようになって、8を出したい時に取っておきたい。狙うは進行度ランキングだからさ」
「うん、わかった」
リョウスケはカードを使い7マス進むと、日常マスに止まった。
◇◇◇
7月10日(月)
この日はエリが夜勤の為不在だった。
「まずい。えりりんに助けられて今があるのに…」
ルーレットはたくさん練習して、ほぼ9割は出したい目が出せるようになった。今回はルーレットをまわすだろうから、天使マスで止まるよう決めてある。
『♪~チェックマスイベントが発生しました。9位通過はマサユキさんとショウマさんです。お二人は全員から2万JPずつもらいました。マサユキさん、ショウマさん、おめでとうございます』
【20,000JPをマサユキとショウマに支払う】
ポイントを確認すると1,350JPとなっている。
「うひゃー。ほぼ0じゃん」
これで全員が1つ目のチェックマスを通過している。マップを確認すると次のチェックマス目前で1人止まっている。毎回ほぼ8を出さなければあそこまで進めない。はじめから狙っていたとしか思えないし、ルーレットの扱いが上手いことが理解できた。他のプレイヤーの位置から考えると、2位通過は狙えそうだ。前回のチェックマスイベントと同じであれば2位通過は81万JP貰えるはずだ。全体的なポイントにも目を向けると、ほとんどの人がプラスのポイントである。
「ある意味単純だもんな。天使マスならポイントが増えて、悪魔マスならポイントが減る。どうにか天使マスに止まる努力をするよね」
リョウスケは練習を思い出しながら、ルーレットを回して止めた。
天使マスだった。
「やったよ~。えりりん」
リョウスケは一人部屋の中を走り回った。
◇◇◇
7月17日(月)
【妻の妊娠が発覚する】
まさかのまさかの出来事だった。チャキチャキと動きまわっていたエリだったが、職場にて貧血で倒れたそうだ。結婚をしたばかりということもあり、婦長の勧めで検査をしたところ妊娠が発覚したのだった。
「もう!これが天使マスイベントだなんて!」
「仕方ないだろ!すっごい驚いたし喜んじゃったんだから!」
「ポイントは?どうだった?」
ポイントを確認すると、891,350JPだった。
「89万円…。新婚旅行代だね」
「うん。すぐキャンセルの連絡入れたからね。今なら全額返ってくるし、こればかりは嬉しい誤算だ。落ち着いたら行こうよ」
「うん、ありがとう」
「体調大丈夫?」
「今は大丈夫だよ。ありがとう」
すると、画面に新たなイベントが表示された。
『♪~チェックマスイベントが発生しました。1位通過はアラタさんです。アラタさんは全員から10万JPずつもらいました。アラタさん、おめでとうございます』
【100,000JPをアラタに支払う】
ポイントは881,350JPに変わった。
「2回目のチェックマス通過が始まったね」
「うん。少しでも先に進んでおきたかったけど前回は3で止まったんだよね。まわりに悪魔がなかったから確実にいった」
「うん。それで良いと思うよ。マイナスは嫌だもん」
このターンでも悪魔マスに当たらなそうな目が偏っている所を狙った。
カードマスだった。
【指名したプレイヤーのイベントをイベントとして登録するカード】
「え?じゃあ、得しそうな人を指名すればポイントがもらえる?」
「そういうことだね。問題は使うタイミングと相手だね」
金曜日の朝、起きてテレビをつけて、身支度を済ませ朝食をとっていると、知っている名前を聞くことになった。
『昨日未明、都内に住む派遣社員中野ユリさんが自宅にて殺害され、中野さんと共にいた20代男性も重傷で、この男性の通報を受けた警察は現場にいた大山容疑者を現行犯逮捕しました。今、警察は動機等詳しい状況を調査中であるとのことです。次のニュースです。昨日……』
「おいおいおい!?中野ユリが殺された?犯人の名前はアイツじゃなかったから、重傷の20代男性ってアイツじゃないだろうな!?」
慌ててリョウスケは通話を押した。
「おい!?ニュース見たぞ!お前中野ユリと付き合ってるって言ってなかったか?お前か?怪我したの?」
『いや、違う…。俺も今ニュースを見て驚いてるところだ』
話を聞くと、ユリに二股をかけられており、どうやら今井は浮気相手の方だったらしい。さらに言うと、ユリは大手企業に勤めていたが正社員ではなく派遣社員だったらしい。異性関係の悪い噂を聞いていただけに、やはりなとしか思えなかった。軽く慰めると通話を終えた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。